First grade of Highschool
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私たちは同罪である
もやもやを残したまま迎えた次の週。私は3年の先輩から呼び出された。何回か昼休みにうちのクラスに来て二口くんを呼び出していた先輩。
今日二口くんはバレー部のミーティングでいない。それなのに来たんだな、と思ったら呼ばれたのは私だった。
長い髪をなびかせて私の前を歩く権田先輩は人気のない教室へ入った。3年D組。
上級生の教室へ入っていいものか戸惑っていると「入りなさいよ」と中から冷たい高い声で招かれる。
言われるままに教室の中に足を踏み入れる。ほぼ中央の席に座る切れ長の目が鋭く私を見つめる。長い髪が印象的な女の人。正面に立つと座るよう促されるけど、長話をする気はさらさらないので立ったまま後ろで手を組んだ。朝礼の姿勢。
私の頑なな態度に先輩は整えられた眉を困ったように下げた。この表情にやられる人も多いんだろうなと頭の片隅で思う。
「二口くんと付き合ってんの?」
先輩はいきなり切りだした。全身に緊張が走る。
「……いいえ」
「そ。彼、好きな子がいるみたいなんだけど、知ってる?」
「知りません」
遠回しなのか直球なのかわからないから、私も警戒して最低限の言葉で回答する。
「伊達工の子らしいんだけど」
「そうなんですか?」
そうしらばっくれると、先輩はわざとらしくため息をついた。
「あなた、同じクラスで仲がいいって聞いたけど、彼とそういう話、しないの?」
「しませんね」
会話を続けようとしない私にイラついたのか、先輩は口を片方だけ歪ませる。
嘘はついていない。前はともかく、二口くんへの恋心を自覚している今、彼とそういう話は怖くてできない。
だいたいの推測がついた。先輩は二口くんに告白したんだ。そして二口くんは、前に話したような感じで『好きな人がいる』って断ったんだと思う。先輩がわざわざ私のところに来るのはそれぐらいしか理由が考えられない。
「あなた、二口くんのこと好きなの?」
「…………」
いざ直球で来られると言葉に詰まってしまう。思わず先輩を見返す。先輩は、わかってるんだから、と言いたげな勝ち誇った顔をして、私が言葉を発するのを待っていた。
「……私がどう思っているかって関係ありますか?」
私は先輩の質問に答えなかった。
先輩は鼻で笑う。
「ライバルみたいな子がいるんだったら、その子の気持ちも知っときたいじゃない」
なんでこんな当たり前のことを?といった表情だ。
でもそれは違うと思う。先輩は自分の恋愛の事しか考えていないんだ、と思った。
私は心の中でため息をつき、言葉を選ぶ。
「好きです。大切な友達です。それ以上はありません」
「嘘ぉ」
「友達だから、二口くんの気持ちを大事にしたいです」
「それって、私が彼の気持ちを大切にしてないとでも言いたいの?」
努めて穏やかな口調で言い返した言葉に、心外だとでも言いたげに、目を吊り上げられてしまった。
そうとは言えない。言ってない。
けど、先輩。二口くんが好きなら、私に根回しするんじゃなくて彼と向き合って欲しい。二口くんのことを思うなら、『付き合う資格がない』とまで言う二口くんの抱えてるものを解消してあげてよ。
二口くんのことを第一に考えるのなら、私はここでそれを先輩に言うべきなんだろう。でも、言えない。言いたくない。それは……、私が解決してあげたい。先輩なんかに渡したくない。
自分がすごくイヤな女になった気がした。結局、私も、自分のことしか考えていないんだ。
「そういうわけではないですけど……お願いします」
頭を下げる。これが、私の精一杯。……自分の小ささがいやになる。
教室内を沈黙が包む。下げた頭をゆっくり起こすと、権田先輩はまっすぐ私を睨みながら「もう、いいわ」と呟いた。
おざなりに一礼をして戸口に向かう。
「あなた、本気の恋愛したことないでしょ」
「……」
教室を出ようとする私に、静かな声で権田先輩は言った。
もやもやを残したまま迎えた次の週。私は3年の先輩から呼び出された。何回か昼休みにうちのクラスに来て二口くんを呼び出していた先輩。
今日二口くんはバレー部のミーティングでいない。それなのに来たんだな、と思ったら呼ばれたのは私だった。
長い髪をなびかせて私の前を歩く権田先輩は人気のない教室へ入った。3年D組。
上級生の教室へ入っていいものか戸惑っていると「入りなさいよ」と中から冷たい高い声で招かれる。
言われるままに教室の中に足を踏み入れる。ほぼ中央の席に座る切れ長の目が鋭く私を見つめる。長い髪が印象的な女の人。正面に立つと座るよう促されるけど、長話をする気はさらさらないので立ったまま後ろで手を組んだ。朝礼の姿勢。
私の頑なな態度に先輩は整えられた眉を困ったように下げた。この表情にやられる人も多いんだろうなと頭の片隅で思う。
「二口くんと付き合ってんの?」
先輩はいきなり切りだした。全身に緊張が走る。
「……いいえ」
「そ。彼、好きな子がいるみたいなんだけど、知ってる?」
「知りません」
遠回しなのか直球なのかわからないから、私も警戒して最低限の言葉で回答する。
「伊達工の子らしいんだけど」
「そうなんですか?」
そうしらばっくれると、先輩はわざとらしくため息をついた。
「あなた、同じクラスで仲がいいって聞いたけど、彼とそういう話、しないの?」
「しませんね」
会話を続けようとしない私にイラついたのか、先輩は口を片方だけ歪ませる。
嘘はついていない。前はともかく、二口くんへの恋心を自覚している今、彼とそういう話は怖くてできない。
だいたいの推測がついた。先輩は二口くんに告白したんだ。そして二口くんは、前に話したような感じで『好きな人がいる』って断ったんだと思う。先輩がわざわざ私のところに来るのはそれぐらいしか理由が考えられない。
「あなた、二口くんのこと好きなの?」
「…………」
いざ直球で来られると言葉に詰まってしまう。思わず先輩を見返す。先輩は、わかってるんだから、と言いたげな勝ち誇った顔をして、私が言葉を発するのを待っていた。
「……私がどう思っているかって関係ありますか?」
私は先輩の質問に答えなかった。
先輩は鼻で笑う。
「ライバルみたいな子がいるんだったら、その子の気持ちも知っときたいじゃない」
なんでこんな当たり前のことを?といった表情だ。
でもそれは違うと思う。先輩は自分の恋愛の事しか考えていないんだ、と思った。
私は心の中でため息をつき、言葉を選ぶ。
「好きです。大切な友達です。それ以上はありません」
「嘘ぉ」
「友達だから、二口くんの気持ちを大事にしたいです」
「それって、私が彼の気持ちを大切にしてないとでも言いたいの?」
努めて穏やかな口調で言い返した言葉に、心外だとでも言いたげに、目を吊り上げられてしまった。
そうとは言えない。言ってない。
けど、先輩。二口くんが好きなら、私に根回しするんじゃなくて彼と向き合って欲しい。二口くんのことを思うなら、『付き合う資格がない』とまで言う二口くんの抱えてるものを解消してあげてよ。
二口くんのことを第一に考えるのなら、私はここでそれを先輩に言うべきなんだろう。でも、言えない。言いたくない。それは……、私が解決してあげたい。先輩なんかに渡したくない。
自分がすごくイヤな女になった気がした。結局、私も、自分のことしか考えていないんだ。
「そういうわけではないですけど……お願いします」
頭を下げる。これが、私の精一杯。……自分の小ささがいやになる。
教室内を沈黙が包む。下げた頭をゆっくり起こすと、権田先輩はまっすぐ私を睨みながら「もう、いいわ」と呟いた。
おざなりに一礼をして戸口に向かう。
「あなた、本気の恋愛したことないでしょ」
「……」
教室を出ようとする私に、静かな声で権田先輩は言った。