Second grade of Highschool
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いけないことしよっか
二口くんに吸血されるようになって3カ月が過ぎた。
イヤではない。辛くもない。
むしろ、回を追うごとに、もっと吸っちゃっていいのに、と心のどこかで思っている自分がいるからキケンだと思う。
ただ、ちょっとどうにかしてほしいことがある。
吸血の場所はいつも学校だ。例えば空き教室。誰も来ない図書室の本棚の裏。ずっと鍵がかけられたままの屋上への扉の踊り場、等々。二口くんに校内の人目につきにくいスポットに連れられて、そこで吸われる。
それでも学校での『人目につきにくい』には限界がある。ついこないだだって、空き教室で吸血された時は彼の後輩君にまんまと見られてしまった。
首筋から吸われているところを。
……なんてはしたない光景なんだろう。思い返してみてもぞっとするほど恥ずかしい。
場所については本気で慎重にならなくてはいけないと思う。学校以外の例えば、お互いの家。それも自分の部屋ならば人に見られることはないんじゃないか。
二口くんの時間がなくて学校になってるのならば、部活の帰りにでも私が家に行くよ? と提案してみたことがある。私の申し出に二口くんは思いっきり眉をしかめた。
『あぶない』
『え? 何が?』
『いろいろと』
『だから、いろいろって何?』
曖昧に誤魔化そうとする彼に説明を求めたら露骨にイヤな顔をされた。そのまま押し黙る二口くんが何かを言ってくれるまで待っていると、気まずそうに私から目を逸らしてボソッとつぶやいた。
『……歯止めがかからない』
『え?』
反射的に出てしまった声の後で、そこに『俺の』という主語が隠されていることに気づく。その鈍さへのあきれを隠すこともなく、彼は私を睨みつけながらぐっと腕を掴み私の身体を自分の方へと引き寄せた。
『!!』
『だって、絶対に見られないって確信持てたら、俺、何するかわかんねぇよ?』
半笑いで囁く挑発に思わず後ずさりしてしまう。そのささやかな抵抗を嘲笑うように、今度は両腕を回して私を捕らえにくる。
『思う存分、……最後までいっちゃうかもしれないし。誰かが来るかもしれねぇ場所の方が止められる』
『最後までいっちゃう』って何だろう? 私の身体から一滴残らず血を吸い上げる……なんてことはさすがにないよね。それじゃあ?
首筋にかかった髪を彼の長い指が払う。彼の肩越しの化学準備室の薄汚れた壁、その向こう側の人の気配に耳を澄ますけれど、すぐに意識が首筋に充てられた彼の唇に移ってしまう……。
『あ……っ』
ちくりとした痛みの後は、もう、何も、聞こえない。吸われるのに伴うように私の思考も溶けていって、この話はうやむやになってしまった。
◇◇◇
それとは別に気にかかっていることがまだある。
「吸血って、首じゃないとダメなの?」
今は部室に二人きり。二口くんが主将になってから、部誌の記述や鍵当番などの口実が使いやすくなったのもあって、部室は比較的安全な私たちの『密会場所』となっている。放課後は人でごった返す部室棟も、昼休みには人気がほとんどない。
私の問いに彼はブレザーのボタンを閉めながらこちらを振り返った。
「血管太いところなら、まあどこでもいいんだけど、」
そう言い近づいて来ながら私の髪を掻き分けて首筋を出す。そして脈の部分をなぞった。
びくっと身体が無意識に動く。
「まあ、吸血鬼っていったらここが王道っしょ。噛みつきやすくて効率もいいし」
ゆっくりと頸動脈を往復させる二口くんの指の冷たさに体が震えてしまう。そんな私の反応を愉しそうに二口くんが笑う。……ホント、性格が悪いと思う。急所を指先で弄ばれてるんだから、どうしても本能的な恐怖を感じてしまうのだろう。いたずらを咎めるようにやんわりと上から彼の手の動きを押さえる。
「……手首じゃだめなの?」
そう。私がずっと考えているのはそれ。何も首からの吸血にこだわらずに手首からでもいいんじゃないか。ここにもそれなりに太い血管があるんだと思うし。
二口くんは私をちらっと一瞥すると、彼の手の上にあった私の手を取り返し、何かの儀式のような無駄のない動きで自分の口元へ持っていった。
手首の脈打つ部分に彼の唇が当たる。
噛みつかれる、と身体が無意識にこわばる。
彼は鼻先でそれを笑うと、チュッと音を立てて口づけしてから舌を押し付てくる。彼の舌が脈を這う感触に、その場所だけでなく身体中がぞわぞわしてくる。
「…………っ」
痛みを覚悟していたところをくすぐられて、歪な快感が生まれてしまいそうになるのを肩をすくめて耐えていると、動きが鋭く執拗になってきた。声を漏れそうになるのを必死で耐えるうちに自然と涙がにじんでくる。焦点が危うくなった目を凝らして精一杯にらみつけると、ようやく彼の舌から解放された。
「……!」
「これだと、俺が変態くさくね?」
そう言いながら涼しい顔で口元を歪めて笑う。
対して私は、多分真っ赤な顔をしているんだろう。平静を装いたいのに、解放された安堵で息が深くなってしまう。
そう……かもしれない。……確かに、手首は彼が一方的に何かをしているように見えるのかもしれない。例えば、私の手首に異様な執着を持つかのような。それはそうだけど……。
ならば、これで……腰砕けになりそうな私も同じように変態なんだと……思う。
そこに気づいてしまうとますます恥ずかしい。居たたまれなくなってそろりと逃れようとするけれど、彼の手が柔らかく私の手首を握る。
本気で振りほどけば逃げられる力。……でもそれができない。
「だけど、首だと、すごく、絡み合ってるみたいで……」
取り込まれそうな心を何とか立て直して抵抗を試みる。
そうなんだ。彼の一部ともいえる牙が私の身体に入っている所を見られる。それはつまり……、アレを見られるのとあまり変わりがないんじゃないかと思ってしまう。
だから、せめて身体が触れ合ってる部分を最小限にしたい。手首だったらもっと軽い、戯れの延長みたいな気がするのに。そう思うのは私のわがままなんだろうか。
「……見られたときに、恥ずかしい……」
消え入りそうな声でそこまで言うと、今度は彼は笑わなかった。
「まあ……そうだな。見られるのがイヤなのは、俺もそうだし、それは気をつける」
彼はそう言うとぱっと私から離れた。そして入口のドアのところまで行くと、かちゃん、と音を立てて部室の鍵を閉める。万が一にもこのドアが開けられてしまうのを防いだということだ。
「これで、大丈夫」
「……」
図らずとも自分で逃げ道を塞いでしまった気がする。ここに誘われた時からそのつもりはあったけれど、今日はなんだか焦らされているみたいでいつもより緊張してしまう。
身を固くして黙っていると、空気を和らげるように二口くんは明るい声を出した。
「……実際のところ『吸いやすい』っていうのが一番の理由なんだよ。本能に首筋って刷り込まれてる感じだし。なるべく痛くさせないで、時間をかけないで吸うのに、一番コスパがいい、っつーか?」
まるで注射のことを話しているみたいだ。こんな時に出てくる『コスパ』って言葉が現実的で妙に納得できてしまい、思わずくすっと笑ってしまう。
「……そういうことなら、仕方ないね」
私が折れると、彼はホッとしたように笑って、もう一度私に腕を回すと耳元に唇を寄せる。耳ならまだ吸血じゃない、と身体の緊張が無意識に解ける。でもそれは私の警戒を反らす彼の罠だった。
「ねぇ……」
「ん……っ」
やだ、何これ。彼の甘えるような声が鼓膜を直に震わせてくる。
耳の中が……彼の声で侵されている。
見られたら、恥ずかしい方のキスしない?
脳をとろかせるような囁き声に、一瞬、頭がボゥっとしてしまった。
どんな、キス……?
理解が追いつかないまま上げてしまった顔を彼が逃してくれるはずもない。両頬に手を添えられ、食べられてしまうと錯覚するようなキスが下りてくる。二度、三度、合わさった唇を食むようにして彼は私の唇をこじ開けた。
舌が触れ合う過剰な切なさに遠くなっていた意識は……、突然、唇の端に走った痛みで引き戻された。
「っ!……いった……」
「あ、れ……? 悪ぃ、」
尖った犬歯を光らせながら悪びれずに「早まった」と笑う彼が、余裕のなさそうな息遣いで私に迫る。
「もう、限界……。いい?」
ここまで焦らして、弄んできたのは二口くんなのに、自分が限界になったからって求めてくるのは、調子が良すぎない? 散々振り回された身としては、ちょっと意地悪してみたくもなる。
「……い、や」
ゆっくりと、目の前に迫った二口くんの瞳を見つめながら言う。一瞬驚いた顔をする彼に微笑みかけてみせると、彼も目を赤く光らせて笑う。吸われる、と本能的に理解して目を閉じた刹那、彼は首筋に噛みついてきた。
二口くんに吸血されるようになって3カ月が過ぎた。
イヤではない。辛くもない。
むしろ、回を追うごとに、もっと吸っちゃっていいのに、と心のどこかで思っている自分がいるからキケンだと思う。
ただ、ちょっとどうにかしてほしいことがある。
吸血の場所はいつも学校だ。例えば空き教室。誰も来ない図書室の本棚の裏。ずっと鍵がかけられたままの屋上への扉の踊り場、等々。二口くんに校内の人目につきにくいスポットに連れられて、そこで吸われる。
それでも学校での『人目につきにくい』には限界がある。ついこないだだって、空き教室で吸血された時は彼の後輩君にまんまと見られてしまった。
首筋から吸われているところを。
……なんてはしたない光景なんだろう。思い返してみてもぞっとするほど恥ずかしい。
場所については本気で慎重にならなくてはいけないと思う。学校以外の例えば、お互いの家。それも自分の部屋ならば人に見られることはないんじゃないか。
二口くんの時間がなくて学校になってるのならば、部活の帰りにでも私が家に行くよ? と提案してみたことがある。私の申し出に二口くんは思いっきり眉をしかめた。
『あぶない』
『え? 何が?』
『いろいろと』
『だから、いろいろって何?』
曖昧に誤魔化そうとする彼に説明を求めたら露骨にイヤな顔をされた。そのまま押し黙る二口くんが何かを言ってくれるまで待っていると、気まずそうに私から目を逸らしてボソッとつぶやいた。
『……歯止めがかからない』
『え?』
反射的に出てしまった声の後で、そこに『俺の』という主語が隠されていることに気づく。その鈍さへのあきれを隠すこともなく、彼は私を睨みつけながらぐっと腕を掴み私の身体を自分の方へと引き寄せた。
『!!』
『だって、絶対に見られないって確信持てたら、俺、何するかわかんねぇよ?』
半笑いで囁く挑発に思わず後ずさりしてしまう。そのささやかな抵抗を嘲笑うように、今度は両腕を回して私を捕らえにくる。
『思う存分、……最後までいっちゃうかもしれないし。誰かが来るかもしれねぇ場所の方が止められる』
『最後までいっちゃう』って何だろう? 私の身体から一滴残らず血を吸い上げる……なんてことはさすがにないよね。それじゃあ?
首筋にかかった髪を彼の長い指が払う。彼の肩越しの化学準備室の薄汚れた壁、その向こう側の人の気配に耳を澄ますけれど、すぐに意識が首筋に充てられた彼の唇に移ってしまう……。
『あ……っ』
ちくりとした痛みの後は、もう、何も、聞こえない。吸われるのに伴うように私の思考も溶けていって、この話はうやむやになってしまった。
◇◇◇
それとは別に気にかかっていることがまだある。
「吸血って、首じゃないとダメなの?」
今は部室に二人きり。二口くんが主将になってから、部誌の記述や鍵当番などの口実が使いやすくなったのもあって、部室は比較的安全な私たちの『密会場所』となっている。放課後は人でごった返す部室棟も、昼休みには人気がほとんどない。
私の問いに彼はブレザーのボタンを閉めながらこちらを振り返った。
「血管太いところなら、まあどこでもいいんだけど、」
そう言い近づいて来ながら私の髪を掻き分けて首筋を出す。そして脈の部分をなぞった。
びくっと身体が無意識に動く。
「まあ、吸血鬼っていったらここが王道っしょ。噛みつきやすくて効率もいいし」
ゆっくりと頸動脈を往復させる二口くんの指の冷たさに体が震えてしまう。そんな私の反応を愉しそうに二口くんが笑う。……ホント、性格が悪いと思う。急所を指先で弄ばれてるんだから、どうしても本能的な恐怖を感じてしまうのだろう。いたずらを咎めるようにやんわりと上から彼の手の動きを押さえる。
「……手首じゃだめなの?」
そう。私がずっと考えているのはそれ。何も首からの吸血にこだわらずに手首からでもいいんじゃないか。ここにもそれなりに太い血管があるんだと思うし。
二口くんは私をちらっと一瞥すると、彼の手の上にあった私の手を取り返し、何かの儀式のような無駄のない動きで自分の口元へ持っていった。
手首の脈打つ部分に彼の唇が当たる。
噛みつかれる、と身体が無意識にこわばる。
彼は鼻先でそれを笑うと、チュッと音を立てて口づけしてから舌を押し付てくる。彼の舌が脈を這う感触に、その場所だけでなく身体中がぞわぞわしてくる。
「…………っ」
痛みを覚悟していたところをくすぐられて、歪な快感が生まれてしまいそうになるのを肩をすくめて耐えていると、動きが鋭く執拗になってきた。声を漏れそうになるのを必死で耐えるうちに自然と涙がにじんでくる。焦点が危うくなった目を凝らして精一杯にらみつけると、ようやく彼の舌から解放された。
「……!」
「これだと、俺が変態くさくね?」
そう言いながら涼しい顔で口元を歪めて笑う。
対して私は、多分真っ赤な顔をしているんだろう。平静を装いたいのに、解放された安堵で息が深くなってしまう。
そう……かもしれない。……確かに、手首は彼が一方的に何かをしているように見えるのかもしれない。例えば、私の手首に異様な執着を持つかのような。それはそうだけど……。
ならば、これで……腰砕けになりそうな私も同じように変態なんだと……思う。
そこに気づいてしまうとますます恥ずかしい。居たたまれなくなってそろりと逃れようとするけれど、彼の手が柔らかく私の手首を握る。
本気で振りほどけば逃げられる力。……でもそれができない。
「だけど、首だと、すごく、絡み合ってるみたいで……」
取り込まれそうな心を何とか立て直して抵抗を試みる。
そうなんだ。彼の一部ともいえる牙が私の身体に入っている所を見られる。それはつまり……、アレを見られるのとあまり変わりがないんじゃないかと思ってしまう。
だから、せめて身体が触れ合ってる部分を最小限にしたい。手首だったらもっと軽い、戯れの延長みたいな気がするのに。そう思うのは私のわがままなんだろうか。
「……見られたときに、恥ずかしい……」
消え入りそうな声でそこまで言うと、今度は彼は笑わなかった。
「まあ……そうだな。見られるのがイヤなのは、俺もそうだし、それは気をつける」
彼はそう言うとぱっと私から離れた。そして入口のドアのところまで行くと、かちゃん、と音を立てて部室の鍵を閉める。万が一にもこのドアが開けられてしまうのを防いだということだ。
「これで、大丈夫」
「……」
図らずとも自分で逃げ道を塞いでしまった気がする。ここに誘われた時からそのつもりはあったけれど、今日はなんだか焦らされているみたいでいつもより緊張してしまう。
身を固くして黙っていると、空気を和らげるように二口くんは明るい声を出した。
「……実際のところ『吸いやすい』っていうのが一番の理由なんだよ。本能に首筋って刷り込まれてる感じだし。なるべく痛くさせないで、時間をかけないで吸うのに、一番コスパがいい、っつーか?」
まるで注射のことを話しているみたいだ。こんな時に出てくる『コスパ』って言葉が現実的で妙に納得できてしまい、思わずくすっと笑ってしまう。
「……そういうことなら、仕方ないね」
私が折れると、彼はホッとしたように笑って、もう一度私に腕を回すと耳元に唇を寄せる。耳ならまだ吸血じゃない、と身体の緊張が無意識に解ける。でもそれは私の警戒を反らす彼の罠だった。
「ねぇ……」
「ん……っ」
やだ、何これ。彼の甘えるような声が鼓膜を直に震わせてくる。
耳の中が……彼の声で侵されている。
見られたら、恥ずかしい方のキスしない?
脳をとろかせるような囁き声に、一瞬、頭がボゥっとしてしまった。
どんな、キス……?
理解が追いつかないまま上げてしまった顔を彼が逃してくれるはずもない。両頬に手を添えられ、食べられてしまうと錯覚するようなキスが下りてくる。二度、三度、合わさった唇を食むようにして彼は私の唇をこじ開けた。
舌が触れ合う過剰な切なさに遠くなっていた意識は……、突然、唇の端に走った痛みで引き戻された。
「っ!……いった……」
「あ、れ……? 悪ぃ、」
尖った犬歯を光らせながら悪びれずに「早まった」と笑う彼が、余裕のなさそうな息遣いで私に迫る。
「もう、限界……。いい?」
ここまで焦らして、弄んできたのは二口くんなのに、自分が限界になったからって求めてくるのは、調子が良すぎない? 散々振り回された身としては、ちょっと意地悪してみたくもなる。
「……い、や」
ゆっくりと、目の前に迫った二口くんの瞳を見つめながら言う。一瞬驚いた顔をする彼に微笑みかけてみせると、彼も目を赤く光らせて笑う。吸われる、と本能的に理解して目を閉じた刹那、彼は首筋に噛みついてきた。