22 Watch it Unfold
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Watch it Unfold
「あれ、取れたな」
コートの端で整列しながら、隣の青根にだけ聞こえるよう小声で言う。
「迷ってないのに、足が出なかった。くそ」
「……」
青根は何も言わない。いつもと変わりない様子で姿勢を正して立っている。
「お前、腰は?」
「……大丈夫だ」
顔を見る。
青根は弱音を吐かないから、表情を見るしかない。
……こんなやつ、もう一人、身近にいた気がするんだけど。
ただ青根の場合、表情にも行動にもほとんど出ないんだよ……。
一礼した後の歩き方をさりげなく観察し、若干痛みはあるんだろうな、ぐらい察しておく。
……まあ、もう俺らの番じゃねぇ。
観客の拍手が響く中、両チームの選手がセンターに寄りつつある。
ちらっと観客席を見る。そのもう一人を探す。
いた、と思った瞬間、目を逸らされてしまった。
「ん?」
ちょっとひっかかったけど、目の前の握手の列に意識を移す。
列の後ろから握手をしていって、最後、ネットの向こうの相手は宮侑だった。他の選手はもうほどけていってる。
握手を交わす前に目が合った。
「危なかったわぁ」
と、上からの目線で嗤う。
「最後、完全に読まれとったもん」
そう言われて反射的に声が出た。
「正面から来いよ」
軽口っぽく言えただろうか。
宮侑が、少しだけ笑って俺の手を握る。
「いや、それやったら負けるやん」
あっさりした声だった。
試合中と同じ調子。
その一言で、さっきの一球がそのまま頭の中で再生される。
——正面は潰してた。
——だから、外した。
……そりゃ、そうだ。
分かっていたことを、改めて突きつけられた気がしたみたいで、俺は小さく息を吐く。
「……だろうな」
言い返すでもなく、肯定でもなく、それだけ残して手を離す。
悔しさはある。
でも
あの時の判断は、正しかった。
ただ、それでも、勝てなかった。
それだけ。
……まあ、しょうがねぇか。
今度はちゃんと足も止めて、もう一度だけコートを見る。
見慣れた白線
見慣れたポール
見慣れたネット
目に焼き付けるつもりなんてないけれど、ここが俺の高校バレー最後のコート。
なんだかんだ、面白かった。
軽く会釈を一つ。
それから、何事もなかったみたいに歩き出した。
観客席への挨拶と、主将としての雑務を終え、宿へ戻る準備のため一旦解散になった後、茂庭さんに呼び止められた。
「二口、主将、ホント、お疲れさま」
「……どうも」
先代の主将って立場だった人からストレートにねぎらいの言葉をかけられてしまうと、どうにもこうにも気恥ずかしい。
茂庭さんは俺の内心を知ってか知らずか、「お前、いい主将だったよ!」だの「ここまで来れたの、本当に誇りに思う」だの追い打ちをかけてきて、もう、やめてくださいよ、みたいな感じになってくる。
「これ、鎌ちと笹やんから、預かってきた。3年にって」
「あざっす。何ですか、コレ?」
「選りすぐりのリラックスウェア? らしいよ」
地元デパートの柄が入った手提げ紙袋。中には丁寧に包装された品が並んで入っている。
「この大きさって……、どう考えてもパンツっすよね?」
文句を言いたいわけじゃないけれど、勿体ぶった言い方がおかしくなって鼻で笑ってしまう。
茂庭さんは眉を吊り上げて俺を咎めた。
「3年全員分なんだから結構大変なんだぞ、バカにするな。で、お前のはこっち。二口のは特別にオマケついてるって言ってた」
「へー……。後で2人にお礼言っときます」
別で小さな手提げ紙袋を渡される。隙間から中を覗こうとしたけど、真ん中のテープの封が邪魔で、同じ包装のものと別に何か入っていそうなことしかわからない。宿に帰ったら見てみることにする。
「渡すもんも渡したし。じゃあ、俺はこれで。一足先に宮城戻るわ」
そう茂庭さんがすっきりと、全てやり終えたような顔で言ってくる。
「え!? 帰っちゃうんですか!? ひどい茂庭さん! 俺たちが決勝残るって信じてくれてなかったんだ!」
「信じてたよ! 信じてたけど、明日から仕事があるんだよ!」
「お盆前なのに無理言って休んだんだから」と、口を尖らせる茂庭さんに、「冗談ですよ」、と笑って返す。
こんなやり取り懐かしいけど、もう立派に社会人やってんだな、この人達も、とちょっと感傷にひたりたくなってしまう。
その時、ふっと辺りを見回しても友紀が見つからないことに気づいた。
「茂庭さん、友紀、どこ行ったか知ってます?」
「こっち来る途中、お手洗いかどっか寄りたそうだったから、いったん分かれたんだけど、何かあった?」
「……ジャージ返してもらわねぇと」
ホント今さらだけど、友紀に会いたいと直球で言うのは気恥ずかしくて、言い訳みたいな理由が出てしまった。
「あれ、取れたな」
コートの端で整列しながら、隣の青根にだけ聞こえるよう小声で言う。
「迷ってないのに、足が出なかった。くそ」
「……」
青根は何も言わない。いつもと変わりない様子で姿勢を正して立っている。
「お前、腰は?」
「……大丈夫だ」
顔を見る。
青根は弱音を吐かないから、表情を見るしかない。
……こんなやつ、もう一人、身近にいた気がするんだけど。
ただ青根の場合、表情にも行動にもほとんど出ないんだよ……。
一礼した後の歩き方をさりげなく観察し、若干痛みはあるんだろうな、ぐらい察しておく。
……まあ、もう俺らの番じゃねぇ。
観客の拍手が響く中、両チームの選手がセンターに寄りつつある。
ちらっと観客席を見る。そのもう一人を探す。
いた、と思った瞬間、目を逸らされてしまった。
「ん?」
ちょっとひっかかったけど、目の前の握手の列に意識を移す。
列の後ろから握手をしていって、最後、ネットの向こうの相手は宮侑だった。他の選手はもうほどけていってる。
握手を交わす前に目が合った。
「危なかったわぁ」
と、上からの目線で嗤う。
「最後、完全に読まれとったもん」
そう言われて反射的に声が出た。
「正面から来いよ」
軽口っぽく言えただろうか。
宮侑が、少しだけ笑って俺の手を握る。
「いや、それやったら負けるやん」
あっさりした声だった。
試合中と同じ調子。
その一言で、さっきの一球がそのまま頭の中で再生される。
——正面は潰してた。
——だから、外した。
……そりゃ、そうだ。
分かっていたことを、改めて突きつけられた気がしたみたいで、俺は小さく息を吐く。
「……だろうな」
言い返すでもなく、肯定でもなく、それだけ残して手を離す。
悔しさはある。
でも
あの時の判断は、正しかった。
ただ、それでも、勝てなかった。
それだけ。
……まあ、しょうがねぇか。
今度はちゃんと足も止めて、もう一度だけコートを見る。
見慣れた白線
見慣れたポール
見慣れたネット
目に焼き付けるつもりなんてないけれど、ここが俺の高校バレー最後のコート。
なんだかんだ、面白かった。
軽く会釈を一つ。
それから、何事もなかったみたいに歩き出した。
観客席への挨拶と、主将としての雑務を終え、宿へ戻る準備のため一旦解散になった後、茂庭さんに呼び止められた。
「二口、主将、ホント、お疲れさま」
「……どうも」
先代の主将って立場だった人からストレートにねぎらいの言葉をかけられてしまうと、どうにもこうにも気恥ずかしい。
茂庭さんは俺の内心を知ってか知らずか、「お前、いい主将だったよ!」だの「ここまで来れたの、本当に誇りに思う」だの追い打ちをかけてきて、もう、やめてくださいよ、みたいな感じになってくる。
「これ、鎌ちと笹やんから、預かってきた。3年にって」
「あざっす。何ですか、コレ?」
「選りすぐりのリラックスウェア? らしいよ」
地元デパートの柄が入った手提げ紙袋。中には丁寧に包装された品が並んで入っている。
「この大きさって……、どう考えてもパンツっすよね?」
文句を言いたいわけじゃないけれど、勿体ぶった言い方がおかしくなって鼻で笑ってしまう。
茂庭さんは眉を吊り上げて俺を咎めた。
「3年全員分なんだから結構大変なんだぞ、バカにするな。で、お前のはこっち。二口のは特別にオマケついてるって言ってた」
「へー……。後で2人にお礼言っときます」
別で小さな手提げ紙袋を渡される。隙間から中を覗こうとしたけど、真ん中のテープの封が邪魔で、同じ包装のものと別に何か入っていそうなことしかわからない。宿に帰ったら見てみることにする。
「渡すもんも渡したし。じゃあ、俺はこれで。一足先に宮城戻るわ」
そう茂庭さんがすっきりと、全てやり終えたような顔で言ってくる。
「え!? 帰っちゃうんですか!? ひどい茂庭さん! 俺たちが決勝残るって信じてくれてなかったんだ!」
「信じてたよ! 信じてたけど、明日から仕事があるんだよ!」
「お盆前なのに無理言って休んだんだから」と、口を尖らせる茂庭さんに、「冗談ですよ」、と笑って返す。
こんなやり取り懐かしいけど、もう立派に社会人やってんだな、この人達も、とちょっと感傷にひたりたくなってしまう。
その時、ふっと辺りを見回しても友紀が見つからないことに気づいた。
「茂庭さん、友紀、どこ行ったか知ってます?」
「こっち来る途中、お手洗いかどっか寄りたそうだったから、いったん分かれたんだけど、何かあった?」
「……ジャージ返してもらわねぇと」
ホント今さらだけど、友紀に会いたいと直球で言うのは気恥ずかしくて、言い訳みたいな理由が出てしまった。
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