First grade of Highschool
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わたしはあの人の泣き顔を知らない
合宿から一週間が過ぎた放課後、二口くんが私の席に来た。
「じゃーん!!」
『伊達工業』と校名ロゴが入った10番のユニフォームだった。ユニフォームがもらえたってことはレギュラー入りできたってことだ!
「おめでとう!」
「1年でユニ獲れたの、俺と青根だけ」
「すごいねー!」
1年生の、まだ一学期だというのに、これはすごい快挙なのではないかと思う。
でもおかしい。もっと喜ぶと思ったのに。ドヤ顏を決めてはくるけど二口くんの顔色が微妙に冴えない。
「どうしたの?」
注意深く彼の顔色を伺う。小原くんと女川くんはダメだったから、それで?
「え?何が」
「なんか、落ち込んでる?」
そう言うと二口くんは「え……」と一瞬戸惑った表情を浮かべた後「やっぱ結城にはお見通しか」と言って口元だけ微笑む。
二口くんは私の前の席に後ろ向きに座るとユニフォームを畳みながら話しはじめた。
「俺の練習に付き合ってくれた2年生の先輩がいてさ」
「うん」
「その人がレギュラー取れなかったんだよ」
「そうなんだ……」
そう言って二口くんは俯くと『10』の文字を表に出すように畳んだそれをぎゅっと握りしめる。
「すごく上手くて、俺のクセとか苦手なコースの克服法とか教えてくれてさ。なのに3年と俺がレギュラー取って、一番上手いその先輩が身長がないだけで取れなくて」
「……」
「俺、先輩に何て言えばいいかわかんなかったけど、先輩の方から来てくれて『お前が選ばれてチームが強くなるんだからそれでいい』って言って……」
二口くんはそう言って左手で自分の右の肩をつかんだ。
「俺だったら絶対いやだと思う。自分のポジション奪ったヤツにそんな言葉かけられないし、そもそもソイツに教えるなんてできない」
苦しそうに二口くんは続ける。
「それに、2年生は一人しかレギュラー取れなかったから『不作』だとか言われて」
ぎりっとかみしめた彼の薄い唇が白くなるのを私は黙って見つめていた。
「俺が取ったせいで、なんかいろいろ……その先輩たちの立場が悪くなってんのかも、と思ったら複雑で、さ」
そこまで言って、二口くんは深くため息をつく。
「あー、いきなりごめんな、変な話まで聞かせて」
努めて明るい声を出してすまなそうな表情をする二口くんに、曖昧に笑って首を振る。
二口くんが努力してレギュラー獲得を目指していたのは知っている。それなのに、自分のレギュラー獲得が喜べなくなるほどその先輩を慕っているんだ。
二口くんは、自分で自覚している以上に優しい人だと思う。
でも、多分、それだけじゃない。その先輩の代を『不作』だと言われたことで、必要以上に負い目を感じてしまっている。
そんなの、二口くんのせいじゃないのに。二口くんがレギュラー取ったからって……。思いついて私は二口くんに聞いてみる。
「二口くんのポジションって何人レギュラーになれるの?」
「最高四人」
四人。そっか。
「なんだ」
「なんだって……何だよ」
二口くんが私を横目でにらむけれど、私はその目を見つめて言う。
「一人じゃないじゃん」
「……」
二口くんは目を見開く。
「部員多いのは、この前の合宿で身をもってわかってるよ。その中の四人って……難しいかもしれないけど」
「そうだよ。次はどうなるかわかんねーし」
「だから、次は、その先輩と一緒に、3年生からレギュラー奪おうよ」
「……」
「その先輩、腐ってるわけじゃないでしょ?」
「……そりゃ、もちろん」
「じゃあ、大丈夫!多分、その先輩、二口くんがヘンな風に気をつかってるって知ったら怒ると思うよ」
さっきの二口くんの言葉を聞く限り、その先輩はこれも見越して言葉をかけてくれたんだと思う。できる先輩だ。
だから、気づいて欲しい。
天を仰いだ二口くんは不敵に微笑む。
「それもそうだな」
そう言って立ち上がった二口くんは晴れ晴れとした顔をしていた。もう、二口くんは大丈夫だ。
「へこんでる暇ないよ、練習、練習!」
もう後ろを向いてほしくない。そういう思いを込めて二口くんの背中を押そうとすると、彼は体をするっとかわしてこちら側を向いた。
「焦んなって、ちゃんと行くわ!」
そう言いながら私のおでこにデコピンをくらわす。ペチーンと大きな音が鳴った。
「いった!ヒドイ!」
額を抑えて悶絶する私を見てニヤニヤ笑う二口くん。うう……、優しいって思ったのは撤回したい!
「じゃあ、俺、部活行くわ」
「うん、行ってらっしゃい……」
ヒリヒリするおでこをさすりながら言うと二口くんはもう一度笑った。
「結城」
「ん?」
「ありがと」
「……どーいたしまして」
合宿から一週間が過ぎた放課後、二口くんが私の席に来た。
「じゃーん!!」
『伊達工業』と校名ロゴが入った10番のユニフォームだった。ユニフォームがもらえたってことはレギュラー入りできたってことだ!
「おめでとう!」
「1年でユニ獲れたの、俺と青根だけ」
「すごいねー!」
1年生の、まだ一学期だというのに、これはすごい快挙なのではないかと思う。
でもおかしい。もっと喜ぶと思ったのに。ドヤ顏を決めてはくるけど二口くんの顔色が微妙に冴えない。
「どうしたの?」
注意深く彼の顔色を伺う。小原くんと女川くんはダメだったから、それで?
「え?何が」
「なんか、落ち込んでる?」
そう言うと二口くんは「え……」と一瞬戸惑った表情を浮かべた後「やっぱ結城にはお見通しか」と言って口元だけ微笑む。
二口くんは私の前の席に後ろ向きに座るとユニフォームを畳みながら話しはじめた。
「俺の練習に付き合ってくれた2年生の先輩がいてさ」
「うん」
「その人がレギュラー取れなかったんだよ」
「そうなんだ……」
そう言って二口くんは俯くと『10』の文字を表に出すように畳んだそれをぎゅっと握りしめる。
「すごく上手くて、俺のクセとか苦手なコースの克服法とか教えてくれてさ。なのに3年と俺がレギュラー取って、一番上手いその先輩が身長がないだけで取れなくて」
「……」
「俺、先輩に何て言えばいいかわかんなかったけど、先輩の方から来てくれて『お前が選ばれてチームが強くなるんだからそれでいい』って言って……」
二口くんはそう言って左手で自分の右の肩をつかんだ。
「俺だったら絶対いやだと思う。自分のポジション奪ったヤツにそんな言葉かけられないし、そもそもソイツに教えるなんてできない」
苦しそうに二口くんは続ける。
「それに、2年生は一人しかレギュラー取れなかったから『不作』だとか言われて」
ぎりっとかみしめた彼の薄い唇が白くなるのを私は黙って見つめていた。
「俺が取ったせいで、なんかいろいろ……その先輩たちの立場が悪くなってんのかも、と思ったら複雑で、さ」
そこまで言って、二口くんは深くため息をつく。
「あー、いきなりごめんな、変な話まで聞かせて」
努めて明るい声を出してすまなそうな表情をする二口くんに、曖昧に笑って首を振る。
二口くんが努力してレギュラー獲得を目指していたのは知っている。それなのに、自分のレギュラー獲得が喜べなくなるほどその先輩を慕っているんだ。
二口くんは、自分で自覚している以上に優しい人だと思う。
でも、多分、それだけじゃない。その先輩の代を『不作』だと言われたことで、必要以上に負い目を感じてしまっている。
そんなの、二口くんのせいじゃないのに。二口くんがレギュラー取ったからって……。思いついて私は二口くんに聞いてみる。
「二口くんのポジションって何人レギュラーになれるの?」
「最高四人」
四人。そっか。
「なんだ」
「なんだって……何だよ」
二口くんが私を横目でにらむけれど、私はその目を見つめて言う。
「一人じゃないじゃん」
「……」
二口くんは目を見開く。
「部員多いのは、この前の合宿で身をもってわかってるよ。その中の四人って……難しいかもしれないけど」
「そうだよ。次はどうなるかわかんねーし」
「だから、次は、その先輩と一緒に、3年生からレギュラー奪おうよ」
「……」
「その先輩、腐ってるわけじゃないでしょ?」
「……そりゃ、もちろん」
「じゃあ、大丈夫!多分、その先輩、二口くんがヘンな風に気をつかってるって知ったら怒ると思うよ」
さっきの二口くんの言葉を聞く限り、その先輩はこれも見越して言葉をかけてくれたんだと思う。できる先輩だ。
だから、気づいて欲しい。
天を仰いだ二口くんは不敵に微笑む。
「それもそうだな」
そう言って立ち上がった二口くんは晴れ晴れとした顔をしていた。もう、二口くんは大丈夫だ。
「へこんでる暇ないよ、練習、練習!」
もう後ろを向いてほしくない。そういう思いを込めて二口くんの背中を押そうとすると、彼は体をするっとかわしてこちら側を向いた。
「焦んなって、ちゃんと行くわ!」
そう言いながら私のおでこにデコピンをくらわす。ペチーンと大きな音が鳴った。
「いった!ヒドイ!」
額を抑えて悶絶する私を見てニヤニヤ笑う二口くん。うう……、優しいって思ったのは撤回したい!
「じゃあ、俺、部活行くわ」
「うん、行ってらっしゃい……」
ヒリヒリするおでこをさすりながら言うと二口くんはもう一度笑った。
「結城」
「ん?」
「ありがと」
「……どーいたしまして」