Second grade of Highschool
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心臓を食らうのはあなたであってほしい
「それじゃ二口、ちゃんと結城さん送って行くんだぞ」
「ウィーっす、お疲れさまっス」
「……」
茂庭さんが意味ありげな視線を俺によこしてくるのがくすぐったい。それから茂庭さんは俺の斜め後ろに立つ結城に向かって一つ頷いた。二人のへったくそな目配せに、共有している秘密を感じて軽く嫉妬しそうになってくる。……まあ、それ、俺のことなんだろうけど。
「ハイハイ、野次馬しない、さっさと帰るぞー!」
「ちぇー」とか「じゃあなー二口」とか言いながら、俺をからかう気満々だった部員たちは茂庭さんに背中を押されて校門に向かっていく。結城は緊張した面持ちで、部員たちの後ろ姿を見ていた。
「……じゃあ、俺らも行くか」
最後の一人が門を出て行き、辺りがようやく静かになった頃を見計らって言う。はっとしたように俺の方に向き直る結城。
「う、うん、あの……」
「ん?」
「話が、あるんだけど……」
そう言いながら、門に向かってくる他の部活終わりの生徒にちらりと目線をやる。これから先の話は、万が一にも人には聞かれたくないのだろう。俺も同意見だ。この辺で人が来ないところと言えば……。
ポケットの中を探る。……明日の朝練のカギ当番で良かった。
「あ……。俺、部室に忘れ物した」
「そうなの? 私、待ってた方がいい?」
「いや、結城も来て?」
人目を気にして小芝居を打ったが、ここまで言えば察したらしい。彼女は俺から目を逸らし俯くと、小さな声で「うん……」と言った。
◇◆◇
部室の中に結城を招き入れてから後ろ手で鍵を閉める。最終下校時刻を過ぎて部室にいるのがバレると警備員に通報されるから、電気はつけないでおく。それでも高い位置の窓から月の光が差し込むので真っ暗にはならない。
外から影が見えない位置のベンチに結城を座らせ、俺も座る。すぐ隣。肩が触れるか触れないかの距離。
結城は緊張しているようにも落ち着いているようにも見えた。頭上からの光を浴びて白く浮かび上がる伏目がちな横顔が儚げで綺麗だった。
俺の気持ちはもう伝えてある。だから今は、彼女の気持ちが知りたい。黙って彼女が口を開くのを待つ。
「……私、二口くんが思っているような女の子じゃない」
はじめに彼女が口にしたのはそんな言葉だった。
俺が思っている結城ってなんだろう。優しくて、しっかりしていて、母親思いで、薬剤師になりたいという夢をあきらめようとしている。そして、俺のことが、好きな女の子。
「他の子と話してたら嫉妬もするし、私以外に触れるのは……見たくないなとか、嫌だって思う」
続いたのは思いもよらない言葉だったけれど、どちらにも心当たりがあるので胸が痛い。それに対する彼女の気持ちを初めて聞かされて、嫉妬なんてらしくないと思うのと同時に、ちょっと嬉しく思っている俺ってホント最低、と心の中で苦笑する。
「……私のことを好きにさせるためなら、なんだってしようと思うよ」
彼女は小さく、だけど俺にはちゃんと届く声で続けた。
薄暗い密室で、男と二人っきりの時に話していいことではないと思う。彼女の俺への恋心はもっと、淡い感じだと思っていた。
「自分に……使える武器があるならなんだって使う」
彼女はそっと両手で俺の顔を挟むようにして顔を近づける。
こんなことを言ってるくせに、瞳が綺麗で真っ直ぐすぎるからそのギャップにおかしくなりそうだ。想定以上の生々しい欲が俺に向けられていて、胸の奥が痛くなってくる。
俺は、黙って彼女を見つめ返した。そうして、彼女がどうするのかを見届けたかった。こちらに引きずり込んで汚してはいけないと遠ざけていた存在が、自分の手元まで堕ちてきている。俺の方の依存が圧倒的に重いと思ったから、彼女がどれだけ俺に執着してくれるのかがどうしても見たい。
彼女の震える手に柔らかく力がこもる。俺と合わせていた彼女の瞳がそっと閉じられ逸れていく。
そうして彼女の唇は、俺の唇の横を掠めて、俺の頬にそっと口づけた。
「二口くん、好き」
頬から耳元への唇の移動の道すがら、直接鼓膜に届くように囁かれる。言葉が伝わる速度で俺の心臓が軋んだ。
正面から彼女の顔を見る。愛おしそうに細められた目から零れ落ちる涙が月明りに照らされて輝く。
その雫の美しさ、俺を好きだと言ってくれる女の子がこんな表情をしていたことを一生忘れないだろう、と思う。
涙をそのままにしながら彼女は妖艶に笑う。
「もっと私の血の虜になってよ」
俺の両頬から手が離れようとするのが嫌で、彼女の手の上に俺の手を重ねる。
「……もう、とっくに虜だって」
「だめ、そんなんじゃ。……もっと」
それなのに、彼女はもっと上を要求する。
「二口くんが、私の血、好きなら」
そう噛みしめるように言うと、彼女は全身を使って俺の身体を抱きしめた。
「私の全部、吸っていいよ」
俺の方が執着しているはずだったのに、彼女はなりふり構わずに俺を引きずり込もうとする。
「……もったいないから、そんなことしねぇよ」
「それぐらい、二口くんのことが好きなの」
かみ合わない会話。
やっと捕えたと思っていたのに、囚われたのは俺の方だったということに気がついて、ゾクゾクする。
もう、逃げられない。とんでもない女の子に捕まってしまった。
それなのに、俺の背中に回った腕が震えているギャップに征服欲を刺激される。
「だから……」
彼女はそう言って滑らせるように俺の耳元に唇を寄せる。
私を吸って。舐めて。
誘ってるとしか言いようのない言葉を耳元で囁かれて箍が外れそうになる。
どうにか自分の衝動を抑えて、もう一度彼女の顔を見る。
「いいよ……」
そう言って俺に首筋を差し出す。
俺は本能と彼女に導かれるまま、素直に首筋に唇を這わせた。牙で、彼女の首筋をさぐる。
彼女の身体が緊張で強ばった瞬間に牙を刺し込む俺は、我ながらひどい男だと思う。
「あ……っ」
かすかな抗議を含んだ、消え入りそうな声。
甘い。美味しい。ずっと吸っていたい。離れたくない。
そんなことを思いながら唇を離す矛盾。
支えの効かなくなった彼女の身体をきつく抱きしめる。
苦しそうに目を潤ませた彼女が、息も絶え絶えに、俺に呪いの言葉をぶつける。
「こんなことまでして、浮気、なんかしたら許さないから……」
「絶対、しない」
即答。
するわけ、ねーだろ。そう口の中だけで言い、彼女の耳元に唇を寄せる。
「もう、離さないから。覚悟してて」
これは誓いであり呪いのお返しだ。
目を閉じた彼女が薄く微笑むのを確認して、俺は祈るように彼女の首筋に舌を這わせた。
「それじゃ二口、ちゃんと結城さん送って行くんだぞ」
「ウィーっす、お疲れさまっス」
「……」
茂庭さんが意味ありげな視線を俺によこしてくるのがくすぐったい。それから茂庭さんは俺の斜め後ろに立つ結城に向かって一つ頷いた。二人のへったくそな目配せに、共有している秘密を感じて軽く嫉妬しそうになってくる。……まあ、それ、俺のことなんだろうけど。
「ハイハイ、野次馬しない、さっさと帰るぞー!」
「ちぇー」とか「じゃあなー二口」とか言いながら、俺をからかう気満々だった部員たちは茂庭さんに背中を押されて校門に向かっていく。結城は緊張した面持ちで、部員たちの後ろ姿を見ていた。
「……じゃあ、俺らも行くか」
最後の一人が門を出て行き、辺りがようやく静かになった頃を見計らって言う。はっとしたように俺の方に向き直る結城。
「う、うん、あの……」
「ん?」
「話が、あるんだけど……」
そう言いながら、門に向かってくる他の部活終わりの生徒にちらりと目線をやる。これから先の話は、万が一にも人には聞かれたくないのだろう。俺も同意見だ。この辺で人が来ないところと言えば……。
ポケットの中を探る。……明日の朝練のカギ当番で良かった。
「あ……。俺、部室に忘れ物した」
「そうなの? 私、待ってた方がいい?」
「いや、結城も来て?」
人目を気にして小芝居を打ったが、ここまで言えば察したらしい。彼女は俺から目を逸らし俯くと、小さな声で「うん……」と言った。
◇◆◇
部室の中に結城を招き入れてから後ろ手で鍵を閉める。最終下校時刻を過ぎて部室にいるのがバレると警備員に通報されるから、電気はつけないでおく。それでも高い位置の窓から月の光が差し込むので真っ暗にはならない。
外から影が見えない位置のベンチに結城を座らせ、俺も座る。すぐ隣。肩が触れるか触れないかの距離。
結城は緊張しているようにも落ち着いているようにも見えた。頭上からの光を浴びて白く浮かび上がる伏目がちな横顔が儚げで綺麗だった。
俺の気持ちはもう伝えてある。だから今は、彼女の気持ちが知りたい。黙って彼女が口を開くのを待つ。
「……私、二口くんが思っているような女の子じゃない」
はじめに彼女が口にしたのはそんな言葉だった。
俺が思っている結城ってなんだろう。優しくて、しっかりしていて、母親思いで、薬剤師になりたいという夢をあきらめようとしている。そして、俺のことが、好きな女の子。
「他の子と話してたら嫉妬もするし、私以外に触れるのは……見たくないなとか、嫌だって思う」
続いたのは思いもよらない言葉だったけれど、どちらにも心当たりがあるので胸が痛い。それに対する彼女の気持ちを初めて聞かされて、嫉妬なんてらしくないと思うのと同時に、ちょっと嬉しく思っている俺ってホント最低、と心の中で苦笑する。
「……私のことを好きにさせるためなら、なんだってしようと思うよ」
彼女は小さく、だけど俺にはちゃんと届く声で続けた。
薄暗い密室で、男と二人っきりの時に話していいことではないと思う。彼女の俺への恋心はもっと、淡い感じだと思っていた。
「自分に……使える武器があるならなんだって使う」
彼女はそっと両手で俺の顔を挟むようにして顔を近づける。
こんなことを言ってるくせに、瞳が綺麗で真っ直ぐすぎるからそのギャップにおかしくなりそうだ。想定以上の生々しい欲が俺に向けられていて、胸の奥が痛くなってくる。
俺は、黙って彼女を見つめ返した。そうして、彼女がどうするのかを見届けたかった。こちらに引きずり込んで汚してはいけないと遠ざけていた存在が、自分の手元まで堕ちてきている。俺の方の依存が圧倒的に重いと思ったから、彼女がどれだけ俺に執着してくれるのかがどうしても見たい。
彼女の震える手に柔らかく力がこもる。俺と合わせていた彼女の瞳がそっと閉じられ逸れていく。
そうして彼女の唇は、俺の唇の横を掠めて、俺の頬にそっと口づけた。
「二口くん、好き」
頬から耳元への唇の移動の道すがら、直接鼓膜に届くように囁かれる。言葉が伝わる速度で俺の心臓が軋んだ。
正面から彼女の顔を見る。愛おしそうに細められた目から零れ落ちる涙が月明りに照らされて輝く。
その雫の美しさ、俺を好きだと言ってくれる女の子がこんな表情をしていたことを一生忘れないだろう、と思う。
涙をそのままにしながら彼女は妖艶に笑う。
「もっと私の血の虜になってよ」
俺の両頬から手が離れようとするのが嫌で、彼女の手の上に俺の手を重ねる。
「……もう、とっくに虜だって」
「だめ、そんなんじゃ。……もっと」
それなのに、彼女はもっと上を要求する。
「二口くんが、私の血、好きなら」
そう噛みしめるように言うと、彼女は全身を使って俺の身体を抱きしめた。
「私の全部、吸っていいよ」
俺の方が執着しているはずだったのに、彼女はなりふり構わずに俺を引きずり込もうとする。
「……もったいないから、そんなことしねぇよ」
「それぐらい、二口くんのことが好きなの」
かみ合わない会話。
やっと捕えたと思っていたのに、囚われたのは俺の方だったということに気がついて、ゾクゾクする。
もう、逃げられない。とんでもない女の子に捕まってしまった。
それなのに、俺の背中に回った腕が震えているギャップに征服欲を刺激される。
「だから……」
彼女はそう言って滑らせるように俺の耳元に唇を寄せる。
私を吸って。舐めて。
誘ってるとしか言いようのない言葉を耳元で囁かれて箍が外れそうになる。
どうにか自分の衝動を抑えて、もう一度彼女の顔を見る。
「いいよ……」
そう言って俺に首筋を差し出す。
俺は本能と彼女に導かれるまま、素直に首筋に唇を這わせた。牙で、彼女の首筋をさぐる。
彼女の身体が緊張で強ばった瞬間に牙を刺し込む俺は、我ながらひどい男だと思う。
「あ……っ」
かすかな抗議を含んだ、消え入りそうな声。
甘い。美味しい。ずっと吸っていたい。離れたくない。
そんなことを思いながら唇を離す矛盾。
支えの効かなくなった彼女の身体をきつく抱きしめる。
苦しそうに目を潤ませた彼女が、息も絶え絶えに、俺に呪いの言葉をぶつける。
「こんなことまでして、浮気、なんかしたら許さないから……」
「絶対、しない」
即答。
するわけ、ねーだろ。そう口の中だけで言い、彼女の耳元に唇を寄せる。
「もう、離さないから。覚悟してて」
これは誓いであり呪いのお返しだ。
目を閉じた彼女が薄く微笑むのを確認して、俺は祈るように彼女の首筋に舌を這わせた。