20 LOCKED ON
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LOCKED ON
「しょーよー君とこやないんかい!!!」
その声に青根がぴたっと足を止めた。ぎろん、と音が出そうな目つきで声の主を睨みつけてる。
そばに寄って小声で聞く。
「しょーよー? 誰?」
「日向翔陽、10番」
青根も小声で返してくる。
あー……。あの、烏野の……。
黒いユニフォームの金髪は、にやりと口角を上げたままさらに口を開く。
「なんやー。インターハイで潰したろ思っとったのに――」
そこで金髪は一回言葉を切る。
視線がこっちを舐めるように動く。
「どこの馬の骨かも分からんやつ出てきて。……その程度かいな」
金髪。次の相手、兵庫県代表稲荷崎の双子の片割れ――宮兄弟、セッターの方。
ぴしっと、青根が宮(セッター)を指さす。
お、久々のロックオンだ。
さすがの宮も「おお」と一瞬だけ面くらった顔をする。
いつもなら”対青根用ロックオンブロック”を発動するけど――
こんなの止める必要ない。
挑発、と分かっていても、青根が好敵手と認めてるヤツを腐すのも気に食わないし、俺も腹立ってきたから、かましてやることにした。
「烏野のチビんとこなら、ウチらがボコしたけどぉ?」
青根の肩に腕を絡ませ、舌を出す。
青根は俺に絡みつかれても眉一つ動かさず、真顔で力強くうなずいた。こういうとこ強キャラっぽくってホント好き。
宮の視線が今度は俺に向く。
「へー。伊達工業? 東北やろ。烏野以外、ろくなんおらん思うとってんけど――って、んん?」
宮(金髪)ははっとした顔をした後、何かに引っかかったみたいに目を細める。
「あっらぁ。どっかで見た思ったら……さっきのヤツやん。芋ねぇちゃんとイチャついとった」
「は? 芋ねぇちゃん?」
イチャついてた?
……もしかして、もしかしなくても、友紀のことか?
「……試合前に、余裕やなぁ?」
……。
一瞬だけ引っかかったけど、すぐ口角が上がってしまう。
安心したわ。分かんねぇやつで。
「何わろてんねん」
「いいえー。お狐様のお眼鏡にはかなわないようで、なによりですぅ~」
そう言って、青根の肩をぽんと叩いて、宮には手を振る。
これ以上は相手にしない、って顔で外へ向かうと、 宮は一瞬、虚を突かれた顔をした。
「……なんやその口調。気持ち悪っ」
聞こえるように吐き捨てられた台詞に、肩をすくめて笑う。
挑発って、乗ったように見せられてスッと引かれるのが一番効くよな、と、この道で戦ってきた俺は思う。
「ツム、お前失礼すぎるやろ」
観客席から声が飛んで、宮(ツム)が軽く振り返る。
「別にええやろ」
「ええかどうかは、今決めることやない」
ぴしゃりとしつつも淡々とした声。
向かう先からの声にその方向を見上げてしまった。
細い目が真っすぐこちらを捉えて、思わず背筋が伸びる。
――なんかちょっと似てる。ちゃんとしてて、派手じゃないのに、妙に目に残る感じ。
……ああ、茂庭さんだ。
「堪忍や、伊達工業さん」
そう言って、片手をスッと上げる。
それだけで空気を整えられてしまったような存在感がある。……絶対この人、前・稲荷崎主将。
「……っす」
飲まれないよう軽くうなずくくらいで返す。
俺の隣で青根がぴしっと姿勢を正した。そのまま声の主とお辞儀を交わし、謎に通じ合ってるのを見て、少しだけ、場違いに和んだ。
◇◇◇
正面からぶつかってくる相手には負けない。
事実第1セットは、それで取った。
ラリーも短く、ブロックが面白いぐらいにハマりすぎてた。
「あっれ? あかんかったわー」と首を傾げる宮侑を見て、まだ形になってない、と確信する。
このまま畳みかけてストレートを狙おう、とした第2セットから相手は方針を変えた。
真正面から打ち合ってこない。だからと言って避けているわけでもない。
止められる前提で、攻撃を設計してくる。
そんな相手が今までいなかったわけじゃない。
(……ああいうの、嫌いだ)
速い。
見てから変えてくるのに、判断に迷いがない。
宮のトスが、ピタリと合う。
打点が気持ち悪いぐらい揃う。
揃うだけなら、別にいい。
この楽しそうに手玉に取ってくる感じ、なんか懐かしさすらある。
(でも)
一瞬だけ、別の顔が過ぎる。似てる、と思いかけてやめる。
あの人は、こんな風に外さない。もっと、全部使って崩してくる。
(……あれに比べりゃ、まだ読める)
「もう一枚、寄せろ!」
ブロックを揃わせないための速いトス、タイミングを外すためにあえて遅らせてくる。
クソうめぇ。
俺が動きを見ているのさえも読まれてる。
視線で釣られてるのがわかる。
でも、俺たちはやっぱ脳筋寄りだし。
やってないことには対応できない。
練習でやったことを出すしかない。
相手に圧をかけて疲労させて、脳みそを同じレベルまで引き摺り下ろして、仕留める。
ブロックって、受ける側は相当ストレスだ。青根で慣れてる俺が言うんだから、間違いない。
第2セットは一度も逆転することはできないまま、ギリギリで落とした。
ベンチへ戻る俺たちとわざとらしくすれ違った宮は嫌な感じの笑みを浮かべている。
「粘るやん。さっさと取らせてくれたらええのに、ほんま」
「あいにく、こんぐらいでへばるほどヤワにできてないんで」
まあ、キッツイけど、練習ほどではない。
メンバーの様子、汗のかき方とか息の切らし方、そういうのを見ても、体力的に劣っているようには見えない。
それにしても、暑い。空調は効きに効いているはずなのに。
「やりずれぇ」
ファイナルセット前、ベンチ前での最後のインターバル。メンバーの確認と指示の後、思わずネガティブな方の感想が口をついて出てしまった。小原の咎めるような視線を振り切るように、その後を続ける。
「でもやってることは間違ってない。正面から来ない敵なんてこれまでもあった。ブロックがズレてるのを最初から見込んで、触って威力と角度を落とす。作並、パンタロン、拾うのは任せる」
「おう」、「ハイ!」と、気負っていない、いつも通りな二人の返事を聞いて全員を見渡す。
闘志のこもった視線が返ってきて、思わず笑う。
「踏み台にさせてたまるかっつーんだよ」
そう言って、傍にいた青根と小原の肩を組むと自然と円陣が出来上がった。
「伊達工ー、ファイ!!!」「「「オー!!!」」」
こっから、勝ちに行く。
◇◇◇
(またかよ)
宮の視線が動く。クイックの気配。
(来ない)
踏み込まずに立ち位置を半歩だけ外す。
『さっきまで立っていた場所』を、空ける。
トスはライト。高さは十分。
ブロックが揃う。
止めるんじゃない。触って、ズラす。
指先に当たる。軌道が変わる。
でも、そこに――
「いるだろ!!」
「オーライ!」
レシーブが、トスが上がり、きっちりスパイクで決めきる。
「うおぃっし!」
両手のガッツポーズのまま、作並の頭を乱暴になでる。
ドンピシャでトスを上げた黄金川とも、高いところでハイタッチを交わす。
幸先は良い。
「よう見えてるやん」
背後に視線を感じる。聞こえなくてもいい声まで、拾ってしまう。
「ほな、本気出そかー」
同じライト。トスが上がる。
「そこ、空けていい!」
自分は一歩引いて、正面を空ける。
「次、クロス来る!」
ブロックはクロスを締める。
誘ったスパイクが、狙いどおり空けた正面へ
最初から決めていたところへ腕を差し込む。
黄金川へAパスが上がる。
「よし!」
速いトスで青根のクイック。
その一瞬で、打ち切った。
「ア”ーイ!!!」
無言の青根とハイタッチを交わし、ポジションへ戻ろうとしたとき。
「思考のレベル、一段上がっとるな」
「……」
よくしゃべるな、こいつ……。
……あーー。めっちゃ甘いもの食べたい。
首に伝った汗をぬぐう。
こっちも上げてるけど、あっちも一段ギアが上がっている。
じりじりと、追い詰められていく。
強い、というより――
不意に、さっきの声がよぎる。
軽く言ってたくせに、今はもう笑えない。
「やりずれぇ」
ファイナル前に吐いた軽口が、嫌になるぐらい本当になっている。
「しょーよー君とこやないんかい!!!」
その声に青根がぴたっと足を止めた。ぎろん、と音が出そうな目つきで声の主を睨みつけてる。
そばに寄って小声で聞く。
「しょーよー? 誰?」
「日向翔陽、10番」
青根も小声で返してくる。
あー……。あの、烏野の……。
黒いユニフォームの金髪は、にやりと口角を上げたままさらに口を開く。
「なんやー。インターハイで潰したろ思っとったのに――」
そこで金髪は一回言葉を切る。
視線がこっちを舐めるように動く。
「どこの馬の骨かも分からんやつ出てきて。……その程度かいな」
金髪。次の相手、兵庫県代表稲荷崎の双子の片割れ――宮兄弟、セッターの方。
ぴしっと、青根が宮(セッター)を指さす。
お、久々のロックオンだ。
さすがの宮も「おお」と一瞬だけ面くらった顔をする。
いつもなら”対青根用ロックオンブロック”を発動するけど――
こんなの止める必要ない。
挑発、と分かっていても、青根が好敵手と認めてるヤツを腐すのも気に食わないし、俺も腹立ってきたから、かましてやることにした。
「烏野のチビんとこなら、ウチらがボコしたけどぉ?」
青根の肩に腕を絡ませ、舌を出す。
青根は俺に絡みつかれても眉一つ動かさず、真顔で力強くうなずいた。こういうとこ強キャラっぽくってホント好き。
宮の視線が今度は俺に向く。
「へー。伊達工業? 東北やろ。烏野以外、ろくなんおらん思うとってんけど――って、んん?」
宮(金髪)ははっとした顔をした後、何かに引っかかったみたいに目を細める。
「あっらぁ。どっかで見た思ったら……さっきのヤツやん。芋ねぇちゃんとイチャついとった」
「は? 芋ねぇちゃん?」
イチャついてた?
……もしかして、もしかしなくても、友紀のことか?
「……試合前に、余裕やなぁ?」
……。
一瞬だけ引っかかったけど、すぐ口角が上がってしまう。
安心したわ。分かんねぇやつで。
「何わろてんねん」
「いいえー。お狐様のお眼鏡にはかなわないようで、なによりですぅ~」
そう言って、青根の肩をぽんと叩いて、宮には手を振る。
これ以上は相手にしない、って顔で外へ向かうと、 宮は一瞬、虚を突かれた顔をした。
「……なんやその口調。気持ち悪っ」
聞こえるように吐き捨てられた台詞に、肩をすくめて笑う。
挑発って、乗ったように見せられてスッと引かれるのが一番効くよな、と、この道で戦ってきた俺は思う。
「ツム、お前失礼すぎるやろ」
観客席から声が飛んで、宮(ツム)が軽く振り返る。
「別にええやろ」
「ええかどうかは、今決めることやない」
ぴしゃりとしつつも淡々とした声。
向かう先からの声にその方向を見上げてしまった。
細い目が真っすぐこちらを捉えて、思わず背筋が伸びる。
――なんかちょっと似てる。ちゃんとしてて、派手じゃないのに、妙に目に残る感じ。
……ああ、茂庭さんだ。
「堪忍や、伊達工業さん」
そう言って、片手をスッと上げる。
それだけで空気を整えられてしまったような存在感がある。……絶対この人、前・稲荷崎主将。
「……っす」
飲まれないよう軽くうなずくくらいで返す。
俺の隣で青根がぴしっと姿勢を正した。そのまま声の主とお辞儀を交わし、謎に通じ合ってるのを見て、少しだけ、場違いに和んだ。
◇◇◇
正面からぶつかってくる相手には負けない。
事実第1セットは、それで取った。
ラリーも短く、ブロックが面白いぐらいにハマりすぎてた。
「あっれ? あかんかったわー」と首を傾げる宮侑を見て、まだ形になってない、と確信する。
このまま畳みかけてストレートを狙おう、とした第2セットから相手は方針を変えた。
真正面から打ち合ってこない。だからと言って避けているわけでもない。
止められる前提で、攻撃を設計してくる。
そんな相手が今までいなかったわけじゃない。
(……ああいうの、嫌いだ)
速い。
見てから変えてくるのに、判断に迷いがない。
宮のトスが、ピタリと合う。
打点が気持ち悪いぐらい揃う。
揃うだけなら、別にいい。
この楽しそうに手玉に取ってくる感じ、なんか懐かしさすらある。
(でも)
一瞬だけ、別の顔が過ぎる。似てる、と思いかけてやめる。
あの人は、こんな風に外さない。もっと、全部使って崩してくる。
(……あれに比べりゃ、まだ読める)
「もう一枚、寄せろ!」
ブロックを揃わせないための速いトス、タイミングを外すためにあえて遅らせてくる。
クソうめぇ。
俺が動きを見ているのさえも読まれてる。
視線で釣られてるのがわかる。
でも、俺たちはやっぱ脳筋寄りだし。
やってないことには対応できない。
練習でやったことを出すしかない。
相手に圧をかけて疲労させて、脳みそを同じレベルまで引き摺り下ろして、仕留める。
ブロックって、受ける側は相当ストレスだ。青根で慣れてる俺が言うんだから、間違いない。
第2セットは一度も逆転することはできないまま、ギリギリで落とした。
ベンチへ戻る俺たちとわざとらしくすれ違った宮は嫌な感じの笑みを浮かべている。
「粘るやん。さっさと取らせてくれたらええのに、ほんま」
「あいにく、こんぐらいでへばるほどヤワにできてないんで」
まあ、キッツイけど、練習ほどではない。
メンバーの様子、汗のかき方とか息の切らし方、そういうのを見ても、体力的に劣っているようには見えない。
それにしても、暑い。空調は効きに効いているはずなのに。
「やりずれぇ」
ファイナルセット前、ベンチ前での最後のインターバル。メンバーの確認と指示の後、思わずネガティブな方の感想が口をついて出てしまった。小原の咎めるような視線を振り切るように、その後を続ける。
「でもやってることは間違ってない。正面から来ない敵なんてこれまでもあった。ブロックがズレてるのを最初から見込んで、触って威力と角度を落とす。作並、パンタロン、拾うのは任せる」
「おう」、「ハイ!」と、気負っていない、いつも通りな二人の返事を聞いて全員を見渡す。
闘志のこもった視線が返ってきて、思わず笑う。
「踏み台にさせてたまるかっつーんだよ」
そう言って、傍にいた青根と小原の肩を組むと自然と円陣が出来上がった。
「伊達工ー、ファイ!!!」「「「オー!!!」」」
こっから、勝ちに行く。
◇◇◇
(またかよ)
宮の視線が動く。クイックの気配。
(来ない)
踏み込まずに立ち位置を半歩だけ外す。
『さっきまで立っていた場所』を、空ける。
トスはライト。高さは十分。
ブロックが揃う。
止めるんじゃない。触って、ズラす。
指先に当たる。軌道が変わる。
でも、そこに――
「いるだろ!!」
「オーライ!」
レシーブが、トスが上がり、きっちりスパイクで決めきる。
「うおぃっし!」
両手のガッツポーズのまま、作並の頭を乱暴になでる。
ドンピシャでトスを上げた黄金川とも、高いところでハイタッチを交わす。
幸先は良い。
「よう見えてるやん」
背後に視線を感じる。聞こえなくてもいい声まで、拾ってしまう。
「ほな、本気出そかー」
同じライト。トスが上がる。
「そこ、空けていい!」
自分は一歩引いて、正面を空ける。
「次、クロス来る!」
ブロックはクロスを締める。
誘ったスパイクが、狙いどおり空けた正面へ
最初から決めていたところへ腕を差し込む。
黄金川へAパスが上がる。
「よし!」
速いトスで青根のクイック。
その一瞬で、打ち切った。
「ア”ーイ!!!」
無言の青根とハイタッチを交わし、ポジションへ戻ろうとしたとき。
「思考のレベル、一段上がっとるな」
「……」
よくしゃべるな、こいつ……。
……あーー。めっちゃ甘いもの食べたい。
首に伝った汗をぬぐう。
こっちも上げてるけど、あっちも一段ギアが上がっている。
じりじりと、追い詰められていく。
強い、というより――
不意に、さっきの声がよぎる。
軽く言ってたくせに、今はもう笑えない。
「やりずれぇ」
ファイナル前に吐いた軽口が、嫌になるぐらい本当になっている。
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