First grade of Highschool
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
だからきっと、あなたも手を伸ばしてね
2年次からの希望コースを提出した一週間後、二口くんはお母さんとの約束を取り付けてくれた。
私は、二口くんが住んでいるというお家の前に立っている。
「FUTAKUCHI」というオシャレな表札がかかっているから間違っていないのはわかる。そこから8段ある階段を上ってようやく玄関に着いた。脇にはテラスが広がっている。
深呼吸してからインターホンを押す。ほどなく「結城?今開ける」と名乗る前に二口くんの声がしてカチャっと鍵の開く音がした。勝手にあけていいの……かな?どうしてもその勇気は出なかったのでそのまま待っていると内側からドアが開いて二口くんが顔を出した。
「悪い、急に仕事が入ったとかで、母さん、家にいないんだけど」
「え?そ、そうなんだ」
心拍数が上がる。お母さんにお会いするっていうのにも緊張していたけれど、これは別の緊張だ。
二口くんと、二口くんの家で、二人っきり?
「終わり次第、帰って来るって言ってる。とりあえず、上がって」
「う、うん」
「俺しかいないけど?」
にっこり笑って追い打ちをかけるのはやめて!
「だ、大丈夫、ご家族が留守だからって、襲わないよ!」
「え?俺、襲われるの?」
◇◇◇
すごい家だ。窓の大きな広いリビングの奥にゆったりとした階段がついていて上の階に上がれるようになっている。こんなモデルルームみたいな造りの優雅な家は初めて見た。
「上の階には俺の部屋があるけど、行ってみる?」
「え?いいの?」
「結城に見てほしいものがある」
階段で上の階へ出た。解放的な吹き抜けと、広い廊下の一部がフリースペースになって本棚がしつらえてあり、奥にドアが並んで二つ、反対側にも別世帯に続くようなドアがある。……この廊下だけで私の家がすっぽり入ってしまいそうだ。
二口くんは廊下を進むと奥側のドアノブに手をかけた。
「ここが、俺の部屋」
ドアを開ける。屋根の形を思わせる斜めの高い天井とベッド上にある天窓が印象的な部屋だった。
紺のカバーがかかった大きなベッド。ノートが開いたまま置かれた机。落ち着いた色でまとめられている。シンプルだけど、二口くんらしい部屋だと思った。
「ここ来て見て」
「ん?」
一見普通の木目のついた壁に見える。
良く見ると、大きな四角の……枠?
「ここ、何かあるの?」
彼は嬉しそうにニヤリと笑うと、枠の端に隠れるようについた取ってに手をかけて前にひっぱる。
「わ、すごい」
そこには、子供が一人が入れそうな空間が広がっていた。
押し入れに見せかけた小さな小部屋。
「小4の時、この家を建てるって話が出て俺は設計士のお兄ちゃんにつきまとってたんだ」
懐かしむように隠し扉の部分をそっと撫でる。
「俺の部屋を作ってくれることになって、リクエストを一つだけ内緒で聞いてくれた。ホントは押し入れになる予定だったんだけど……ここだけ好きにさせてくれた」
「すごい……」
子供の真剣な願いにプロがのってくれたんだ。思わず感動の声がもれる。
「だろ?俺の秘密基地」
二口くんの顔が幼くなった。まるで小さな子供が誇らしげにしているみたいに。
「ま、親には怒られたけど、さ」
そう言ってペロっと舌を出して私の方をまっすぐに見た。今の二口くんの顔に戻る。
「この時から……俺は将来できることなら設計士になりたいと思ってる」
過去ではなく未来を見据える顏。
「そっか……」
二口くんが、私に、本当になりたいものを教えてくれた。その夢が詰まった部屋に私がいられることが嬉しくて、胸がいっぱいになってしまう。
「あれ……結城?」
「ん?」
二口くんが困ったようなびっくりしたような顔で私を見ている。そして私の目元に手を伸ばし、そっと拭った。
「あ……」
無意識のうちに私は泣いていたらしい。
「どうした?結城……」
「うん、なんか、ここに、二口くんの夢が詰まってるんだ、って思ったら何か……」
言葉に詰まってしまう。私は下を向いて涙を拭きながら、でも、今、感じたことを彼に伝えないといけない、と思って顔を上げた。
「ご両親の考えもあるから、私なんかが無責任には言っちゃだめなんだと思うけど……」
「ん?」
「建築コースにした方がいいと思う」
「……」
「なりたいものや夢があって、できる環境とかご両親の理解があるなら、そっちに行ったほうがいいと思う」
二口くんはじっと私を見た。少し考えるようにする。
「結城とは、来年クラス離れるよ」
「うん。離れるのは…そりゃ寂しいよ」
それは私の本音だ。二口くんと同じクラスになりたい。
でも友達と一緒になるならないで、将来後悔してしまうようなことになってほしくない。
「でも、進路はそこに引きずられちゃダメな気がする」
秘密基地を開けてくれた時、私はそこに入っているものが見えてしまった。
小さめのバレーボール。
今の二口くんの体格では着られそうにないユニフォーム。
あとは数冊の本とノート。
もう彼の大きい身体が入るスペースはそこにない。
でも、そのスペースを物置にすることはなく、今の二口くんが本当に気に入っていそうな宝物だけが入っている。秘密基地にいるものは、これだけでいい、っていうのを主張しているみたいだったから。
「友達として言っていいなら……。自分のやりたい方へ進んで欲しいなと思うよ」
そう言って二口くんを見ると、二口くんは秘密基地の中を見つめたまま黙っていた。
「だって、伊達工来た時だって、二口くんはそうしているんじゃない?」
私がそう言うと二口くんははっと何かを思い出したようだった。
「……言われてみれば……そうだよな」
二口くんは迷いが晴れたように眼を輝かせる。
「友達に……すごい助言もらっちゃったな」
そう言いながら二口くんは意地悪気に唇をゆがめる。
「え?ダメ?」
「うーん。もう少し格が欲しいかもな」
「なら親友と……して?」
「アララー?そこ赤くなるの?」
ニヤニヤと笑って私を上から覗き込む。
「だって、そう思ってるのが私だけだったら恥ずかしいし……」
開け放していたままのドアに人の気配がした。
「堅治、こっちにいたのね。お邪魔だったかしら?」
その声に振り返ると、二口くんとよく似た顔(超美人)の女の人がドアの入り口に立っていた。白いパンツスーツが良く似合っている素敵な大人の女性だ。赤いルージュが引かれた唇の端を上げ目を細めて笑う仕草が二口くんにそっくりだった。
「あ、あの、お邪魔しています!」
「あー、あなたが結城友紀ちゃんね」
そう言うと、二口くんのお母さんは、獲物を狙うような目で私を頭の先からつま先までスキャンするように視認する。すっと身体に緊張が走る。家族の方に失礼のないようにとちょっとキレイ目のにしてきて良かったと思った。
「はじめまして、今日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそー。いつも堅治と仲良くしてくれてありがとう」
そして一度目を閉じると息子へにやにやした顔を向ける。
「堅治、こーいうタイプ好きそう」
「はあっ?!余計なコト言ってんなよ、クソババァ!」
二口くんが顔を赤くして怒るので、私もつられて赤面してしまう。
「アンタ、お茶も出さないで、何自分の部屋に連れこんでるのよ」
そう言って二口くんの背中を軽く小突いて、踵を返して階段を降りていく。
私は慌てて彼の机の上に置かせてもらった手土産を持って二口くんのお母さんを追う。
「あ、あの、これうちの近くで美味しいと評判の和菓子です。良かったら……」
手土産を差し出した私の後ろから、二口くんがひょいとのぞき込む。
「白もなかじゃん!めずらしー。結城、これどこの?今度教えて」
「ちょっと堅治、私が頂いたんだから、あんた、もう少し落ち着きなさい」
「先輩で白もなか超好きな人がいるんだよ、今度見せびらかす」
「あーもうもう、アンタ邪魔、先にテーブルについてなさい」
通されたダイニングのつるつるの白テーブルに二口くんと並んで座る。キッチンの方からコーヒーのいい香りが漂ってきた。
「私、運びます」
「じゃあ、それお願い」
カウンター越しに渡されたトレイに置かれた3人分のコーヒーカップをテーブルに運び並べる。サーバーに入っているコーヒーをカップに注ぎ、席について一息ついた。
「じゃあ、お話しましょうか」
私の向かいに座った二口くんのお母さんは、そう言って綺麗に微笑んだ。
2年次からの希望コースを提出した一週間後、二口くんはお母さんとの約束を取り付けてくれた。
私は、二口くんが住んでいるというお家の前に立っている。
「FUTAKUCHI」というオシャレな表札がかかっているから間違っていないのはわかる。そこから8段ある階段を上ってようやく玄関に着いた。脇にはテラスが広がっている。
深呼吸してからインターホンを押す。ほどなく「結城?今開ける」と名乗る前に二口くんの声がしてカチャっと鍵の開く音がした。勝手にあけていいの……かな?どうしてもその勇気は出なかったのでそのまま待っていると内側からドアが開いて二口くんが顔を出した。
「悪い、急に仕事が入ったとかで、母さん、家にいないんだけど」
「え?そ、そうなんだ」
心拍数が上がる。お母さんにお会いするっていうのにも緊張していたけれど、これは別の緊張だ。
二口くんと、二口くんの家で、二人っきり?
「終わり次第、帰って来るって言ってる。とりあえず、上がって」
「う、うん」
「俺しかいないけど?」
にっこり笑って追い打ちをかけるのはやめて!
「だ、大丈夫、ご家族が留守だからって、襲わないよ!」
「え?俺、襲われるの?」
◇◇◇
すごい家だ。窓の大きな広いリビングの奥にゆったりとした階段がついていて上の階に上がれるようになっている。こんなモデルルームみたいな造りの優雅な家は初めて見た。
「上の階には俺の部屋があるけど、行ってみる?」
「え?いいの?」
「結城に見てほしいものがある」
階段で上の階へ出た。解放的な吹き抜けと、広い廊下の一部がフリースペースになって本棚がしつらえてあり、奥にドアが並んで二つ、反対側にも別世帯に続くようなドアがある。……この廊下だけで私の家がすっぽり入ってしまいそうだ。
二口くんは廊下を進むと奥側のドアノブに手をかけた。
「ここが、俺の部屋」
ドアを開ける。屋根の形を思わせる斜めの高い天井とベッド上にある天窓が印象的な部屋だった。
紺のカバーがかかった大きなベッド。ノートが開いたまま置かれた机。落ち着いた色でまとめられている。シンプルだけど、二口くんらしい部屋だと思った。
「ここ来て見て」
「ん?」
一見普通の木目のついた壁に見える。
良く見ると、大きな四角の……枠?
「ここ、何かあるの?」
彼は嬉しそうにニヤリと笑うと、枠の端に隠れるようについた取ってに手をかけて前にひっぱる。
「わ、すごい」
そこには、子供が一人が入れそうな空間が広がっていた。
押し入れに見せかけた小さな小部屋。
「小4の時、この家を建てるって話が出て俺は設計士のお兄ちゃんにつきまとってたんだ」
懐かしむように隠し扉の部分をそっと撫でる。
「俺の部屋を作ってくれることになって、リクエストを一つだけ内緒で聞いてくれた。ホントは押し入れになる予定だったんだけど……ここだけ好きにさせてくれた」
「すごい……」
子供の真剣な願いにプロがのってくれたんだ。思わず感動の声がもれる。
「だろ?俺の秘密基地」
二口くんの顔が幼くなった。まるで小さな子供が誇らしげにしているみたいに。
「ま、親には怒られたけど、さ」
そう言ってペロっと舌を出して私の方をまっすぐに見た。今の二口くんの顔に戻る。
「この時から……俺は将来できることなら設計士になりたいと思ってる」
過去ではなく未来を見据える顏。
「そっか……」
二口くんが、私に、本当になりたいものを教えてくれた。その夢が詰まった部屋に私がいられることが嬉しくて、胸がいっぱいになってしまう。
「あれ……結城?」
「ん?」
二口くんが困ったようなびっくりしたような顔で私を見ている。そして私の目元に手を伸ばし、そっと拭った。
「あ……」
無意識のうちに私は泣いていたらしい。
「どうした?結城……」
「うん、なんか、ここに、二口くんの夢が詰まってるんだ、って思ったら何か……」
言葉に詰まってしまう。私は下を向いて涙を拭きながら、でも、今、感じたことを彼に伝えないといけない、と思って顔を上げた。
「ご両親の考えもあるから、私なんかが無責任には言っちゃだめなんだと思うけど……」
「ん?」
「建築コースにした方がいいと思う」
「……」
「なりたいものや夢があって、できる環境とかご両親の理解があるなら、そっちに行ったほうがいいと思う」
二口くんはじっと私を見た。少し考えるようにする。
「結城とは、来年クラス離れるよ」
「うん。離れるのは…そりゃ寂しいよ」
それは私の本音だ。二口くんと同じクラスになりたい。
でも友達と一緒になるならないで、将来後悔してしまうようなことになってほしくない。
「でも、進路はそこに引きずられちゃダメな気がする」
秘密基地を開けてくれた時、私はそこに入っているものが見えてしまった。
小さめのバレーボール。
今の二口くんの体格では着られそうにないユニフォーム。
あとは数冊の本とノート。
もう彼の大きい身体が入るスペースはそこにない。
でも、そのスペースを物置にすることはなく、今の二口くんが本当に気に入っていそうな宝物だけが入っている。秘密基地にいるものは、これだけでいい、っていうのを主張しているみたいだったから。
「友達として言っていいなら……。自分のやりたい方へ進んで欲しいなと思うよ」
そう言って二口くんを見ると、二口くんは秘密基地の中を見つめたまま黙っていた。
「だって、伊達工来た時だって、二口くんはそうしているんじゃない?」
私がそう言うと二口くんははっと何かを思い出したようだった。
「……言われてみれば……そうだよな」
二口くんは迷いが晴れたように眼を輝かせる。
「友達に……すごい助言もらっちゃったな」
そう言いながら二口くんは意地悪気に唇をゆがめる。
「え?ダメ?」
「うーん。もう少し格が欲しいかもな」
「なら親友と……して?」
「アララー?そこ赤くなるの?」
ニヤニヤと笑って私を上から覗き込む。
「だって、そう思ってるのが私だけだったら恥ずかしいし……」
開け放していたままのドアに人の気配がした。
「堅治、こっちにいたのね。お邪魔だったかしら?」
その声に振り返ると、二口くんとよく似た顔(超美人)の女の人がドアの入り口に立っていた。白いパンツスーツが良く似合っている素敵な大人の女性だ。赤いルージュが引かれた唇の端を上げ目を細めて笑う仕草が二口くんにそっくりだった。
「あ、あの、お邪魔しています!」
「あー、あなたが結城友紀ちゃんね」
そう言うと、二口くんのお母さんは、獲物を狙うような目で私を頭の先からつま先までスキャンするように視認する。すっと身体に緊張が走る。家族の方に失礼のないようにとちょっとキレイ目のにしてきて良かったと思った。
「はじめまして、今日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそー。いつも堅治と仲良くしてくれてありがとう」
そして一度目を閉じると息子へにやにやした顔を向ける。
「堅治、こーいうタイプ好きそう」
「はあっ?!余計なコト言ってんなよ、クソババァ!」
二口くんが顔を赤くして怒るので、私もつられて赤面してしまう。
「アンタ、お茶も出さないで、何自分の部屋に連れこんでるのよ」
そう言って二口くんの背中を軽く小突いて、踵を返して階段を降りていく。
私は慌てて彼の机の上に置かせてもらった手土産を持って二口くんのお母さんを追う。
「あ、あの、これうちの近くで美味しいと評判の和菓子です。良かったら……」
手土産を差し出した私の後ろから、二口くんがひょいとのぞき込む。
「白もなかじゃん!めずらしー。結城、これどこの?今度教えて」
「ちょっと堅治、私が頂いたんだから、あんた、もう少し落ち着きなさい」
「先輩で白もなか超好きな人がいるんだよ、今度見せびらかす」
「あーもうもう、アンタ邪魔、先にテーブルについてなさい」
通されたダイニングのつるつるの白テーブルに二口くんと並んで座る。キッチンの方からコーヒーのいい香りが漂ってきた。
「私、運びます」
「じゃあ、それお願い」
カウンター越しに渡されたトレイに置かれた3人分のコーヒーカップをテーブルに運び並べる。サーバーに入っているコーヒーをカップに注ぎ、席について一息ついた。
「じゃあ、お話しましょうか」
私の向かいに座った二口くんのお母さんは、そう言って綺麗に微笑んだ。