25 メトハナノサキ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
堅治くんは肘枕の体勢で『おいで』とは言ってくれているけれど、全然目が合わない。口を一文字にして怒ったような顔であさっての方向を睨んでいる。
ベッドに誘われているけれど、本当に……
「寝る、だけ?」
「ごめん。今、あんま俺のこと、挑発しないで」
「……」
露骨に顔をしかめられ、私は口をつぐむ。
ただ単に、確認のつもりだったんだけど……。
こわごわ彼の招くベッドのふちに腰掛ける。堅治くんが奥にずれて空いたスペースに、ゆっくりと背中を倒して横たわる。
ふわっと、ベッドから彼の香りがした気がして胸をきゅっと締めつけられる。……香りだけじゃない。手を動かせば届く距離、そのままでも熱を感じる距離に彼がいる。
意識して彼の方は見ないようにしているけど、実際のところは緊張で身体が固まっているだけだ。
「……よし。第一関門は大丈夫そうだ」
彼の中で何かの関門を突破したらしい。
ミシっとベッドが軋む音を立て、半身を起こした彼が私の上に影を作る。
手が伸びてきて反射的に目をぎゅっとつぶってしまった。
「ひっ」
「メガネ、壊れるとわりぃから、外すぞ」
「う、うん……」
びっくりした。ちょっと悲鳴出た。心臓に悪すぎる。
一旦彼が遠ざかってほっとしたけど、これから、メガネが壊れるような状況が想定されているのが怖い。
「……よし」
何がよしなんだろう……? 私の真上で彼が唇を横に引いた。それがわかるということは、堅治くんの顔が相当近い。
「第二関門」
「え?」
「俺の理性がどこまで効くか試してみる」
彼はそうつぶやくなり横にごろりと寝転がると、私の身体を自分の方へ引き寄せた。
「!!!!」
ドキーン!!! と、音を立てる勢いで心臓が軋んだ後、ものすごい速さで鼓動を刻み始める。
そのまま彼の腕の中におさまってしまった。彼の胸に顔を押し当てられるように抱きしめられる。
彼の体温が伝わって、このベッドと同じ匂いに包まれて、もう私は完全に堅治くんに包まれているんだけど、でもそれは私を決して安らぎとか安心とか、落ち着くとか、そっちの方向へは連れてってくれなくて、これは、なんて言うんだろう。抱きしめられたことなんて何回もあるはずなのに、初めての時の方が緊張していたはずなのに、なんで、今の方が身体が熱いんだろう。
彼の手が私の頭を撫でる。びくっと、身体が反応してしまって、思考が止まった。彼の手も、自然じゃなくてどこかぎこちない。
沈黙と緊張感に耐えられなくて、そのままの感想を口にする。
「……。なんか……、すごい、ドキドキする」
「俺も……」
自分の頭の上からいつもより低い彼の声が聞こえる。ドキドキしてるの私だけじゃなかったんだ……。
半信半疑で彼の胸に耳を押し付ける。え、うそ、……彼の心臓もドキンドキンと大きな音をたてている。
「すごい、音……」
「んー……」
現象を素直に言葉にすることしかできないでいると、堅治くんがくすぐったそうに身じろぎする。
「ご、ごめん」
「友紀さ」
くっつけすぎた頭を引こうとすると、遮るように彼が私に問いかける。
「ん……?」
「この状態で、眠れる?」
『眠る』……。どういう状態になったら『眠った』と言えるんだっけ? 目を閉じても……。このままじゃ昂ぶってしまっていて……。
「……多分、ムリ」
言い切るのは恥ずかしくてぼかしていうと、彼は大げさにため息をついた。
「そーだろ? だから、こういうのはひと仕事終えて、くたくたになった後じゃないと、無理じゃね?」
「……」
『ひと仕事』に含んだ意味は考えないようにする。
「俺たち……。もう、ソレ、意識すんだから」
それなのに堅治くんは追い打ちをかけてくる。
確かに私『ソレ』を考えちゃっている……。そのこと自体が彼に筒抜けになっているの恥ずかしすぎる……。
「ソレが頭にねぇならいけるけど、もう友紀もぶっちゃけダメだろ?」
暗に『俺も一緒』と言ってくれているんだけど……。それはそれで私が堅治くんに抱えている欲みたいなものが露わにされた感じで余計に恥ずかしい。
「うん……。ダメみたい……」
消え入りそうな声でそう正直に答えると、
「だよなぁ」
と、堅治くんが笑う。
ここまでお互いの接近を許せるようになって、あと一歩のところだったのに、その先の感情が邪魔をしてできなくなるなんて皮肉なもんだな、と私も笑ってしまう。
……そう思ってしまった以上離れないとダメかな、と起き上がろうとすると、彼が私を止める様に腕に力を込めた。落ち着いてきた心臓が再度早鐘を打つ。
「第三関門……」
「え? まだいくの?」
「うん、ちょっと、俺の限界まで」
限界って、何? 私はとっくに限界超えてるんだけど……。
彼は私の身体を自分の目線まで上げ、そのまま私の首の下に腕を入れた。
腕枕だ。コレだって憧れていたシチュエーションだから、本当にもう限界かも。顔が近い。さっきの堅治くんのこと笑えないぐらい心臓がドキドキしてる。
私は、もうダメ。そう思って抜け出そうと身じろぎすると、ぱちっと、彼と目が合ってしまった。
目と鼻の先に彼の顔がある。
時が止まったように見つめ合う。
そーっと彼の甘い視線が近づいてきて私はうろたえる。
「え……それは、ダメ、だよ……、」
「黙って」
私が本能的に避けてたことを彼はしようとしてくる。これを許すとなし崩しになってしまいそう……。
だけど、彼が何かをこらえているようなやるせない顔で私を睨むから、その視線に負けて私は目を閉じた。
唇が触れ合ってしまって……そのまま離れない。……深くなる前に、離れないと……。
顔を引くようにすると名残惜しそうに吸われた後ゆっくり唇がはがれていく。
目を開くと、眉根を寄せて切なそうな堅治くんのが顔が目の前にあって胸に痛みが走る。
その隙に、首の後ろに回っていた手が私の後頭部を抑え、引き寄せられるようにまた唇が合わさってしまう。離しても、すぐにまた唇が重なる。何度も、何度も。止まらない。止められない。今さら彼の胸を押しても、反発するように私を引き寄せる力が強くなるだけだ。
「ふっ……ん……」
不意をつかれて外された唇の隙間から、吐息が声になって漏れる。
その瞬間、後頭部の彼の手に力が入るのを感じて、私の頭の中で赤いシグナルが点滅しはじめた。
私の、息遣いさえも、彼の興奮材料になるんだとしたら、こらえなきゃ…………もう、逃げられないかもしれない。
意識して身を固くすると、それをあざ笑うように彼の腕がきつく私を抱きしめる。
……もうどうなってもいい、と、これ以上はダメ、の間で揺れながら、入ってこようとする彼の舌を唇で止める。この侵入を許したら、本当にダメになる気がする……。
堅治くんの唇が離れる。怖くなって、次が来てしまう前に、私は、ふいっと横を向いた。
自分の鼓動が異様に大きく聞こえる。体中が熱い。
私も彼も肩で息をしている。
その時、
「あ……。ここまでだ……」
堅治くんが、我に返ったように呆然と呟いた。
「え?」
私を拘束している腕が緩んだ。堅治くんは何故か腰を引くようにする。
急に彼に明確に線を引かせたものが何なのか、わからなくて彼を見つめ首をかしげてしまう。
堅治くんはバツが悪そうに私から目を逸らして呟いた。
「……たってきた」
……何が?
……あ。ああ……。それか……。
遅れてそれが何であるか理解した。……堅治くんは堅治くんで、限界のラインを設定してくれていたんだ。
私はほっとして、そーっと逃れるように後ろへ身体を引く。
「まって、友紀、動かないで。そのまま……」
「え?」
言うなり彼は私を捕まえる。そのまま引き寄せられ、彼の胸の中に逆戻りだ。
「け、堅治くん?」
「ダメだ、ホントに、俺を刺激すんなって」
怒ったように言いながら、私の頭を抱え込むようにきつく抱きしめてくる。
名前を呼んだだけでそうなるなら、このまま解放してくれればいいのに、わけがわからなくて怖い。
怖いから私は息を潜め、極力動かないように身を固くする。
「煩悩を沈めてみせるから、もうちょっとそのままで」
「……」
彼の胸から深呼吸の音が聞こえる。
「頭をカラにするから」
「……うん、」
「そして無になる……」
何やらぶつぶつと数字のようなものが聞こえてくる。円周率?元素周期表?
しばらくそのまま唱えている声を黙って聞いていた。やがてその声は小さくなり途切れ途切れになり静かになってくる。
ついに今、聞こえてくるのは心を鎮めるような深呼吸だけ。
……彼は精神統一に慣れているんだろう。例えば、試合の緊張する場面でのサービスとか。
本当に、すごい。……すごいとは思うけれど、自分だけずるい。私、まだ、ドキドキしているのに。
すぅー
「ん?」
すぅー、すぅー
「……」
規則正しい息の音が聞こえてきた。
これって、もしかして……。
「けんじ……くん?」
反応はない。
これは、寝てる……よね?
私はほっと一息ついて、声を出さないように笑う。堅治くんは無自覚だろうけれど、私がやりたかったことを一人で達成してしまっている。ホントに、もう……。
ゆるんで力の抜けた腕は簡単に解くことができた。私はすべるようにしてベッドから抜け出してメガネをかける。
乱れた髪の毛を手櫛で直しながら堅治くんを見下ろす。
先ほどのことがなかったかのような、涼しい表情で堅治くんは眠っている。
疲れてたのかな……。休みの日だっていうのに朝から部活もあって、その後お花屋さんに行ったりで大変だったのかもしれない。
頭を撫でてみる。ほんの少し口元が綻んだような気がする。
ほっとしたような、寂しいような気持ちで、私は一言つぶやいた。
「おやすみ」
ベッドに誘われているけれど、本当に……
「寝る、だけ?」
「ごめん。今、あんま俺のこと、挑発しないで」
「……」
露骨に顔をしかめられ、私は口をつぐむ。
ただ単に、確認のつもりだったんだけど……。
こわごわ彼の招くベッドのふちに腰掛ける。堅治くんが奥にずれて空いたスペースに、ゆっくりと背中を倒して横たわる。
ふわっと、ベッドから彼の香りがした気がして胸をきゅっと締めつけられる。……香りだけじゃない。手を動かせば届く距離、そのままでも熱を感じる距離に彼がいる。
意識して彼の方は見ないようにしているけど、実際のところは緊張で身体が固まっているだけだ。
「……よし。第一関門は大丈夫そうだ」
彼の中で何かの関門を突破したらしい。
ミシっとベッドが軋む音を立て、半身を起こした彼が私の上に影を作る。
手が伸びてきて反射的に目をぎゅっとつぶってしまった。
「ひっ」
「メガネ、壊れるとわりぃから、外すぞ」
「う、うん……」
びっくりした。ちょっと悲鳴出た。心臓に悪すぎる。
一旦彼が遠ざかってほっとしたけど、これから、メガネが壊れるような状況が想定されているのが怖い。
「……よし」
何がよしなんだろう……? 私の真上で彼が唇を横に引いた。それがわかるということは、堅治くんの顔が相当近い。
「第二関門」
「え?」
「俺の理性がどこまで効くか試してみる」
彼はそうつぶやくなり横にごろりと寝転がると、私の身体を自分の方へ引き寄せた。
「!!!!」
ドキーン!!! と、音を立てる勢いで心臓が軋んだ後、ものすごい速さで鼓動を刻み始める。
そのまま彼の腕の中におさまってしまった。彼の胸に顔を押し当てられるように抱きしめられる。
彼の体温が伝わって、このベッドと同じ匂いに包まれて、もう私は完全に堅治くんに包まれているんだけど、でもそれは私を決して安らぎとか安心とか、落ち着くとか、そっちの方向へは連れてってくれなくて、これは、なんて言うんだろう。抱きしめられたことなんて何回もあるはずなのに、初めての時の方が緊張していたはずなのに、なんで、今の方が身体が熱いんだろう。
彼の手が私の頭を撫でる。びくっと、身体が反応してしまって、思考が止まった。彼の手も、自然じゃなくてどこかぎこちない。
沈黙と緊張感に耐えられなくて、そのままの感想を口にする。
「……。なんか……、すごい、ドキドキする」
「俺も……」
自分の頭の上からいつもより低い彼の声が聞こえる。ドキドキしてるの私だけじゃなかったんだ……。
半信半疑で彼の胸に耳を押し付ける。え、うそ、……彼の心臓もドキンドキンと大きな音をたてている。
「すごい、音……」
「んー……」
現象を素直に言葉にすることしかできないでいると、堅治くんがくすぐったそうに身じろぎする。
「ご、ごめん」
「友紀さ」
くっつけすぎた頭を引こうとすると、遮るように彼が私に問いかける。
「ん……?」
「この状態で、眠れる?」
『眠る』……。どういう状態になったら『眠った』と言えるんだっけ? 目を閉じても……。このままじゃ昂ぶってしまっていて……。
「……多分、ムリ」
言い切るのは恥ずかしくてぼかしていうと、彼は大げさにため息をついた。
「そーだろ? だから、こういうのはひと仕事終えて、くたくたになった後じゃないと、無理じゃね?」
「……」
『ひと仕事』に含んだ意味は考えないようにする。
「俺たち……。もう、ソレ、意識すんだから」
それなのに堅治くんは追い打ちをかけてくる。
確かに私『ソレ』を考えちゃっている……。そのこと自体が彼に筒抜けになっているの恥ずかしすぎる……。
「ソレが頭にねぇならいけるけど、もう友紀もぶっちゃけダメだろ?」
暗に『俺も一緒』と言ってくれているんだけど……。それはそれで私が堅治くんに抱えている欲みたいなものが露わにされた感じで余計に恥ずかしい。
「うん……。ダメみたい……」
消え入りそうな声でそう正直に答えると、
「だよなぁ」
と、堅治くんが笑う。
ここまでお互いの接近を許せるようになって、あと一歩のところだったのに、その先の感情が邪魔をしてできなくなるなんて皮肉なもんだな、と私も笑ってしまう。
……そう思ってしまった以上離れないとダメかな、と起き上がろうとすると、彼が私を止める様に腕に力を込めた。落ち着いてきた心臓が再度早鐘を打つ。
「第三関門……」
「え? まだいくの?」
「うん、ちょっと、俺の限界まで」
限界って、何? 私はとっくに限界超えてるんだけど……。
彼は私の身体を自分の目線まで上げ、そのまま私の首の下に腕を入れた。
腕枕だ。コレだって憧れていたシチュエーションだから、本当にもう限界かも。顔が近い。さっきの堅治くんのこと笑えないぐらい心臓がドキドキしてる。
私は、もうダメ。そう思って抜け出そうと身じろぎすると、ぱちっと、彼と目が合ってしまった。
目と鼻の先に彼の顔がある。
時が止まったように見つめ合う。
そーっと彼の甘い視線が近づいてきて私はうろたえる。
「え……それは、ダメ、だよ……、」
「黙って」
私が本能的に避けてたことを彼はしようとしてくる。これを許すとなし崩しになってしまいそう……。
だけど、彼が何かをこらえているようなやるせない顔で私を睨むから、その視線に負けて私は目を閉じた。
唇が触れ合ってしまって……そのまま離れない。……深くなる前に、離れないと……。
顔を引くようにすると名残惜しそうに吸われた後ゆっくり唇がはがれていく。
目を開くと、眉根を寄せて切なそうな堅治くんのが顔が目の前にあって胸に痛みが走る。
その隙に、首の後ろに回っていた手が私の後頭部を抑え、引き寄せられるようにまた唇が合わさってしまう。離しても、すぐにまた唇が重なる。何度も、何度も。止まらない。止められない。今さら彼の胸を押しても、反発するように私を引き寄せる力が強くなるだけだ。
「ふっ……ん……」
不意をつかれて外された唇の隙間から、吐息が声になって漏れる。
その瞬間、後頭部の彼の手に力が入るのを感じて、私の頭の中で赤いシグナルが点滅しはじめた。
私の、息遣いさえも、彼の興奮材料になるんだとしたら、こらえなきゃ…………もう、逃げられないかもしれない。
意識して身を固くすると、それをあざ笑うように彼の腕がきつく私を抱きしめる。
……もうどうなってもいい、と、これ以上はダメ、の間で揺れながら、入ってこようとする彼の舌を唇で止める。この侵入を許したら、本当にダメになる気がする……。
堅治くんの唇が離れる。怖くなって、次が来てしまう前に、私は、ふいっと横を向いた。
自分の鼓動が異様に大きく聞こえる。体中が熱い。
私も彼も肩で息をしている。
その時、
「あ……。ここまでだ……」
堅治くんが、我に返ったように呆然と呟いた。
「え?」
私を拘束している腕が緩んだ。堅治くんは何故か腰を引くようにする。
急に彼に明確に線を引かせたものが何なのか、わからなくて彼を見つめ首をかしげてしまう。
堅治くんはバツが悪そうに私から目を逸らして呟いた。
「……たってきた」
……何が?
……あ。ああ……。それか……。
遅れてそれが何であるか理解した。……堅治くんは堅治くんで、限界のラインを設定してくれていたんだ。
私はほっとして、そーっと逃れるように後ろへ身体を引く。
「まって、友紀、動かないで。そのまま……」
「え?」
言うなり彼は私を捕まえる。そのまま引き寄せられ、彼の胸の中に逆戻りだ。
「け、堅治くん?」
「ダメだ、ホントに、俺を刺激すんなって」
怒ったように言いながら、私の頭を抱え込むようにきつく抱きしめてくる。
名前を呼んだだけでそうなるなら、このまま解放してくれればいいのに、わけがわからなくて怖い。
怖いから私は息を潜め、極力動かないように身を固くする。
「煩悩を沈めてみせるから、もうちょっとそのままで」
「……」
彼の胸から深呼吸の音が聞こえる。
「頭をカラにするから」
「……うん、」
「そして無になる……」
何やらぶつぶつと数字のようなものが聞こえてくる。円周率?元素周期表?
しばらくそのまま唱えている声を黙って聞いていた。やがてその声は小さくなり途切れ途切れになり静かになってくる。
ついに今、聞こえてくるのは心を鎮めるような深呼吸だけ。
……彼は精神統一に慣れているんだろう。例えば、試合の緊張する場面でのサービスとか。
本当に、すごい。……すごいとは思うけれど、自分だけずるい。私、まだ、ドキドキしているのに。
すぅー
「ん?」
すぅー、すぅー
「……」
規則正しい息の音が聞こえてきた。
これって、もしかして……。
「けんじ……くん?」
反応はない。
これは、寝てる……よね?
私はほっと一息ついて、声を出さないように笑う。堅治くんは無自覚だろうけれど、私がやりたかったことを一人で達成してしまっている。ホントに、もう……。
ゆるんで力の抜けた腕は簡単に解くことができた。私はすべるようにしてベッドから抜け出してメガネをかける。
乱れた髪の毛を手櫛で直しながら堅治くんを見下ろす。
先ほどのことがなかったかのような、涼しい表情で堅治くんは眠っている。
疲れてたのかな……。休みの日だっていうのに朝から部活もあって、その後お花屋さんに行ったりで大変だったのかもしれない。
頭を撫でてみる。ほんの少し口元が綻んだような気がする。
ほっとしたような、寂しいような気持ちで、私は一言つぶやいた。
「おやすみ」