Second grade of Highschool
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この行為に名前をつけるならば愛だろう
ガラガラっと保健室のドアを開けた。碓井先生はまだいないようだ。
無人の保健室を突っ切りベッドを囲むカーテンに向かう。
一番手前のカーテンをそっとずらす。
「碓井せんせー? もう少し休んだらいけるから、ちょっとほっといて、」
「二口くん、あの、これ……?」
そこまで言いかけたところで、ベッドの淵で腰を折って頭を抱えていた二口くんが、はっとしたようにこちらを見る。
その彼の顔を見て、息をのんだ。
瞳が……赤い。
「戻って来るなって言っただろ!」
強い口調に足がすくんでしまった。体勢はそのままでこちらを睨みつける二口くん。怒っているの……?
「……何で来たんだよ」
絞りだすように発せられた声。頭をゆらりともち上げてこちらを見る二口くんの顔色はさっきよりも白い。唇の赤とのコントラストが鮮やかだった。
立ち上がった彼に、私が後ずさりする間もなく、右腕を掴まれた。その力は強い。
「……二口くんが、心配だからだよ」
目を合わせるのが怖くて、視線を彼のボタンの開いた胸のあたりにやりながら答えると、彼の両手が私の頬を包んだ。思いのほか優しい、有無を言わさない力で二口くんの赤い目と合わせられる。
「何で、俺のことが心配なの?」
冷たい声。
なのに。
声とは裏腹に、その赤い目は縋り付くように私を見ていた。
「ねぇ、なんで?」
答えない私に再度問うてくる。
なんでって……何で、そんなに二口くんは不安そうなの?
ごくり、とつばを飲み込む。追い詰められているのは私なのか二口くんなのか、わからなくなる。
それでも先にこの状態に耐えられなくなったのは私の方だった。
何で、二口くんのことが心配なのかって、そんなの、
「そんなの……、二口くんが……好きだからだよ」
その瞬間、二口くんの瞳孔が開いた気がした。
「…………」
さっき彼に掴まれた右手を握りしめる。こんな形で、流されるような告白なんてしたくなかったのに……。
顔にあった手が両肩に降りてくる。振りほどくことも出来たけど、されるがまま動けなかった。二口くんは何も言わない。そして私をそっとベッド側に追いやり、淵に足がぶつかった私が腰を落とすと、そのまま彼も横に座り、覆いかぶさるように近づいてくる。
「ふた、くちくん?」
「大丈夫、そういうんじゃ、ない」
目が……赤い。二口くんが口の端をつり上げて笑うのだけれど、
「……こわいよ、二口くん……」
呟くような私の声に反応したのか、彼の赤い目がきらっと光る。
その瞬間、金縛りにあったように動けなくなった。
二口くんの手が私の背中に回り自分の方へぐっと引き寄せる。体温は低かったけれど、ちゃんと温もりを感じられる。抱きしめられているんだ、と混乱した。
「俺も、結城のことが、好きだよ」
耳元で甘く囁かれ、心臓が痛いくらいに軋む。
「え……」
「ずっと。初めて会った時からずっと好き……」
言葉の意味と彼の身体の近さに、顔と耳に熱が急速に集まって来る。
こんなに近くに二口くんを感じたことがなくて、身体を動かすことができない。
硬直した私の首筋に、私を動けなくさせる言葉を吐いた唇が降りてくる。
ちゅっと口づけられて、その官能的なしびれにくらっとしたのも束の間。
「ぐっ、……」
突然首筋に痛みが走った。私の口から声にならない悲鳴が漏れる。思わず彼の腕を爪を立てるように握りしめた。
ふ、二口くん?
二口くんは私の首筋に顔を埋めている。
首?
首に刺さった何かから吸いつかれる感覚。
噛み……つかれてる?
……ああ、そうか。
唐突に、理解できた。
これ……首から、血を吸われてるんだ……。
そう認識した瞬間から目の前が白黒になっていく。
力が抜けていく私の身体は彼に優しく抱きとめられた。
不思議と、恐怖は感じない。
『ひどいことをされている』という感覚よりも、『好きな人に抱きしめられている』というのが私の中で大きいんだと、白黒の世界の中で他人事のように思う。
……前にも、こんなことがあったような気がする。いつだったっけ。
でも。
私の血が必要なら、それでいい、と最後の力を手放して彼に体を預けると、ずるっと首から何かが抜ける感覚がした。
「………あ……」
ちゅっと音をたてて彼の唇が離れていく。
突然襲ってきた喪失感にわけがわからなくなった。
もともと私の中にあったモノじゃないのに、ただ元の状態に戻っただけなのに、なんでこんなに寂しくなるのか、わからない。
でも、このままだと、私は……死んじゃう?
「大丈夫、これから傷口塞ぐから」
かすんでいく視界での片隅で、心配そうな二口くんの顔が見える。顔色は……さっきよりも良さそうだ。
傷口……、私に傷があるんだ。
二口くんは大丈夫って言った。
ってことは私、死なない?
酸素を求めて唇がわななく。
「傷口を塞ぐと、このことも忘れる」
忘れるのは、私?
私、このこと、忘れちゃうんだ……。
二口くんの、表情は辛そうだった。
「ごめん、結城……ありがとう」
その言葉で、二口くんが私が保健室に戻ってきた時に怒った理由がわかった。
本当は私の血を吸いたくなかったんだ……。
二口くんは……やさしいんだね。
笑いかけようとしても力が入らない。それでも口の端だけでも必死に動かそうとしていたら、二口くんは一瞬、泣きそうな顔をした。そしてそれを隠すように私の身体を抱きしめた。
首筋に何かが這う感触。唇?違うこれは……。
「っ……ん……」
ちろちろと傷口の上を動く彼の舌が当たる箇所の痛みが、次第にくすぐったさに代わっていく。その部分の皮膚の引きつりを感じながら頭の中が白くかすんで行く。
白く、広がっていく……。
なんで……
何で、二口くんが私の首を舐めてるの?
「ひ、ひぃやぁあ!」
自分の口から出た声にびっくりしつつも慌てて飛びのく。
「ふ、二口くん、なっなっなっ、何?!」
手で押さえた首が、熱をもってどっくんどっくんいってる。
二口くんは涼しい顏だった。
彼の舌の感触が生々しく首筋に残る。
「んー? 結城の首筋がおいしそうだったから、味見?」
そう言って、赤い舌をペロっと出して笑う。
「ななな、なに言ってるの?」
首筋を抑える。そこの下にある脈が、信じられないぐらい速い速度でどくどく言ってる。
あれ……?何でこんなことになったんだっけ?
……二口くんが体調悪くなったって聞いて、保健室に連れて来たんだ。で、バッグを取ってきたら……。
その後から、こうなったところまでの記憶がない。
「え、え? あれ? どうして?」
頭に手を当てる。保健室に来て……、カーテンを開けて……。そっからの記憶がすっぽりと抜けている。
混乱のままに立ち上がると、くらっと立ち眩みがした。
「大丈夫か?」
慌てた二口くんが、手を貸してくれて、私は彼の腕の中におさまった。ちゃんと立つことができない私を彼は隣にもう一度座らせる。
……こんなこと、前にもあった気がする。でも……。どうしても思い出せない。
「結城が望めば、そのうち思い出すよ」
私の肩を落ち着かせるようにたたきながら、見透かしたように二口くんが言う。
「な、何を?」
私、何を忘れているんだろう……?
口角を上げようとしてもひきつってしまう私の顔を見て、二口くんはどことなく寂しそうに笑うと、それきり答えてくれなかった。
ガラガラっと保健室のドアを開けた。碓井先生はまだいないようだ。
無人の保健室を突っ切りベッドを囲むカーテンに向かう。
一番手前のカーテンをそっとずらす。
「碓井せんせー? もう少し休んだらいけるから、ちょっとほっといて、」
「二口くん、あの、これ……?」
そこまで言いかけたところで、ベッドの淵で腰を折って頭を抱えていた二口くんが、はっとしたようにこちらを見る。
その彼の顔を見て、息をのんだ。
瞳が……赤い。
「戻って来るなって言っただろ!」
強い口調に足がすくんでしまった。体勢はそのままでこちらを睨みつける二口くん。怒っているの……?
「……何で来たんだよ」
絞りだすように発せられた声。頭をゆらりともち上げてこちらを見る二口くんの顔色はさっきよりも白い。唇の赤とのコントラストが鮮やかだった。
立ち上がった彼に、私が後ずさりする間もなく、右腕を掴まれた。その力は強い。
「……二口くんが、心配だからだよ」
目を合わせるのが怖くて、視線を彼のボタンの開いた胸のあたりにやりながら答えると、彼の両手が私の頬を包んだ。思いのほか優しい、有無を言わさない力で二口くんの赤い目と合わせられる。
「何で、俺のことが心配なの?」
冷たい声。
なのに。
声とは裏腹に、その赤い目は縋り付くように私を見ていた。
「ねぇ、なんで?」
答えない私に再度問うてくる。
なんでって……何で、そんなに二口くんは不安そうなの?
ごくり、とつばを飲み込む。追い詰められているのは私なのか二口くんなのか、わからなくなる。
それでも先にこの状態に耐えられなくなったのは私の方だった。
何で、二口くんのことが心配なのかって、そんなの、
「そんなの……、二口くんが……好きだからだよ」
その瞬間、二口くんの瞳孔が開いた気がした。
「…………」
さっき彼に掴まれた右手を握りしめる。こんな形で、流されるような告白なんてしたくなかったのに……。
顔にあった手が両肩に降りてくる。振りほどくことも出来たけど、されるがまま動けなかった。二口くんは何も言わない。そして私をそっとベッド側に追いやり、淵に足がぶつかった私が腰を落とすと、そのまま彼も横に座り、覆いかぶさるように近づいてくる。
「ふた、くちくん?」
「大丈夫、そういうんじゃ、ない」
目が……赤い。二口くんが口の端をつり上げて笑うのだけれど、
「……こわいよ、二口くん……」
呟くような私の声に反応したのか、彼の赤い目がきらっと光る。
その瞬間、金縛りにあったように動けなくなった。
二口くんの手が私の背中に回り自分の方へぐっと引き寄せる。体温は低かったけれど、ちゃんと温もりを感じられる。抱きしめられているんだ、と混乱した。
「俺も、結城のことが、好きだよ」
耳元で甘く囁かれ、心臓が痛いくらいに軋む。
「え……」
「ずっと。初めて会った時からずっと好き……」
言葉の意味と彼の身体の近さに、顔と耳に熱が急速に集まって来る。
こんなに近くに二口くんを感じたことがなくて、身体を動かすことができない。
硬直した私の首筋に、私を動けなくさせる言葉を吐いた唇が降りてくる。
ちゅっと口づけられて、その官能的なしびれにくらっとしたのも束の間。
「ぐっ、……」
突然首筋に痛みが走った。私の口から声にならない悲鳴が漏れる。思わず彼の腕を爪を立てるように握りしめた。
ふ、二口くん?
二口くんは私の首筋に顔を埋めている。
首?
首に刺さった何かから吸いつかれる感覚。
噛み……つかれてる?
……ああ、そうか。
唐突に、理解できた。
これ……首から、血を吸われてるんだ……。
そう認識した瞬間から目の前が白黒になっていく。
力が抜けていく私の身体は彼に優しく抱きとめられた。
不思議と、恐怖は感じない。
『ひどいことをされている』という感覚よりも、『好きな人に抱きしめられている』というのが私の中で大きいんだと、白黒の世界の中で他人事のように思う。
……前にも、こんなことがあったような気がする。いつだったっけ。
でも。
私の血が必要なら、それでいい、と最後の力を手放して彼に体を預けると、ずるっと首から何かが抜ける感覚がした。
「………あ……」
ちゅっと音をたてて彼の唇が離れていく。
突然襲ってきた喪失感にわけがわからなくなった。
もともと私の中にあったモノじゃないのに、ただ元の状態に戻っただけなのに、なんでこんなに寂しくなるのか、わからない。
でも、このままだと、私は……死んじゃう?
「大丈夫、これから傷口塞ぐから」
かすんでいく視界での片隅で、心配そうな二口くんの顔が見える。顔色は……さっきよりも良さそうだ。
傷口……、私に傷があるんだ。
二口くんは大丈夫って言った。
ってことは私、死なない?
酸素を求めて唇がわななく。
「傷口を塞ぐと、このことも忘れる」
忘れるのは、私?
私、このこと、忘れちゃうんだ……。
二口くんの、表情は辛そうだった。
「ごめん、結城……ありがとう」
その言葉で、二口くんが私が保健室に戻ってきた時に怒った理由がわかった。
本当は私の血を吸いたくなかったんだ……。
二口くんは……やさしいんだね。
笑いかけようとしても力が入らない。それでも口の端だけでも必死に動かそうとしていたら、二口くんは一瞬、泣きそうな顔をした。そしてそれを隠すように私の身体を抱きしめた。
首筋に何かが這う感触。唇?違うこれは……。
「っ……ん……」
ちろちろと傷口の上を動く彼の舌が当たる箇所の痛みが、次第にくすぐったさに代わっていく。その部分の皮膚の引きつりを感じながら頭の中が白くかすんで行く。
白く、広がっていく……。
なんで……
何で、二口くんが私の首を舐めてるの?
「ひ、ひぃやぁあ!」
自分の口から出た声にびっくりしつつも慌てて飛びのく。
「ふ、二口くん、なっなっなっ、何?!」
手で押さえた首が、熱をもってどっくんどっくんいってる。
二口くんは涼しい顏だった。
彼の舌の感触が生々しく首筋に残る。
「んー? 結城の首筋がおいしそうだったから、味見?」
そう言って、赤い舌をペロっと出して笑う。
「ななな、なに言ってるの?」
首筋を抑える。そこの下にある脈が、信じられないぐらい速い速度でどくどく言ってる。
あれ……?何でこんなことになったんだっけ?
……二口くんが体調悪くなったって聞いて、保健室に連れて来たんだ。で、バッグを取ってきたら……。
その後から、こうなったところまでの記憶がない。
「え、え? あれ? どうして?」
頭に手を当てる。保健室に来て……、カーテンを開けて……。そっからの記憶がすっぽりと抜けている。
混乱のままに立ち上がると、くらっと立ち眩みがした。
「大丈夫か?」
慌てた二口くんが、手を貸してくれて、私は彼の腕の中におさまった。ちゃんと立つことができない私を彼は隣にもう一度座らせる。
……こんなこと、前にもあった気がする。でも……。どうしても思い出せない。
「結城が望めば、そのうち思い出すよ」
私の肩を落ち着かせるようにたたきながら、見透かしたように二口くんが言う。
「な、何を?」
私、何を忘れているんだろう……?
口角を上げようとしてもひきつってしまう私の顔を見て、二口くんはどことなく寂しそうに笑うと、それきり答えてくれなかった。