Second grade of Highschool
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君の口付けにて融解
保健室のドアは二口くんが開けてくれた。
「碓井ちゃーん、いるー?」
二口くんの声かけに返事はない。保健の碓井先生は不在のようだった。
彼は私をキャスターのついた丸椅子に座らせると、戸棚から救急箱を持ってくる。慣れた手つきで救急箱を開けてガーゼと包帯を取り出し、私に向き直った。
「手、出して」
タオルを恐る恐る外す。血は止まりつつあるが完全ではない。
碓井先生のいない保健室に二口くんと二人。昨日もそうだった。
ここで、何があったんだっけ……?
「ちょっと、見せて」
声をかけられてはっとなる。今言われた言葉を引っ張り出して、素直に傷ついた方の手を差し出す。
でも、二口くん、傷口苦手だったはずじゃ……。
そんな心配をよそに彼は平然と私の手をとる。
形のいい唇が弧を描く仕草に、既視感を覚えたその時止血が完全ではない傷口から血が流れた。あわてて押さえようと私が手を伸ばすのより早く、二口くんが自分の口に私の指先をふくむ。
「っ、いたいっ、ん……」
痛みが走ったのは最初だけ。すっと傷口を吸われた後ちろちろと傷口が舐められる。
イヤじゃない……んだけど、恥ずかしくて、舐められている自分の手をとても見ていられない。感触がくすぐったくて背筋がざわつき、変な声が出そうになるのを必死でこらえる。
「……二口、くん……もう、はなして……」
息を殺しながらそう言うと、かすかにリップ音がしてから彼の唇が離れていった。
私の手はまだ彼の手の中にある。全身が心臓になったみたいにどくんどくんいってる。こんなんじゃ止まる血も止まらない気がする。
彼が私の方へ差し出すように手を放す。目の前に返された手を見ると、
「え?」
傷口は……消えていた。
痛みもない。
その時、私の頭からベールがはがれるように、昨日のことが記憶として蘇った。
昨日。
この場所で。
私は、彼に血を吸われた。
無意識に椅子のキャスターを引いて彼から遠ざかる。
信じられない気持ちで二口くんを見ると、どこか寂しそうに彼は笑う。
「思い出した?」
私は……。
黙ってうなずいた。
「俺が結城の血を吸ったのは2回。覚えてる?」
「昨日のは……思い出した」
何で今まで忘れていたんだろう。自分が信じられなくて無意識に首筋に手をあてる。
彼がそう言うってことは、昨日のが2回目?
1回目はいつのことなんだろう……。
「吸った後の傷口は舐めればふさがる。その応用で、ある程度の傷なら俺が舐めて治すことができる」
何かを諳んじる様に彼が説明する。
ああ、そうなんだ、昨日の首と今の指に起きたことに理屈はつけられたけれど、うまく事態を飲み込めない。
「これはカモフラージュでつけとく」
そう言って私の指にガーゼを当てる。
あんなに大騒ぎして教室から出たくせに、保健室に行っただけで傷が消えていたら何かを怪しまれるだろうと頭の片隅で思う。
「俺は、俗に言う『吸血鬼』ってヤツ」
包帯を巻きながら何でもないことのようにとんでもないことを言う。
吸血鬼? そんなものが実在するの?
信じられない気持ちで彼の顔を見る。
私の視線に気づいた二口くんは、どこかすまなそうな顔で微笑んだ。
……冗談を言っているように見えない。笑って流すべきなのかもしれないけど、自分の身の上に起きたことと照らし合わせるとそれで説明がついてしまうことが怖い。
「キュウケツショウドウっていうのがあるんだけど、今は基本的に薬で抑えることができる」
『吸血衝動』という聞きなれない言葉を漢字変換するのに少し時間がかかった。
……その薬には心当たりがある。二口くんのバッグに入っていた茶色の小瓶。あれは、その衝動を抑えるためのものだったんだ……。
「でも……。どうしても、ダメなときもある」
包帯の端を折りたたみテープを貼る。「はい、出来上がり」と言うけれど、彼は私の手を離してくれなかった。
そうしながら二口くんは次の言葉を出すのに迷っているようだった。
「……ぶっちゃけると、吸血衝動は、性欲に似ている」
存在を確かめられるように指の先端をきゅっと握られた。その部分から電流が走ったようだった。
「だから、その衝動が起きる時に……好きな人や付き合ってる奴がいると、そいつがターゲットになる」
彼は私の指先を見つめていた。
そうして自分が巻いた包帯の出来を確かめるようにした後、顔を上げて私と目を合わせた。
こちらの心の奥まで見透かすような瞳に心臓がドキッとした。
「結城のこと、好きだっていうのは嘘じゃない……」
二口くんは私の手を自分の口元まで持っていった。
心拍数が上がっていく。自分の心臓の音しか聞こえない。触れた指先から私の心臓の高鳴りはきっと伝わってしまっているだろう。
「だけど……。だから、結城は俺に近づくと……俺の餌食になる」
二口くんが喋ると彼の唇が指に触れる。背筋がぞくっとする。
それでも私は手を引けない。
そのまま指に噛みつかれてしまいそうな、それもおかしくない雰囲気なのに。
私をどうしたいんだろうか。
私はどうしたいんだろう。
二口くんは目を伏せた。自分の唇が私の指に触れていることを今はじめて気がついたように、ふっと笑って、名残惜しそうに唇を押し付ける。
「俺が、『結城と付き合えない』っていうのは主にコレが原因」
指に口づけした後、断ち切るかのように遠ざけ、やるせなさそうに笑って私の手を開放した。
二口くんは立ち上がり救急箱を棚に戻しに行く。
「だから、結城……」
私に背を向けたまま、二口くんが言う。
今までの独白とは違って、そこで初めて二口くんは私を呼んだ。
震える声で私は返す。
「……何? 二口くん?」
「…………。嫌だったら、俺から離れて」
後ろ向きだったから、彼がその言葉をどんな表情で言ったのかわからない。
でも私は、横っ面をはたかれたような衝撃を受けて何も言えなかった。
二口くんはふうっと一回息を吐くと、くるっといつもの顔で振り返る。
「さーて、と、あんまり長居すると保健室で何やってんだよ、って疑われるからな。戻ろ」
「……うん」
私は意味をなさない包帯のついた指を手の中に握り込み、二口くんの後に続いた。
※「First grade of Highschool」「15 いけない空白」のパスワード
『Vampire』
保健室のドアは二口くんが開けてくれた。
「碓井ちゃーん、いるー?」
二口くんの声かけに返事はない。保健の碓井先生は不在のようだった。
彼は私をキャスターのついた丸椅子に座らせると、戸棚から救急箱を持ってくる。慣れた手つきで救急箱を開けてガーゼと包帯を取り出し、私に向き直った。
「手、出して」
タオルを恐る恐る外す。血は止まりつつあるが完全ではない。
碓井先生のいない保健室に二口くんと二人。昨日もそうだった。
ここで、何があったんだっけ……?
「ちょっと、見せて」
声をかけられてはっとなる。今言われた言葉を引っ張り出して、素直に傷ついた方の手を差し出す。
でも、二口くん、傷口苦手だったはずじゃ……。
そんな心配をよそに彼は平然と私の手をとる。
形のいい唇が弧を描く仕草に、既視感を覚えたその時止血が完全ではない傷口から血が流れた。あわてて押さえようと私が手を伸ばすのより早く、二口くんが自分の口に私の指先をふくむ。
「っ、いたいっ、ん……」
痛みが走ったのは最初だけ。すっと傷口を吸われた後ちろちろと傷口が舐められる。
イヤじゃない……んだけど、恥ずかしくて、舐められている自分の手をとても見ていられない。感触がくすぐったくて背筋がざわつき、変な声が出そうになるのを必死でこらえる。
「……二口、くん……もう、はなして……」
息を殺しながらそう言うと、かすかにリップ音がしてから彼の唇が離れていった。
私の手はまだ彼の手の中にある。全身が心臓になったみたいにどくんどくんいってる。こんなんじゃ止まる血も止まらない気がする。
彼が私の方へ差し出すように手を放す。目の前に返された手を見ると、
「え?」
傷口は……消えていた。
痛みもない。
その時、私の頭からベールがはがれるように、昨日のことが記憶として蘇った。
昨日。
この場所で。
私は、彼に血を吸われた。
無意識に椅子のキャスターを引いて彼から遠ざかる。
信じられない気持ちで二口くんを見ると、どこか寂しそうに彼は笑う。
「思い出した?」
私は……。
黙ってうなずいた。
「俺が結城の血を吸ったのは2回。覚えてる?」
「昨日のは……思い出した」
何で今まで忘れていたんだろう。自分が信じられなくて無意識に首筋に手をあてる。
彼がそう言うってことは、昨日のが2回目?
1回目はいつのことなんだろう……。
「吸った後の傷口は舐めればふさがる。その応用で、ある程度の傷なら俺が舐めて治すことができる」
何かを諳んじる様に彼が説明する。
ああ、そうなんだ、昨日の首と今の指に起きたことに理屈はつけられたけれど、うまく事態を飲み込めない。
「これはカモフラージュでつけとく」
そう言って私の指にガーゼを当てる。
あんなに大騒ぎして教室から出たくせに、保健室に行っただけで傷が消えていたら何かを怪しまれるだろうと頭の片隅で思う。
「俺は、俗に言う『吸血鬼』ってヤツ」
包帯を巻きながら何でもないことのようにとんでもないことを言う。
吸血鬼? そんなものが実在するの?
信じられない気持ちで彼の顔を見る。
私の視線に気づいた二口くんは、どこかすまなそうな顔で微笑んだ。
……冗談を言っているように見えない。笑って流すべきなのかもしれないけど、自分の身の上に起きたことと照らし合わせるとそれで説明がついてしまうことが怖い。
「キュウケツショウドウっていうのがあるんだけど、今は基本的に薬で抑えることができる」
『吸血衝動』という聞きなれない言葉を漢字変換するのに少し時間がかかった。
……その薬には心当たりがある。二口くんのバッグに入っていた茶色の小瓶。あれは、その衝動を抑えるためのものだったんだ……。
「でも……。どうしても、ダメなときもある」
包帯の端を折りたたみテープを貼る。「はい、出来上がり」と言うけれど、彼は私の手を離してくれなかった。
そうしながら二口くんは次の言葉を出すのに迷っているようだった。
「……ぶっちゃけると、吸血衝動は、性欲に似ている」
存在を確かめられるように指の先端をきゅっと握られた。その部分から電流が走ったようだった。
「だから、その衝動が起きる時に……好きな人や付き合ってる奴がいると、そいつがターゲットになる」
彼は私の指先を見つめていた。
そうして自分が巻いた包帯の出来を確かめるようにした後、顔を上げて私と目を合わせた。
こちらの心の奥まで見透かすような瞳に心臓がドキッとした。
「結城のこと、好きだっていうのは嘘じゃない……」
二口くんは私の手を自分の口元まで持っていった。
心拍数が上がっていく。自分の心臓の音しか聞こえない。触れた指先から私の心臓の高鳴りはきっと伝わってしまっているだろう。
「だけど……。だから、結城は俺に近づくと……俺の餌食になる」
二口くんが喋ると彼の唇が指に触れる。背筋がぞくっとする。
それでも私は手を引けない。
そのまま指に噛みつかれてしまいそうな、それもおかしくない雰囲気なのに。
私をどうしたいんだろうか。
私はどうしたいんだろう。
二口くんは目を伏せた。自分の唇が私の指に触れていることを今はじめて気がついたように、ふっと笑って、名残惜しそうに唇を押し付ける。
「俺が、『結城と付き合えない』っていうのは主にコレが原因」
指に口づけした後、断ち切るかのように遠ざけ、やるせなさそうに笑って私の手を開放した。
二口くんは立ち上がり救急箱を棚に戻しに行く。
「だから、結城……」
私に背を向けたまま、二口くんが言う。
今までの独白とは違って、そこで初めて二口くんは私を呼んだ。
震える声で私は返す。
「……何? 二口くん?」
「…………。嫌だったら、俺から離れて」
後ろ向きだったから、彼がその言葉をどんな表情で言ったのかわからない。
でも私は、横っ面をはたかれたような衝撃を受けて何も言えなかった。
二口くんはふうっと一回息を吐くと、くるっといつもの顔で振り返る。
「さーて、と、あんまり長居すると保健室で何やってんだよ、って疑われるからな。戻ろ」
「……うん」
私は意味をなさない包帯のついた指を手の中に握り込み、二口くんの後に続いた。
※「First grade of Highschool」「15 いけない空白」のパスワード
『Vampire』