12 see-saw game
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see-saw game
1セット目を危なげなく先取し、2セット目はギリギリで取り返される。
そして迎えたファイナルセット、デュースに次ぐデュースで、あと1点がどうしても届かない。ここまで気が気が遠くなるほどの死闘だった。
伊達工のマッチポイント。これで何回目になるだろう……。祈りの形になったままの両手が痺れているような気がする。
ダーンッ!!!とボールが叩きつけられる音。
一瞬静まり返った空間に、その残響だけが広がる。トン、と聞こえるはずのない着地の音まで聞こえた気がした。
ボールはどっち――?
向こう側に転がっている……。
それが認識できた瞬間、地鳴りのような歓声が沸き起こった。
「ゆ、優勝だ、伊達工、全国だぁッ!!」
試合の緊張が解け、爆発が起こったかのような空気の中、その声がくっきりと浮かび上がって響いた。
堅治くんは、最後の二枚ブロックの相方だった青根くんと顔を見合わせ、それから反動をつけるように床を蹴り、その首元に飛びついた。至近距離から飛びつかれた青根くんは、それでも流石、後退したのは一歩のみ、堅治くんをしっかり受け止め、がっちり抱きしめる。……こんなに嬉しそうな堅治くんの顔、初めて見たかもしれない……。
その二人を囲むように、小原くんが、女川くんが、次々と喜びを分かち合うように集まってくる。
「ナイス、ブロックっす!!! 最高っス!!!」
顔をくしゃくしゃにした泣き笑いの黄金川くんと作並くんが、転げ込む勢いでその輪に飛びつく。コート上の歓喜の輪は広がっていった。
堅治くんたちの努力が、実を結んだんだ……。
じわじわとそれが実感できて、顔の前で組みっぱなしになっていた手を解き、口を覆う。
「青根、二口、ナイスキーール! いよっ、小原フォロー上手ー!! 女川、作並ー! 最後までよく粘ったーっ! 黄金川ーーー! 抱いてーーーーっ!!」
笹谷さんが拳を突き上げ、一人ずつ名前を呼んで激励している。
対照的に鎌先さんは、こみ上げる涙をこらえているのか目を閉じ、静かに肩を震わせていた。その二人にあてられて、私の視界もぼやけてきてしまう。
「……お前ら、よくやった」
噛みしめるような茂庭さんの声。そちらを見ると、茂庭さんはコート上の部員を見守るように笑っていた。私の視線に気づくと、照れくさそうに眼を細める。
「ほら、結城。俺じゃなくて二口たちの方、ちゃんと見て」
茂庭さんはそう言うと、両手を口にあて、すっと息を吸い込んだ。
「ゴーゴーレッツゴーレッツゴー伊達工ォ!」
校名のところで声がひっくり返り、すかさず両サイドからツッコミのように肩を叩かれている。
それでもその茂庭さんの声を起点に伊達工コールが巻き起こった。「ありがとーう!!!」と鎌先さんが叫ぶ声が響き渡る。
伊達工サイドの騒々しさが続く中、ネット際には両校の選手が列を作り始めていた。最後まで立ち上がれなかった相手側の二人の選手が、ようやく自軍のキャプテンに引き起こされ整列の最後尾に入る。
「礼!」
主審の号令で両校の選手がネット越しに握手を交わした。会場は再び拍手に包まれる。練習試合や大会で何度も顔を合わせてきた相手らしく、軽く言葉を交わす選手も多い。
『軽く』ならいいけれど……堅治くんは坊主頭の選手と握手しながら何事かを罵り合っている様子で、茂庭さんたちに失笑されていた……。
そして、最後に。
試合終了直後も起き上がれなかった相手の二人――オレンジ色の髪の子と黒髪の背の高い子が、先頭の堅治くんと青根くんの前まで来る。他の選手たちはそれぞれの応援席へ向かっているので、コート上にはその四人だけが残った。
「次は負けません!」
オレンジ頭の子が叫ぶように言うと、堅治くんは一瞬目を丸くし、すぐにニヤッと笑う。
堅治くんと青根くんが見下ろすように、相手の二人は見上げるようにして睨み合う。
意外にも最初に目を逸らしたのは青根くんだった。すっと後ずさりした肩を、堅治くんはバンっと叩いて引き寄せる。それから口を引いて不敵に笑った。
「次も、うちが負けねぇよ? な」
挑発するように、最後の部分は隣に圧をかけるように言うと、肩を組まれた青根くんも一拍置いて力強くうなずく。
向こうの二人は視線を逸らすことなく手を差し出し、四人はここから見ても痛そうな握手を交わして、それぞれの応援席の方へと駆けていった。
その様子を目で追っていると、こちらへ向かってくる堅治くんと目が合った。
少しだけ目を丸くした後、目元に手を当てて『泣いた?』とからかうように口パクしてくる。私は正直にうなずき、片方ずつ目元を拭い精一杯微笑む。
堅治くんも口角を上げて笑ってくれたけれど、次に私の横に目をやるとギョッとした顔になり、盛大に顔をしかめる。
「……鎌先さん。白けるんで、こっちがドン引きするほど泣かないでください」
「泣いてねヘェよ!」
派手に声をひっくり返しつつ、未だ流れる涙をそのままにぐしゃぐしゃの顔で言うから、申し訳ないと思いつつ皆の爆笑につられて笑ってしまう。
ひとしきり笑い終えると、堅治くんはすっと真顔になって手を叩き、大声を張り上げた。
「はーい、じゃ、OBまだまだうるせぇけど、いったん挨拶させてください」
客席からお約束のように「なんだと二口!?」「生意気!」と野次が飛ぶけれど、堅治くんは全く意に介さない。
「ハイハイ、こんぐらいじゃないとこいつらまとめられないのは、皆さんご存知ってことで。それでは、整列!!」
号令で、部員たちがぴしっと一列に並び、ギャラリーを見上げた。
「応援、ありがとうございました!!!」
「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」
いち早く礼から顔を上げた堅治くんは晴れ晴れとした顔で胸を張った。部員たちも主将に続く。
「行けるところまで、暴れてこい!」
と茂庭さんが叫ぶと、
「当たり前です!!!」
と力強く堅治くんが返す。
ギャラリーからのねぎらいや激励に、感謝を返すように頭上で手を叩いて応えて一通り見回すと、最後に私に視線を止めた。
堅治くんは、右手を上げて、その手を振ってくれる。それに精一杯の笑顔で振り返す。
そうしてコートから退場しようとした堅治くんは、すぐにカメラやマイクを持った人に囲まれた。優勝校インタビューなのだろう。
「ホント、わかりやすくトクベツ待遇だな......」
呆れたように笹谷さんが言う。
にこやかにフラッシュを浴びる堅治くんを見て、嬉しさや誇らしさをおぼえるのと同時に、なぜか少しだけ……。
「そうですね……。優勝するとなんか遠くに感じますね」
私が感じたままに言うと、笹谷さんは「うん?」という感じに首をかしげている。
「あー……。わりぃ、そうじゃなくて、二口の『トクベツ』ってこと」
そう困ったように笑って笹谷さんは言うけれど、それが自分のことだと気づくのに、私は少し時間がかかった。
1セット目を危なげなく先取し、2セット目はギリギリで取り返される。
そして迎えたファイナルセット、デュースに次ぐデュースで、あと1点がどうしても届かない。ここまで気が気が遠くなるほどの死闘だった。
伊達工のマッチポイント。これで何回目になるだろう……。祈りの形になったままの両手が痺れているような気がする。
ダーンッ!!!とボールが叩きつけられる音。
一瞬静まり返った空間に、その残響だけが広がる。トン、と聞こえるはずのない着地の音まで聞こえた気がした。
ボールはどっち――?
向こう側に転がっている……。
それが認識できた瞬間、地鳴りのような歓声が沸き起こった。
「ゆ、優勝だ、伊達工、全国だぁッ!!」
試合の緊張が解け、爆発が起こったかのような空気の中、その声がくっきりと浮かび上がって響いた。
堅治くんは、最後の二枚ブロックの相方だった青根くんと顔を見合わせ、それから反動をつけるように床を蹴り、その首元に飛びついた。至近距離から飛びつかれた青根くんは、それでも流石、後退したのは一歩のみ、堅治くんをしっかり受け止め、がっちり抱きしめる。……こんなに嬉しそうな堅治くんの顔、初めて見たかもしれない……。
その二人を囲むように、小原くんが、女川くんが、次々と喜びを分かち合うように集まってくる。
「ナイス、ブロックっす!!! 最高っス!!!」
顔をくしゃくしゃにした泣き笑いの黄金川くんと作並くんが、転げ込む勢いでその輪に飛びつく。コート上の歓喜の輪は広がっていった。
堅治くんたちの努力が、実を結んだんだ……。
じわじわとそれが実感できて、顔の前で組みっぱなしになっていた手を解き、口を覆う。
「青根、二口、ナイスキーール! いよっ、小原フォロー上手ー!! 女川、作並ー! 最後までよく粘ったーっ! 黄金川ーーー! 抱いてーーーーっ!!」
笹谷さんが拳を突き上げ、一人ずつ名前を呼んで激励している。
対照的に鎌先さんは、こみ上げる涙をこらえているのか目を閉じ、静かに肩を震わせていた。その二人にあてられて、私の視界もぼやけてきてしまう。
「……お前ら、よくやった」
噛みしめるような茂庭さんの声。そちらを見ると、茂庭さんはコート上の部員を見守るように笑っていた。私の視線に気づくと、照れくさそうに眼を細める。
「ほら、結城。俺じゃなくて二口たちの方、ちゃんと見て」
茂庭さんはそう言うと、両手を口にあて、すっと息を吸い込んだ。
「ゴーゴーレッツゴーレッツゴー伊達工ォ!」
校名のところで声がひっくり返り、すかさず両サイドからツッコミのように肩を叩かれている。
それでもその茂庭さんの声を起点に伊達工コールが巻き起こった。「ありがとーう!!!」と鎌先さんが叫ぶ声が響き渡る。
伊達工サイドの騒々しさが続く中、ネット際には両校の選手が列を作り始めていた。最後まで立ち上がれなかった相手側の二人の選手が、ようやく自軍のキャプテンに引き起こされ整列の最後尾に入る。
「礼!」
主審の号令で両校の選手がネット越しに握手を交わした。会場は再び拍手に包まれる。練習試合や大会で何度も顔を合わせてきた相手らしく、軽く言葉を交わす選手も多い。
『軽く』ならいいけれど……堅治くんは坊主頭の選手と握手しながら何事かを罵り合っている様子で、茂庭さんたちに失笑されていた……。
そして、最後に。
試合終了直後も起き上がれなかった相手の二人――オレンジ色の髪の子と黒髪の背の高い子が、先頭の堅治くんと青根くんの前まで来る。他の選手たちはそれぞれの応援席へ向かっているので、コート上にはその四人だけが残った。
「次は負けません!」
オレンジ頭の子が叫ぶように言うと、堅治くんは一瞬目を丸くし、すぐにニヤッと笑う。
堅治くんと青根くんが見下ろすように、相手の二人は見上げるようにして睨み合う。
意外にも最初に目を逸らしたのは青根くんだった。すっと後ずさりした肩を、堅治くんはバンっと叩いて引き寄せる。それから口を引いて不敵に笑った。
「次も、うちが負けねぇよ? な」
挑発するように、最後の部分は隣に圧をかけるように言うと、肩を組まれた青根くんも一拍置いて力強くうなずく。
向こうの二人は視線を逸らすことなく手を差し出し、四人はここから見ても痛そうな握手を交わして、それぞれの応援席の方へと駆けていった。
その様子を目で追っていると、こちらへ向かってくる堅治くんと目が合った。
少しだけ目を丸くした後、目元に手を当てて『泣いた?』とからかうように口パクしてくる。私は正直にうなずき、片方ずつ目元を拭い精一杯微笑む。
堅治くんも口角を上げて笑ってくれたけれど、次に私の横に目をやるとギョッとした顔になり、盛大に顔をしかめる。
「……鎌先さん。白けるんで、こっちがドン引きするほど泣かないでください」
「泣いてねヘェよ!」
派手に声をひっくり返しつつ、未だ流れる涙をそのままにぐしゃぐしゃの顔で言うから、申し訳ないと思いつつ皆の爆笑につられて笑ってしまう。
ひとしきり笑い終えると、堅治くんはすっと真顔になって手を叩き、大声を張り上げた。
「はーい、じゃ、OBまだまだうるせぇけど、いったん挨拶させてください」
客席からお約束のように「なんだと二口!?」「生意気!」と野次が飛ぶけれど、堅治くんは全く意に介さない。
「ハイハイ、こんぐらいじゃないとこいつらまとめられないのは、皆さんご存知ってことで。それでは、整列!!」
号令で、部員たちがぴしっと一列に並び、ギャラリーを見上げた。
「応援、ありがとうございました!!!」
「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」
いち早く礼から顔を上げた堅治くんは晴れ晴れとした顔で胸を張った。部員たちも主将に続く。
「行けるところまで、暴れてこい!」
と茂庭さんが叫ぶと、
「当たり前です!!!」
と力強く堅治くんが返す。
ギャラリーからのねぎらいや激励に、感謝を返すように頭上で手を叩いて応えて一通り見回すと、最後に私に視線を止めた。
堅治くんは、右手を上げて、その手を振ってくれる。それに精一杯の笑顔で振り返す。
そうしてコートから退場しようとした堅治くんは、すぐにカメラやマイクを持った人に囲まれた。優勝校インタビューなのだろう。
「ホント、わかりやすくトクベツ待遇だな......」
呆れたように笹谷さんが言う。
にこやかにフラッシュを浴びる堅治くんを見て、嬉しさや誇らしさをおぼえるのと同時に、なぜか少しだけ……。
「そうですね……。優勝するとなんか遠くに感じますね」
私が感じたままに言うと、笹谷さんは「うん?」という感じに首をかしげている。
「あー……。わりぃ、そうじゃなくて、二口の『トクベツ』ってこと」
そう困ったように笑って笹谷さんは言うけれど、それが自分のことだと気づくのに、私は少し時間がかかった。
