First grade of Highschool
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
いつか大人になる君たちへ
「すごい、ほとんど終わってる!」
「ありがとう!すごく助かる」
初日の下ごしらえを終え、マネージャーさんにその後の調理を引き継ぐ。
今日の私の仕事はこれで全てだ。挨拶をして自分のバッグを手に取ると、
「結城さん」
調理室に入ってきた人が私に声をかける。癖のある黒髪の優しそうな顔をした人。二年生の茂庭さん。彼は副主将的な立場であるらしく、手伝いに来た私に対して何かと気をつかってくれる。
「もう帰るの?」
「ハイ。この後バイトがあるので」
「そうか……。あのさ、合宿中で時間がある時、もし良かったらご飯一緒に食べてって。作らせるだけ作らせてっていうのも悪いし」
「いえ、あの、ただのお手伝いですし、邪魔になってしまうので、大丈夫ですよ」
「あ、俺だけじゃなくて、監督、部員からもぜひってことだから」
「そーだよ、一緒に食べよーよ」
「友紀ちゃんとゆっくり話したいなー」
マネージャーさんからも口々に誘われ、シフトを思い出す。明日は無理そうだ。でも明後日はバイトを入れていない。
「ありがとうございます。じゃあ、最終日にぜひ」
「やったー」
そう言って私の手を取って飛び上がって喜ぶマネージャーさん達がすごくかわいかった。
今度こそ、挨拶をして出ようとすると「駅まで送ってく」と茂庭さんが追っかけてきた。
駅までは10分ほど。今まで事務的なことでしか接点がなかった先輩と会話が続くのか心配したけれど、茂庭さんとは自然と話すことができた。
「ホント今回助かったよ。合宿所の食堂のおばちゃんが直前で入院しちゃって、困ってたんだ」
「いえ。お役に立ててよかったです」
屈託なく笑う茂庭さんに手伝いに来れてよかったと思う。
「二口のクラスメイトなんだって?」
「あ、ハイ、そうです」
「二口に連れて来られたって聞いたけど、無理にとかじゃない?」
「いえ、そんな」
私は思いっきりかぶりをふる。
「前にマネージャーに誘われたんですけど家の事情で断ってしまって。その時に合宿のお手伝いとかならと言ってたので、良い機会でした」
「へー、そうか。それ聞いて安心した」
安心?と思って茂庭さんを見ると、薄く笑っていた。
「『頼んで』来てもらったって本人は言ってたけど、本当は『脅して』じゃないのとか、ウワサになってて」
私はびっくりして返す。
「全然!脅されたとか弱み握られたとか、そんなことはないです。本当に!」
「本当に?」
こくこくと必死でうなずく。二口くん、上級生にそんな風に思われるなんて、部活内でどんななんだろう……。ちょっと練習の様子を覗いてみたい。
「あの、ウチのクラス女子がいなくて……二口くんに仲良くしてもらってすごく助けられてます。なのでそのお礼って感じです」
「二口に?助けられてる?」
「はい。最初に席が隣になったんですけど、その時から色々気を遣ってくれてて」
「へー、あの二口が、気を遣うか……」
目を丸くして茂庭さんが驚く。
「はい、何というか……普通にしてたらこの学校だと私、ぼっち一直線だったと思うんですよ。それも気がラクかなとか思っちゃってたんで。だから、私がはぐれ者にならないようにしてくれてるんだと思います。おかげでクラスにも溶け込めるようになったので」
「そうか。それならよかった」
「二口くんには感謝しかないので、今回のことは本当に良かったです」
私が笑顔でそう言うと茂庭さんは何やら難しい顔をした。
二人無言で赤信号の前で止まる。
「二口の考えが全部わかるわけじゃないけど、」
青になって横断歩道を渡りながら茂庭さんが口を開いた。
「それ、気を遣ってるわけじゃないと思うよ」
「そうですか?」
「うん。多分そういうことするヤツじゃない」
そう言って意味ありげに笑う茂庭さんに不安になる。
二口くん、すごく性格が悪いと思われてるのかな。……先輩の覚えが悪いんだったら、少しでもかばってあげたい。
「……でも、あの、二口くん、優しいんだと思います」
そう訴えると茂庭さんはちょっと慌てた風だった。
「あ、違う、そうじゃなくて、二口が結城に恩を着せてるわけじゃないよ、っていうのを言いたかっただけで」
わたわたと言い訳をする茂庭さんを見て、二口くんに悪印象を抱いているわけではないことがわかってほっとする。
それと同時に茂庭さんはすごく人がいいんだろうな、と思う。面倒見の塊のような人だ。
こんな先輩がいるバレー部はきっと居心地がいいだろうし強くなると思う。
「大丈夫です。そういう意味じゃないのは分かってます」
「そうか……。うん、まあそうなんだけど……」
微妙に歯切れの悪い茂庭さんの言葉を待つ。
「俺らの知ってる二口と、結城が言う『二口くん』は全然別人だよな……」
「そうですか?」
茂庭さんはうんうんと力強くうなずく。
「二口を優しいって評価するヤツに初めて会ったや」
困ったように眉を下げて笑う茂庭さん。
二口くんが私相手と部活内とで全然態度が違うのはなんとなくわかった。
それは同性の気安さもあるだろうし、同じものを目標としている連帯感もあるのだろう。
だから、私には他人行儀的なものがあってなんだろうな、と思って少し寂しくなる。
「多分……二口くんは、部活の人たちには本音が言えてるってことじゃないですか?」
声にして出すとなおさら部活の人たちがうらやましいな、と思ってしまう。私もマネージャーが出来たら良かったのに。そこの仲間に入りたい。
でも……自分のやりたいことのためには、それは諦めないといけない。茂庭さんにはわからないように唇をかみしめる。
「そうか。結城はそう思うのか……」
茂庭さんが何かに納得するようにつぶやき一人で頷く。そして私と目が合うとにっこりと微笑んだ。
「二口は結城と仲良くなりたいだけだから、大丈夫」
「そうなんですか?」
「うん。それは確信を持って言える」
茂庭さんはそう言ってふふっと笑うと私に向かって笑顔を見せた。どういうことかもう少し聞きたかったけれど、駅に着いてしまった。
茂庭さんは改札まで見送ってくれた。
「これからも、よろしく頼むね」
「はい。また明日も来ます」
「違うって、アイツのこと」
「???」
茂庭さんはそう言うと「じゃ、また明日」と、改札に入った私に手を振った。
「すごい、ほとんど終わってる!」
「ありがとう!すごく助かる」
初日の下ごしらえを終え、マネージャーさんにその後の調理を引き継ぐ。
今日の私の仕事はこれで全てだ。挨拶をして自分のバッグを手に取ると、
「結城さん」
調理室に入ってきた人が私に声をかける。癖のある黒髪の優しそうな顔をした人。二年生の茂庭さん。彼は副主将的な立場であるらしく、手伝いに来た私に対して何かと気をつかってくれる。
「もう帰るの?」
「ハイ。この後バイトがあるので」
「そうか……。あのさ、合宿中で時間がある時、もし良かったらご飯一緒に食べてって。作らせるだけ作らせてっていうのも悪いし」
「いえ、あの、ただのお手伝いですし、邪魔になってしまうので、大丈夫ですよ」
「あ、俺だけじゃなくて、監督、部員からもぜひってことだから」
「そーだよ、一緒に食べよーよ」
「友紀ちゃんとゆっくり話したいなー」
マネージャーさんからも口々に誘われ、シフトを思い出す。明日は無理そうだ。でも明後日はバイトを入れていない。
「ありがとうございます。じゃあ、最終日にぜひ」
「やったー」
そう言って私の手を取って飛び上がって喜ぶマネージャーさん達がすごくかわいかった。
今度こそ、挨拶をして出ようとすると「駅まで送ってく」と茂庭さんが追っかけてきた。
駅までは10分ほど。今まで事務的なことでしか接点がなかった先輩と会話が続くのか心配したけれど、茂庭さんとは自然と話すことができた。
「ホント今回助かったよ。合宿所の食堂のおばちゃんが直前で入院しちゃって、困ってたんだ」
「いえ。お役に立ててよかったです」
屈託なく笑う茂庭さんに手伝いに来れてよかったと思う。
「二口のクラスメイトなんだって?」
「あ、ハイ、そうです」
「二口に連れて来られたって聞いたけど、無理にとかじゃない?」
「いえ、そんな」
私は思いっきりかぶりをふる。
「前にマネージャーに誘われたんですけど家の事情で断ってしまって。その時に合宿のお手伝いとかならと言ってたので、良い機会でした」
「へー、そうか。それ聞いて安心した」
安心?と思って茂庭さんを見ると、薄く笑っていた。
「『頼んで』来てもらったって本人は言ってたけど、本当は『脅して』じゃないのとか、ウワサになってて」
私はびっくりして返す。
「全然!脅されたとか弱み握られたとか、そんなことはないです。本当に!」
「本当に?」
こくこくと必死でうなずく。二口くん、上級生にそんな風に思われるなんて、部活内でどんななんだろう……。ちょっと練習の様子を覗いてみたい。
「あの、ウチのクラス女子がいなくて……二口くんに仲良くしてもらってすごく助けられてます。なのでそのお礼って感じです」
「二口に?助けられてる?」
「はい。最初に席が隣になったんですけど、その時から色々気を遣ってくれてて」
「へー、あの二口が、気を遣うか……」
目を丸くして茂庭さんが驚く。
「はい、何というか……普通にしてたらこの学校だと私、ぼっち一直線だったと思うんですよ。それも気がラクかなとか思っちゃってたんで。だから、私がはぐれ者にならないようにしてくれてるんだと思います。おかげでクラスにも溶け込めるようになったので」
「そうか。それならよかった」
「二口くんには感謝しかないので、今回のことは本当に良かったです」
私が笑顔でそう言うと茂庭さんは何やら難しい顔をした。
二人無言で赤信号の前で止まる。
「二口の考えが全部わかるわけじゃないけど、」
青になって横断歩道を渡りながら茂庭さんが口を開いた。
「それ、気を遣ってるわけじゃないと思うよ」
「そうですか?」
「うん。多分そういうことするヤツじゃない」
そう言って意味ありげに笑う茂庭さんに不安になる。
二口くん、すごく性格が悪いと思われてるのかな。……先輩の覚えが悪いんだったら、少しでもかばってあげたい。
「……でも、あの、二口くん、優しいんだと思います」
そう訴えると茂庭さんはちょっと慌てた風だった。
「あ、違う、そうじゃなくて、二口が結城に恩を着せてるわけじゃないよ、っていうのを言いたかっただけで」
わたわたと言い訳をする茂庭さんを見て、二口くんに悪印象を抱いているわけではないことがわかってほっとする。
それと同時に茂庭さんはすごく人がいいんだろうな、と思う。面倒見の塊のような人だ。
こんな先輩がいるバレー部はきっと居心地がいいだろうし強くなると思う。
「大丈夫です。そういう意味じゃないのは分かってます」
「そうか……。うん、まあそうなんだけど……」
微妙に歯切れの悪い茂庭さんの言葉を待つ。
「俺らの知ってる二口と、結城が言う『二口くん』は全然別人だよな……」
「そうですか?」
茂庭さんはうんうんと力強くうなずく。
「二口を優しいって評価するヤツに初めて会ったや」
困ったように眉を下げて笑う茂庭さん。
二口くんが私相手と部活内とで全然態度が違うのはなんとなくわかった。
それは同性の気安さもあるだろうし、同じものを目標としている連帯感もあるのだろう。
だから、私には他人行儀的なものがあってなんだろうな、と思って少し寂しくなる。
「多分……二口くんは、部活の人たちには本音が言えてるってことじゃないですか?」
声にして出すとなおさら部活の人たちがうらやましいな、と思ってしまう。私もマネージャーが出来たら良かったのに。そこの仲間に入りたい。
でも……自分のやりたいことのためには、それは諦めないといけない。茂庭さんにはわからないように唇をかみしめる。
「そうか。結城はそう思うのか……」
茂庭さんが何かに納得するようにつぶやき一人で頷く。そして私と目が合うとにっこりと微笑んだ。
「二口は結城と仲良くなりたいだけだから、大丈夫」
「そうなんですか?」
「うん。それは確信を持って言える」
茂庭さんはそう言ってふふっと笑うと私に向かって笑顔を見せた。どういうことかもう少し聞きたかったけれど、駅に着いてしまった。
茂庭さんは改札まで見送ってくれた。
「これからも、よろしく頼むね」
「はい。また明日も来ます」
「違うって、アイツのこと」
「???」
茂庭さんはそう言うと「じゃ、また明日」と、改札に入った私に手を振った。