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永遠の幼馴染は無理だったね
「女子高生が落ちたな、とは思ったけど、まさか友紀だったとはな」
「タケ……久しぶり」
彼はプッと噴き出し、しゃがんでこちらに手を差し出してくれた。
「今言う言葉それじゃねーだろ。立てるか?」
「うん、だいじょ、っつ!痛てて……」
急な着信に慌ててスマホを滑り落とし、転がるスマホに追いついた勢いで側溝に落ちた。幸いキャッチしたスマホは無事だったけど、私はみっともなく溝にはまっている。たまたま向かいの道で、このマヌケな一部始終を見ていたタケこと幼なじみの笹谷武仁が来てくれた……というわけだ。
タケの手を借りて側溝から抜け出す。そんなに水が溜まってなかったから膝と手が汚れたぐらい、と思ったのも束の間、ビキっとした激痛が足に走ってバランスを崩す。
「あー、足首やったか?」
「ちょっとくじいたぐらいだから、大したことないよっ、いったーーーーーっ!」
右足を地面につくことができないぐらい痛い……。どうしよう。このままケンケンで帰るには距離があるしダサすぎる。
「ったく、しょーがねーなー」
タケはすでに自分の荷物と私のカバン、二つを背中に背負っていた。肩を貸してくれるんだ、と思い白地に緑のラインが入った彼のジャージを汚さないよう恐る恐る肩に手をかける。その瞬間、膝から足をすくわれ思わず彼の首に手を回した。
「ちょ、タケ、ちょっと待って」
一瞬、投げられる!と思ったけど違う。これってあの『お姫さま抱っこ』ってヤツ?!予想外すぎ!っていうより、待って。ええっ?これで私、家まで運ばれるの!?
「お前、軽っ。ちゃんとメシ食ってんのか?」
「食べてるよ!」
「貧血でフラっといったとかじゃないだろうなー?」
「ただのドジだから!私にそんなか弱い設定つけないで!」
私豪快キャラで売ってるんだから!急に女の子扱いされても困る!ただでさえ柄にもない名前の抱っこされちゃってんのに!
「よりによって何でこんな抱っこなのよ 。普通そこはおんぶでしょ」
体験したことのない目線の高さが恐くて必死にしがみつきながらそう言うと、タケは急に遠い目をした。
「おんぶって軽く言うけどなー。それには俺たち大人になりすぎちゃったんだよ」
「何それふざけてんの?意味わかんない」
「いや真面目に、大きくなるといろいろと不便なんだっつーの」
「だーかーら、何でよ!」
大きくなるとおんぶがダメ?その理由が見当つかない。運ぶ側だって腕だけよりも体全体で担いだ方が軽く感じるよね?それ以上に『お姫様抱っこ』の方がいい理由って何がある?
「逆に何で友紀はこれがダメだって言うんだよ?」
「だって!これは恥ずかしすぎるって……」
まず顔が近い。それに完全にタケに身を任せてしまってる感じがどうにもくすぐったい。ましてやこんな現場を知り合いに見られたら……。その矢先に横を通った親子連れに「ママー?お姉ちゃんが運ばれてるー」「!!!あんまり見ちゃいけません!」とか言われてる。
『見るな』じゃなくて、むしろちゃんと見てよ!私、ケガをして運ばれてるだけなんだって!脚から血出てるでしょ!?あーーー。いっそ「ケガしてるんです!」って言って回りたい!けど余計に恥なのは目に見えてるので、私は真剣にタケにお願いする。
「ゴメン、これはすごくありがたいんだけど……」
親切を無下にするのも悪くてその後の言葉を濁すと、タケにもさっきの親子の会話は届いていたらしい。ゆっくりと立ち止まりしぶしぶといった様子で下ろしてくれた。
それでも私に歩かせようとはしない。「ほら」としゃがんで背中に乗るようにうながされる。
念願のおんぶだ!うん。こっちなら照れずにお願いすることができる。
「ありがと」
こんなの子どもの時以来。ちょっと懐かしい。
彼の肩に両手を回す。二人分の荷物を背中に持ちながらだとちょっとやりにくい。彼は「っしょっ」と一言気合を入れると難なく立ち上がり、そのまま私をおぶって歩き始める。
「へへっ、タケのおんぶ、超久しぶり」
「友紀、小っちぇ頃しょっちゅう転んでたからなー」
「そうだったっけ?」
タケは上にお姉ちゃんが二人もいたから、同い年なのに私には妙にお兄ちゃんぶってきたっけ。転んだ時とか疲れた時とかよくおんぶしてもらってた気がする。
あの頃のタケはひょろっとしてたから、おんぶのバランス崩して落とされることもあったけど、その頃に比べたら……全体的に大きくなってる、というかたくましくなってる。……手が回しにくかったのは、体の厚みのせいだ。タケの背中がこんなに広くてがっしりと堅いものだとは思わなかった。私をおぶっているのによろける気配すらない。なんか、芯が一本通ってる男の人の身体だ。
……やだ、なんか照れる。
「家、こっちで変わってねぇよな?」
「うん。……タケのお姉ちゃんたちは元気?」
照れ隠しに小さい頃の思い出から引っ張り出す。それには気づかない風に彼は薄く笑う。
「あー。上は結婚して家出たよ。下は相変わらず」
「え、おっきいお姉ちゃん、結婚したんだ!」
「もうすぐ子供生まれる」
「うそ!タケ、叔父さんになるの!?」
「まあ、そうだけど叔父さんなんて呼ばせねーぞ。『タケお兄さん』って呼ばせる」
「いやいや、あきらめなよ。それにジャージにローファーはなんかオッサン臭いよ」
助けられといてひどいけど、一目見た時から気になってたことをポロっと漏らしてしまった。
ぴくっとタケのこめかみが動く。あれ?何か逆鱗に触れた?
「ここに捨て置いてもいいんだぜ?」
「ごめんなさい、もう言いません」
地雷を踏んだらしい。ジャージ&ローファーはタケのポリシーだったか?それともオッサン呼ばわりがいけなかったか……。
怒ってるかな……?と、表情を伺うために前のめりになる。自分の身体を彼の背中に押し付けると、タケがピタッと足を止めた。
「……友紀、おっきくなったよな」
「え?やっぱり、重かった」
「いや、そーじゃなくて」
急にタケが言いよどむ。
「んーーーー。まあ、大きいって言うより育ったっつーか」
……!
コレ、絶対、身長とかのことじゃない!
タケの背中にピッタリとつけていた胸を離し、すくっと身を起こす。
「離れると重いからくっついてろって」
「バカ!タケの変態!」
「だから、俺は最初に言ったっつーの!おんぶはやべーって!」
「も、もうおろしてよ!」
「やーだね、褒美をくれてやったとでも思っとけ」
「褒美って何!?」
「あーもう、うるせぇ!」
そう言いながら私をおぶい直して体勢を整えると、猛スピードで走り出す。
私は振り落とされないように、結局身体をくっつけてしまう。
こんな時に。こんなことで。
幼なじみの成長を確かめ合ってるなんて。
私はこれからタケのことを男として意識してしまうんだろう、という予感めいたものを感じながらぎゅっと彼にしがみついた。
title by「甘い朝に沈む」
(「体よく幼なじみ」より改題)
「女子高生が落ちたな、とは思ったけど、まさか友紀だったとはな」
「タケ……久しぶり」
彼はプッと噴き出し、しゃがんでこちらに手を差し出してくれた。
「今言う言葉それじゃねーだろ。立てるか?」
「うん、だいじょ、っつ!痛てて……」
急な着信に慌ててスマホを滑り落とし、転がるスマホに追いついた勢いで側溝に落ちた。幸いキャッチしたスマホは無事だったけど、私はみっともなく溝にはまっている。たまたま向かいの道で、このマヌケな一部始終を見ていたタケこと幼なじみの笹谷武仁が来てくれた……というわけだ。
タケの手を借りて側溝から抜け出す。そんなに水が溜まってなかったから膝と手が汚れたぐらい、と思ったのも束の間、ビキっとした激痛が足に走ってバランスを崩す。
「あー、足首やったか?」
「ちょっとくじいたぐらいだから、大したことないよっ、いったーーーーーっ!」
右足を地面につくことができないぐらい痛い……。どうしよう。このままケンケンで帰るには距離があるしダサすぎる。
「ったく、しょーがねーなー」
タケはすでに自分の荷物と私のカバン、二つを背中に背負っていた。肩を貸してくれるんだ、と思い白地に緑のラインが入った彼のジャージを汚さないよう恐る恐る肩に手をかける。その瞬間、膝から足をすくわれ思わず彼の首に手を回した。
「ちょ、タケ、ちょっと待って」
一瞬、投げられる!と思ったけど違う。これってあの『お姫さま抱っこ』ってヤツ?!予想外すぎ!っていうより、待って。ええっ?これで私、家まで運ばれるの!?
「お前、軽っ。ちゃんとメシ食ってんのか?」
「食べてるよ!」
「貧血でフラっといったとかじゃないだろうなー?」
「ただのドジだから!私にそんなか弱い設定つけないで!」
私豪快キャラで売ってるんだから!急に女の子扱いされても困る!ただでさえ柄にもない名前の抱っこされちゃってんのに!
「よりによって何でこんな抱っこなのよ 。普通そこはおんぶでしょ」
体験したことのない目線の高さが恐くて必死にしがみつきながらそう言うと、タケは急に遠い目をした。
「おんぶって軽く言うけどなー。それには俺たち大人になりすぎちゃったんだよ」
「何それふざけてんの?意味わかんない」
「いや真面目に、大きくなるといろいろと不便なんだっつーの」
「だーかーら、何でよ!」
大きくなるとおんぶがダメ?その理由が見当つかない。運ぶ側だって腕だけよりも体全体で担いだ方が軽く感じるよね?それ以上に『お姫様抱っこ』の方がいい理由って何がある?
「逆に何で友紀はこれがダメだって言うんだよ?」
「だって!これは恥ずかしすぎるって……」
まず顔が近い。それに完全にタケに身を任せてしまってる感じがどうにもくすぐったい。ましてやこんな現場を知り合いに見られたら……。その矢先に横を通った親子連れに「ママー?お姉ちゃんが運ばれてるー」「!!!あんまり見ちゃいけません!」とか言われてる。
『見るな』じゃなくて、むしろちゃんと見てよ!私、ケガをして運ばれてるだけなんだって!脚から血出てるでしょ!?あーーー。いっそ「ケガしてるんです!」って言って回りたい!けど余計に恥なのは目に見えてるので、私は真剣にタケにお願いする。
「ゴメン、これはすごくありがたいんだけど……」
親切を無下にするのも悪くてその後の言葉を濁すと、タケにもさっきの親子の会話は届いていたらしい。ゆっくりと立ち止まりしぶしぶといった様子で下ろしてくれた。
それでも私に歩かせようとはしない。「ほら」としゃがんで背中に乗るようにうながされる。
念願のおんぶだ!うん。こっちなら照れずにお願いすることができる。
「ありがと」
こんなの子どもの時以来。ちょっと懐かしい。
彼の肩に両手を回す。二人分の荷物を背中に持ちながらだとちょっとやりにくい。彼は「っしょっ」と一言気合を入れると難なく立ち上がり、そのまま私をおぶって歩き始める。
「へへっ、タケのおんぶ、超久しぶり」
「友紀、小っちぇ頃しょっちゅう転んでたからなー」
「そうだったっけ?」
タケは上にお姉ちゃんが二人もいたから、同い年なのに私には妙にお兄ちゃんぶってきたっけ。転んだ時とか疲れた時とかよくおんぶしてもらってた気がする。
あの頃のタケはひょろっとしてたから、おんぶのバランス崩して落とされることもあったけど、その頃に比べたら……全体的に大きくなってる、というかたくましくなってる。……手が回しにくかったのは、体の厚みのせいだ。タケの背中がこんなに広くてがっしりと堅いものだとは思わなかった。私をおぶっているのによろける気配すらない。なんか、芯が一本通ってる男の人の身体だ。
……やだ、なんか照れる。
「家、こっちで変わってねぇよな?」
「うん。……タケのお姉ちゃんたちは元気?」
照れ隠しに小さい頃の思い出から引っ張り出す。それには気づかない風に彼は薄く笑う。
「あー。上は結婚して家出たよ。下は相変わらず」
「え、おっきいお姉ちゃん、結婚したんだ!」
「もうすぐ子供生まれる」
「うそ!タケ、叔父さんになるの!?」
「まあ、そうだけど叔父さんなんて呼ばせねーぞ。『タケお兄さん』って呼ばせる」
「いやいや、あきらめなよ。それにジャージにローファーはなんかオッサン臭いよ」
助けられといてひどいけど、一目見た時から気になってたことをポロっと漏らしてしまった。
ぴくっとタケのこめかみが動く。あれ?何か逆鱗に触れた?
「ここに捨て置いてもいいんだぜ?」
「ごめんなさい、もう言いません」
地雷を踏んだらしい。ジャージ&ローファーはタケのポリシーだったか?それともオッサン呼ばわりがいけなかったか……。
怒ってるかな……?と、表情を伺うために前のめりになる。自分の身体を彼の背中に押し付けると、タケがピタッと足を止めた。
「……友紀、おっきくなったよな」
「え?やっぱり、重かった」
「いや、そーじゃなくて」
急にタケが言いよどむ。
「んーーーー。まあ、大きいって言うより育ったっつーか」
……!
コレ、絶対、身長とかのことじゃない!
タケの背中にピッタリとつけていた胸を離し、すくっと身を起こす。
「離れると重いからくっついてろって」
「バカ!タケの変態!」
「だから、俺は最初に言ったっつーの!おんぶはやべーって!」
「も、もうおろしてよ!」
「やーだね、褒美をくれてやったとでも思っとけ」
「褒美って何!?」
「あーもう、うるせぇ!」
そう言いながら私をおぶい直して体勢を整えると、猛スピードで走り出す。
私は振り落とされないように、結局身体をくっつけてしまう。
こんな時に。こんなことで。
幼なじみの成長を確かめ合ってるなんて。
私はこれからタケのことを男として意識してしまうんだろう、という予感めいたものを感じながらぎゅっと彼にしがみついた。
title by「甘い朝に沈む」
(「体よく幼なじみ」より改題)
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