21 Burn It into Your Eyes
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Burn It into Your Eyes
「すごい……」
思わず声が出てしまう。
戦術なんて、ちゃんと分からない私でも、堅治くんを中心に、人が動いているのがわかる。
相手のセッターが起こしたアクション。
その周りの、攻撃を仕掛けてくる人の動き。
堅治くんは、ずっと考えている。
一球ごとに状況が変わる中で、それをつぶさに見て、判断して、指示を飛ばす。
決断が早い。
コースが見えた瞬間に、誰に任せるか、どこを埋めるかを即決している。
必死に読んで、
――抗っている。
判断は正しい。
配置も正しい。
連携も成立している。
なのに、
それでも、届かない。
最終セット終盤。
このセット、一度も得点では優位に立てていない。
点差は突き放されることはないけれど、ずっと縮まらない。
追いつけそうで、追いつけない。
そのもどかしさだけが積み重なっていく。
視界が狭まっていってる。
応援すらできていない。
もうずっと、バレーボールの試合じゃなくて、『二口堅治』を目で追ってしまっている。
サーブが打たれる。
レシーブが上がる。
誰かが跳んで、誰かが打つ。
ローテーションが回る。
本当は全部見えているはずなのに。
気がつけば、いつも同じ姿を探していた。
コートの後ろ。
少し腰を落として構える姿勢。
味方へ飛ばす短い指示。
次の一手を考える目。
ボールより先に、堅治くんを見ている。
その姿を見ているだけで、苦しくなる。
何回目かの「あと一点! あと一点!」という声が遠くから飛んでくる。
それに交じって、すぐ近くで「伊達工!」という叫びが弾ける。
たくしあげていたはずの大きな袖がずり落ちている。
まくるのももどかしくて、手を出し直す。
皺になった袖は手首のところで溜まったまま。
両手を組みなおす。親指のところに唇をつけ、祈るように両目を閉じてしまう。
その時、
「さっ、こーい!!!」と堅治くんの叫ぶ声が聞こえた。
はっと現実に引き戻される。
目を開く。
前しか見ていない堅治くんが視界に入って、胸が締めつけられる思いがした。
私だけ目を逸らして、どうする。
全部……焼き付けないと。
威力の乗ったサーブを、堅治くんが綺麗にいなす。
そのボールの行方を、堅治くんの視線が追うけれど、こっちの攻撃は惜しいところで拾われてしまう。
「チャンスボール!!!」
ネット際、相手セッターの手元にボールが収まる。
視線が、一瞬だけ落ちる。
その癖の意味を堅治くんなら知っている。
「ライト!」
高さは十分。堅治くんの指示通りブロックが揃う。
——正面。
コート後方で、堅治くんは重心を前に乗せる。
拾える距離。
いや、
――拾わせるための配置
息もできない思いで見つめていると、トスが上がる。
ライト、
タイミングも高さも、読み通り。
コースを絞ったその先に待ち構えている。
そのままなら、決めさせない。
お願い、とって――
喉の奥が張りついて声にならなくて、代わりに爪が食い込むくらい指を握り締める。
瞬間、
スパイクが振り抜かれる。
堅治くんの右足が前に出かかって、止まった。
思っていたより軽い音。
ブロックの先に、触れた気配。
軌道が、堅治くんのいた位置からずれている。
止めたはずの足を、もう一度踏み出す。
けど、その一歩はやり直しだ。
最初の半歩分、足りない。
ボールは、堅治くんの伸ばした手を掠めて、
床に落ちた。
音が、やけに乾いている。
歓声が上がる、
終わった、と理解する。
手を伸ばしても届かない距離で、その一歩だけが焼き付いた。
試合終了のホイッスルが聞こえてくる。
堅治くんはボールが落下した地点に視線を向けたまま、最後まで動かない。
青根くんが、堅治くんの肩を叩く。
それでようやく時間が動きだしたみたいに、堅治くんが瞬きをした。
ネット際では握手の列ができ始めている。
堅治くんの唇が、何かを言った。
聞こえない。
けれど、その表情だけでわかった。
あの一歩を、たぶん本人が一番許していない。
堅治くんが客席を見上げる。
心臓が、ひとつ大きく鳴った。
今度は、私が目を逸らした。
「すごい……」
思わず声が出てしまう。
戦術なんて、ちゃんと分からない私でも、堅治くんを中心に、人が動いているのがわかる。
相手のセッターが起こしたアクション。
その周りの、攻撃を仕掛けてくる人の動き。
堅治くんは、ずっと考えている。
一球ごとに状況が変わる中で、それをつぶさに見て、判断して、指示を飛ばす。
決断が早い。
コースが見えた瞬間に、誰に任せるか、どこを埋めるかを即決している。
必死に読んで、
――抗っている。
判断は正しい。
配置も正しい。
連携も成立している。
なのに、
それでも、届かない。
最終セット終盤。
このセット、一度も得点では優位に立てていない。
点差は突き放されることはないけれど、ずっと縮まらない。
追いつけそうで、追いつけない。
そのもどかしさだけが積み重なっていく。
視界が狭まっていってる。
応援すらできていない。
もうずっと、バレーボールの試合じゃなくて、『二口堅治』を目で追ってしまっている。
サーブが打たれる。
レシーブが上がる。
誰かが跳んで、誰かが打つ。
ローテーションが回る。
本当は全部見えているはずなのに。
気がつけば、いつも同じ姿を探していた。
コートの後ろ。
少し腰を落として構える姿勢。
味方へ飛ばす短い指示。
次の一手を考える目。
ボールより先に、堅治くんを見ている。
その姿を見ているだけで、苦しくなる。
何回目かの「あと一点! あと一点!」という声が遠くから飛んでくる。
それに交じって、すぐ近くで「伊達工!」という叫びが弾ける。
たくしあげていたはずの大きな袖がずり落ちている。
まくるのももどかしくて、手を出し直す。
皺になった袖は手首のところで溜まったまま。
両手を組みなおす。親指のところに唇をつけ、祈るように両目を閉じてしまう。
その時、
「さっ、こーい!!!」と堅治くんの叫ぶ声が聞こえた。
はっと現実に引き戻される。
目を開く。
前しか見ていない堅治くんが視界に入って、胸が締めつけられる思いがした。
私だけ目を逸らして、どうする。
全部……焼き付けないと。
威力の乗ったサーブを、堅治くんが綺麗にいなす。
そのボールの行方を、堅治くんの視線が追うけれど、こっちの攻撃は惜しいところで拾われてしまう。
「チャンスボール!!!」
ネット際、相手セッターの手元にボールが収まる。
視線が、一瞬だけ落ちる。
その癖の意味を堅治くんなら知っている。
「ライト!」
高さは十分。堅治くんの指示通りブロックが揃う。
——正面。
コート後方で、堅治くんは重心を前に乗せる。
拾える距離。
いや、
――拾わせるための配置
息もできない思いで見つめていると、トスが上がる。
ライト、
タイミングも高さも、読み通り。
コースを絞ったその先に待ち構えている。
そのままなら、決めさせない。
お願い、とって――
喉の奥が張りついて声にならなくて、代わりに爪が食い込むくらい指を握り締める。
瞬間、
スパイクが振り抜かれる。
堅治くんの右足が前に出かかって、止まった。
思っていたより軽い音。
ブロックの先に、触れた気配。
軌道が、堅治くんのいた位置からずれている。
止めたはずの足を、もう一度踏み出す。
けど、その一歩はやり直しだ。
最初の半歩分、足りない。
ボールは、堅治くんの伸ばした手を掠めて、
床に落ちた。
音が、やけに乾いている。
歓声が上がる、
終わった、と理解する。
手を伸ばしても届かない距離で、その一歩だけが焼き付いた。
試合終了のホイッスルが聞こえてくる。
堅治くんはボールが落下した地点に視線を向けたまま、最後まで動かない。
青根くんが、堅治くんの肩を叩く。
それでようやく時間が動きだしたみたいに、堅治くんが瞬きをした。
ネット際では握手の列ができ始めている。
堅治くんの唇が、何かを言った。
聞こえない。
けれど、その表情だけでわかった。
あの一歩を、たぶん本人が一番許していない。
堅治くんが客席を見上げる。
心臓が、ひとつ大きく鳴った。
今度は、私が目を逸らした。
