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オープニングで察して
※年齢操作があります
「ママはパパと違う学校でしょ?どうやって出会ったの?」
夕飯の支度の最中、手伝いをしてくれている娘に聞かれた。幼いと思っていた娘も両親のなれそめに興味を持つ年頃になったんだなと目を細める。
「前に、ママ、バレー部のマネージャーをしてたって話をしたことがあったでしょ?」
「うん」
「パパはその対戦相手のエースブロッカーさんだったのよ」
「えー?敵同士じゃん。じゃあ、なんで?」
ふと、玄関へ続く窓付きドアの向こうに渦中の彼の顔が見えた。縁あって母校のバレーボール部の監督になった彼がこの時間に帰ってくるのは珍しい。中で話している内容が聞こえたのかあたふたした様子だ。
『先、着替えてくる』
口の動きと階段を示す指で彼の言わんとしていることを読み取る。この手の話が苦手な彼はほとぼりが覚めるのを待つ算段らしい。
初めて会ったあのとき。あなたは今と同じように、口と手の動きで『こっちへ来い』と言って助けてくれたっけ。
娘に見つからないよう笑ってうなずき、どう話そうかと高校時代の思い出を引っ張り出す。
◇◇◇
「マブイおね~ちゃ~ん、一緒に遊ばない?」
「無理です、離してください!」
「そんな、つれないこと言わないでよ~」
「ねっ、ね、電話番号、教えてよ」
ナニコレ、不良漫画?
イヤな感じの人達がいる、と察したまではよかった。タオルやボトルやらを抱えてるからと、中途半端に遠回りしたのがいけなったらしい。その動きが露骨だったようで「なーによけてんだよ!」と言いがかりをつけられてしまった。
まあ、実際、よけたんだけど……。
「離してください、もう、行かないと」
「お姉ちゃんが避けてくの、かなり傷ついたんだけど。慰謝料がわりに遊んでよ~」
「痛っ」
横を抜けようとするも力任せに腕を掴まれ、持っていたカゴからボトルが床に転がる音が響く。泣きたい気持ちで落とした荷物の行方を追うと、転がったボトルを拾いつつこちらを伺う人がいるのが見えた。
助けてもらえるかもしれない。
なんとか壁のような3人組の隙間から覗くと目が合う。と同時に彼が着ているのがバレーのユニフォームだというのもわかった。胸に『伊達工業』と書いてある。……次の対戦校だ。どうしよう。よそさまのチームに迷惑をかけるわけには…
「聞いてる?そろそろ行こうよー」
恐る恐る彼のいた方向をもう一度見ると、眼光鋭くこちらを見据えた彼は3人組のすぐ後ろまで迫っていた。大きい。190センチ以上あるんじゃないか?
「なーに、よそ見してんだよ、アアっ?」
挙動不審な私に凄みをきかせた一人が彼に肩を叩かれたらしい。後ろを振り返りその表情を凍てつかせる。周りの二人の男も「ああーん?!」と凄みながら振り返るが、背後の彼に気づくとギョッとした顔になる。
「ゲッ伊達工!」
「なんだその高校、強いのか?」
「お前知らねえのか?『パツキン筋肉番長』と『鬼夜叉三白眼』の伊達工を」
なにその異名…。伊達工の彼は訝し気に「……先輩…?」とつぶやく。すると3人のうち少なくとも2人が震えあがったのがわかった。その隙に彼はこちらにあまり上手くない目くばせをしてよこすと、ロックオンするみたいに私に人差し指を向けそのまま半円を描いて自分の後ろに回す。『こっちへ来い』彼の口の動きはそう言っているように見えた。手の拘束が緩んでいる。隙をついて彼の方へ一目散に走ると、彼は自分の背後に私を隠してくれた。
「……彼女に、何か用か?」
一瞬どきっとしたが、ただの三人称なんだろう。でも3人組は勝手に『俺の』がついた形で解釈してくれたらしい。
「い、いえいえ、何でもありませんよ~」
「クソ、図体だけでけぇのが、覚えてろよ」
「バカかおめぇ、ずらかるぞ!」
ばたばたと、これまた漫画のようなセリフを吐いて走り去り、その場には彼と私だけが残された。急に体の力が抜けへたりこむ。彼が助けてくれなかったら、私どうなっていたんだろう……。
「大丈夫ですか」
「……」
彼はその大きい体をかがめ私に手を差し出す。心地好さを感じる紳士的な低い声だった。唾を飲み込み、やっとのことで「はい」と声を絞り出す。彼は動けない私の腕をとるとゆっくり移動させ近くのソファに座らせてくれた。
「すまない」
「え?」
「すぐに助けに行けなくて」
「い、いえ、とんでもないです」
そんな。こちらには感謝しかないのに。それでも彼は一層眉間に深いシワを刻んだ。私はまだお礼を言っていないのに今さら気づく。
「ありがとうございます……」
彼は小さく頷くと、散らばったタオルやボトルを集めてくれた。そうだ、名前を聞かないと。
「あ、あの!」
「?」
じろりと睨まれる。いや、多分彼は睨んだつもりはないのかもしれないけれど、その眼光の鋭さに頭が真っ白になってしまった。あれ?何だっけ?
「え、えと、き、金髪筋肉野郎?さんと、鬼夜叉三白眼さんって、実在するんですか?」
「ぶっ」
咄嗟に出てきたのは頭の片隅でひっかかっていたこと。ちょっと、私!それは確かに聞きたいけれども!絶対今じゃないよ、それ!ほら!彼だって吹き出しちゃったじゃないか。
「ごめんなさい、そうじゃなくて、あの、」
あせるとますます出てこない。彼はあたふたしている私をなだめるように軽く私の肩を叩くと横に座った。そうして一呼吸おいて話し始める。
「金髪筋肉野郎は、恐らくこの人で間違いないだろうって先輩がいる。少々喧嘩っ早いが良い先輩だ」
いるんだ…伊達工おそるべし、と妙な感心をしていると、彼の眉間のシワが一層深くなった。
「鬼夜叉三白眼は……厳しい方ではあるが普段とても温厚な方で………。他校までその名が轟くタイプの方ではないから…俺の思い浮かべる先輩とは多分違うと思う…」
途端に口ごもり歯切れが悪くなる彼に今度は私が吹き出した。
「ふっ、あはは」
「!?」
「鬼夜叉三白眼さん、怖いんですね」
びっくりした顔をしている。図星だったらしい。ふっと息を吐くとほんの少しだけ微笑む。
「ああ、うちの先代主将だった方だ」
懐かしみつつ誇らし気な表情。尊敬できる先輩だったんだろうな。そう感じるとさっきまでの恐怖がどこかに消えていった。もう大丈夫。私は立ち上がり伸びをした。つられて立ち上がった彼を見上げ今できる精一杯の笑顔を見せる。
「私、青葉城西高校の2年、マネージャの結城友紀といいます。あの、よかったら後でお礼をさせてください」
生憎今はメモの類いを持っていない、だから、お礼を口実に連絡先を聞かせてもらおうと思った。学校が違うと、次はいつ会えるかわからない。
「…それなら、一つ頼みがあるんだが」
「何ですか?」
「タオルを貸してくれないか」
忘れてしまって、と視線を宙に浮かせながら彼が言う。
「ああ、全然かまいませんよ」
かごの中から無地のタオルを一枚渡す。
「試合に勝ったら…返しに行く」
試合が『終わったら』ではなく『勝ったら』と言った。根っからの選手思考。勝った時以外の事は考えたくないんだな、と理解はできるけど、仮にも私、次の対戦相手なんだから…とちょっと意地悪な気持ちがわいてくる。
「えー、うちが勝ったら返してくれないんですかー?」
「いや、そういうわけじゃ…」
わざと拗ねた口調で言うと、ぶんぶんと音が鳴りそうに首を振りながら慌てて彼が言う。強面の彼が必死に首を振るのがなんだか可愛くて笑ってしまう。
「じゃあ…ウチが勝ったら、めちゃめちゃ探しますので、覚悟しておいてください」
そこで彼ははじめて笑ってくれた。
「わかった。それでも伊達工が勝つ」
「青葉城西が、破って見せます!」
◆◇◆
試合は接戦だった。鉄壁の異名は伊達ではない。うちの攻撃は結構な確率で鉄壁に跳ね返される。たとえかいくぐったとしても、
「パンタロン!」
「オーライ!」
パンタロンと呼ばれてる、普段着がおしゃれそうな長髪の選手がひたすらこぼれたボール拾いまくる。
相手チームの1番をつけているのが彼だった。言葉は少ないけれどプレーで味方を鼓舞しているのが伝わってくる。ブロックをはがして打たせるウチの主将のトスはいつもながら見事だと思うけれど、それにくらいついていく彼のプレーに私は目を奪われていた。直前まで眼光鋭くボールの出どころを見極め、そして跳ぶ。
…… 私いつかあの視線の先に入ることができるかな?
互いになかなかブレイクできず、膠着状態のスコア。それでも終わりのときはやってくる。エース渾身のスパイクが鉄壁に弾かれ、自コートに叩きつけられる。
フルセットの末、青葉城西高校は準々決勝で伊達工業高校に敗れた。
◆◇◆
「結城さん」
「あ、」
敗退後の後片付けは気分が重いはずなのに、彼が来てくれると思うと少し浮足立っていた。私の元へ来た彼は相変わらずのしかめっ面だ。怒ってるわけではなく敗退チームを慮っているの表情だ。
「悔しいけれど、ウチの分も準決勝がんばってくださいね」
「わかった。必ず勝つ」
「敵だけど、最後のブロック、まさに鉄壁って感じで、かっこよかったです」
私の心が完全にもっていかれるぐらいに。その言葉は胸に秘めたまま彼を見つめる。彼はふっと笑い、私の手に何かを滑り込ませる。小さなノートの切れっ端。開くとそこには10桁の数字が書いてあった。
「え…、これって」
「タオルは洗って返す…ので、都合のいい時に連絡してくれないか?」
怒ったような顔を赤くしながら、横を向いてぶっきらぼうに言う。もしかして切っ掛けを作ってくれた、と思っていいのかな。
「あ、ありがとうございます!すぐに……、電話しますね」
「……9時には家にいる」
彼は照れたように少し微笑むとくるりと踵を返す。
「あ、待って、……」
行ってしまう彼のジャージの裾を引っ張る。怪訝な顔をして彼は振り向く。そう、今の私には、呼びかける手段がない。
「名前を教えてもらっても、いいですか?」
ああ、と、そこで彼は初めて名乗っていないことに気づいたようだった。ユニフォームの襟を正して向き直ると私の目をまっすぐに見て言った。
「追分拓朗です」
title by「twenty」
※年齢操作があります
「ママはパパと違う学校でしょ?どうやって出会ったの?」
夕飯の支度の最中、手伝いをしてくれている娘に聞かれた。幼いと思っていた娘も両親のなれそめに興味を持つ年頃になったんだなと目を細める。
「前に、ママ、バレー部のマネージャーをしてたって話をしたことがあったでしょ?」
「うん」
「パパはその対戦相手のエースブロッカーさんだったのよ」
「えー?敵同士じゃん。じゃあ、なんで?」
ふと、玄関へ続く窓付きドアの向こうに渦中の彼の顔が見えた。縁あって母校のバレーボール部の監督になった彼がこの時間に帰ってくるのは珍しい。中で話している内容が聞こえたのかあたふたした様子だ。
『先、着替えてくる』
口の動きと階段を示す指で彼の言わんとしていることを読み取る。この手の話が苦手な彼はほとぼりが覚めるのを待つ算段らしい。
初めて会ったあのとき。あなたは今と同じように、口と手の動きで『こっちへ来い』と言って助けてくれたっけ。
娘に見つからないよう笑ってうなずき、どう話そうかと高校時代の思い出を引っ張り出す。
◇◇◇
「マブイおね~ちゃ~ん、一緒に遊ばない?」
「無理です、離してください!」
「そんな、つれないこと言わないでよ~」
「ねっ、ね、電話番号、教えてよ」
ナニコレ、不良漫画?
イヤな感じの人達がいる、と察したまではよかった。タオルやボトルやらを抱えてるからと、中途半端に遠回りしたのがいけなったらしい。その動きが露骨だったようで「なーによけてんだよ!」と言いがかりをつけられてしまった。
まあ、実際、よけたんだけど……。
「離してください、もう、行かないと」
「お姉ちゃんが避けてくの、かなり傷ついたんだけど。慰謝料がわりに遊んでよ~」
「痛っ」
横を抜けようとするも力任せに腕を掴まれ、持っていたカゴからボトルが床に転がる音が響く。泣きたい気持ちで落とした荷物の行方を追うと、転がったボトルを拾いつつこちらを伺う人がいるのが見えた。
助けてもらえるかもしれない。
なんとか壁のような3人組の隙間から覗くと目が合う。と同時に彼が着ているのがバレーのユニフォームだというのもわかった。胸に『伊達工業』と書いてある。……次の対戦校だ。どうしよう。よそさまのチームに迷惑をかけるわけには…
「聞いてる?そろそろ行こうよー」
恐る恐る彼のいた方向をもう一度見ると、眼光鋭くこちらを見据えた彼は3人組のすぐ後ろまで迫っていた。大きい。190センチ以上あるんじゃないか?
「なーに、よそ見してんだよ、アアっ?」
挙動不審な私に凄みをきかせた一人が彼に肩を叩かれたらしい。後ろを振り返りその表情を凍てつかせる。周りの二人の男も「ああーん?!」と凄みながら振り返るが、背後の彼に気づくとギョッとした顔になる。
「ゲッ伊達工!」
「なんだその高校、強いのか?」
「お前知らねえのか?『パツキン筋肉番長』と『鬼夜叉三白眼』の伊達工を」
なにその異名…。伊達工の彼は訝し気に「……先輩…?」とつぶやく。すると3人のうち少なくとも2人が震えあがったのがわかった。その隙に彼はこちらにあまり上手くない目くばせをしてよこすと、ロックオンするみたいに私に人差し指を向けそのまま半円を描いて自分の後ろに回す。『こっちへ来い』彼の口の動きはそう言っているように見えた。手の拘束が緩んでいる。隙をついて彼の方へ一目散に走ると、彼は自分の背後に私を隠してくれた。
「……彼女に、何か用か?」
一瞬どきっとしたが、ただの三人称なんだろう。でも3人組は勝手に『俺の』がついた形で解釈してくれたらしい。
「い、いえいえ、何でもありませんよ~」
「クソ、図体だけでけぇのが、覚えてろよ」
「バカかおめぇ、ずらかるぞ!」
ばたばたと、これまた漫画のようなセリフを吐いて走り去り、その場には彼と私だけが残された。急に体の力が抜けへたりこむ。彼が助けてくれなかったら、私どうなっていたんだろう……。
「大丈夫ですか」
「……」
彼はその大きい体をかがめ私に手を差し出す。心地好さを感じる紳士的な低い声だった。唾を飲み込み、やっとのことで「はい」と声を絞り出す。彼は動けない私の腕をとるとゆっくり移動させ近くのソファに座らせてくれた。
「すまない」
「え?」
「すぐに助けに行けなくて」
「い、いえ、とんでもないです」
そんな。こちらには感謝しかないのに。それでも彼は一層眉間に深いシワを刻んだ。私はまだお礼を言っていないのに今さら気づく。
「ありがとうございます……」
彼は小さく頷くと、散らばったタオルやボトルを集めてくれた。そうだ、名前を聞かないと。
「あ、あの!」
「?」
じろりと睨まれる。いや、多分彼は睨んだつもりはないのかもしれないけれど、その眼光の鋭さに頭が真っ白になってしまった。あれ?何だっけ?
「え、えと、き、金髪筋肉野郎?さんと、鬼夜叉三白眼さんって、実在するんですか?」
「ぶっ」
咄嗟に出てきたのは頭の片隅でひっかかっていたこと。ちょっと、私!それは確かに聞きたいけれども!絶対今じゃないよ、それ!ほら!彼だって吹き出しちゃったじゃないか。
「ごめんなさい、そうじゃなくて、あの、」
あせるとますます出てこない。彼はあたふたしている私をなだめるように軽く私の肩を叩くと横に座った。そうして一呼吸おいて話し始める。
「金髪筋肉野郎は、恐らくこの人で間違いないだろうって先輩がいる。少々喧嘩っ早いが良い先輩だ」
いるんだ…伊達工おそるべし、と妙な感心をしていると、彼の眉間のシワが一層深くなった。
「鬼夜叉三白眼は……厳しい方ではあるが普段とても温厚な方で………。他校までその名が轟くタイプの方ではないから…俺の思い浮かべる先輩とは多分違うと思う…」
途端に口ごもり歯切れが悪くなる彼に今度は私が吹き出した。
「ふっ、あはは」
「!?」
「鬼夜叉三白眼さん、怖いんですね」
びっくりした顔をしている。図星だったらしい。ふっと息を吐くとほんの少しだけ微笑む。
「ああ、うちの先代主将だった方だ」
懐かしみつつ誇らし気な表情。尊敬できる先輩だったんだろうな。そう感じるとさっきまでの恐怖がどこかに消えていった。もう大丈夫。私は立ち上がり伸びをした。つられて立ち上がった彼を見上げ今できる精一杯の笑顔を見せる。
「私、青葉城西高校の2年、マネージャの結城友紀といいます。あの、よかったら後でお礼をさせてください」
生憎今はメモの類いを持っていない、だから、お礼を口実に連絡先を聞かせてもらおうと思った。学校が違うと、次はいつ会えるかわからない。
「…それなら、一つ頼みがあるんだが」
「何ですか?」
「タオルを貸してくれないか」
忘れてしまって、と視線を宙に浮かせながら彼が言う。
「ああ、全然かまいませんよ」
かごの中から無地のタオルを一枚渡す。
「試合に勝ったら…返しに行く」
試合が『終わったら』ではなく『勝ったら』と言った。根っからの選手思考。勝った時以外の事は考えたくないんだな、と理解はできるけど、仮にも私、次の対戦相手なんだから…とちょっと意地悪な気持ちがわいてくる。
「えー、うちが勝ったら返してくれないんですかー?」
「いや、そういうわけじゃ…」
わざと拗ねた口調で言うと、ぶんぶんと音が鳴りそうに首を振りながら慌てて彼が言う。強面の彼が必死に首を振るのがなんだか可愛くて笑ってしまう。
「じゃあ…ウチが勝ったら、めちゃめちゃ探しますので、覚悟しておいてください」
そこで彼ははじめて笑ってくれた。
「わかった。それでも伊達工が勝つ」
「青葉城西が、破って見せます!」
◆◇◆
試合は接戦だった。鉄壁の異名は伊達ではない。うちの攻撃は結構な確率で鉄壁に跳ね返される。たとえかいくぐったとしても、
「パンタロン!」
「オーライ!」
パンタロンと呼ばれてる、普段着がおしゃれそうな長髪の選手がひたすらこぼれたボール拾いまくる。
相手チームの1番をつけているのが彼だった。言葉は少ないけれどプレーで味方を鼓舞しているのが伝わってくる。ブロックをはがして打たせるウチの主将のトスはいつもながら見事だと思うけれど、それにくらいついていく彼のプレーに私は目を奪われていた。直前まで眼光鋭くボールの出どころを見極め、そして跳ぶ。
…… 私いつかあの視線の先に入ることができるかな?
互いになかなかブレイクできず、膠着状態のスコア。それでも終わりのときはやってくる。エース渾身のスパイクが鉄壁に弾かれ、自コートに叩きつけられる。
フルセットの末、青葉城西高校は準々決勝で伊達工業高校に敗れた。
◆◇◆
「結城さん」
「あ、」
敗退後の後片付けは気分が重いはずなのに、彼が来てくれると思うと少し浮足立っていた。私の元へ来た彼は相変わらずのしかめっ面だ。怒ってるわけではなく敗退チームを慮っているの表情だ。
「悔しいけれど、ウチの分も準決勝がんばってくださいね」
「わかった。必ず勝つ」
「敵だけど、最後のブロック、まさに鉄壁って感じで、かっこよかったです」
私の心が完全にもっていかれるぐらいに。その言葉は胸に秘めたまま彼を見つめる。彼はふっと笑い、私の手に何かを滑り込ませる。小さなノートの切れっ端。開くとそこには10桁の数字が書いてあった。
「え…、これって」
「タオルは洗って返す…ので、都合のいい時に連絡してくれないか?」
怒ったような顔を赤くしながら、横を向いてぶっきらぼうに言う。もしかして切っ掛けを作ってくれた、と思っていいのかな。
「あ、ありがとうございます!すぐに……、電話しますね」
「……9時には家にいる」
彼は照れたように少し微笑むとくるりと踵を返す。
「あ、待って、……」
行ってしまう彼のジャージの裾を引っ張る。怪訝な顔をして彼は振り向く。そう、今の私には、呼びかける手段がない。
「名前を教えてもらっても、いいですか?」
ああ、と、そこで彼は初めて名乗っていないことに気づいたようだった。ユニフォームの襟を正して向き直ると私の目をまっすぐに見て言った。
「追分拓朗です」
title by「twenty」
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