13 ササヤハミエナカッタ
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ササヤハミエナカッタ
追分監督が渋い顔で「金なら、ない」と言い放つ。
祝勝会の予算は1回分。全国行きを決めてしまったため、そのカネは全国大会後の打ち上げに回るとのこと。世知辛い。公立のツライところだ。
まぁ監督をかばうならば、ここで暴飲(未成年だ)暴食してコンディションを崩すことは避けたい、という思いもあるのだろう。食べ放題の焼き肉なんて、羽目を外すためにあるもんだしな……。
俺たちも「まあ仕方ないか」と思いかけたところに異を唱えたのは鎌先だった。
「そんなの可哀想だろ! 焼き肉がダメなら、せめてプロテインでパーティでもさせてやろうぜ」
祝勝会とプロテイン……。脳みそに筋肉がつまっていないと結び付かない発想。
しかし、これにまさかの監督が「ほぅ」と食いついた。脳筋2号発見。
かくして抜群の段取り力で茂庭がOBからカンパを集める算段をつけ、母校の優勝に気を良くして財布のヒモがゆるみまくったカモども……もとい、会場にいた尊敬すべき先輩方から、そこそこのまとまった金を手に入れることに成功したのだった。
『プロテインパーティの資金を手に入れた!』
ただ、ここまで上手く金が集まったのは結城ちゃんの力が大きかった。
大声を上げて呼びかけてくれた、とかそういうことじゃない。カンパを募る俺たちの横で「手伝う」と申し出てくれた結城ちゃん。工業高校のバレー部OBについてくる女子など、マネージャーでもなければ当然「誰?」という話になる。二口の許可なく答えていいものかと逡巡している間に、脊髄反射の鎌ちが答えてしまった。
「この子、二口――あ、今の主将の彼女っす」
身内の恥を晒すようで恐縮だが、歴代の主将に現役時に彼女がいた代はなかったらしい……。
前代未聞の彼女持ち主将・二口。こんなコトで自分がパイオニアの名を刻もうとしてるとは、本人は知る由もないだろう。
珍しい、生意気、イケメン死すべしだの多少のざわつきはあったが、結果を出した二口は文句をつけられる筋合いはない。
こうして血の涙を流す先輩方の間で超スピードの伝言ゲームが発生し、観測史上初の『現役主将の彼女』を拝もうと、本来なら俺たちが出向くべきところを、先輩方が勝手にいらっしゃってくださり、あっという間に目標金額が集まってしまった。
さらにありがたいことに「面識ないOBなんて気ィ遣うだけだろ? だけどお前らは行ってこいよ」と、OBでは一番下っ端の俺たちに、買い出しとその会計報告、プラスしてプロテインパーティ(仮)の参加を命じてくれたのである。
「しょおがねぇですなぁぁあ!」と謎の敬語を叫ぶ鎌ちを背中に隠しつつ、「あざっす!!!」と快諾した。
閑話休題。そろそろ買い出しに出発しようかと茂庭と鎌先に声をかける。車に乗り込むのは俺たち3人と、主将から手伝いを命じられた1年が2名(選りすぐりの気の利くヤツららしい)。
一応、結城ちゃんも一緒に来ないかと誘ってみたが「いえいえ! 行けるわけありませんよ!」と固辞されてたため、ここでお別れ。今日の功労者なんだから気にすんな、と声をかけたが無理強いはできない。
その結城ちゃんは、先ほど一時解散の号令を出した二口主将と話しているところだった。二口の務めが終わるまで声をかけるのを遠慮していたのだろう。いじらしい。オジサンそういうの、応援したくなっちゃう!
今日の試合の感想でも話しているのだろうか。ベタベタとかイチャイチャとかそういう雰囲気はない。もし学生時代にこういうこととは縁がなかったOBが今コイツらを見たとしても、「あー……。これなら仕方ない」とうなずきながら理解者面をしてしまいそうな、完璧なまでに初々しく節度ある距離感だ。
――いや……? おかしくねぇか?
初々しいってなんだ。逆になんでこんなに距離が出てる? 両片想いかよ!
前に二人が一緒にいるところを見たのって、卒業式だろ? あの時はもっとくっついてて、「学校でバカップルかよ!」って冷やかそうとした記憶がある。それに比べたら、節度どころかよそよそしくね? 倦怠期? まさか別れる直前?
……いや、それなら車の中での結城ちゃんとの会話はなんだったって話になるし、わざわざ試合なんか見に来るワケねぇよな? それでも『正念場の試合だけは義務で見に来る』って可能性もあるけど、終わったらさっさと帰るもんだろう。
結局なんだ? と混乱しながらも、改めて二人を観察してみる。
全体的に少し線が細くなって垢抜けた気はするけれど、結城ちゃん自体の雰囲気は以前と大きく変わっていない。ただ、二口に対して妙に遠慮がある感じが、少し距離を取ったような立ち位置と、のめっていない真っ直ぐな姿勢に出ている気がする。
一方の二口は……。おっ、おう……。なんと穏やかな笑顔だ……。お前、その顔晒して大丈夫なのか? 部員への威厳に影響ない?
二口は内面がダイレクトに顔に出るタイプだ。何か企んでれば邪悪さがにじみ出てくる。ある意味嘘がつけないヤツだ。しかし今の二口も、距離を詰めようとはしていない。試合後の様子を見るに、優勝した勢いで抱きつきに行ってもおかしくない感じだったのに。
決して仲が悪いようには見えない。なのに……この、駆け引きをしているような緊張感はなんだ。付き合う直前って雰囲気じゃね……?
――何か、あった。俺のカンがそう告げている。
クッソ、ここからじゃよく見えない。鎌ちの5.0の視力が欲しい。
と、思った瞬間、急にピントが合ったみたいに、こちらを振り向いた二口と目が合った。
怪訝な顔で一睨みしてきた後、ささっと結城ちゃんを俺から隠すように立ち、畳みかけるように『何見てんですか!』と口の動きで威嚇してきた。
バーカ、お前の思ってるようなことじゃねぇよ。
そう心の中で悪態をつきつつ、ひらひらと手を振って悪意はないことをアピールする。「ささやん、行くよー」としびれを切らした茂庭が外から呼びに来たので、「今行くー」と返してその場を後にした。
後で尋問しよ。
俺はそう心に決めて、ポケットの中の車のキーを探った。
追分監督が渋い顔で「金なら、ない」と言い放つ。
祝勝会の予算は1回分。全国行きを決めてしまったため、そのカネは全国大会後の打ち上げに回るとのこと。世知辛い。公立のツライところだ。
まぁ監督をかばうならば、ここで暴飲(未成年だ)暴食してコンディションを崩すことは避けたい、という思いもあるのだろう。食べ放題の焼き肉なんて、羽目を外すためにあるもんだしな……。
俺たちも「まあ仕方ないか」と思いかけたところに異を唱えたのは鎌先だった。
「そんなの可哀想だろ! 焼き肉がダメなら、せめてプロテインでパーティでもさせてやろうぜ」
祝勝会とプロテイン……。脳みそに筋肉がつまっていないと結び付かない発想。
しかし、これにまさかの監督が「ほぅ」と食いついた。脳筋2号発見。
かくして抜群の段取り力で茂庭がOBからカンパを集める算段をつけ、母校の優勝に気を良くして財布のヒモがゆるみまくったカモども……もとい、会場にいた尊敬すべき先輩方から、そこそこのまとまった金を手に入れることに成功したのだった。
『プロテインパーティの資金を手に入れた!』
ただ、ここまで上手く金が集まったのは結城ちゃんの力が大きかった。
大声を上げて呼びかけてくれた、とかそういうことじゃない。カンパを募る俺たちの横で「手伝う」と申し出てくれた結城ちゃん。工業高校のバレー部OBについてくる女子など、マネージャーでもなければ当然「誰?」という話になる。二口の許可なく答えていいものかと逡巡している間に、脊髄反射の鎌ちが答えてしまった。
「この子、二口――あ、今の主将の彼女っす」
身内の恥を晒すようで恐縮だが、歴代の主将に現役時に彼女がいた代はなかったらしい……。
前代未聞の彼女持ち主将・二口。こんなコトで自分がパイオニアの名を刻もうとしてるとは、本人は知る由もないだろう。
珍しい、生意気、イケメン死すべしだの多少のざわつきはあったが、結果を出した二口は文句をつけられる筋合いはない。
こうして血の涙を流す先輩方の間で超スピードの伝言ゲームが発生し、観測史上初の『現役主将の彼女』を拝もうと、本来なら俺たちが出向くべきところを、先輩方が勝手にいらっしゃってくださり、あっという間に目標金額が集まってしまった。
さらにありがたいことに「面識ないOBなんて気ィ遣うだけだろ? だけどお前らは行ってこいよ」と、OBでは一番下っ端の俺たちに、買い出しとその会計報告、プラスしてプロテインパーティ(仮)の参加を命じてくれたのである。
「しょおがねぇですなぁぁあ!」と謎の敬語を叫ぶ鎌ちを背中に隠しつつ、「あざっす!!!」と快諾した。
閑話休題。そろそろ買い出しに出発しようかと茂庭と鎌先に声をかける。車に乗り込むのは俺たち3人と、主将から手伝いを命じられた1年が2名(選りすぐりの気の利くヤツららしい)。
一応、結城ちゃんも一緒に来ないかと誘ってみたが「いえいえ! 行けるわけありませんよ!」と固辞されてたため、ここでお別れ。今日の功労者なんだから気にすんな、と声をかけたが無理強いはできない。
その結城ちゃんは、先ほど一時解散の号令を出した二口主将と話しているところだった。二口の務めが終わるまで声をかけるのを遠慮していたのだろう。いじらしい。オジサンそういうの、応援したくなっちゃう!
今日の試合の感想でも話しているのだろうか。ベタベタとかイチャイチャとかそういう雰囲気はない。もし学生時代にこういうこととは縁がなかったOBが今コイツらを見たとしても、「あー……。これなら仕方ない」とうなずきながら理解者面をしてしまいそうな、完璧なまでに初々しく節度ある距離感だ。
――いや……? おかしくねぇか?
初々しいってなんだ。逆になんでこんなに距離が出てる? 両片想いかよ!
前に二人が一緒にいるところを見たのって、卒業式だろ? あの時はもっとくっついてて、「学校でバカップルかよ!」って冷やかそうとした記憶がある。それに比べたら、節度どころかよそよそしくね? 倦怠期? まさか別れる直前?
……いや、それなら車の中での結城ちゃんとの会話はなんだったって話になるし、わざわざ試合なんか見に来るワケねぇよな? それでも『正念場の試合だけは義務で見に来る』って可能性もあるけど、終わったらさっさと帰るもんだろう。
結局なんだ? と混乱しながらも、改めて二人を観察してみる。
全体的に少し線が細くなって垢抜けた気はするけれど、結城ちゃん自体の雰囲気は以前と大きく変わっていない。ただ、二口に対して妙に遠慮がある感じが、少し距離を取ったような立ち位置と、のめっていない真っ直ぐな姿勢に出ている気がする。
一方の二口は……。おっ、おう……。なんと穏やかな笑顔だ……。お前、その顔晒して大丈夫なのか? 部員への威厳に影響ない?
二口は内面がダイレクトに顔に出るタイプだ。何か企んでれば邪悪さがにじみ出てくる。ある意味嘘がつけないヤツだ。しかし今の二口も、距離を詰めようとはしていない。試合後の様子を見るに、優勝した勢いで抱きつきに行ってもおかしくない感じだったのに。
決して仲が悪いようには見えない。なのに……この、駆け引きをしているような緊張感はなんだ。付き合う直前って雰囲気じゃね……?
――何か、あった。俺のカンがそう告げている。
クッソ、ここからじゃよく見えない。鎌ちの5.0の視力が欲しい。
と、思った瞬間、急にピントが合ったみたいに、こちらを振り向いた二口と目が合った。
怪訝な顔で一睨みしてきた後、ささっと結城ちゃんを俺から隠すように立ち、畳みかけるように『何見てんですか!』と口の動きで威嚇してきた。
バーカ、お前の思ってるようなことじゃねぇよ。
そう心の中で悪態をつきつつ、ひらひらと手を振って悪意はないことをアピールする。「ささやん、行くよー」としびれを切らした茂庭が外から呼びに来たので、「今行くー」と返してその場を後にした。
後で尋問しよ。
俺はそう心に決めて、ポケットの中の車のキーを探った。
