First grade of Highschool
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
呑み込んだ言葉、そのままさよなら
わざわざ茂庭さんが来てくれたのに、たいした情報を持っていないことが申し訳なくなる。
何か気づいたことがあったらすぐに茂庭さんに伝えよう。
そう決意した後、クラスルームからの機械実習室への教室移動があった。私はクラスメイトの後方からついていく。
前から3年生の先輩方が歩いてくる。前の時間に機械実習室を使っていたクラスの人たちだろう。権田先輩がいる。周りに取り巻きのように男の先輩方がついている。私たちは必然的に、端へ避ける。先輩方はこちらに気を遣うこともなくまっすぐ歩いてくる。
前の方にいる二口くんと権田先輩があと数歩ですれ違う。恋人同士の目くばせとか……見たくないな。そう思いながらもなんとなく目で二人を追ってしまう。
やだな、私ストーカーみたい。
権田先輩と二口くんがすれ違う。
え……?
どちらも、知り合いでも何でもない感じで。
お互い目を合わせるどころか、視界に入れもしていなかった。
私より権田先輩の周りの先輩たちがびっくりしていた。ひそひそと戸惑いの声が聞こえる。
「あれ?フタクチだろ?権田お気に入りの」
「『二口くん、超カッコイイ!』って大騒ぎしてたのに、完全無視だったな」
「ヤるだけヤって捨てたんじゃねぇの?」
「飽きたってか?!おっそろしーな、女って」
「いやいや、ヤリ捨てられたんなら権田の方だろ」
「クッソ生意気だな!フタクチくんよぉ」
「ダメダメ、アイツバレー部だから、バックが強ぇって」
「追分ンとこか……、放っとこうぜ」
喧騒の中、私の耳はそこの会話だけを拾う。
わけがわからなかった。
学校では、他人のフリを徹底しているの?
……違う。
先輩はそういうタイプじゃない。わざわざ私の所に来たみたいに、周りに宣言をする人だ。
この違和感は違う。
はじめからなかったことになってる?
二口くんと先輩が付き合ってないことがわかってほっとしてもいいはずなのに、私の心に言いようのない不安がつきまとった。
◇◇◇
このクラスで過ごすのもあと一週間。
相変わらず二口くんとはクラスメイトとしての最低限の会話しかしていない。
避けているつもりはないけれど、そばへも行けない。
彼の方からも来ないから、自分から行かないといけないのに。
それならば。
思い切って聞いてみることにした。
「二口くん」
「ん?」
すぐに振り返ってくれた二口くんは、穏やかな顔で私を見下ろす。微笑んではいてくれてるけれど、前のように全てを受け入れてくれるような快活さはない。
見上げる角度が前よりも急になったと思いながら、言葉を紡ぐ。
「あの、二口くん、身長伸びた?」
「伸びた伸びた。182か3にはなってるはず」
嬉しそうに言う二口くん。何も変わらないように見える。
距離を感じるのは、身長が伸びて単純に私と物理的に遠くなったからなのか。
それとも………心理的な距離なのかな。
「あ、あの、最近、体調が悪いとか、そういうこと、ない?」
恐る恐る切り出してみると二口くんの表情が一気にこわばった。
「え……何で?」
一度瞬きをして、私の方に顔を向ける。心臓が緊張で縮んだ気がする。
その後の言葉が出てこない私に対して、静かな表情だった。
白い、透き通るような肌。
でも。
二口くんって、こんなに色白だったっけ?
「なんか、最近、顔色が白くなったかな、と思って」
「悪い、じゃなくて、白い?」
「う、うん……」
思いついたまま、しどろもどろにそう答えると、
「……夏、焼けたのが落ちてきたんじゃね?」
と、自分の頬に手をあてる。
「そっか、そうだよね……。ごめんね、変なこと聞いて」
前みたいに、上手く話せない。
言えることが何もなくなっている自分に寂しさを覚え、何とか笑顔を作って立ち去ろうとすると、
「結城さ、あの」
「え……何?」
二口くんから呼びかけてくれるなんて思わなかったので、内心の嬉しさを隠しながら振り返る。
呼び止めた二口くんはしばらく私を見つめてから、目を逸らした。
「……なんでも、ない」
「うん……」
お互いに歯に何か挟まったような物言いしかできない。
この煮え切らない会話が、二口くんと私の同じクラスでの最後の会話になってしまった。
わざわざ茂庭さんが来てくれたのに、たいした情報を持っていないことが申し訳なくなる。
何か気づいたことがあったらすぐに茂庭さんに伝えよう。
そう決意した後、クラスルームからの機械実習室への教室移動があった。私はクラスメイトの後方からついていく。
前から3年生の先輩方が歩いてくる。前の時間に機械実習室を使っていたクラスの人たちだろう。権田先輩がいる。周りに取り巻きのように男の先輩方がついている。私たちは必然的に、端へ避ける。先輩方はこちらに気を遣うこともなくまっすぐ歩いてくる。
前の方にいる二口くんと権田先輩があと数歩ですれ違う。恋人同士の目くばせとか……見たくないな。そう思いながらもなんとなく目で二人を追ってしまう。
やだな、私ストーカーみたい。
権田先輩と二口くんがすれ違う。
え……?
どちらも、知り合いでも何でもない感じで。
お互い目を合わせるどころか、視界に入れもしていなかった。
私より権田先輩の周りの先輩たちがびっくりしていた。ひそひそと戸惑いの声が聞こえる。
「あれ?フタクチだろ?権田お気に入りの」
「『二口くん、超カッコイイ!』って大騒ぎしてたのに、完全無視だったな」
「ヤるだけヤって捨てたんじゃねぇの?」
「飽きたってか?!おっそろしーな、女って」
「いやいや、ヤリ捨てられたんなら権田の方だろ」
「クッソ生意気だな!フタクチくんよぉ」
「ダメダメ、アイツバレー部だから、バックが強ぇって」
「追分ンとこか……、放っとこうぜ」
喧騒の中、私の耳はそこの会話だけを拾う。
わけがわからなかった。
学校では、他人のフリを徹底しているの?
……違う。
先輩はそういうタイプじゃない。わざわざ私の所に来たみたいに、周りに宣言をする人だ。
この違和感は違う。
はじめからなかったことになってる?
二口くんと先輩が付き合ってないことがわかってほっとしてもいいはずなのに、私の心に言いようのない不安がつきまとった。
◇◇◇
このクラスで過ごすのもあと一週間。
相変わらず二口くんとはクラスメイトとしての最低限の会話しかしていない。
避けているつもりはないけれど、そばへも行けない。
彼の方からも来ないから、自分から行かないといけないのに。
それならば。
思い切って聞いてみることにした。
「二口くん」
「ん?」
すぐに振り返ってくれた二口くんは、穏やかな顔で私を見下ろす。微笑んではいてくれてるけれど、前のように全てを受け入れてくれるような快活さはない。
見上げる角度が前よりも急になったと思いながら、言葉を紡ぐ。
「あの、二口くん、身長伸びた?」
「伸びた伸びた。182か3にはなってるはず」
嬉しそうに言う二口くん。何も変わらないように見える。
距離を感じるのは、身長が伸びて単純に私と物理的に遠くなったからなのか。
それとも………心理的な距離なのかな。
「あ、あの、最近、体調が悪いとか、そういうこと、ない?」
恐る恐る切り出してみると二口くんの表情が一気にこわばった。
「え……何で?」
一度瞬きをして、私の方に顔を向ける。心臓が緊張で縮んだ気がする。
その後の言葉が出てこない私に対して、静かな表情だった。
白い、透き通るような肌。
でも。
二口くんって、こんなに色白だったっけ?
「なんか、最近、顔色が白くなったかな、と思って」
「悪い、じゃなくて、白い?」
「う、うん……」
思いついたまま、しどろもどろにそう答えると、
「……夏、焼けたのが落ちてきたんじゃね?」
と、自分の頬に手をあてる。
「そっか、そうだよね……。ごめんね、変なこと聞いて」
前みたいに、上手く話せない。
言えることが何もなくなっている自分に寂しさを覚え、何とか笑顔を作って立ち去ろうとすると、
「結城さ、あの」
「え……何?」
二口くんから呼びかけてくれるなんて思わなかったので、内心の嬉しさを隠しながら振り返る。
呼び止めた二口くんはしばらく私を見つめてから、目を逸らした。
「……なんでも、ない」
「うん……」
お互いに歯に何か挟まったような物言いしかできない。
この煮え切らない会話が、二口くんと私の同じクラスでの最後の会話になってしまった。