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絡めて絡めて解けなくなるほど
「うわあ、ムリ、出来ない……」
誰もいない教室に独り言が空しく響く。
始業式開始まであと数分。教室にはもう誰もいない。
うちの中学、セーラーだったんだよね……。
入学式で発表された担任、しきりに『服装の乱れは心の乱れ!』を強調してくるから、なんとなくネクタイが気になって、整えようと引っ張ったら余計に崩れちゃって、いっそ最初からやり直そうと覚悟を決めて解いたら、わかんなくなっちゃった……。
最後上から通せば完成、ってところは覚えてる。その通す道がどうしても作れない……。
いっそ潔くノーネクタイで行けばいいんだけど、初っ端から怒られるのイヤすぎる。なんかここの先生、みんな顔怖いし。
泣きたい気持ちでネクタイと格闘していると、誰かが教室へ入って来る気配がした。黒髪の小柄な男子。まっすぐに自分の席に向かいガサゴソとバッグを漁っている。ほどなくして手帳を取り出し胸ポケットに収めていた。そういえば、制服の胸ポケットにが常に生徒手帳を入れろ、とも言われてたな……。
『担任の教え・其ノ2』を思い出していると顔を上げた彼と目があってしまった。真ん中分けの前髪の間からのぞく大きな瞳をぱちくりと音が出るくらいに瞬かせてこちらを見ている。
「何してんの? 遅れるよ?」
「!? あ、あの、えーと、」
話しかけられると思わなかったので、びっくりしすぎて言葉が出てこない。
口をぱくぱくさせながらネクタイの両端を持って手をばたばたさせていると、その子は首をかしげながら言った。
「結べなくなった……のかな?」
察しがいい! その上、結ぶジェスチャーをしながらこちらにやってくる。
初対面に近い名前もわからないこの男子が神様に見えた。
「そ、そう! ありがとう!」
元気にお礼を言う私に面食らったようだけど、嫌な顔一つせずにネクタイを手にとってくれた。小柄に見えたけれど近づいてみると私よりもちょっとだけ背が高い。
目の前の顔を見るのは照れくさいので、視線を下げ、コレを機にちゃんと覚えるつもりで彼の手元を盗み見る。
交差して回す、一つ通して、後ろから、回すのかな?と目で追っていたら、彼はネクタイを元に戻した。
「ん? どうしたの?」
「僕も、人の結んだことないから、わからなくなった……」
そんなーっ!! と心の中では叫んだけれど、さすがに口には出せない。彼は横目で時計を気にしながらも私を見捨てずにいてくれている。ありがたい、いい人だ。でも、時間が……。
すると、
「あ!」
名案を思い付いたという風にぱっと彼の顔が明るくなった。
「そうだ。後ろ向いて」
「? こう?」
「そうそう」
彼が私の背後に回る。
「こうしてやれば自分に結ぶのと同じだから……」
後ろから彼の手が回ってくる。思わぬ彼の動きにドキッとした。反射的に息をつめる私の喉元に彼の手が触れる。
「ひゃ!」
「急いで結んじゃうから、動かないで!」
「は、はい!」
動いちゃったのは不可抗力だけど、怒られるのも仕方がないので私は口を噤む。
だって、急に、こんなに接近してくるなんて。こ、これがあの伝説のバックハグ……。違う違う! 彼はただ単にネクタイを結んでくれるだけ。
そうは思っているけれど、斜め上から結び目を確認しようとする彼の息遣いとか、わざとじゃないのは分かっているけれど手が首もとをかすめるのに否が応でも心拍数は上がってしまう。
結び方なんて、全然見えてない。
入学して早々、私はオトナの階段を上がってしまった……。
「できた! 行こうか?」
曇り一つない笑顔で微笑まれ、はっと私は我に返る。
変なコトを考えていたわけではないけれど、何かが顔に出てしまっている気がする。
彼の視線から逃れるように下を向く。
……。うん。とてもキレイに結ばれている。
「あ、ありがとう……」
しどろもどろにお礼を言う私を不思議そうな顔で見ているのに居たたまれなくなる。何でコイツ顔が赤いんだ? とか思われていないといいけど……。
なんとも言えない空気が漂う中、本鈴が鳴り始めた。
「い、行こう! 遅れたらヤバそう!」
「そうだね」
ごまかすように声を上げる私に彼も続く。
静かに廊下を全速力で走りながら、ドキドキする胸を抑えるように結んでもらったネクタイを握りしめた。
title by「腹をすかせた夢杭」
「うわあ、ムリ、出来ない……」
誰もいない教室に独り言が空しく響く。
始業式開始まであと数分。教室にはもう誰もいない。
うちの中学、セーラーだったんだよね……。
入学式で発表された担任、しきりに『服装の乱れは心の乱れ!』を強調してくるから、なんとなくネクタイが気になって、整えようと引っ張ったら余計に崩れちゃって、いっそ最初からやり直そうと覚悟を決めて解いたら、わかんなくなっちゃった……。
最後上から通せば完成、ってところは覚えてる。その通す道がどうしても作れない……。
いっそ潔くノーネクタイで行けばいいんだけど、初っ端から怒られるのイヤすぎる。なんかここの先生、みんな顔怖いし。
泣きたい気持ちでネクタイと格闘していると、誰かが教室へ入って来る気配がした。黒髪の小柄な男子。まっすぐに自分の席に向かいガサゴソとバッグを漁っている。ほどなくして手帳を取り出し胸ポケットに収めていた。そういえば、制服の胸ポケットにが常に生徒手帳を入れろ、とも言われてたな……。
『担任の教え・其ノ2』を思い出していると顔を上げた彼と目があってしまった。真ん中分けの前髪の間からのぞく大きな瞳をぱちくりと音が出るくらいに瞬かせてこちらを見ている。
「何してんの? 遅れるよ?」
「!? あ、あの、えーと、」
話しかけられると思わなかったので、びっくりしすぎて言葉が出てこない。
口をぱくぱくさせながらネクタイの両端を持って手をばたばたさせていると、その子は首をかしげながら言った。
「結べなくなった……のかな?」
察しがいい! その上、結ぶジェスチャーをしながらこちらにやってくる。
初対面に近い名前もわからないこの男子が神様に見えた。
「そ、そう! ありがとう!」
元気にお礼を言う私に面食らったようだけど、嫌な顔一つせずにネクタイを手にとってくれた。小柄に見えたけれど近づいてみると私よりもちょっとだけ背が高い。
目の前の顔を見るのは照れくさいので、視線を下げ、コレを機にちゃんと覚えるつもりで彼の手元を盗み見る。
交差して回す、一つ通して、後ろから、回すのかな?と目で追っていたら、彼はネクタイを元に戻した。
「ん? どうしたの?」
「僕も、人の結んだことないから、わからなくなった……」
そんなーっ!! と心の中では叫んだけれど、さすがに口には出せない。彼は横目で時計を気にしながらも私を見捨てずにいてくれている。ありがたい、いい人だ。でも、時間が……。
すると、
「あ!」
名案を思い付いたという風にぱっと彼の顔が明るくなった。
「そうだ。後ろ向いて」
「? こう?」
「そうそう」
彼が私の背後に回る。
「こうしてやれば自分に結ぶのと同じだから……」
後ろから彼の手が回ってくる。思わぬ彼の動きにドキッとした。反射的に息をつめる私の喉元に彼の手が触れる。
「ひゃ!」
「急いで結んじゃうから、動かないで!」
「は、はい!」
動いちゃったのは不可抗力だけど、怒られるのも仕方がないので私は口を噤む。
だって、急に、こんなに接近してくるなんて。こ、これがあの伝説のバックハグ……。違う違う! 彼はただ単にネクタイを結んでくれるだけ。
そうは思っているけれど、斜め上から結び目を確認しようとする彼の息遣いとか、わざとじゃないのは分かっているけれど手が首もとをかすめるのに否が応でも心拍数は上がってしまう。
結び方なんて、全然見えてない。
入学して早々、私はオトナの階段を上がってしまった……。
「できた! 行こうか?」
曇り一つない笑顔で微笑まれ、はっと私は我に返る。
変なコトを考えていたわけではないけれど、何かが顔に出てしまっている気がする。
彼の視線から逃れるように下を向く。
……。うん。とてもキレイに結ばれている。
「あ、ありがとう……」
しどろもどろにお礼を言う私を不思議そうな顔で見ているのに居たたまれなくなる。何でコイツ顔が赤いんだ? とか思われていないといいけど……。
なんとも言えない空気が漂う中、本鈴が鳴り始めた。
「い、行こう! 遅れたらヤバそう!」
「そうだね」
ごまかすように声を上げる私に彼も続く。
静かに廊下を全速力で走りながら、ドキドキする胸を抑えるように結んでもらったネクタイを握りしめた。
title by「腹をすかせた夢杭」
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