21 オメトオシ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
お目通し
「そっか。お兄ちゃんに会っちゃったんだ……」
「どうやって時間つぶそっかなーって考えてたら、見つかって」
「ごめんね。鉢合わせないように、お兄ちゃんの出る時間とか計算したつもりだったんだけど」
「いや、早く来ちゃった俺が悪いって」
「でも……」
「『話がある』とかいってカフェゴチしてくれたし、結果オーライってことで」
笑顔で「いつかは会うと思ってたし」と続けてくれるから、少しほっとする。
でも、お兄ちゃん、堅治くんを攻撃するようなこと言っていないといいけど……。
「……お兄ちゃんに何か言われた?」
「んー。昔から友紀は可愛かったとか、俺がさらに可愛くしてやったとか、すげーのろけられたけど?」
な、何言ってんの?! あの兄は!
あんまりにあんまりな息子の発言に、お茶を運びに来たお母さんが吹き出してしまうと、堅治くんが素早く立ち上がりトレイとポットを支える。
「二口くん、ありがとうね」
お母さんがお礼を言うと堅治くんは「いいえ」と穏やかに微笑む。二人の間にほのぼのとした雰囲気が流れる。
今日、堅治くんを家に招くにあたって、お母さんには話しておくことにした。私に彼氏ができたこと。お兄ちゃん達にはまだ言わないでいて欲しいこと。
お母さんはうすうす気づいてはいたようで、特にお兄ちゃんには知らせたくないという私の事情は、
「……そうね。きっとうるさいわね。彼氏のついででいいから、バレンタイン、適当に渡しておきなさい」
と、アドバイス付きで汲んでくれた。
かくてそのアドバイスは功を奏し、何故か突然昨日帰ってきたお兄ちゃんは私の試作ガトーショコラを食べて上機嫌で仕事に行ってくれたんだけど、まさか鉢合わせちゃっていたとは……。
三人分のお茶を注ぎ終えるとお母さんは遠い目で言う。
「あの子、昔からシスコン気味のところあったからねぇ」
「俺なんてもう目の敵ですね」
堅治くんの軽い返しにお母さんがまた笑う。
こういう会話のテンポの良さ、すごいなって思う。自分に敵対心を持ってるかもしれない相手のことを、下げずに茶化せるのも。
『伊達工業高校2年A組、二口堅治といいます。バレー部では主将をやってます』
最初のこの挨拶で、堅治くんはお母さんの好印象をがっちり掴んでた。
別に猫をかぶってるでもなくいつも通り。やんちゃな感じもちゃんと出すし、いわゆる品行方正タイプではないっていうのは隠せていないと思う。
でも、なんて言うのかな、全国を狙うほどの強豪の部活で、しかも主将をやっているという軸のぶれなさは、言動や振る舞いに出てくるんだと思う。
「この子ったら、昨日はチョコ大騒ぎしながら作ってて」
「お、お母さん!」
「お兄ちゃんに見つかりたくないっていうから、カモフラージュが大変だったわ」
「そうだったんですか。俺のためにすみません」
悪びれず冗談を言う堅治くん。余計なこと言わないで、と目配せする私はそっちのけで、お母さんは堅治くんとの会話を弾ませていく。
「クリスマスのコト聞いた?」
「ああー。はい。自爆してました」
堅治くんは苦笑しながら答える。
「彼氏に会わせないようにした、ってヤツですよね」
「えっ……それ、私知らない」
私が絶句する横でお母さんが大げさに額に手をあてる。
「ごめんなさいね。あの時まだ友紀とのこと知らなかったから。お兄ちゃんが急に『クリスマスは家族で過ごすべきだ』って言い出したのにウラがあるなんて思わなかったのよ」
「え? あれってお兄ちゃん発だったの?」
「そうよー。私も、イブに独りは寂しくて家が恋しくなったのかしら、ぐらいのことだと思ってたのよ。そのあと『クリスマスに撮影があるけどモデルがつかまらない』って、当たり前でしょ、カワイイ子はみんなデートよ、って言ったんだけど」
それは私に回ってきたから知ってる。思えば私が聞いた『カメラマンさんがその日しか空いてない』っていうのもおかしな話だったんだ。二口くんは昼間部活だし夕方までならいいや、で引き受けてしまったのだけど……。
「まさか、友紀をクリスマスに引き留める口実だったとはね」
あきれたようにため息をつくと、その矛先は私に向かう。
「この子も二口くんと付き合ってること言わないから」
「だって……」
その頃はまだ家族に打ち明けるなんて全然考えてなかった。私がそれを意識したのは、堅治くんの家に行って、ご挨拶した時だったし……。
堅治くんが視線を下に向けて、口元だけ笑って言う。
「何としてでも俺と会わせないっていう執念ですよね。恨みかけました」
「バカねぇ、お兄ちゃんは……」
お母さんは苦笑しながらため息をつくと、堅治くんは顔を上げて屈託なく笑った。
「でもお兄さんのおかげで、すっげぇ可愛い友紀とクリスマス過ごせたので、OKっす」
さらっと、お母さんの前でそんなことを言ってのける堅治くんに、びっくりする。
お母さんも、まあ、と笑ったけど、ふと複雑そうな表情を見せた。
「それ聞いたら、あの子、憤死モノね」
「確実に呪われますね。……お兄さんには長生きしてほしいんですけど」
「ぶふっ、ほんっと二口くん面白い!」
お兄ちゃんの言われよう……。
でもお兄ちゃんは私離れをするべきだと思う。一緒に住んでた時よりひどくなってる気がするし。
「まあ友紀も、兄貴とべたべたするよりは彼氏といちゃついてる方が健全でしょ」
「何言ってるの? お母さん!?」
「今後はあの子が邪魔しないよう協力するわ」
「あざっす」
堅治くんはかしこまって勢いよく頭を下げる。
そんな彼を目を細めて見ていたお母さんは、急に芝居がかかった仕草で時計を見上げた。
「あっらー。いっけない、もう、こんな時間。私、一旦出るから、ゆっくりしていってね」
「え? どこ行くの? 予定なんかあったけ?」
「ホラ、気を利かせてんのよ! あんたも、私がいない方がいいでしょ? 二口くん、友紀をよろしくね」
お母さんは立ち上がり近所のスーパーへ行くのとは違ったよそ行きのバッグを手に取る。
堅治くんのこと気に入ってくれたのは良かったけど、積極的に娘と二人っきりにさせようとするのはどうかと思う。
「はい! お任せください」
「もう……。行ってらっしゃい」
お母さんが玄関から出て行った音を聞くと、堅治くんは一息ついて残りの紅茶を一気に飲み干した。さすがの堅治くんも少しは緊張していたのかな。
「ごめんね。お母さんおしゃべりでびっくりしたでしょ?」
「いや? 別に。あんな感じだろ、母ちゃんって」
なんでもない事のようにそう言うと、彼は思い出したように笑う。
「でも、ノリいいよな」
「もう……」
ふう、と私は気づかれないように深呼吸する。……のつもりだったのに、ばっちりこちらを見ていた堅治くんと目が合う。彼の目が「で、これからどうすんの?」と言っているように見える。
そうだ、今日、彼にわざわざ来てもらった目的は……
「あの、その、渡したいものがあるから、……私の部屋に来てくれる?」
それだけのことを言うだけなのに手のひらが緊張で汗ばんでくる。
「あ、俺、友紀の部屋見てみたかった」
「そんな、たいした部屋じゃないよ……。階段を上がって突き当りだから、先に行っててもらっていい?」
「? わかった」
堅治くんは不思議そうな顔をしたけれど、素直に階段を上って行ってくれた。
そして私はバレンタインのための最後の仕上げを仕込んだ。
「そっか。お兄ちゃんに会っちゃったんだ……」
「どうやって時間つぶそっかなーって考えてたら、見つかって」
「ごめんね。鉢合わせないように、お兄ちゃんの出る時間とか計算したつもりだったんだけど」
「いや、早く来ちゃった俺が悪いって」
「でも……」
「『話がある』とかいってカフェゴチしてくれたし、結果オーライってことで」
笑顔で「いつかは会うと思ってたし」と続けてくれるから、少しほっとする。
でも、お兄ちゃん、堅治くんを攻撃するようなこと言っていないといいけど……。
「……お兄ちゃんに何か言われた?」
「んー。昔から友紀は可愛かったとか、俺がさらに可愛くしてやったとか、すげーのろけられたけど?」
な、何言ってんの?! あの兄は!
あんまりにあんまりな息子の発言に、お茶を運びに来たお母さんが吹き出してしまうと、堅治くんが素早く立ち上がりトレイとポットを支える。
「二口くん、ありがとうね」
お母さんがお礼を言うと堅治くんは「いいえ」と穏やかに微笑む。二人の間にほのぼのとした雰囲気が流れる。
今日、堅治くんを家に招くにあたって、お母さんには話しておくことにした。私に彼氏ができたこと。お兄ちゃん達にはまだ言わないでいて欲しいこと。
お母さんはうすうす気づいてはいたようで、特にお兄ちゃんには知らせたくないという私の事情は、
「……そうね。きっとうるさいわね。彼氏のついででいいから、バレンタイン、適当に渡しておきなさい」
と、アドバイス付きで汲んでくれた。
かくてそのアドバイスは功を奏し、何故か突然昨日帰ってきたお兄ちゃんは私の試作ガトーショコラを食べて上機嫌で仕事に行ってくれたんだけど、まさか鉢合わせちゃっていたとは……。
三人分のお茶を注ぎ終えるとお母さんは遠い目で言う。
「あの子、昔からシスコン気味のところあったからねぇ」
「俺なんてもう目の敵ですね」
堅治くんの軽い返しにお母さんがまた笑う。
こういう会話のテンポの良さ、すごいなって思う。自分に敵対心を持ってるかもしれない相手のことを、下げずに茶化せるのも。
『伊達工業高校2年A組、二口堅治といいます。バレー部では主将をやってます』
最初のこの挨拶で、堅治くんはお母さんの好印象をがっちり掴んでた。
別に猫をかぶってるでもなくいつも通り。やんちゃな感じもちゃんと出すし、いわゆる品行方正タイプではないっていうのは隠せていないと思う。
でも、なんて言うのかな、全国を狙うほどの強豪の部活で、しかも主将をやっているという軸のぶれなさは、言動や振る舞いに出てくるんだと思う。
「この子ったら、昨日はチョコ大騒ぎしながら作ってて」
「お、お母さん!」
「お兄ちゃんに見つかりたくないっていうから、カモフラージュが大変だったわ」
「そうだったんですか。俺のためにすみません」
悪びれず冗談を言う堅治くん。余計なこと言わないで、と目配せする私はそっちのけで、お母さんは堅治くんとの会話を弾ませていく。
「クリスマスのコト聞いた?」
「ああー。はい。自爆してました」
堅治くんは苦笑しながら答える。
「彼氏に会わせないようにした、ってヤツですよね」
「えっ……それ、私知らない」
私が絶句する横でお母さんが大げさに額に手をあてる。
「ごめんなさいね。あの時まだ友紀とのこと知らなかったから。お兄ちゃんが急に『クリスマスは家族で過ごすべきだ』って言い出したのにウラがあるなんて思わなかったのよ」
「え? あれってお兄ちゃん発だったの?」
「そうよー。私も、イブに独りは寂しくて家が恋しくなったのかしら、ぐらいのことだと思ってたのよ。そのあと『クリスマスに撮影があるけどモデルがつかまらない』って、当たり前でしょ、カワイイ子はみんなデートよ、って言ったんだけど」
それは私に回ってきたから知ってる。思えば私が聞いた『カメラマンさんがその日しか空いてない』っていうのもおかしな話だったんだ。二口くんは昼間部活だし夕方までならいいや、で引き受けてしまったのだけど……。
「まさか、友紀をクリスマスに引き留める口実だったとはね」
あきれたようにため息をつくと、その矛先は私に向かう。
「この子も二口くんと付き合ってること言わないから」
「だって……」
その頃はまだ家族に打ち明けるなんて全然考えてなかった。私がそれを意識したのは、堅治くんの家に行って、ご挨拶した時だったし……。
堅治くんが視線を下に向けて、口元だけ笑って言う。
「何としてでも俺と会わせないっていう執念ですよね。恨みかけました」
「バカねぇ、お兄ちゃんは……」
お母さんは苦笑しながらため息をつくと、堅治くんは顔を上げて屈託なく笑った。
「でもお兄さんのおかげで、すっげぇ可愛い友紀とクリスマス過ごせたので、OKっす」
さらっと、お母さんの前でそんなことを言ってのける堅治くんに、びっくりする。
お母さんも、まあ、と笑ったけど、ふと複雑そうな表情を見せた。
「それ聞いたら、あの子、憤死モノね」
「確実に呪われますね。……お兄さんには長生きしてほしいんですけど」
「ぶふっ、ほんっと二口くん面白い!」
お兄ちゃんの言われよう……。
でもお兄ちゃんは私離れをするべきだと思う。一緒に住んでた時よりひどくなってる気がするし。
「まあ友紀も、兄貴とべたべたするよりは彼氏といちゃついてる方が健全でしょ」
「何言ってるの? お母さん!?」
「今後はあの子が邪魔しないよう協力するわ」
「あざっす」
堅治くんはかしこまって勢いよく頭を下げる。
そんな彼を目を細めて見ていたお母さんは、急に芝居がかかった仕草で時計を見上げた。
「あっらー。いっけない、もう、こんな時間。私、一旦出るから、ゆっくりしていってね」
「え? どこ行くの? 予定なんかあったけ?」
「ホラ、気を利かせてんのよ! あんたも、私がいない方がいいでしょ? 二口くん、友紀をよろしくね」
お母さんは立ち上がり近所のスーパーへ行くのとは違ったよそ行きのバッグを手に取る。
堅治くんのこと気に入ってくれたのは良かったけど、積極的に娘と二人っきりにさせようとするのはどうかと思う。
「はい! お任せください」
「もう……。行ってらっしゃい」
お母さんが玄関から出て行った音を聞くと、堅治くんは一息ついて残りの紅茶を一気に飲み干した。さすがの堅治くんも少しは緊張していたのかな。
「ごめんね。お母さんおしゃべりでびっくりしたでしょ?」
「いや? 別に。あんな感じだろ、母ちゃんって」
なんでもない事のようにそう言うと、彼は思い出したように笑う。
「でも、ノリいいよな」
「もう……」
ふう、と私は気づかれないように深呼吸する。……のつもりだったのに、ばっちりこちらを見ていた堅治くんと目が合う。彼の目が「で、これからどうすんの?」と言っているように見える。
そうだ、今日、彼にわざわざ来てもらった目的は……
「あの、その、渡したいものがあるから、……私の部屋に来てくれる?」
それだけのことを言うだけなのに手のひらが緊張で汗ばんでくる。
「あ、俺、友紀の部屋見てみたかった」
「そんな、たいした部屋じゃないよ……。階段を上がって突き当りだから、先に行っててもらっていい?」
「? わかった」
堅治くんは不思議そうな顔をしたけれど、素直に階段を上って行ってくれた。
そして私はバレンタインのための最後の仕上げを仕込んだ。