Second grade of Highschool
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キミの存在意義とボクの欲望は似ているね
結城の家は学校から2駅ほど離れたところにあるマンションだ。去年の俺の誕生日に家の近くまで送ったことはあったけど、上がらせてもらうのは今回が初めてだ。「着替えたりするからここで待ってて」と言って、結城は先に入っていった。
玄関先で5分ほど待ったところで「散らかってるけど……」と言いながら、部屋着に着替えた結城がドアを開けてくれた。
母親との二人暮らしだと前に聞いていた。玄関で靴を脱ぐと俺の靴のデカさが際立って異物感がスゴイ。足で蹴とばすように隅の方へ追いやる。生活感はそれなりにあるけれど片づいているダイニングの、奥のドアを開けた先が結城の部屋のようだ。窓際にベッドがあってその向かいに机がある。
ふらつきながら俺を先導していた結城は、そのまま倒れこむようにベッドに入った。布団をかけるのを手伝ってやると、白い顔を隠すように自分で口元まで布団を引き上げた。
「二口くん、もう、行っちゃう……?」
疲れたような目で俺を見上げて言う。学校に戻るかを聞かれているんだと思う。俺は首を横にふった。
「いや、結城のお母さんが帰ってくるまでいるつもりだけど?」
「ありがとう……」
結城は弱弱しく微笑むとそのまま目を閉じた。
勉強机の椅子に座って彼女の部屋を眺める。机の隣の棚には教科書や雑誌、本が整然と並んでいる。壁のコルクボードには写真が刺してある。去年のクラスの全体写真。全員で制服を着て写っている。端の方に隣同士で同じような顔をして笑っている俺と結城がいた。あと、バレー部の合宿。先輩マネと滑津との3ショット。当時の一年と結城でのスナップ。やっぱりこれも結城の隣に俺がいる。
昏々と眠る結城。
結城にはまだ言ってないけど。
血を欲する間隔が短くなっている気がする。
「どうすっかな……」
結城の生活に支障が出てしまってはダメだと思う。
だからまず第一には薬のレベルを上げていくしかない……。
しばらく今後の身の振り方を考えていると、玄関の方からガチャっと鍵を開ける音がした。
靴は置きっぱなしにしている。それで家の中に男が上がっていることはわかるだろう。保健の先生を通じて許可はとっているし、何もやましいことはないので俺はそのまま椅子の上に座って待った。
コンコンとノックの音。
「はい」
と答えると、静かにドアが開いた。
「ただいま……。友紀?」
「今は眠ってます」
『今は』ってなんか含みがあるっぽくね? 失言だったかもしれないのを悟らせないよう、間を置かずに「お邪魔しています」と立ち上がる。
「あなたが二口くん?」
「ハイ。二口堅治といいます。ハジメマシテ……」
幸い『今は』に引っかからずにいてくれた結城のお母さんに向け、意識的に目尻を下げて笑うように心がける。『お前の笑顔は煽ってるように見える! 邪悪!』と以前他校とトラブルになりかけた後に茂庭さんに説教を受けて以降、一応心掛けている。
それが功を奏したのか「あなたが二口くん……」と結城のお母さんは結城によく似た顔を綻ばせた。
「友紀から話は聞いているわ。いつもありがとうね」
「いえ、こちらこそ、いつもお世話になっています」
テンプレのような「初めて彼女の親に会った彼氏」のセリフを吐く。どんなことを結城は母親に話してるんだろう。
「俺、お母さんが帰ってきたら、学校に戻らないといけないので」
「そうなの? お茶入れるから少し話していかない?」
「え……あの」
「お願い」
そう結城似の声で頼まれたら、断ることはできなかった。
◇◇◇
「写真でしか見たことなかったけれど、実物の方がかっこいいわね」と言われて、照れくさくなる。
「最近、友紀、貧血っぽくってね」
俺の前にいい香りのする紅茶の入ったカップを置きながら言う。
「……そうなんですか」
もちろん気づいているし原因は確実に俺なんだけど、しらばっくれるしかないことに心が痛む。
「自覚はあるみたいで、食生活からどうにかしようとしているんだけどね……。手っ取り早く病院行って鉄剤処方してもらいなさい、って言ってるんだけど、どうもそれはイヤみたいで」
「え……?」
「『血ぐらい自分で作りだせる』っていうのよ」
ガツンと頭を殴られたような衝撃だった。
「ワケわかんないでしょ?」と結城のお母さんは笑うけれど、俺は全然笑えない。死にたくなるぐらいの罪悪感が襲ってくる。
「……ごめんなさい」
床に這いつくばって土下座したいのを必死でこらえて頭を下げる。
「どうして? 二口くんが謝る必要はないでしょ?」
結城のお母さんは慌てたように言って、そっと俺の肩に手をかける。
(『それは、俺のせいだから』)
そう言ってしまいそうになるのを唇を噛んで堪える。本当の理由を言うわけにはいかない、けれど、この人にとって大切な子供の血液を、俺は奪っている。
「……俺が気にしなくちゃいけないことなんです」
重い彼氏だと思われているだろうか。別にそれならそれでかまわない。
黙って下を向いたままの俺に戸惑ったような空気を感じる。俺の肩から手が離れていった。
「……ずっと心配だったんだけどね。工業高校入るって言い出したときから」
静かなトーンの話し声に顔を上げると、結城のお母さんが心配そうに俺を見ていた。胸を衝かれる。
「入学式の直前はすごく不安そうな顔をしてたけど、次の日からはもうほんと、学校行くのが楽しみで仕方ない、って顔をしていてね」
結城のお母さんはふっと笑いながら思い出すように続ける。
「あなたと……、二口くんと会ったからなのね」
そう言ってほほ笑んだ顔は、本当に結城とそっくりだった。
「二口くんのことは信頼できると思ってる。友紀のこと、これからもよろしくね」
「……」
結城のお母さんの目は正直節穴だと思う。
◇◇◇
彼女の家をあとにして学校に戻る。学校に登校するときに結城はこの道を通ってるんだなと景色を見ながら考える。
彼女をラクにするためにはもう一つ方法がある。
血の契約。
友紀を俺の眷属にしてしまう。
眷属とは吸血者と被吸血者の間で契約を結んでしまうことだ。
簡単に言うと、俺は彼女の血しか吸わない、彼女も俺にしか吸わせないという契約を結ぶ。そうすることで彼女の血が俺の体に最適化されるらしい。吸血鬼側にも制約が働いてコイツ以外はダメとか、コイツは他のヤツと契約しているから吸えない、という拒絶反応が生まれるらしい。どうしてそうなるのか、メカニズム的なものは全くわからない。けど、そうすれば、彼女の血を効率よく少量で摂取できるようになる。まあいいことずくめだ。
ただ、これは、彼女の人生を縛ることになってしまう。
俺は母方の血を継いだ吸血鬼だ。母は父と眷属の契約を結んでいる。母と父のように、普通は夫婦とかの強いパートナー関係を結んで、それの覚悟ができた場合に『契約』を行うのが一般的だ。
『契約』には……とある儀式を伴う。
俺はそろそろ覚悟を決めないといけないのかもしれない。
結城の家は学校から2駅ほど離れたところにあるマンションだ。去年の俺の誕生日に家の近くまで送ったことはあったけど、上がらせてもらうのは今回が初めてだ。「着替えたりするからここで待ってて」と言って、結城は先に入っていった。
玄関先で5分ほど待ったところで「散らかってるけど……」と言いながら、部屋着に着替えた結城がドアを開けてくれた。
母親との二人暮らしだと前に聞いていた。玄関で靴を脱ぐと俺の靴のデカさが際立って異物感がスゴイ。足で蹴とばすように隅の方へ追いやる。生活感はそれなりにあるけれど片づいているダイニングの、奥のドアを開けた先が結城の部屋のようだ。窓際にベッドがあってその向かいに机がある。
ふらつきながら俺を先導していた結城は、そのまま倒れこむようにベッドに入った。布団をかけるのを手伝ってやると、白い顔を隠すように自分で口元まで布団を引き上げた。
「二口くん、もう、行っちゃう……?」
疲れたような目で俺を見上げて言う。学校に戻るかを聞かれているんだと思う。俺は首を横にふった。
「いや、結城のお母さんが帰ってくるまでいるつもりだけど?」
「ありがとう……」
結城は弱弱しく微笑むとそのまま目を閉じた。
勉強机の椅子に座って彼女の部屋を眺める。机の隣の棚には教科書や雑誌、本が整然と並んでいる。壁のコルクボードには写真が刺してある。去年のクラスの全体写真。全員で制服を着て写っている。端の方に隣同士で同じような顔をして笑っている俺と結城がいた。あと、バレー部の合宿。先輩マネと滑津との3ショット。当時の一年と結城でのスナップ。やっぱりこれも結城の隣に俺がいる。
昏々と眠る結城。
結城にはまだ言ってないけど。
血を欲する間隔が短くなっている気がする。
「どうすっかな……」
結城の生活に支障が出てしまってはダメだと思う。
だからまず第一には薬のレベルを上げていくしかない……。
しばらく今後の身の振り方を考えていると、玄関の方からガチャっと鍵を開ける音がした。
靴は置きっぱなしにしている。それで家の中に男が上がっていることはわかるだろう。保健の先生を通じて許可はとっているし、何もやましいことはないので俺はそのまま椅子の上に座って待った。
コンコンとノックの音。
「はい」
と答えると、静かにドアが開いた。
「ただいま……。友紀?」
「今は眠ってます」
『今は』ってなんか含みがあるっぽくね? 失言だったかもしれないのを悟らせないよう、間を置かずに「お邪魔しています」と立ち上がる。
「あなたが二口くん?」
「ハイ。二口堅治といいます。ハジメマシテ……」
幸い『今は』に引っかからずにいてくれた結城のお母さんに向け、意識的に目尻を下げて笑うように心がける。『お前の笑顔は煽ってるように見える! 邪悪!』と以前他校とトラブルになりかけた後に茂庭さんに説教を受けて以降、一応心掛けている。
それが功を奏したのか「あなたが二口くん……」と結城のお母さんは結城によく似た顔を綻ばせた。
「友紀から話は聞いているわ。いつもありがとうね」
「いえ、こちらこそ、いつもお世話になっています」
テンプレのような「初めて彼女の親に会った彼氏」のセリフを吐く。どんなことを結城は母親に話してるんだろう。
「俺、お母さんが帰ってきたら、学校に戻らないといけないので」
「そうなの? お茶入れるから少し話していかない?」
「え……あの」
「お願い」
そう結城似の声で頼まれたら、断ることはできなかった。
◇◇◇
「写真でしか見たことなかったけれど、実物の方がかっこいいわね」と言われて、照れくさくなる。
「最近、友紀、貧血っぽくってね」
俺の前にいい香りのする紅茶の入ったカップを置きながら言う。
「……そうなんですか」
もちろん気づいているし原因は確実に俺なんだけど、しらばっくれるしかないことに心が痛む。
「自覚はあるみたいで、食生活からどうにかしようとしているんだけどね……。手っ取り早く病院行って鉄剤処方してもらいなさい、って言ってるんだけど、どうもそれはイヤみたいで」
「え……?」
「『血ぐらい自分で作りだせる』っていうのよ」
ガツンと頭を殴られたような衝撃だった。
「ワケわかんないでしょ?」と結城のお母さんは笑うけれど、俺は全然笑えない。死にたくなるぐらいの罪悪感が襲ってくる。
「……ごめんなさい」
床に這いつくばって土下座したいのを必死でこらえて頭を下げる。
「どうして? 二口くんが謝る必要はないでしょ?」
結城のお母さんは慌てたように言って、そっと俺の肩に手をかける。
(『それは、俺のせいだから』)
そう言ってしまいそうになるのを唇を噛んで堪える。本当の理由を言うわけにはいかない、けれど、この人にとって大切な子供の血液を、俺は奪っている。
「……俺が気にしなくちゃいけないことなんです」
重い彼氏だと思われているだろうか。別にそれならそれでかまわない。
黙って下を向いたままの俺に戸惑ったような空気を感じる。俺の肩から手が離れていった。
「……ずっと心配だったんだけどね。工業高校入るって言い出したときから」
静かなトーンの話し声に顔を上げると、結城のお母さんが心配そうに俺を見ていた。胸を衝かれる。
「入学式の直前はすごく不安そうな顔をしてたけど、次の日からはもうほんと、学校行くのが楽しみで仕方ない、って顔をしていてね」
結城のお母さんはふっと笑いながら思い出すように続ける。
「あなたと……、二口くんと会ったからなのね」
そう言ってほほ笑んだ顔は、本当に結城とそっくりだった。
「二口くんのことは信頼できると思ってる。友紀のこと、これからもよろしくね」
「……」
結城のお母さんの目は正直節穴だと思う。
◇◇◇
彼女の家をあとにして学校に戻る。学校に登校するときに結城はこの道を通ってるんだなと景色を見ながら考える。
彼女をラクにするためにはもう一つ方法がある。
血の契約。
友紀を俺の眷属にしてしまう。
眷属とは吸血者と被吸血者の間で契約を結んでしまうことだ。
簡単に言うと、俺は彼女の血しか吸わない、彼女も俺にしか吸わせないという契約を結ぶ。そうすることで彼女の血が俺の体に最適化されるらしい。吸血鬼側にも制約が働いてコイツ以外はダメとか、コイツは他のヤツと契約しているから吸えない、という拒絶反応が生まれるらしい。どうしてそうなるのか、メカニズム的なものは全くわからない。けど、そうすれば、彼女の血を効率よく少量で摂取できるようになる。まあいいことずくめだ。
ただ、これは、彼女の人生を縛ることになってしまう。
俺は母方の血を継いだ吸血鬼だ。母は父と眷属の契約を結んでいる。母と父のように、普通は夫婦とかの強いパートナー関係を結んで、それの覚悟ができた場合に『契約』を行うのが一般的だ。
『契約』には……とある儀式を伴う。
俺はそろそろ覚悟を決めないといけないのかもしれない。
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