Second grade of Highschool
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
暗転した世界の先
「あ、友紀! 二口が探してたよ」
「え? 二口くん? なんでだろ?」
「さあ……。でもなんか、超調子悪そうだった」
保健室勧めたんだけど、とクラスメイトの黒川さんは首をかしげる。
「じゃあ保健室行けばいるかな?」
「うーん。教室戻るときすれ違ったから、実習棟の方に向かってるように見えたけど」
実習棟? 保健室とは反対方向、今まで私たちが授業をしていた場所だ。私を探して? でもここに来るまでにすれ違った記憶もない。
彼女にお礼を言い、言われた通り実習棟の方へ向かう。今年はクラスに私のほかに女子が二人いる。そのうちの一人、今話した黒川さんは二口くんと同じ中学だったと聞いた。
実習棟へ続く渡り廊下。人通りはほとんどない。曲がり角に人の脚のようなものが見える。あそこかな?
駆け寄ると、そこには足を投げ出して座り込んでいる二口くんがいた。
「二口くん、どうしたの?」
俯いている前髪の隙間から見える二口くんの顔が青白い。「ごめんね」とことわってから彼の額に手をあてると驚くほど冷たかった。
「!? とりあえず、保健室行こうか?」
ようやく顔を上げ、私の姿をみとめた二口くんは力なく一度頷く。私を見る視線に力がない。
「わるい、結城……」
「そんなこと、いいから」
二口くんに手を差し出すと彼はそれを掴んだ。手も、ものすごく冷たい。肩を貸してあげたかったけれど、私の身長では二口くんに全然足りないので、何とか彼の背中に腕を回し支えるようにして保健室へ向かった。
◇◇◇
保健の碓井先生は不在だった。二口くんを長椅子に座らせ体温計を渡す。顔色は相変わらず悪い。
二口くんは「あ」と何かを思い出したような声をあげると、私に向かって言う。
「悪いんだけどさ、結城、ちょっと体育館行ってくれる?」
「ん? どうしたの? あ、部活?」
「うん。ケータイ、教室で。今日、部活休むって茂庭さんに伝えて欲しいんだけど」
「いいよ、わかった」
「……それ伝えてくれたら、もうここには来なくていいから」
「え?」
「少し休めば、だいじょーぶ」
さらっと何でもないことのように言うけれど、急に突き放されて私は戸惑った。部活を休むぐらい具合悪いのに?
「本当に大丈夫?」
その答えを聞く前に、ピピっと体温計が音を発する。二口くんはいそいそと脇の下から体温計を出して顔をしかめた。
「何度だった?」
「5度6分だって。低すぎて引くわー」
ひらひらと体温計を見せながら二口くんは力なく笑った。
◇◇◇
部活がはじまる前には伝えて欲しいと、追い出されるように保健室を出た。
体育館の入り口から中を覗くと、集まり始めたバレー部員がネットの準備やストレッチをしている。まだ部活の準備段階のようだ。
奥の舞台に近いところで肩のストレッチをする茂庭さんを見つけた。「お邪魔します」と小声で呟き壁に沿って静かに進む。
「失礼します。あの、茂庭さん」
後ろから恐る恐る呼びかけると、茂庭さんが振り返る。
「あ、結城か。どうした?」
部外者が入ってきたのにもかかわらず、私に笑顔を向けてくれた茂庭さんにほっとする。
「二口くん、今日の部活を休むそうです」
「そうか。わかった。わざわざありがとうな。……あいつ、大丈夫か?」
そう言って眉をひそめる茂庭さんに思い切って聞いてみることにする。
「あの……」
「ん?」
「二口くん、最近の部活中、また調子悪そうだったりします?」
「え?」
「実は今、保健室に連れて行ったところだったんですけど……」
私は先ほどの二口くんの様子を茂庭さんに伝える。
それを聞いた茂庭さんは心当たりがある顔をした。そばで足をのばして柔軟をする先輩が口を挟む。
「一昨日の朝練だっけ? 二口ふらふらしてたよな」
確か笹谷さんだったかがそう言うと、茂庭さんはうんうんと頷く。
「そうそう。朝練のランニング後、貧血起こしたんだよ」
「寝坊して朝飯食い損ねたとか言ってたな。そりゃ、もたねぇよ」
心配そうなあきれたような口調で笹谷さんが言うと、茂庭さんも同調する。
「何でもいいから口に入れて来いとは言ったんだけど……」
「そうだったんですか……」
貧血? 低血糖? さっきの症状もそれ? 頭の中であれこれ考えていると、茂庭さんは頬を人差し指で掻きながら言う。
「まあ、二口のことだから大丈夫だとは思うけど……。結城、気にかけてやってくれる?」
◇◇◇
体育館を後にして教室に戻る。とりあえず二口くんに頼まれたことはやり遂げた。
既にホームルームも終わっていて、私の荷物だけが自分の机に残されている。
そうだ。二口くんの荷物も教室に残っているはず。帰るにしても荷物を取りに3階まで上がってくるのは、あの状態ではしんどそうだ。
茂庭さんに頼まれたから、というよりも、私が心配だから様子を見ておきたい。
私は自分のバッグを肩にかけて隣のクラスの教室に入る。
A組。
うちのクラスとは雰囲気が違う。机の配置にガタつきが見られる。B組の方が几帳面な人が多いのかもしれない。
窓際から二列目の配布物が乗ったままの机が目に入った。見慣れた二口くんのバッグがかかっているからここで間違いない。
机の中には教科書が残されている。横のフックからバッグをとり机の上に置いた。
「……ゴメン、ちょっと開けるね」
誰が聞いているわけではないけれど、一応そうことわってからバッグを開ける。
部活道具であろう洗いたてのTシャツとタオル。爽やかな洗剤の香りがする。そっとそれを横によけさせ教科書を入れるスペースを作ると手に何か固いものが当たった。
「?」
バッグの底に転がる茶色の小瓶。見慣れない文字のラベルが貼ってある。中は空っぽだ。
何かの薬だろうか?
二口くんの隠していたものに触れてしまったような罪悪感。慌てて隠すように上から教科書を押し込みファスナーを閉じる。
彼のバッグを肩にかけ、A組を出た。
大丈夫。変な薬ではないはず。
だって、二口くん、一生懸命部活やってるんだし。
自分に言い聞かせるように、はやる心臓を抑えて私は保健室に向かった。
「あ、友紀! 二口が探してたよ」
「え? 二口くん? なんでだろ?」
「さあ……。でもなんか、超調子悪そうだった」
保健室勧めたんだけど、とクラスメイトの黒川さんは首をかしげる。
「じゃあ保健室行けばいるかな?」
「うーん。教室戻るときすれ違ったから、実習棟の方に向かってるように見えたけど」
実習棟? 保健室とは反対方向、今まで私たちが授業をしていた場所だ。私を探して? でもここに来るまでにすれ違った記憶もない。
彼女にお礼を言い、言われた通り実習棟の方へ向かう。今年はクラスに私のほかに女子が二人いる。そのうちの一人、今話した黒川さんは二口くんと同じ中学だったと聞いた。
実習棟へ続く渡り廊下。人通りはほとんどない。曲がり角に人の脚のようなものが見える。あそこかな?
駆け寄ると、そこには足を投げ出して座り込んでいる二口くんがいた。
「二口くん、どうしたの?」
俯いている前髪の隙間から見える二口くんの顔が青白い。「ごめんね」とことわってから彼の額に手をあてると驚くほど冷たかった。
「!? とりあえず、保健室行こうか?」
ようやく顔を上げ、私の姿をみとめた二口くんは力なく一度頷く。私を見る視線に力がない。
「わるい、結城……」
「そんなこと、いいから」
二口くんに手を差し出すと彼はそれを掴んだ。手も、ものすごく冷たい。肩を貸してあげたかったけれど、私の身長では二口くんに全然足りないので、何とか彼の背中に腕を回し支えるようにして保健室へ向かった。
◇◇◇
保健の碓井先生は不在だった。二口くんを長椅子に座らせ体温計を渡す。顔色は相変わらず悪い。
二口くんは「あ」と何かを思い出したような声をあげると、私に向かって言う。
「悪いんだけどさ、結城、ちょっと体育館行ってくれる?」
「ん? どうしたの? あ、部活?」
「うん。ケータイ、教室で。今日、部活休むって茂庭さんに伝えて欲しいんだけど」
「いいよ、わかった」
「……それ伝えてくれたら、もうここには来なくていいから」
「え?」
「少し休めば、だいじょーぶ」
さらっと何でもないことのように言うけれど、急に突き放されて私は戸惑った。部活を休むぐらい具合悪いのに?
「本当に大丈夫?」
その答えを聞く前に、ピピっと体温計が音を発する。二口くんはいそいそと脇の下から体温計を出して顔をしかめた。
「何度だった?」
「5度6分だって。低すぎて引くわー」
ひらひらと体温計を見せながら二口くんは力なく笑った。
◇◇◇
部活がはじまる前には伝えて欲しいと、追い出されるように保健室を出た。
体育館の入り口から中を覗くと、集まり始めたバレー部員がネットの準備やストレッチをしている。まだ部活の準備段階のようだ。
奥の舞台に近いところで肩のストレッチをする茂庭さんを見つけた。「お邪魔します」と小声で呟き壁に沿って静かに進む。
「失礼します。あの、茂庭さん」
後ろから恐る恐る呼びかけると、茂庭さんが振り返る。
「あ、結城か。どうした?」
部外者が入ってきたのにもかかわらず、私に笑顔を向けてくれた茂庭さんにほっとする。
「二口くん、今日の部活を休むそうです」
「そうか。わかった。わざわざありがとうな。……あいつ、大丈夫か?」
そう言って眉をひそめる茂庭さんに思い切って聞いてみることにする。
「あの……」
「ん?」
「二口くん、最近の部活中、また調子悪そうだったりします?」
「え?」
「実は今、保健室に連れて行ったところだったんですけど……」
私は先ほどの二口くんの様子を茂庭さんに伝える。
それを聞いた茂庭さんは心当たりがある顔をした。そばで足をのばして柔軟をする先輩が口を挟む。
「一昨日の朝練だっけ? 二口ふらふらしてたよな」
確か笹谷さんだったかがそう言うと、茂庭さんはうんうんと頷く。
「そうそう。朝練のランニング後、貧血起こしたんだよ」
「寝坊して朝飯食い損ねたとか言ってたな。そりゃ、もたねぇよ」
心配そうなあきれたような口調で笹谷さんが言うと、茂庭さんも同調する。
「何でもいいから口に入れて来いとは言ったんだけど……」
「そうだったんですか……」
貧血? 低血糖? さっきの症状もそれ? 頭の中であれこれ考えていると、茂庭さんは頬を人差し指で掻きながら言う。
「まあ、二口のことだから大丈夫だとは思うけど……。結城、気にかけてやってくれる?」
◇◇◇
体育館を後にして教室に戻る。とりあえず二口くんに頼まれたことはやり遂げた。
既にホームルームも終わっていて、私の荷物だけが自分の机に残されている。
そうだ。二口くんの荷物も教室に残っているはず。帰るにしても荷物を取りに3階まで上がってくるのは、あの状態ではしんどそうだ。
茂庭さんに頼まれたから、というよりも、私が心配だから様子を見ておきたい。
私は自分のバッグを肩にかけて隣のクラスの教室に入る。
A組。
うちのクラスとは雰囲気が違う。机の配置にガタつきが見られる。B組の方が几帳面な人が多いのかもしれない。
窓際から二列目の配布物が乗ったままの机が目に入った。見慣れた二口くんのバッグがかかっているからここで間違いない。
机の中には教科書が残されている。横のフックからバッグをとり机の上に置いた。
「……ゴメン、ちょっと開けるね」
誰が聞いているわけではないけれど、一応そうことわってからバッグを開ける。
部活道具であろう洗いたてのTシャツとタオル。爽やかな洗剤の香りがする。そっとそれを横によけさせ教科書を入れるスペースを作ると手に何か固いものが当たった。
「?」
バッグの底に転がる茶色の小瓶。見慣れない文字のラベルが貼ってある。中は空っぽだ。
何かの薬だろうか?
二口くんの隠していたものに触れてしまったような罪悪感。慌てて隠すように上から教科書を押し込みファスナーを閉じる。
彼のバッグを肩にかけ、A組を出た。
大丈夫。変な薬ではないはず。
だって、二口くん、一生懸命部活やってるんだし。
自分に言い聞かせるように、はやる心臓を抑えて私は保健室に向かった。