First grade of Highschool
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忘れたかったと思いながら大事に抱えてゆくのでしょう
『……ご、ゴメン』
私があの現場を見てしまったことを、二口くんは知っている。
誤解があるならば、きっと説明してくれるはず。そう思ったけれど、彼は何も言ってくれなかった。
何事もなかったようにクラスメイトとして接してくれる。
ならば権田先輩が勝利宣言でもしに来るのかな、と思ったけど、それもなかった。
二人が付き合っているという話も聞かない。誰にも言わないで、秘密にしているのだろうか?
何も変わっていない。
何も変わっていないはずなのだけど。
私と二口くんとの間には壁ができてしまっている気がする。
それは私が思っているだけの壁なのか。
彼が意図的に作っている壁なのか。
私からは聞けない。
決定的なことを言われるのが怖い。
彼から言われてしまったのなら、あきらめもつくかもしれない。
でも、自分から、自分にとどめを刺すことはできない。
……そんなモヤモヤを抱えたまま一週間が過ぎてしまった。
相変わらず二口くんとは当たり障りのない話しかできてない。
教室掃除の当番後、ジャン負けで押し付けられて全員分の雑巾を洗っていると、隣にぬっと大きい影が出来た。思わずそちらを見ると、両手にバケツを持った青根くんが立っている。
「いいよ、そこ置いといて」
「……」
青根くんは一度首を振ると、そのまま私の隣に並ぶ。洗うのを手伝ってくれるらしい。彼は手袋をしていなかったので、すすぎをお願いする。
青根くんは最低限の動きと水量ですすぎを行っていく。雑巾を絞った時の出てくる水の量が私の比ではない。干すところまできっちりとしているので、安心して任せることができた。
そういえば、合宿の食事準備を手伝ってくれた時も、青根くんには何の心配もなかった。それに引き換え二口くんは……手がかかったなと思った時、
「二口は」
突然青根くんが口を開いた。思ったことを言い当てられたのかと二重の意味でびっくりする。
思わず彼の方を向いてしまうと、青根くんは私と目を合わせ、一度力強く頷いた。
「結城のことを、大切に思っている」
ざわめきの中、私にだけ聞こえる音量で青根くんは言った。
動揺のあまり倒しそうになったバケツの淵を押し付けるように握りしめる。
「……なんで、わかるの?」
やっとのことで振り絞った声は思いのほか震えていた。
「見ていればわかる」
青根くんは間髪を入れず断言するように返してくる。
彼を見上げると青根くんは私の心を見透かすようにじっと私を見ていた。
だけど、そう言われても……
「……私には、わかんないよ」
青根くんの表情が曇る。彼はそれ以上何も言わなかった。
私は勢いよくバケツに水を放ち、溜まっていく水を見つめる。
時間の経過とともに記憶は薄れていくものだ。私が見たあの光景は幻なんじゃないかとさえ思う。
でも、あの時に感じたショックは薄れずに私の心の奥でくすぶりつづける。
なかったことになんてできなくて、どうしたらいいのかわからない。
水を止め、ぐるぐるっと水を回し、バケツをひっくり返す。
「二口は、結城のことが」
バケツの水をきり終わった時、青根くんが口を開いた。
「大切すぎるんだと……思う」
青根くんは何でそんなことが言えるんだろう。
「そんなことは……」
彼の顔を見上げる。
「ないよ」と続けようとした口は、青根くんがあまりにも真剣な表情をしているので、言葉を発することができなかった。
『……ご、ゴメン』
私があの現場を見てしまったことを、二口くんは知っている。
誤解があるならば、きっと説明してくれるはず。そう思ったけれど、彼は何も言ってくれなかった。
何事もなかったようにクラスメイトとして接してくれる。
ならば権田先輩が勝利宣言でもしに来るのかな、と思ったけど、それもなかった。
二人が付き合っているという話も聞かない。誰にも言わないで、秘密にしているのだろうか?
何も変わっていない。
何も変わっていないはずなのだけど。
私と二口くんとの間には壁ができてしまっている気がする。
それは私が思っているだけの壁なのか。
彼が意図的に作っている壁なのか。
私からは聞けない。
決定的なことを言われるのが怖い。
彼から言われてしまったのなら、あきらめもつくかもしれない。
でも、自分から、自分にとどめを刺すことはできない。
……そんなモヤモヤを抱えたまま一週間が過ぎてしまった。
相変わらず二口くんとは当たり障りのない話しかできてない。
教室掃除の当番後、ジャン負けで押し付けられて全員分の雑巾を洗っていると、隣にぬっと大きい影が出来た。思わずそちらを見ると、両手にバケツを持った青根くんが立っている。
「いいよ、そこ置いといて」
「……」
青根くんは一度首を振ると、そのまま私の隣に並ぶ。洗うのを手伝ってくれるらしい。彼は手袋をしていなかったので、すすぎをお願いする。
青根くんは最低限の動きと水量ですすぎを行っていく。雑巾を絞った時の出てくる水の量が私の比ではない。干すところまできっちりとしているので、安心して任せることができた。
そういえば、合宿の食事準備を手伝ってくれた時も、青根くんには何の心配もなかった。それに引き換え二口くんは……手がかかったなと思った時、
「二口は」
突然青根くんが口を開いた。思ったことを言い当てられたのかと二重の意味でびっくりする。
思わず彼の方を向いてしまうと、青根くんは私と目を合わせ、一度力強く頷いた。
「結城のことを、大切に思っている」
ざわめきの中、私にだけ聞こえる音量で青根くんは言った。
動揺のあまり倒しそうになったバケツの淵を押し付けるように握りしめる。
「……なんで、わかるの?」
やっとのことで振り絞った声は思いのほか震えていた。
「見ていればわかる」
青根くんは間髪を入れず断言するように返してくる。
彼を見上げると青根くんは私の心を見透かすようにじっと私を見ていた。
だけど、そう言われても……
「……私には、わかんないよ」
青根くんの表情が曇る。彼はそれ以上何も言わなかった。
私は勢いよくバケツに水を放ち、溜まっていく水を見つめる。
時間の経過とともに記憶は薄れていくものだ。私が見たあの光景は幻なんじゃないかとさえ思う。
でも、あの時に感じたショックは薄れずに私の心の奥でくすぶりつづける。
なかったことになんてできなくて、どうしたらいいのかわからない。
水を止め、ぐるぐるっと水を回し、バケツをひっくり返す。
「二口は、結城のことが」
バケツの水をきり終わった時、青根くんが口を開いた。
「大切すぎるんだと……思う」
青根くんは何でそんなことが言えるんだろう。
「そんなことは……」
彼の顔を見上げる。
「ないよ」と続けようとした口は、青根くんがあまりにも真剣な表情をしているので、言葉を発することができなかった。