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キスができたら褒めて
壁ドンなんて今どき流行らない。
なのに真顔でやってくるこの男は何なんだろう。
私を壁際に追い詰め、壁についた腕の下から顔を寄せてくる。その顔が変に整ってるのが無性にムカつく。精一杯下からにらみつけてやっても、余裕そうに口の端が上がってるのがまたムカついてきて、彼の胸をこぶしで押す。
「私のこと、好きでもない人とは、キスできない」
文節とグーに握った手に力を込めてそう言うと、心外だとでも言いたげに目を細める。
「好きって、言えばいいんだ?」
「そういう事じゃなくて、」
「好きだ」
「だから!」
「結城の事が好きだ」
まっすぐに私の目を見て言い切るから、マジ告白なんだと勘違いしそうになってしまう。
「そ、そんなんで『好き』って言われても、本気にするわけないでしょ」
「まあぶっちゃけ、キスしたいから言ったってのは、そうなんだけど」
ほらコレだ。
『最低』と言ってやろうとしたのに、かぶせる様に二口は続ける。
「俺は、キスは好きな人とじゃないとできない」
一点の曇りもない目で断言するその姿に、不覚にもときめいてしまった一瞬後、彼が『キスは』と限定したことに気づいてしまった。
「キス以外は?」
「あ?」
私の切り返しに二口は目を丸くする。そのリアクションはどっちだろう。予想外?それとも図星をさされた後ろめたさ?
「やっぱり、最っ低」
後者だ。そう決めつけていると「やっぱりってなんだよ」と二口は怒った表情になる。
「じゃあ、お前は好きじゃない人とキスできんのかよ」
「できないよ!」
「俺とは?」
「え?」
仕返しのような急な切り返しに息をのんでしまって答えられなかった。
だって、私、二口とだったらできる……。
「否定しねぇんだ?」
二口の目が三日月になり口角が上がる。狙った獲物のスキは見逃さない。試合の時のような……相手が弱った所に畳み掛けてくる時の顔。
「好きだ」
ああ、もう、心臓がおかしくなる。
いつの間にか、壁についていない方の手はしっかりと私の後頭部をかかえ込んでいる。いくら彼の胸を押してもびくともしない。そのままの体勢で、上から覆いかぶさるように顔を近づけてくるから、私は慌てて両手で二口の顔を止める。
「待って、二口」
頭を抑えられた二口はさすがにイラっとした表情になった。
「何だよ、せっかく俺が作ったムードをぶち壊すな」
「ムードは、ちゃんと作るから」
「はあ?」
「このままじゃ、私の中で、つじつまが合わないから、ちょっと待って」
「……」
二口は私の手を自分の頭から離させると、しぶしぶといった感じに身体を起こし腕を組んで私を見下ろした。目つきがものすごく悪いからすごく怒っているように見えるけど、私にはわかってしまう。
これは、二口が拗ねている時にする表情だ。
でも。私だって初めてのキスをするなら、好きな人としたい。ちゃんと私の中で消化できる言い訳が欲しい。
だから……
「二口、好き」
目は合わせられない。改めると言えなくなりそうだから、吐く息のついでのように言ってみる。
「……」
たっぷり10秒無言のままの二口が不気味で、視線を恐る恐る彼の顔に合わせる。
彼は口の端だけを上げて言った。
「30点だな」
「低っ、そんな、ヒドイ」
「ムードもへったくれもねーわ。せめて顔を見て言え」
そうあきれたように笑う二口は、再び私に顔を近づけ声をひそめる。
「つじつまは合ったか?」
無駄に整ってる顔はこういう時凶器だ。微笑んで囁けばそれだけでムードが生まれてしまう。ホントずるい。大したセリフでもないのに私の心臓はキュンと痛む。
「ほら、何点だよ?」
人の気もしらないで意地悪く催促する二口が憎たらしい。
「……3点」
「はぁっ?」
「二口」
報復採点に眉を吊り上げる二口に、かぶせるように彼の名前を呼ぶ。
「なんだよ」
私はゆっくり顔を上げて、今度は彼と顔を合わせた。
からかうように細められた目。皮肉気に片方だけ上がった口角
キレイな顔なのに表情が邪悪なのが二口らしいと思う。
でも、私を映す瞳の奥が、どこか不安と緊張で揺れているような気がする。
……そっか。私と同じか。
「すき」
瞳孔がきゅっと丸くなった彼の目を見たら、一矢報いたという達成感と共に急に顔が熱くなってくる。それを悟られないよう早口でつづける。
「今のは、何点?」
彼はゆっくりまばたきしてからため息をつくと「惜しいな」とつぶやく。
「詰めが甘い、余韻を残せ」
「恥ずかしすぎる、もう、限界」
「そんなん点数なんてつけられねーわ。……じゃあ」
言いながら私の背中に手を回し自分の方へぐっと引き寄せる。一気に二口との距離がなくなる。目の前にある彼の瞳の射抜くような強さに、胸が痛いほどに高鳴る。
「模範解答をくれてやるよ」
不敵に言い放ったその唇が落ちてきた。私の唇でチュッと音を立ててからわざとらしくゆっくりと離し、また笑う。
『はい、やってみな』
聞こえるか聞こえないかぐらいの声でそそのかしてくる彼は悪魔だ。頭でそう思っているのに、私の身体は言うことを聞かない。飛び出そうなくらいに高鳴った心臓を何とかおさえて、ゆっくりと彼の唇に自分の唇を近づける。
緊張で震える唇が、彼の唇に届き、吸われて、食まれて、それから、離れる。
目は潤んでくるし顔は熱い。唇が無意識に半開きになっているのを自覚した瞬間、彼の唇が弧を描く。……もう、二口の顔は見られないし、今の顔を見られたくない。
だから私は何も言わずに彼の胸に顔を押し付ける。
「よくできました」
脳に音声が伝わる回路を蕩かすほど甘く囁きながら、彼は私の髪を撫でた。
title by「箱庭」
壁ドンなんて今どき流行らない。
なのに真顔でやってくるこの男は何なんだろう。
私を壁際に追い詰め、壁についた腕の下から顔を寄せてくる。その顔が変に整ってるのが無性にムカつく。精一杯下からにらみつけてやっても、余裕そうに口の端が上がってるのがまたムカついてきて、彼の胸をこぶしで押す。
「私のこと、好きでもない人とは、キスできない」
文節とグーに握った手に力を込めてそう言うと、心外だとでも言いたげに目を細める。
「好きって、言えばいいんだ?」
「そういう事じゃなくて、」
「好きだ」
「だから!」
「結城の事が好きだ」
まっすぐに私の目を見て言い切るから、マジ告白なんだと勘違いしそうになってしまう。
「そ、そんなんで『好き』って言われても、本気にするわけないでしょ」
「まあぶっちゃけ、キスしたいから言ったってのは、そうなんだけど」
ほらコレだ。
『最低』と言ってやろうとしたのに、かぶせる様に二口は続ける。
「俺は、キスは好きな人とじゃないとできない」
一点の曇りもない目で断言するその姿に、不覚にもときめいてしまった一瞬後、彼が『キスは』と限定したことに気づいてしまった。
「キス以外は?」
「あ?」
私の切り返しに二口は目を丸くする。そのリアクションはどっちだろう。予想外?それとも図星をさされた後ろめたさ?
「やっぱり、最っ低」
後者だ。そう決めつけていると「やっぱりってなんだよ」と二口は怒った表情になる。
「じゃあ、お前は好きじゃない人とキスできんのかよ」
「できないよ!」
「俺とは?」
「え?」
仕返しのような急な切り返しに息をのんでしまって答えられなかった。
だって、私、二口とだったらできる……。
「否定しねぇんだ?」
二口の目が三日月になり口角が上がる。狙った獲物のスキは見逃さない。試合の時のような……相手が弱った所に畳み掛けてくる時の顔。
「好きだ」
ああ、もう、心臓がおかしくなる。
いつの間にか、壁についていない方の手はしっかりと私の後頭部をかかえ込んでいる。いくら彼の胸を押してもびくともしない。そのままの体勢で、上から覆いかぶさるように顔を近づけてくるから、私は慌てて両手で二口の顔を止める。
「待って、二口」
頭を抑えられた二口はさすがにイラっとした表情になった。
「何だよ、せっかく俺が作ったムードをぶち壊すな」
「ムードは、ちゃんと作るから」
「はあ?」
「このままじゃ、私の中で、つじつまが合わないから、ちょっと待って」
「……」
二口は私の手を自分の頭から離させると、しぶしぶといった感じに身体を起こし腕を組んで私を見下ろした。目つきがものすごく悪いからすごく怒っているように見えるけど、私にはわかってしまう。
これは、二口が拗ねている時にする表情だ。
でも。私だって初めてのキスをするなら、好きな人としたい。ちゃんと私の中で消化できる言い訳が欲しい。
だから……
「二口、好き」
目は合わせられない。改めると言えなくなりそうだから、吐く息のついでのように言ってみる。
「……」
たっぷり10秒無言のままの二口が不気味で、視線を恐る恐る彼の顔に合わせる。
彼は口の端だけを上げて言った。
「30点だな」
「低っ、そんな、ヒドイ」
「ムードもへったくれもねーわ。せめて顔を見て言え」
そうあきれたように笑う二口は、再び私に顔を近づけ声をひそめる。
「つじつまは合ったか?」
無駄に整ってる顔はこういう時凶器だ。微笑んで囁けばそれだけでムードが生まれてしまう。ホントずるい。大したセリフでもないのに私の心臓はキュンと痛む。
「ほら、何点だよ?」
人の気もしらないで意地悪く催促する二口が憎たらしい。
「……3点」
「はぁっ?」
「二口」
報復採点に眉を吊り上げる二口に、かぶせるように彼の名前を呼ぶ。
「なんだよ」
私はゆっくり顔を上げて、今度は彼と顔を合わせた。
からかうように細められた目。皮肉気に片方だけ上がった口角
キレイな顔なのに表情が邪悪なのが二口らしいと思う。
でも、私を映す瞳の奥が、どこか不安と緊張で揺れているような気がする。
……そっか。私と同じか。
「すき」
瞳孔がきゅっと丸くなった彼の目を見たら、一矢報いたという達成感と共に急に顔が熱くなってくる。それを悟られないよう早口でつづける。
「今のは、何点?」
彼はゆっくりまばたきしてからため息をつくと「惜しいな」とつぶやく。
「詰めが甘い、余韻を残せ」
「恥ずかしすぎる、もう、限界」
「そんなん点数なんてつけられねーわ。……じゃあ」
言いながら私の背中に手を回し自分の方へぐっと引き寄せる。一気に二口との距離がなくなる。目の前にある彼の瞳の射抜くような強さに、胸が痛いほどに高鳴る。
「模範解答をくれてやるよ」
不敵に言い放ったその唇が落ちてきた。私の唇でチュッと音を立ててからわざとらしくゆっくりと離し、また笑う。
『はい、やってみな』
聞こえるか聞こえないかぐらいの声でそそのかしてくる彼は悪魔だ。頭でそう思っているのに、私の身体は言うことを聞かない。飛び出そうなくらいに高鳴った心臓を何とかおさえて、ゆっくりと彼の唇に自分の唇を近づける。
緊張で震える唇が、彼の唇に届き、吸われて、食まれて、それから、離れる。
目は潤んでくるし顔は熱い。唇が無意識に半開きになっているのを自覚した瞬間、彼の唇が弧を描く。……もう、二口の顔は見られないし、今の顔を見られたくない。
だから私は何も言わずに彼の胸に顔を押し付ける。
「よくできました」
脳に音声が伝わる回路を蕩かすほど甘く囁きながら、彼は私の髪を撫でた。
title by「箱庭」
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