14 ササヤニミセタクナイ
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ササヤニミセタクナイ
※下品注意
おかげ様でプロテインパーティは大盛況。
鎌先監修の、プロテインバー・サラダチキン・バナナという“筋肉仕様”のメニューを配り、それを完食した者だけが“ボーナスステージ:寿司”に進めるという仕組み。潤沢な資金のおかげで見栄えのする量は揃えられたけど、食い盛りのあいつら相手じゃ瞬殺だろう。
学校に到着すると、優勝の報はすでに届いていたらしく、校長をはじめ何人かの先生が出迎えてくれた。挨拶と近況を報告しつつ、会場として提供してくれた1階の視聴覚室に案内される。
テーブルには差し入れのお菓子と飲み物が山と積まれていた。これなら量的な間はもたせられる。
感謝しきりの俺たちに「酒じゃなくて残念だなぁ」と笑う先生の姿に、相変わらずの母校らしさを感じて少し和んだ。
鎌先は細身の下級生に筋トレのレクチャーをしている。ウザがらみになってないか心配したが、相手も目を輝かせてスクワットしてるので多分大丈夫だろう。
茂庭は黄金川を筆頭にセッター候補たちに囲まれている。体格は違えど、黄金川はプレイスタイルが完全に茂庭の愛弟子だ。意外と通じ合って話が盛り上がっているようだ。
で、俺はというと。
尋問予定だった二口が、学校への報告と差し入れの礼で席を外しているので、飲み物や食べ物を持ってきてくれる気の利いた下級生を捕まえては話を聞いてやっていた。今の職場じゃ殺伐としたオッさんだらけだし。オジサン、若い子と話したいのよー。
「まあまあ」とジュースを注いでやり、「で、どうよ?」と話を振ってみれば、緊張気味の若人も、授業実習の苦労や、練習のきつさ(小声)、数少ない女子との関わり方など、いかにも伊達工男子な悩みをぽろぽろ話始める。
甘酸っぱい話の予感がしてきたら「そういえば……」とさも思いついたように言って、二口サンと結城ちゃんの話に誘導してみる。
「えーと、彼女さんがいるのは知ってるんですけど、ちゃんと見たことはないです」
「見たことないって? よく来てるんじゃないのか?」
「うーん、来ているとは思うんですけど、誰かな、ってそっち見ちゃうと怒られるんで」
「怒られるって誰に?」
「二口さんです」
「……」
怒るのが二口なのは想定内だったけど、それにしたって……と俺は眉をひそめてしまう。
ほかの男と話すのNG系の狭量彼氏は時々いるが、“見るのもNG”って何?
別の一年にも聞いてみると、同じような証言が飛び出す。
「入ったばっかの頃、練習前に二口さんが女の人に前髪結んでもらってて、この人がもしかして?って思いました」
「へー」
そんなことしてたのか、二口。
「その後もギャラリーにいたので気になったんですけど、そっちを見てたら二口さんがめちゃくちゃ睨んでくるので、もう怖くて……」
「えぇ? 『見るな』って言われたのか?」
「はっきりと言われたワケでじゃないですけど、圧が……」
「……」
余裕なさすぎで引く。そうとこだけ“モテない工業男子の初彼女ムーブ”なのなんで?
次に来てくれたひょろっと背の高いノッポくん(鍛え次第では青根級)は、さらに具体的な情報をくれた。
「試合前に彼女さんと“おまじない”するっていうんで、みんなで囲んで壁を作らせてもらいました」
「ああ、あれね。見たんだ?」
「いえっ! 見ちゃいけなさそうだったので外向いてました! で、でも、そんなえっちなことじゃないと思います!」
「……」
出た。なんなのその『見てはならぬ』ってやつ。これって車の中で結城ちゃんが言ってた、昨日試合前にやったってやつのことだろ? 壁作らせて外向かせて、その中で何やったって? いや、知らんけど。
かわいそうなくらい真っ赤になりながら答えるノッポくんに同情しつつ、慰めの言葉でもかけてやろうと口を開きかけた瞬間――。
「なんか、俺について探りいれてます~?」
ふてぶてしい声。
振り返るとプロテインバーとリンゴジュースパックをぶら下げて二口が歩いてきた。用事を済ませた本日の本丸、満を持して登場といったところか。
「へーき? 笹谷さんにセクハラされてない?」
「だ、大丈夫っす!」
「俺、笹谷さんと話したいから。戻っていいよ」と言われ、ノッポくんは変質者に遭遇したレベルの勢いで去っていく。オジサンちょっと傷つく……。
手を振って彼を見送った二口は、振り返ってジロリと俺を睨む。
「うちのピュアな子捕まえて、変なコト吹き込まないでくださいよ。キャバクラじゃないんですから。おっさん臭い」
「ったく、第一声からそれかよ……。まあ、お疲れ」
「ういっす」
俺がプラコップを差し出すと二口は照れ臭そうにジュースパックを軽くぶつけてきた。
幸い、ここには後輩くんたちがせっせと運んでくれた寿司もお菓子もある。俺が前の席を勧めると、二口はふてぶてしく腰掛けた。
二口のおっさんいじりは今にはじまったことではないのでどうでもいいが、生意気な後輩に少しお灸をすえてやろう、とまずは軽いジャブで朝の件を投下する。
「そういや結城ちゃんと朝一緒に来たんだけど」
「あー、車で拾ってくれたそうですね。ありがとうございます」
知ってますよ~と言わんばかりに彼氏面してきやがった。さっき結城ちゃんに聞いたんだろ。物分かりのいい風なのが腹立つ。
……なので、爆弾を落としてみる。
「そう、俺が運転してる車の、“助手席”乗ってもらって」
「は?」
強調して言うと、二口の表情がすっと変わる。こわ。
「助手席って何すか!?」
「来る途中、一人で歩いていたから拾っただけだよ」
「それは聞きました。なんで、助手席!?」
さっきまでの物分かりのいい彼氏くんはどこ行ったのだろう? 嫉妬心むき出しで畳みかけてくる。
クックック……。愛しの彼女があっさり先輩の助手席に乗ってしまったなぁ。ジャンルで言うならNTRと言ったところか。クセになりそう。
「なんか都合悪い? 鎌先の隣とかに座らせる方がお前、もっと嫌だろ?」
「そりゃ、そうですけど……。まあ、どうでもいいですけど……助手席……」
二口は俺が思った以上のダメージを受けているようだ。口の中でモゴモゴ言いながらも引き下がる。なんとか頭の中で茂庭と鎌先の間に挟まれる結城ちゃんと、俺の隣に座る結城ちゃんを天秤にかけてみているのだろう。
さすがに優勝の快挙直後の後輩にやる仕打ちではなかったのかもしれない。どうでもいいと思いつつおっさんと言われたくらいで俺も大人気ない事をしてしまった。
ちょっと反省しつつ、今度はヨイショを投げてみる。
「ところでおまえの彼女さー」
「なんすか?」
ぴくりと二口のこめかみが動き、ピリッと空気が張りつめる。
……へぇ~? その反応なんだ。
「実は、美人だよな」
「……」
二口は一瞬で表情を固くした。
『でしょ?』とか『知ってますよ』とか言ってドヤ顔を決めてくると思ったのに意外な反応。
思わず口元を緩ませてしまうと、何かを察した二口の眉間に深いしわが寄る。これはからかいがいがありそうだ。もうひと一押し。
「初めて見たときは、二口にしては地味目なおとなしそうな子だなって」
すっげぇ顔で睨まれたので続ける。
「……って、鎌ちが言ってた」
まあコレは本当。鎌先は言ってた。
「ああ……。鎌先さんほんっと見る目ないですからね」
なぜかほっとした表情の二口に俺は気づかれないよう口端を歪める。
「俺は綺麗な子だって思ってたよ」
「…………」
また固まった。
ええ……。引くほどコイツわかりやすいな。
魅力に気づいてもダメ、気づかなくてもダメ、つまり結城関係は全部地雷か。ホント面倒。
さーて。本題に踏み込んでみるか。
「でさぁ、お前ら」
「……何すか」
苦い顔で俺を振り仰ぐ二口。一応まだ話に付き合ってくれる気はあるらしい。同学年か鎌先ならもう話を切り上げられてるだろう。
「どこまでヤッた?」
二口は一瞬先輩に向かってしちゃいけないだろうってすげぇ顔をした。
が、ふっと鼻で笑うと、すぐ余裕の笑みを作る。
「そんなの聞いてどうするんスか。高校生らしいお付き合いですよ」
余裕を保つの上手いな。さすが二口。
面白くなってきた俺は調子にのって矢継ぎ早に聞いてしまう。
「“清く正しく美しく”ってか?」
「中学生じゃないんですけど」
「じゃあ、手ぇ出してる?」
「まあ、それなりに」
「最後まで?」
「ここでは話せませんって。ご想像にお任せします」
「ふーん......」
しれっと言い切るのはさすがだと思う。二口は話はここまでだと言わんばかりにプロテインバーを口に放り込む。
そんな様子を視界の端にとらえつつ、俺はお菓子の盛り合わせの皿を二口との間に置く。
「あざっす」と言い二口は迷わずポッキーをつまんだ。
「俺の見立てだと、お前ら、キスはしてるんだよな」
「は?」
「『ご想像に任せる』って言ったろ。多分べろちゅーもしてる」
年季の入ったパイプ椅子をきしませながら足を組み換え、向き直る。
二口がすっげー嫌そうに顔をしかめながらジュースを吸う。ストローの中の液体が止まったのを見計らって、俺は次の言葉を発した。
「で、確実にヤってはねーんだよ」
「……」
すっと無表情になって二口はストローを口から離した。
図星か。図星だろうな。そういう爛れちゃった感じの雰囲気、まだあの子にはねーもん。
しかしさすがは二口だ。『何でわかったんですか!』的な失言はしそうにない。
このまま黙り続けられちゃつまんねぇし、揺さぶりを続ける。
「だけど、解せねえことがあってな」
「……何ですか」
お、ちょっと揺れた。てっきりガン無視してくるかと思ったのに。
「さっき結城ちゃん見てて思ったんだけどさ」
二口がすっげー形相でこちらを睨みつける。目力がすごすぎて笑いそうになってしまう。ホント、あの子コイツの地雷なんだな。
それじゃ、いっちょ踏むか。
口の横に手をあて、一応声のトーンを下げる。
「……結城ちゃん、おっぱい、おっきくなってるよな?」
「っ!? あんた、何言ってんすか!」
周囲が静かになるほどの声量。
注目を集めてしまったが、俺がごめんごめんと手を振るとまた元のざわめいた状態に戻る。
二口がばつが悪そうに座り直したところに畳みかける。
「成長期? それとも……」
殴られないのが不思議なくらいすごい形相で睨みつけてくる。
二口をあやすように俺は口の端を吊り上げる。そして最低な一言を放った。
「お前が育ててんの?」
……ま、完全にハッタリなんだけど。
俺が気づいたのはほっそりしてたってことだけだ。結城ちゃんの胸が育ってるかなんてわかるわけねーだろ。確かに揉んだら大きくなるみたいな俗説もあるっちゃあるけど、本当かどうかなんて知らん。
そうニヤついていたら、頬に何か“刺さった”。
ポッキーだ。二口が刺してきた。
「いってぇ」
「それ以上言ったら、笹谷さんでもブッ刺します」
「もう刺してんだろ!」
二口は無表情で俺の頬を突いたポッキーを嚙み砕く。そしてまた新しいポッキーを俺に突きつけてくる。
「……友紀をそういう目で見るのやめてください」
「なんで? お前だって見てんだろ」
「俺はいいんですよ! 二度と友紀を視界に入れないでください」
出た、視界にいれるな!
二口はプイっとそっぽを向いて、そのポッキーもバキバキ折って食う。
――あれ、これ本当にしてねぇな?
「そんな都市伝説信じてるなんて童貞臭いですよ、笹谷さん。見損ないました」
「信じてるワケじゃねぇけど、ここに実践したやつがいるならあやかりたくてな」
「だいたいどういう理論なんですか、それって」
「外からの刺激と内からのドキドキが一体化した時、体の中心から不思議なパワーが……」
『バカ』と言いたげな口の動き。
俺も自分の言ったことのバカさ加減に笑うと、二口も鼻で笑って軽口を放つ。
「それより俺は『痩せたら胸からいく』ってやつの方が気になります」
「ははっ、それこそ――」
『ぽっちゃり教の陰謀論だろ?』と言おうとした瞬間、線でつながった気がした。
痩せた結城ちゃん。
二口との妙な緊張感。
『遅くない』というあの返し。
え……もしかして
「お前ら、『優勝したら初えっち』とかやってね?」
「…………!」
二口、目を見開く。
そうか。車の中での結城ちゃんのリアクションに合点がいった。図らずとも俺は当てちゃってたワケだ。彼氏さんのこの反応で確信を得ちゃったよ……。
数秒の沈黙後、その彼氏さんはふーっとため息をつく。あきれたような観念したような微妙な顔。
「笹谷さんを経験豊富と見込んで、逆に聞きますけど」
「お、おう」
「……胸だけ触って、そこで止まれます?」
『若いねぇ』と茶化しかけたけど、本音を言ってる顔つきだったので飲み込む。もしそう言ってしまったなら、『冗談ですけど?』と何もなかったかのようにそっぽを向くのだろう。そこを突っつくのも面白いかもしれない。
けど、せっかくの優勝パーティで不快にさせるのは本意ではない。ここまで本音を晒してくれた、ってことでよしとしよう。
それに、こっちが負けてやって、調子に乗せたくらいがこの後輩は面白い。
「うーん。確かに止まれねぇかもなぁ」
「でしょ?」
そう言うと一気にリンゴジュースを吸い込んで、ズズズと中身がなくなった音を立てたので、俺は機嫌取りじゃねぇけど新品のプラコップに2リットルボトルの緑茶を注いでやる。
お~い、と印刷された気の抜けた商品名を睨むようにして、二口は俺が注ぎやすいようコップを傾ける。ついでに俺からペットボトルをぶんどって俺のコップにも注ぎ返してくれた。
こういうところは律儀なんだよな、二口、と思ったら、
「ここで借りを作りたくないんで。俺へのセクハラの詫びはこんなもんじゃ済まされませんよ」
と余計な一言を添える。これぞ二口って感じで、逆に愉快になってきた。
「おうおう、めでたい席で詫びとか言うなよ。優勝祝いに褒美くらいくれてやるよ」
俺がそう言うと、二口はなにやら考える顔をした。
「……優勝祝いっつーなら、欲しいものがあるんですけど」
「なんだよ? 高いものなら茂庭と鎌先も巻き込むぞ」
「いえ、笹谷さんにしか頼めません」
オジサンじゃないとダメだって? なんだろーなー。
気分が良くなってニコニコ顔で聞いてみる。
「よしよし。社会人サマが一葉ちゃんぐらいは奢ってやるよ」
「そんなドヤ顔するなら諭吉って言ってくださいよ」
「なんだ、一葉じゃ足りねぇものか?」
「余裕です」
「で、何?」
二口はニヤリといやらしく笑い、両手を口に添えて小声ではっきりと発音してきた。
「コンドーム」
「…………」
……まあ、確かにそれは俺にしか頼れねぇやつだわ。
下に見てるワケじゃねぇけど、茂庭と鎌先なら、
『こ……こんっ!? えええ?』
『ここここここんど……?近藤何某!?』
ってニワトリ化するのが目に浮かぶ。
俺は大げさにため息をついて気を落ち着かせてから口角を上げた。
「……いいぜ、この後ドンキ行くか」
「は? 一緒に行くわけないじゃないですかぜっってぇ無理!!」
「俺とお前の仲だろ、恥ずかしがんなよ」
「正気ですか? 二人で使うと思われるのヤです! 一人で行ってきてください」
「バカじゃねぇの?」
考えすぎじゃね? 誰がそっちを想像するんだよ。こんな片田舎で、そんな進んだ発想のヤツいる?
まあ、初めてで買いづらいって方はわからなくもないから、一肌脱いでやるのもやぶさかではない。
「しょうがねえなぁ。希望は?」
勿体ぶった俺の問いに、二口は間髪入れず生き生きと返してきた。
「ちょっと大きめで、なるべく薄くて、余計なギミックいらなくて、パッケージがシンプルなヤツ!」
「バカ野郎! そこまで具体的に決まってんならとっとと自分で買いに行け!!」
※下品注意
おかげ様でプロテインパーティは大盛況。
鎌先監修の、プロテインバー・サラダチキン・バナナという“筋肉仕様”のメニューを配り、それを完食した者だけが“ボーナスステージ:寿司”に進めるという仕組み。潤沢な資金のおかげで見栄えのする量は揃えられたけど、食い盛りのあいつら相手じゃ瞬殺だろう。
学校に到着すると、優勝の報はすでに届いていたらしく、校長をはじめ何人かの先生が出迎えてくれた。挨拶と近況を報告しつつ、会場として提供してくれた1階の視聴覚室に案内される。
テーブルには差し入れのお菓子と飲み物が山と積まれていた。これなら量的な間はもたせられる。
感謝しきりの俺たちに「酒じゃなくて残念だなぁ」と笑う先生の姿に、相変わらずの母校らしさを感じて少し和んだ。
鎌先は細身の下級生に筋トレのレクチャーをしている。ウザがらみになってないか心配したが、相手も目を輝かせてスクワットしてるので多分大丈夫だろう。
茂庭は黄金川を筆頭にセッター候補たちに囲まれている。体格は違えど、黄金川はプレイスタイルが完全に茂庭の愛弟子だ。意外と通じ合って話が盛り上がっているようだ。
で、俺はというと。
尋問予定だった二口が、学校への報告と差し入れの礼で席を外しているので、飲み物や食べ物を持ってきてくれる気の利いた下級生を捕まえては話を聞いてやっていた。今の職場じゃ殺伐としたオッさんだらけだし。オジサン、若い子と話したいのよー。
「まあまあ」とジュースを注いでやり、「で、どうよ?」と話を振ってみれば、緊張気味の若人も、授業実習の苦労や、練習のきつさ(小声)、数少ない女子との関わり方など、いかにも伊達工男子な悩みをぽろぽろ話始める。
甘酸っぱい話の予感がしてきたら「そういえば……」とさも思いついたように言って、二口サンと結城ちゃんの話に誘導してみる。
「えーと、彼女さんがいるのは知ってるんですけど、ちゃんと見たことはないです」
「見たことないって? よく来てるんじゃないのか?」
「うーん、来ているとは思うんですけど、誰かな、ってそっち見ちゃうと怒られるんで」
「怒られるって誰に?」
「二口さんです」
「……」
怒るのが二口なのは想定内だったけど、それにしたって……と俺は眉をひそめてしまう。
ほかの男と話すのNG系の狭量彼氏は時々いるが、“見るのもNG”って何?
別の一年にも聞いてみると、同じような証言が飛び出す。
「入ったばっかの頃、練習前に二口さんが女の人に前髪結んでもらってて、この人がもしかして?って思いました」
「へー」
そんなことしてたのか、二口。
「その後もギャラリーにいたので気になったんですけど、そっちを見てたら二口さんがめちゃくちゃ睨んでくるので、もう怖くて……」
「えぇ? 『見るな』って言われたのか?」
「はっきりと言われたワケでじゃないですけど、圧が……」
「……」
余裕なさすぎで引く。そうとこだけ“モテない工業男子の初彼女ムーブ”なのなんで?
次に来てくれたひょろっと背の高いノッポくん(鍛え次第では青根級)は、さらに具体的な情報をくれた。
「試合前に彼女さんと“おまじない”するっていうんで、みんなで囲んで壁を作らせてもらいました」
「ああ、あれね。見たんだ?」
「いえっ! 見ちゃいけなさそうだったので外向いてました! で、でも、そんなえっちなことじゃないと思います!」
「……」
出た。なんなのその『見てはならぬ』ってやつ。これって車の中で結城ちゃんが言ってた、昨日試合前にやったってやつのことだろ? 壁作らせて外向かせて、その中で何やったって? いや、知らんけど。
かわいそうなくらい真っ赤になりながら答えるノッポくんに同情しつつ、慰めの言葉でもかけてやろうと口を開きかけた瞬間――。
「なんか、俺について探りいれてます~?」
ふてぶてしい声。
振り返るとプロテインバーとリンゴジュースパックをぶら下げて二口が歩いてきた。用事を済ませた本日の本丸、満を持して登場といったところか。
「へーき? 笹谷さんにセクハラされてない?」
「だ、大丈夫っす!」
「俺、笹谷さんと話したいから。戻っていいよ」と言われ、ノッポくんは変質者に遭遇したレベルの勢いで去っていく。オジサンちょっと傷つく……。
手を振って彼を見送った二口は、振り返ってジロリと俺を睨む。
「うちのピュアな子捕まえて、変なコト吹き込まないでくださいよ。キャバクラじゃないんですから。おっさん臭い」
「ったく、第一声からそれかよ……。まあ、お疲れ」
「ういっす」
俺がプラコップを差し出すと二口は照れ臭そうにジュースパックを軽くぶつけてきた。
幸い、ここには後輩くんたちがせっせと運んでくれた寿司もお菓子もある。俺が前の席を勧めると、二口はふてぶてしく腰掛けた。
二口のおっさんいじりは今にはじまったことではないのでどうでもいいが、生意気な後輩に少しお灸をすえてやろう、とまずは軽いジャブで朝の件を投下する。
「そういや結城ちゃんと朝一緒に来たんだけど」
「あー、車で拾ってくれたそうですね。ありがとうございます」
知ってますよ~と言わんばかりに彼氏面してきやがった。さっき結城ちゃんに聞いたんだろ。物分かりのいい風なのが腹立つ。
……なので、爆弾を落としてみる。
「そう、俺が運転してる車の、“助手席”乗ってもらって」
「は?」
強調して言うと、二口の表情がすっと変わる。こわ。
「助手席って何すか!?」
「来る途中、一人で歩いていたから拾っただけだよ」
「それは聞きました。なんで、助手席!?」
さっきまでの物分かりのいい彼氏くんはどこ行ったのだろう? 嫉妬心むき出しで畳みかけてくる。
クックック……。愛しの彼女があっさり先輩の助手席に乗ってしまったなぁ。ジャンルで言うならNTRと言ったところか。クセになりそう。
「なんか都合悪い? 鎌先の隣とかに座らせる方がお前、もっと嫌だろ?」
「そりゃ、そうですけど……。まあ、どうでもいいですけど……助手席……」
二口は俺が思った以上のダメージを受けているようだ。口の中でモゴモゴ言いながらも引き下がる。なんとか頭の中で茂庭と鎌先の間に挟まれる結城ちゃんと、俺の隣に座る結城ちゃんを天秤にかけてみているのだろう。
さすがに優勝の快挙直後の後輩にやる仕打ちではなかったのかもしれない。どうでもいいと思いつつおっさんと言われたくらいで俺も大人気ない事をしてしまった。
ちょっと反省しつつ、今度はヨイショを投げてみる。
「ところでおまえの彼女さー」
「なんすか?」
ぴくりと二口のこめかみが動き、ピリッと空気が張りつめる。
……へぇ~? その反応なんだ。
「実は、美人だよな」
「……」
二口は一瞬で表情を固くした。
『でしょ?』とか『知ってますよ』とか言ってドヤ顔を決めてくると思ったのに意外な反応。
思わず口元を緩ませてしまうと、何かを察した二口の眉間に深いしわが寄る。これはからかいがいがありそうだ。もうひと一押し。
「初めて見たときは、二口にしては地味目なおとなしそうな子だなって」
すっげぇ顔で睨まれたので続ける。
「……って、鎌ちが言ってた」
まあコレは本当。鎌先は言ってた。
「ああ……。鎌先さんほんっと見る目ないですからね」
なぜかほっとした表情の二口に俺は気づかれないよう口端を歪める。
「俺は綺麗な子だって思ってたよ」
「…………」
また固まった。
ええ……。引くほどコイツわかりやすいな。
魅力に気づいてもダメ、気づかなくてもダメ、つまり結城関係は全部地雷か。ホント面倒。
さーて。本題に踏み込んでみるか。
「でさぁ、お前ら」
「……何すか」
苦い顔で俺を振り仰ぐ二口。一応まだ話に付き合ってくれる気はあるらしい。同学年か鎌先ならもう話を切り上げられてるだろう。
「どこまでヤッた?」
二口は一瞬先輩に向かってしちゃいけないだろうってすげぇ顔をした。
が、ふっと鼻で笑うと、すぐ余裕の笑みを作る。
「そんなの聞いてどうするんスか。高校生らしいお付き合いですよ」
余裕を保つの上手いな。さすが二口。
面白くなってきた俺は調子にのって矢継ぎ早に聞いてしまう。
「“清く正しく美しく”ってか?」
「中学生じゃないんですけど」
「じゃあ、手ぇ出してる?」
「まあ、それなりに」
「最後まで?」
「ここでは話せませんって。ご想像にお任せします」
「ふーん......」
しれっと言い切るのはさすがだと思う。二口は話はここまでだと言わんばかりにプロテインバーを口に放り込む。
そんな様子を視界の端にとらえつつ、俺はお菓子の盛り合わせの皿を二口との間に置く。
「あざっす」と言い二口は迷わずポッキーをつまんだ。
「俺の見立てだと、お前ら、キスはしてるんだよな」
「は?」
「『ご想像に任せる』って言ったろ。多分べろちゅーもしてる」
年季の入ったパイプ椅子をきしませながら足を組み換え、向き直る。
二口がすっげー嫌そうに顔をしかめながらジュースを吸う。ストローの中の液体が止まったのを見計らって、俺は次の言葉を発した。
「で、確実にヤってはねーんだよ」
「……」
すっと無表情になって二口はストローを口から離した。
図星か。図星だろうな。そういう爛れちゃった感じの雰囲気、まだあの子にはねーもん。
しかしさすがは二口だ。『何でわかったんですか!』的な失言はしそうにない。
このまま黙り続けられちゃつまんねぇし、揺さぶりを続ける。
「だけど、解せねえことがあってな」
「……何ですか」
お、ちょっと揺れた。てっきりガン無視してくるかと思ったのに。
「さっき結城ちゃん見てて思ったんだけどさ」
二口がすっげー形相でこちらを睨みつける。目力がすごすぎて笑いそうになってしまう。ホント、あの子コイツの地雷なんだな。
それじゃ、いっちょ踏むか。
口の横に手をあて、一応声のトーンを下げる。
「……結城ちゃん、おっぱい、おっきくなってるよな?」
「っ!? あんた、何言ってんすか!」
周囲が静かになるほどの声量。
注目を集めてしまったが、俺がごめんごめんと手を振るとまた元のざわめいた状態に戻る。
二口がばつが悪そうに座り直したところに畳みかける。
「成長期? それとも……」
殴られないのが不思議なくらいすごい形相で睨みつけてくる。
二口をあやすように俺は口の端を吊り上げる。そして最低な一言を放った。
「お前が育ててんの?」
……ま、完全にハッタリなんだけど。
俺が気づいたのはほっそりしてたってことだけだ。結城ちゃんの胸が育ってるかなんてわかるわけねーだろ。確かに揉んだら大きくなるみたいな俗説もあるっちゃあるけど、本当かどうかなんて知らん。
そうニヤついていたら、頬に何か“刺さった”。
ポッキーだ。二口が刺してきた。
「いってぇ」
「それ以上言ったら、笹谷さんでもブッ刺します」
「もう刺してんだろ!」
二口は無表情で俺の頬を突いたポッキーを嚙み砕く。そしてまた新しいポッキーを俺に突きつけてくる。
「……友紀をそういう目で見るのやめてください」
「なんで? お前だって見てんだろ」
「俺はいいんですよ! 二度と友紀を視界に入れないでください」
出た、視界にいれるな!
二口はプイっとそっぽを向いて、そのポッキーもバキバキ折って食う。
――あれ、これ本当にしてねぇな?
「そんな都市伝説信じてるなんて童貞臭いですよ、笹谷さん。見損ないました」
「信じてるワケじゃねぇけど、ここに実践したやつがいるならあやかりたくてな」
「だいたいどういう理論なんですか、それって」
「外からの刺激と内からのドキドキが一体化した時、体の中心から不思議なパワーが……」
『バカ』と言いたげな口の動き。
俺も自分の言ったことのバカさ加減に笑うと、二口も鼻で笑って軽口を放つ。
「それより俺は『痩せたら胸からいく』ってやつの方が気になります」
「ははっ、それこそ――」
『ぽっちゃり教の陰謀論だろ?』と言おうとした瞬間、線でつながった気がした。
痩せた結城ちゃん。
二口との妙な緊張感。
『遅くない』というあの返し。
え……もしかして
「お前ら、『優勝したら初えっち』とかやってね?」
「…………!」
二口、目を見開く。
そうか。車の中での結城ちゃんのリアクションに合点がいった。図らずとも俺は当てちゃってたワケだ。彼氏さんのこの反応で確信を得ちゃったよ……。
数秒の沈黙後、その彼氏さんはふーっとため息をつく。あきれたような観念したような微妙な顔。
「笹谷さんを経験豊富と見込んで、逆に聞きますけど」
「お、おう」
「……胸だけ触って、そこで止まれます?」
『若いねぇ』と茶化しかけたけど、本音を言ってる顔つきだったので飲み込む。もしそう言ってしまったなら、『冗談ですけど?』と何もなかったかのようにそっぽを向くのだろう。そこを突っつくのも面白いかもしれない。
けど、せっかくの優勝パーティで不快にさせるのは本意ではない。ここまで本音を晒してくれた、ってことでよしとしよう。
それに、こっちが負けてやって、調子に乗せたくらいがこの後輩は面白い。
「うーん。確かに止まれねぇかもなぁ」
「でしょ?」
そう言うと一気にリンゴジュースを吸い込んで、ズズズと中身がなくなった音を立てたので、俺は機嫌取りじゃねぇけど新品のプラコップに2リットルボトルの緑茶を注いでやる。
お~い、と印刷された気の抜けた商品名を睨むようにして、二口は俺が注ぎやすいようコップを傾ける。ついでに俺からペットボトルをぶんどって俺のコップにも注ぎ返してくれた。
こういうところは律儀なんだよな、二口、と思ったら、
「ここで借りを作りたくないんで。俺へのセクハラの詫びはこんなもんじゃ済まされませんよ」
と余計な一言を添える。これぞ二口って感じで、逆に愉快になってきた。
「おうおう、めでたい席で詫びとか言うなよ。優勝祝いに褒美くらいくれてやるよ」
俺がそう言うと、二口はなにやら考える顔をした。
「……優勝祝いっつーなら、欲しいものがあるんですけど」
「なんだよ? 高いものなら茂庭と鎌先も巻き込むぞ」
「いえ、笹谷さんにしか頼めません」
オジサンじゃないとダメだって? なんだろーなー。
気分が良くなってニコニコ顔で聞いてみる。
「よしよし。社会人サマが一葉ちゃんぐらいは奢ってやるよ」
「そんなドヤ顔するなら諭吉って言ってくださいよ」
「なんだ、一葉じゃ足りねぇものか?」
「余裕です」
「で、何?」
二口はニヤリといやらしく笑い、両手を口に添えて小声ではっきりと発音してきた。
「コンドーム」
「…………」
……まあ、確かにそれは俺にしか頼れねぇやつだわ。
下に見てるワケじゃねぇけど、茂庭と鎌先なら、
『こ……こんっ!? えええ?』
『ここここここんど……?近藤何某!?』
ってニワトリ化するのが目に浮かぶ。
俺は大げさにため息をついて気を落ち着かせてから口角を上げた。
「……いいぜ、この後ドンキ行くか」
「は? 一緒に行くわけないじゃないですかぜっってぇ無理!!」
「俺とお前の仲だろ、恥ずかしがんなよ」
「正気ですか? 二人で使うと思われるのヤです! 一人で行ってきてください」
「バカじゃねぇの?」
考えすぎじゃね? 誰がそっちを想像するんだよ。こんな片田舎で、そんな進んだ発想のヤツいる?
まあ、初めてで買いづらいって方はわからなくもないから、一肌脱いでやるのもやぶさかではない。
「しょうがねえなぁ。希望は?」
勿体ぶった俺の問いに、二口は間髪入れず生き生きと返してきた。
「ちょっと大きめで、なるべく薄くて、余計なギミックいらなくて、パッケージがシンプルなヤツ!」
「バカ野郎! そこまで具体的に決まってんならとっとと自分で買いに行け!!」
