First grade of Highschool
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ぼくらは魔法が使えない
2月になったある日、制服姿の茂庭さんが1Aの教室へやってきた。
「結城」
「あ、茂庭さん。青根くんですか?二口くんですか?」
そう聞くと茂庭さんは首を振ってちょっと笑う。
「いや、今日は違う。あいつらにはナイショ」
そう言って片目をつぶると口の前で人差し指を立てる。
「ちょっと話せる?」
茂庭さんに連れられたのは中庭だった。
「最近バレー部の調子どうですか」
「ああ、代替わりして、って二口から聞いてない?」
「……今、二口くんとは、ちょっと気まずくて……」
茂庭さんは意外そうな顔をした。
「え……。ケンカでもした?」
「いえ、そういうんじゃないんですけど……」
あれはなんと言ったらいいんだろう。言葉が見つからなくて口ごもってしまう。
「何かあったら聞くけど……」
遠慮がちに聞いてくれたけれど、私は曖昧に笑って頷く。
茂庭さんは察してくれたのだろう。それ以上は聞かないでくれた。
「で、話なんだけど……」
そう切り出した茂庭さんから、物憂げな雰囲気が漂う。
「実は、二口の調子が悪くてさ」
「え?」
「もしかしたら、結城、何か心当たりあるんじゃないかな?と思って」
「……」
心当たりは……というと、私がひっかかっているのはあれしかない。
茂庭さんに聞いてみようか。茂庭さんを見ると、真剣にこちらの様子をうかがっている。
どう話したらいいか。茂庭さんが小首をかしげ「何かある?」と再度聞いてくれたので私は意を決した。
「あの……」
「ん?」
「二口くんって、三年生の先輩と付き合ってますよね?」
茂庭さんは目を丸くする。
「え?そうなの?」
てっきり茂庭さんなら知っていると思ったのに、意外な反応に戸惑う。
「……聞いてませんか?」
「いや、そんな素振りみせないから」
茂庭さんには本当に心当たりがなさそうだった。
どうしよう、と思ったけれど、ここまで言って引っ込めるのもどうかと思う。
「これから話すこと、ここだけの話にしてくれますか?」
「ああ、もちろん」
茂庭さんはすっと真剣な顔になった。
私は手をぎゅっと握りしめて、言葉を探す。
「あの、私、二口くんが、その先輩と……空き教室で一緒にいるところ見てしまって……」
具体的に何をしていたのかはとても話せないけれど『空き教室』というワードで茂庭さんは察してくれたらしい。
「いや……聞いてないけどなー。アイツ、結構そういうのわかりやすいと思ったけど……」
と首をひねる。
二口くんのそういうのが全然わからない私には、茂庭さんに『わかりやすい』と評されているのが意外だった。
男の人同士だと全然違うのかもしれない。私が盲目になっているのか、茂庭さんが鋭いのか、どっちだろう。
「隠し通そうとされたらお手上げだけど、二口はそうじゃないからな……」
茂庭さんは記憶の中の心当たりを探っているのか宙を見つめて考えている。けれどすぐに「うん、ないな」ときっぱりと断言する。
「部活の人にバレるとからかわれるからとかいう理由で、隠れて付き合ってる……とかの可能性は」
あるある的な可能性を茂庭さんに伝えると、茂庭さんはじっと私の顔を見た。
穴のあくほど見つめられて、首をかしげると、
「いや……。それもないと思うなー。二口は露骨に牽制してくる……タイプだよ」
そんなの初耳で驚いた。
「え?そうなんですか?」
「あ、それっぽいってだけだから!俺からはそれしか言えない!」
茂庭さんは慌てて弁解する。
「そうそう、二口さ、教室でどう?」
何かをごまかすように茂庭さんは元の話に軌道修正した。
「授業中すごく寝ているとか?」
「……」
その話はもっと詳しく聞きたかったけど、今は二口くんの体調のことだ。返せる情報を探して、今日の記憶をたどる。
今日は二口くんと話してない。でも、私の方が席が後ろだから視界には入っている。
朝、ホームルーム直前に教室に入った二口くんはいつもと変わらない様子に見えた。
休み時間は男子同士で普通にふざけ合っていた。
授業中。頬杖をついているのは見えた。時折、横顔が見えたけれど、普通に起きていたと思う。
「今日は……特に、いつもと変わりがないように思いました」
「そうか……。他の日で結城が何か気になったことってある?」
もう一度思い出す。
……実は、私と話さなくなってから元気がなさそう、っていうのはずっと思っている。
ただそれは、私と話さない二口くんは元気がない……と思いたい私の汚い願望かもしれない、と思うと、茂庭さんにそのまま伝えることはできなかった。でも元気がないと思った理由なら言える。
「そういえば一週間ぐらい前に、朝食食べるの忘れたとかで、一日机に突っ伏してる日がありました」
日付を具体的に言うと、茂庭さんが把握している二口くんの調子が悪い日と一致したようだ。
「うーん。ただの成長期かな」
「あ、確かに、二口くん、身長伸びたような気がします」
なんとなく、落としどころはそこのような気がした。
茂庭さんもそれで納得したみたいだった。
「ありがとう。それなら、心配しなくてもいいかな。……良かったら、また来月試合あるから、見に来なよ」
二口も出るし、と茂庭さんは微笑む。
「わかりました。ありがとうございます」
3月の日付と場所を私に告げて、茂庭さんは戻っていった。
2月になったある日、制服姿の茂庭さんが1Aの教室へやってきた。
「結城」
「あ、茂庭さん。青根くんですか?二口くんですか?」
そう聞くと茂庭さんは首を振ってちょっと笑う。
「いや、今日は違う。あいつらにはナイショ」
そう言って片目をつぶると口の前で人差し指を立てる。
「ちょっと話せる?」
茂庭さんに連れられたのは中庭だった。
「最近バレー部の調子どうですか」
「ああ、代替わりして、って二口から聞いてない?」
「……今、二口くんとは、ちょっと気まずくて……」
茂庭さんは意外そうな顔をした。
「え……。ケンカでもした?」
「いえ、そういうんじゃないんですけど……」
あれはなんと言ったらいいんだろう。言葉が見つからなくて口ごもってしまう。
「何かあったら聞くけど……」
遠慮がちに聞いてくれたけれど、私は曖昧に笑って頷く。
茂庭さんは察してくれたのだろう。それ以上は聞かないでくれた。
「で、話なんだけど……」
そう切り出した茂庭さんから、物憂げな雰囲気が漂う。
「実は、二口の調子が悪くてさ」
「え?」
「もしかしたら、結城、何か心当たりあるんじゃないかな?と思って」
「……」
心当たりは……というと、私がひっかかっているのはあれしかない。
茂庭さんに聞いてみようか。茂庭さんを見ると、真剣にこちらの様子をうかがっている。
どう話したらいいか。茂庭さんが小首をかしげ「何かある?」と再度聞いてくれたので私は意を決した。
「あの……」
「ん?」
「二口くんって、三年生の先輩と付き合ってますよね?」
茂庭さんは目を丸くする。
「え?そうなの?」
てっきり茂庭さんなら知っていると思ったのに、意外な反応に戸惑う。
「……聞いてませんか?」
「いや、そんな素振りみせないから」
茂庭さんには本当に心当たりがなさそうだった。
どうしよう、と思ったけれど、ここまで言って引っ込めるのもどうかと思う。
「これから話すこと、ここだけの話にしてくれますか?」
「ああ、もちろん」
茂庭さんはすっと真剣な顔になった。
私は手をぎゅっと握りしめて、言葉を探す。
「あの、私、二口くんが、その先輩と……空き教室で一緒にいるところ見てしまって……」
具体的に何をしていたのかはとても話せないけれど『空き教室』というワードで茂庭さんは察してくれたらしい。
「いや……聞いてないけどなー。アイツ、結構そういうのわかりやすいと思ったけど……」
と首をひねる。
二口くんのそういうのが全然わからない私には、茂庭さんに『わかりやすい』と評されているのが意外だった。
男の人同士だと全然違うのかもしれない。私が盲目になっているのか、茂庭さんが鋭いのか、どっちだろう。
「隠し通そうとされたらお手上げだけど、二口はそうじゃないからな……」
茂庭さんは記憶の中の心当たりを探っているのか宙を見つめて考えている。けれどすぐに「うん、ないな」ときっぱりと断言する。
「部活の人にバレるとからかわれるからとかいう理由で、隠れて付き合ってる……とかの可能性は」
あるある的な可能性を茂庭さんに伝えると、茂庭さんはじっと私の顔を見た。
穴のあくほど見つめられて、首をかしげると、
「いや……。それもないと思うなー。二口は露骨に牽制してくる……タイプだよ」
そんなの初耳で驚いた。
「え?そうなんですか?」
「あ、それっぽいってだけだから!俺からはそれしか言えない!」
茂庭さんは慌てて弁解する。
「そうそう、二口さ、教室でどう?」
何かをごまかすように茂庭さんは元の話に軌道修正した。
「授業中すごく寝ているとか?」
「……」
その話はもっと詳しく聞きたかったけど、今は二口くんの体調のことだ。返せる情報を探して、今日の記憶をたどる。
今日は二口くんと話してない。でも、私の方が席が後ろだから視界には入っている。
朝、ホームルーム直前に教室に入った二口くんはいつもと変わらない様子に見えた。
休み時間は男子同士で普通にふざけ合っていた。
授業中。頬杖をついているのは見えた。時折、横顔が見えたけれど、普通に起きていたと思う。
「今日は……特に、いつもと変わりがないように思いました」
「そうか……。他の日で結城が何か気になったことってある?」
もう一度思い出す。
……実は、私と話さなくなってから元気がなさそう、っていうのはずっと思っている。
ただそれは、私と話さない二口くんは元気がない……と思いたい私の汚い願望かもしれない、と思うと、茂庭さんにそのまま伝えることはできなかった。でも元気がないと思った理由なら言える。
「そういえば一週間ぐらい前に、朝食食べるの忘れたとかで、一日机に突っ伏してる日がありました」
日付を具体的に言うと、茂庭さんが把握している二口くんの調子が悪い日と一致したようだ。
「うーん。ただの成長期かな」
「あ、確かに、二口くん、身長伸びたような気がします」
なんとなく、落としどころはそこのような気がした。
茂庭さんもそれで納得したみたいだった。
「ありがとう。それなら、心配しなくてもいいかな。……良かったら、また来月試合あるから、見に来なよ」
二口も出るし、と茂庭さんは微笑む。
「わかりました。ありがとうございます」
3月の日付と場所を私に告げて、茂庭さんは戻っていった。