黄金川貫至:正義
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「99本目!」
「ーーーハイっスー!」
「はい100本目ラストー」
「結城先輩!好きっすー!!!」
「はーい、おしまーいー!」
「ウッス!」
自主練の100本トス終了。
黄金川はまだまだ動く気満々だけど、私は体力の限界なので、後片付けに専念することにする。
散らばったビブスを集めていると、遠いサイドにあったビブスを拾った二口が近づいてきた。
「懲りないッスねー黄金川も」
黄金川は逆サイドで水分補給をしながら、トスを合わせてた部員と話をしている。
二口の言ったことはスルーして「ありがと」とカゴで受け取ると二口はニヤニヤ顔で続ける。
「練習最後に毎回告白される気分はどうなんスか?結城先輩?」
「…………」
「そろそろ付き合うかフるか、すりゃいいじゃないですか」
無視しようと思ったけど二口がしつこいので私は努めて冷静な口調で言い返す。
「……アンタ他人事だと思って軽く言うけど、付き合ったら私は追放、ふったら黄金川のモチベが下がる、どっちにしろ詰みでしょうが」
「えー?黄金はそんなタマじゃねーでしょ。まぁ心配なら適当にたぶらかして陰でよろしくやっときゃいーんです、イテッ」
最後まで言い終わる前に、ぺしっとはたく。
「アンタももう責任持つ立場になるんだから、軽はずみなこと言わないの!」
「だから今のうちじゃないっすか。無責任に発言できるの」
「甘えすぎ」
ピシャリと言ったついでにもう一発二口のおでこをはたくと、いつの間にかぬっと黄金川が二口の後ろに立っていた。
「二口先輩!近いっす!結城先輩から離れてください!」
言いながら、私と二口の間に割って入ろうとする。二口はわざと私にくっつくように体当たりをしてから黄金川に向かって薄笑いを浮かべる。
「別にふつーに話してただけだろ。セコムかよ」
「部内恋愛は禁止っすよ!」
「はァ?どの口が言うんだよ!バカ、離せって」
猫のように首根っこをつかまれて二口が運ばれていく。
二口を連行する黄金川の後ろ姿を、私はため息をつきながら見送った。
◆◆◆
私たちの部活はあっけなく6月で終わった。
春高までは残らない。インハイ後は後輩たちに部を任せる。もとより私たちはそのつもりだった。
茂庭から主将を引き継いだのは二口だった。
鉄壁の象徴としての1番は青根に、副主将としての3番は小原に引き継ぎ、私は滑津にこれからをお願いして、バレー部を引退した。
「……言いに来ないんだもんなー……」
最後の挨拶に部を訪れた時。
私が滑津をはじめとするマネージャーに激励と取りとめのないおしゃべりをしている間、黄金川は二口と茂庭を取り合っていた。
結局最後まで黄金川は私の所へは来なかった。
うすうす期待していたのかもしれない。
帰り際に二口に「で、付き合うんですか?」とニヤニヤ顔で聞かれたので「何も言われてないよ」と返した。
あの二口が驚いた顔で追撃もせず、デリカシーのかけらを見せてくるのがかえってみじめだった。
部内恋愛禁止から解放された途端に何も言ってこないってことは、まあ、あれはやっぱり、その場のノリみたいなもんだったんだろうな、とホッとしつつも軽く失恋したような気持ちだった。
私たちは、部を離れてそれぞれの進路に向き合い始めた。
黄金川へ感じた気持ちはそっと閉じることにした。
そうこうしているうちに部活の情報には自然と疎くなってゆく。8月の頭に愛知県の高校が優勝したということを何となく聞いただけだった。
◆◆◆
「結城先輩!」
夏休みが明けた始業式後、人の流れにのって教室に戻ろうとした私を黄金川が呼び止めた。
「久しぶり、黄金川、どうしたの?」
「結城先輩、好きっす!」
次に言われたら『からかわないで』ぐらい言ってやろうと思ったのに。久々のルーティンで、しかも出会い頭のパターンは初めてだったので、不覚にもドキっとしてしまった。
『おいおい、こんなところで告白だぞ』『いや、でもなんかアレ、挨拶っぽいぞ』などとすれ違いざまにひそひそ言われている声が聞こえる。
黄金川、身長伸びてる?部活に行かなくなった数か月の間に、体つきもたくましくなっている気がする。
もう、私が知ってる黄金川じゃないんだな、と思うと少し寂しい気分にもなる。
「……ありがとう、近いうちに、部活、顔出すね」
「待ってください!」
立ち去ろうと足を踏み出した瞬間手首をつかまれた。びっくりして彼を見上げる。こんな、強引にアクションを起こす黄金川は初めてだ。
「本当は、インターハイが終わったら言おうと思ってたんスけど……」
そこで黄金川はいったん口ごもって目を逸らす。一瞬の逡巡の後、黄金川は両手で私の手を握った。
「でも俺、伊達工は宮城予選のあの試合で負けたけれど、インターハイの決勝までは3年生と一緒にいるつもりだったから、その前に結城先輩の所に行くのは、違うと思ってたんです」
握られた手が温かい。
あの日の彼の事情、それを私に伝えようとしてくる彼の誠実さに、私の心の閉じていた黄金川への扉が開きかける。
「バレー部に入ったのは結城先輩と一緒にいたかったからです。でも……練習つきあってもらううちに目標ができました。伊達工の正セッターになるって」
私は、黙って黄金川の言葉を聞いていた。
人の通りが少なくなってきた。もうホームルームが始まってしまうかもしれないけれど、そんなことより最後まで聞かないといけないと思った。
「俺は最後まで茂庭さんからセッターの座を奪うことはできなかった」
黄金川は悔しそうに一度下を向いた。でも、すぐに顔を上げると私を真正面から見据える。
「一昨日、春高の予選のスタメンが発表されて、俺、7番をつけることになりました」
7番。レギュラー番号。それの意味するところは、
「正セッターになりました!」
そう誇らしげに宣言する黄金川に胸がいっぱいになってしまった。
前より首が伸びる角度で、黄金川を見上げる。
「……良かった、がんばったね、黄金川」
最後の、彼の名前を言うところでは声が震えてしまったような気がする。
「今なら、堂々と言えます!結城先輩」
その後に続く言葉は、もうわかっている気がする。私はその言葉を待つ。目の前が滲んでくる。
黄金川は私を真っ直ぐ捉え、目は真剣なまま口角を上げた。
「好きです!俺と付き合ってください!」
言われ慣れてしまった言葉のはずなのに……。
初めて、真正面から言われて、こんなに嬉しいと感じるなんて思わなかった。
黄金川を見上げているおかげで、あふれていても落ちなかった涙が次から次へと零れていく。
「……はい。よろしくお願いします」
やっとのことでそれだけ言うと、「何、泣いてんスか、結城先輩!」と自分も泣いているクセに黄金川は私の目元を優しく拭った。
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黄金川貫至×正義
=筋は通す
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「ーーーハイっスー!」
「はい100本目ラストー」
「結城先輩!好きっすー!!!」
「はーい、おしまーいー!」
「ウッス!」
自主練の100本トス終了。
黄金川はまだまだ動く気満々だけど、私は体力の限界なので、後片付けに専念することにする。
散らばったビブスを集めていると、遠いサイドにあったビブスを拾った二口が近づいてきた。
「懲りないッスねー黄金川も」
黄金川は逆サイドで水分補給をしながら、トスを合わせてた部員と話をしている。
二口の言ったことはスルーして「ありがと」とカゴで受け取ると二口はニヤニヤ顔で続ける。
「練習最後に毎回告白される気分はどうなんスか?結城先輩?」
「…………」
「そろそろ付き合うかフるか、すりゃいいじゃないですか」
無視しようと思ったけど二口がしつこいので私は努めて冷静な口調で言い返す。
「……アンタ他人事だと思って軽く言うけど、付き合ったら私は追放、ふったら黄金川のモチベが下がる、どっちにしろ詰みでしょうが」
「えー?黄金はそんなタマじゃねーでしょ。まぁ心配なら適当にたぶらかして陰でよろしくやっときゃいーんです、イテッ」
最後まで言い終わる前に、ぺしっとはたく。
「アンタももう責任持つ立場になるんだから、軽はずみなこと言わないの!」
「だから今のうちじゃないっすか。無責任に発言できるの」
「甘えすぎ」
ピシャリと言ったついでにもう一発二口のおでこをはたくと、いつの間にかぬっと黄金川が二口の後ろに立っていた。
「二口先輩!近いっす!結城先輩から離れてください!」
言いながら、私と二口の間に割って入ろうとする。二口はわざと私にくっつくように体当たりをしてから黄金川に向かって薄笑いを浮かべる。
「別にふつーに話してただけだろ。セコムかよ」
「部内恋愛は禁止っすよ!」
「はァ?どの口が言うんだよ!バカ、離せって」
猫のように首根っこをつかまれて二口が運ばれていく。
二口を連行する黄金川の後ろ姿を、私はため息をつきながら見送った。
◆◆◆
私たちの部活はあっけなく6月で終わった。
春高までは残らない。インハイ後は後輩たちに部を任せる。もとより私たちはそのつもりだった。
茂庭から主将を引き継いだのは二口だった。
鉄壁の象徴としての1番は青根に、副主将としての3番は小原に引き継ぎ、私は滑津にこれからをお願いして、バレー部を引退した。
「……言いに来ないんだもんなー……」
最後の挨拶に部を訪れた時。
私が滑津をはじめとするマネージャーに激励と取りとめのないおしゃべりをしている間、黄金川は二口と茂庭を取り合っていた。
結局最後まで黄金川は私の所へは来なかった。
うすうす期待していたのかもしれない。
帰り際に二口に「で、付き合うんですか?」とニヤニヤ顔で聞かれたので「何も言われてないよ」と返した。
あの二口が驚いた顔で追撃もせず、デリカシーのかけらを見せてくるのがかえってみじめだった。
部内恋愛禁止から解放された途端に何も言ってこないってことは、まあ、あれはやっぱり、その場のノリみたいなもんだったんだろうな、とホッとしつつも軽く失恋したような気持ちだった。
私たちは、部を離れてそれぞれの進路に向き合い始めた。
黄金川へ感じた気持ちはそっと閉じることにした。
そうこうしているうちに部活の情報には自然と疎くなってゆく。8月の頭に愛知県の高校が優勝したということを何となく聞いただけだった。
◆◆◆
「結城先輩!」
夏休みが明けた始業式後、人の流れにのって教室に戻ろうとした私を黄金川が呼び止めた。
「久しぶり、黄金川、どうしたの?」
「結城先輩、好きっす!」
次に言われたら『からかわないで』ぐらい言ってやろうと思ったのに。久々のルーティンで、しかも出会い頭のパターンは初めてだったので、不覚にもドキっとしてしまった。
『おいおい、こんなところで告白だぞ』『いや、でもなんかアレ、挨拶っぽいぞ』などとすれ違いざまにひそひそ言われている声が聞こえる。
黄金川、身長伸びてる?部活に行かなくなった数か月の間に、体つきもたくましくなっている気がする。
もう、私が知ってる黄金川じゃないんだな、と思うと少し寂しい気分にもなる。
「……ありがとう、近いうちに、部活、顔出すね」
「待ってください!」
立ち去ろうと足を踏み出した瞬間手首をつかまれた。びっくりして彼を見上げる。こんな、強引にアクションを起こす黄金川は初めてだ。
「本当は、インターハイが終わったら言おうと思ってたんスけど……」
そこで黄金川はいったん口ごもって目を逸らす。一瞬の逡巡の後、黄金川は両手で私の手を握った。
「でも俺、伊達工は宮城予選のあの試合で負けたけれど、インターハイの決勝までは3年生と一緒にいるつもりだったから、その前に結城先輩の所に行くのは、違うと思ってたんです」
握られた手が温かい。
あの日の彼の事情、それを私に伝えようとしてくる彼の誠実さに、私の心の閉じていた黄金川への扉が開きかける。
「バレー部に入ったのは結城先輩と一緒にいたかったからです。でも……練習つきあってもらううちに目標ができました。伊達工の正セッターになるって」
私は、黙って黄金川の言葉を聞いていた。
人の通りが少なくなってきた。もうホームルームが始まってしまうかもしれないけれど、そんなことより最後まで聞かないといけないと思った。
「俺は最後まで茂庭さんからセッターの座を奪うことはできなかった」
黄金川は悔しそうに一度下を向いた。でも、すぐに顔を上げると私を真正面から見据える。
「一昨日、春高の予選のスタメンが発表されて、俺、7番をつけることになりました」
7番。レギュラー番号。それの意味するところは、
「正セッターになりました!」
そう誇らしげに宣言する黄金川に胸がいっぱいになってしまった。
前より首が伸びる角度で、黄金川を見上げる。
「……良かった、がんばったね、黄金川」
最後の、彼の名前を言うところでは声が震えてしまったような気がする。
「今なら、堂々と言えます!結城先輩」
その後に続く言葉は、もうわかっている気がする。私はその言葉を待つ。目の前が滲んでくる。
黄金川は私を真っ直ぐ捉え、目は真剣なまま口角を上げた。
「好きです!俺と付き合ってください!」
言われ慣れてしまった言葉のはずなのに……。
初めて、真正面から言われて、こんなに嬉しいと感じるなんて思わなかった。
黄金川を見上げているおかげで、あふれていても落ちなかった涙が次から次へと零れていく。
「……はい。よろしくお願いします」
やっとのことでそれだけ言うと、「何、泣いてんスか、結城先輩!」と自分も泣いているクセに黄金川は私の目元を優しく拭った。
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黄金川貫至×正義
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