19 Eye for Eye
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目には目を
※モブ(級友)の女の子視点です
「友紀~、今日買い物付き合ってくんない?」
「いいよ。どこ行く?」
「ロフトかプラザ」
「コスメ?」
「そ。マスカラ切らしちゃって」
「私もリップ欲しいから探す」
「マジ? 選ぶの手伝うよ」
「ありがとう」とにっこり笑う友紀は、最近すごくかわいくなった。
年明けに茶髪にして雰囲気が柔らかくなったのも良かったけど、その後メガネを変えたのが超変化だった。それまではえらいレトロなフレームに輪郭が歪むほどの分厚いレンズで、マンガのガリ勉かよ! みたいな感じだったから、本当に良かったと思う。これに関してはメガネを選んでやった二口はいい仕事をした。
ちなみにそのことで二口をからかおうとしたら『当然だろ』と鼻で笑われてドヤ顔された。ちょっとは照れたりしろよ。つまんね。
今でこそ友紀達はあたしの推しカップルだけど、はじめは複雑だったよ。
この二人がくっついたウラで立花は泣いたから。その上「結城をよろしく」って意味深な言葉を残してクラスを去るし。あたしが代わりにシメろってこと?
そこで初めて友紀と話してみたんだけど、友紀が立花を陥れたとか、二口に媚びてるとか、そういう感じはなかったんだよね。むしろ隣にいたあたしより、ちゃんと立花のコト考えてたみたいで。真面目だけどいい子ちゃんではないってわかったから、それから仲良くしてる。
で、この二人。二口からの矢印の方が強いのが見えて面白いんだ。あたしすら嫉妬対象にされてたりするし。推しとして応援したいのは二口の方だったりする。あたしのことを睨む二口が面白いっていうのもあるけど。二口、がんばれー。
「バレンタイン近くになると激混みだから、今のうちに行きたいんだよね」
「そっか。もう2月だね」
「友紀は? 二口にあげるんでしょ?」
「うん……」
妙に浮かない顔だ。
え? 待って不穏何かあった? 早まらないでよ。相談ならのるから!
あたしは動揺を抑えて聞いてみる。
「あ、あれぇ? どうした?」
「あの……。一目で本命ってわかるチョコってどういうの?」
「は?」
嫌な予感は外れてほっとしたけど、質問の内容がおかしい。それでも友紀は真剣そのものなので考えてみる。
本命チョコ……か。二口って去年、朝教室に来た時点で2,3個紙袋をぶら下げてた気がする。立花が『あれ、絶対本命!どこのどいつ!?』ってわめいてたんだよな。その根拠は……
「……高そうとか、大きいとか、それかやっぱ手作りかな?」
「うーん。なるほど……」
その後、他校の女子からってことを吐かせたら『ストーカーじゃないの!?』って立花の方が大騒ぎして、結局二口を怒らせてたな……。
それは置いといて。
「何? なんか二口に言われた?」
「うん……。バレンタインに欲しいのを聞いてみたら、その、そういうのが欲しいって……」
そんなことを二口が? あいつ友紀からだったら何でも喜びそうだけど。さては二口、欲を出したな。このスケベ野郎。
あたしは吹き出しそうになりながら答える。
「そんなの確実に二口が喜ぶのは、アンタ自身にリボンをかけて『あたしをどうぞ』的な感じでしょ」
「藍里ちゃん正解」
「は?」
「似たようなこと言われたよ。……冗談だと思うけど」
申し訳なさそうに友紀が言うのを聞いてあたしは頭を抱えたくなった。二口はさぁ! アンタが出してるのは欲じゃない。下心丸出しの欲望だよ!
「まじか……。あたしの発想、二口レベルだったの?」
言った直後に自分の失言に気づく。コレ、ど直球な二口への悪口だわ、と恐る恐る友紀の様子を伺ったけど、友紀は怒ることもなく困ったように笑っていた。
◇◇◇
夕方のロフトは学校帰りの女子高生でにぎわっている。
お目当てのマスカラを見つつ、他の新製品もチェックする。友紀も興味深げにマスカラやアイライナーを眺めている。
普通の女子高生っぽくはなったけど、友紀って化粧っ気ないよね……と盗み見る。
げっ。まつ毛長っ。マスカラいらずじゃん。っていうか目、こんなに大きかったっけ? メガネ変えたせい?
とにかく、目元は余計なことしなくてよさそう。そうだ、友紀が探してるのはリップだ。
「お悩みは何かな?」
「ガサガサなのが収まるような、保湿力高いのがいいんだけど……」
今度は真正面から友紀の顔を見る。ほうほう。確かに唇は荒れ気味だけれども、前髪とか眉毛とか肌とか、意外とこの子、基本的なところは整っている。せっかく素材がいいんだから少しはメイクすりゃいいのに。
「てっとり早いのは、グロスっぽいので覆っちゃう方法だね」
「うーん。べたべたしないものの方がいいかな」
「べたべたNGかー。グロスタイプはムリだね」
ツヤも出るから一石二鳥と思うけど、本人はあまり乗り気でない。
それなら……これはどうだ。
「色付きは? 唇キレイに見えるよ」
なるべく濃くない色をピックアップしてみせると、友紀は少し考えてから申し訳なさそうに言う。
「色はないほうがいいな……」
「校則気にしてんの?ばれないって!」
「色は……ついちゃうと困るから」
真面目か。ちょっと色乗せるぐらいいいと思うけど。
「そっか。ならノーマルタイプのリップの方がいいね」
ついつまらなさそうな声で返してしまって「ごめん」と謝らせてしまう。
いやいや、友紀悪くないから、気を取り直して。そうなると、あとは……。
「あ! 味とか香りは?」
これで『無味無臭じゃないとヤダ』と返されたら『ワセリンでも塗ってろ!』と言っちゃうかも。
「どんなのある?」
お! 乗り気だ! それならこっち。
「昔ながらのミント系とか、フローラル系は鉄板だね」
「わ、すごい。いろいろある!」
「あとはお菓子系も……」
色とりどりのスティックとジャーが所狭しと並んでいる。
「これはバニラの香りと、味もついてる!」
「美味しそう……」
テスターを手に取って友紀が目を細める。お菓子系は顔緩むよね。バレンタインも近いから、チョコ系も充実してる。
「あ、クリームブリュレ? ……これ、もうプリンだ! くぅー! ダイエットにもなりそう」
「すごい、リアル。いい匂いだね」
「あ、フルーツってテもあったか」
「え! どこ?」
おや? 今日イチで食いつきがいいぞ。
「ストロベリーとアップルとレモンだ。王道だね」
「レモン……」
「ったく、キスがレモン味とかって古すぎるよね」
パケに書かれた化石みたいなフレーズが目に入って鼻で笑ってしまうと、レモンを手に取ろうとしていた友紀の手がぴくっと止まる。
「そ、そうだね」
ん? どうした? 心なしか友紀の顔が赤くなっているような。
その時。急にぴーんときた。同じ列に『リミテッドエディション・ラメ満載』の文字を見つけた。あたしはそれを友紀の前に突き出す。
「限定でレモンフレーバーのラメ入りもあるよ」
友紀は受け取ってキャップをあけると眉をしかめた。
「うーん……ラメはついちゃうとなかなか取れないから」
はい! かかった!
おいおいおい。まったく、この子は……。
「どこに?」
「え?」
友紀が聞き返されると思わなかった、とでも言いたげな、びっくりした顔であたしを見る。
あたしはにやける顔を必死で抑え、尋問に入る。
「どこにつくの?」
「……顔とか」
「顔のどこ?」
「え?」
「二口の顔のどこにつくの?」
彼女は絶句して目を丸くし、みるみる顔を赤くする。
「ち、違う、そんなコト」
「なーんかヘンだと思ったんだよ!べたべたダメとか、色も『つくと困る』とか言ってるし。で、挙句の果てには二口の好きそうなレモンの選ぶし。この頭ピンク女子!」
「キス想定で選ぶとはな!」というトドメは言わないでおいてあげた。
証拠をこれでもかと突きつけると、真っ赤になった友紀は観念したようだったけど、
「だって! いつ来るかわかんないんだもん!」
と、追い詰められた容疑者のように開き直る。
は? あいつ、そんなゲリラ的にキス仕掛けてくるやつなの!?
「だからって、わざわざ彼氏の好きなものにする? この欲しがりさんは!」
「ち、ちが、そういうことじゃ! つい……無意識に」
「無意識だぁ!?」
舌打ちは辛うじて抑える。あたしにここまでさせたんだからちょっと聞かせてもらおうか。
「なんでそんな選び方すんのよ。コスメなんて自分目線で選べって」
「う、うん、それはそうなんだけど……」
あんまり責めるつもりはないけれど、なんか溜め込んでるようだから、この際吐き出させたほうがいいような気がする。
彼女は小さな声で自供(?)をはじめた。
「前にキスした時……。私の唇がかさついてて痛いって言われて」
「うんうん」
あたしは安心させるようににっこり相槌をうつ。友紀、耳まで赤くなってる。そうだね、大好きな彼ピに、かさついた唇を指摘されたら思い出し恥ずか死したくもなるよね。
だけど友紀はその先を口ごもるからあたしは心配になる。
「二口にそんなにひどいこと言われたの?」
「ううん、そうじゃなくて、あの、その……。誰にも言わないでね」
「言わないって」
そう真剣なトーンで言うと、友紀はきょろきょろと周りを確認してから声を潜める。
「『舐めて治す』って言われて……」
「……」
は?
この言葉を呑み込めたのは我ながらいい仕事したと思う。言わせといて悪いけど、正直ひいた。ドン引きした。
ついに下を向いてしまった友紀には悪いけど、とんでもない話を聞いてもうた、という感じだ。
「唇の荒れって、舐めると悪化するんだよねー」
あたしはひいたそぶりはみせないよう、棒読みで聞きかじりの知識を披露する。これ言った人も、人に舐められてるとか想定外だったろうな……。
「それなら、カプサイシン入りにしよう。舐め防止に」
「カプサイシンって、唐辛子の!?藍里ちゃん、それ、私も死ぬヤツ」
「違う違う、プランパーリップって言って、少し刺激はあるけど、唇はふっくらするやつだよ」
「ホントに?」
「本当」
キスでプランプ効果が移るかどうかなんて知らない。でも二口は少しぐらい痛い目を見た方がいいと思う。
友紀はプランパーリップを手に取った。パッケージの細かい字を読むと「こんなのあるんだ」と感心したように言う。少し迷ったみたいだけど「これは、今度にするね」と元の位置に丁寧に戻して、フレーバーのコーナーのテスターを一つ一つ確かめはじめた。
「あ。……これにしよ」
友紀は保湿力に定評のあるメーカーの、バレンタイン限定、チョコのリップを選んだ。
「へー。意外」
「時期的にいいかなって思って」
「ふーん」
なんとなく思い浮かんだことがあったけど、女子の情けでそれは言わないでおいてあげた。
「バレンタイン上手くいくといいね!」
「え!? これは違う、よ?」
口ではそう言ったけど、彼女の目が泳いでいるのを見て察してしまった。バレンタイン後に友紀をつっついたら面白い話出てきそう。超楽しみ。
っていうか、今でもいいエピソードいっぱい持ってそうだよなー。
「友紀、このあと暇?」
もっと友紀とおしゃべりしたい。
恋バナに限らず、これからのことも、これまでのことも。
彼女はにっこり笑ってうなずいた。
※モブ(級友)の女の子視点です
「友紀~、今日買い物付き合ってくんない?」
「いいよ。どこ行く?」
「ロフトかプラザ」
「コスメ?」
「そ。マスカラ切らしちゃって」
「私もリップ欲しいから探す」
「マジ? 選ぶの手伝うよ」
「ありがとう」とにっこり笑う友紀は、最近すごくかわいくなった。
年明けに茶髪にして雰囲気が柔らかくなったのも良かったけど、その後メガネを変えたのが超変化だった。それまではえらいレトロなフレームに輪郭が歪むほどの分厚いレンズで、マンガのガリ勉かよ! みたいな感じだったから、本当に良かったと思う。これに関してはメガネを選んでやった二口はいい仕事をした。
ちなみにそのことで二口をからかおうとしたら『当然だろ』と鼻で笑われてドヤ顔された。ちょっとは照れたりしろよ。つまんね。
今でこそ友紀達はあたしの推しカップルだけど、はじめは複雑だったよ。
この二人がくっついたウラで立花は泣いたから。その上「結城をよろしく」って意味深な言葉を残してクラスを去るし。あたしが代わりにシメろってこと?
そこで初めて友紀と話してみたんだけど、友紀が立花を陥れたとか、二口に媚びてるとか、そういう感じはなかったんだよね。むしろ隣にいたあたしより、ちゃんと立花のコト考えてたみたいで。真面目だけどいい子ちゃんではないってわかったから、それから仲良くしてる。
で、この二人。二口からの矢印の方が強いのが見えて面白いんだ。あたしすら嫉妬対象にされてたりするし。推しとして応援したいのは二口の方だったりする。あたしのことを睨む二口が面白いっていうのもあるけど。二口、がんばれー。
「バレンタイン近くになると激混みだから、今のうちに行きたいんだよね」
「そっか。もう2月だね」
「友紀は? 二口にあげるんでしょ?」
「うん……」
妙に浮かない顔だ。
え? 待って不穏何かあった? 早まらないでよ。相談ならのるから!
あたしは動揺を抑えて聞いてみる。
「あ、あれぇ? どうした?」
「あの……。一目で本命ってわかるチョコってどういうの?」
「は?」
嫌な予感は外れてほっとしたけど、質問の内容がおかしい。それでも友紀は真剣そのものなので考えてみる。
本命チョコ……か。二口って去年、朝教室に来た時点で2,3個紙袋をぶら下げてた気がする。立花が『あれ、絶対本命!どこのどいつ!?』ってわめいてたんだよな。その根拠は……
「……高そうとか、大きいとか、それかやっぱ手作りかな?」
「うーん。なるほど……」
その後、他校の女子からってことを吐かせたら『ストーカーじゃないの!?』って立花の方が大騒ぎして、結局二口を怒らせてたな……。
それは置いといて。
「何? なんか二口に言われた?」
「うん……。バレンタインに欲しいのを聞いてみたら、その、そういうのが欲しいって……」
そんなことを二口が? あいつ友紀からだったら何でも喜びそうだけど。さては二口、欲を出したな。このスケベ野郎。
あたしは吹き出しそうになりながら答える。
「そんなの確実に二口が喜ぶのは、アンタ自身にリボンをかけて『あたしをどうぞ』的な感じでしょ」
「藍里ちゃん正解」
「は?」
「似たようなこと言われたよ。……冗談だと思うけど」
申し訳なさそうに友紀が言うのを聞いてあたしは頭を抱えたくなった。二口はさぁ! アンタが出してるのは欲じゃない。下心丸出しの欲望だよ!
「まじか……。あたしの発想、二口レベルだったの?」
言った直後に自分の失言に気づく。コレ、ど直球な二口への悪口だわ、と恐る恐る友紀の様子を伺ったけど、友紀は怒ることもなく困ったように笑っていた。
◇◇◇
夕方のロフトは学校帰りの女子高生でにぎわっている。
お目当てのマスカラを見つつ、他の新製品もチェックする。友紀も興味深げにマスカラやアイライナーを眺めている。
普通の女子高生っぽくはなったけど、友紀って化粧っ気ないよね……と盗み見る。
げっ。まつ毛長っ。マスカラいらずじゃん。っていうか目、こんなに大きかったっけ? メガネ変えたせい?
とにかく、目元は余計なことしなくてよさそう。そうだ、友紀が探してるのはリップだ。
「お悩みは何かな?」
「ガサガサなのが収まるような、保湿力高いのがいいんだけど……」
今度は真正面から友紀の顔を見る。ほうほう。確かに唇は荒れ気味だけれども、前髪とか眉毛とか肌とか、意外とこの子、基本的なところは整っている。せっかく素材がいいんだから少しはメイクすりゃいいのに。
「てっとり早いのは、グロスっぽいので覆っちゃう方法だね」
「うーん。べたべたしないものの方がいいかな」
「べたべたNGかー。グロスタイプはムリだね」
ツヤも出るから一石二鳥と思うけど、本人はあまり乗り気でない。
それなら……これはどうだ。
「色付きは? 唇キレイに見えるよ」
なるべく濃くない色をピックアップしてみせると、友紀は少し考えてから申し訳なさそうに言う。
「色はないほうがいいな……」
「校則気にしてんの?ばれないって!」
「色は……ついちゃうと困るから」
真面目か。ちょっと色乗せるぐらいいいと思うけど。
「そっか。ならノーマルタイプのリップの方がいいね」
ついつまらなさそうな声で返してしまって「ごめん」と謝らせてしまう。
いやいや、友紀悪くないから、気を取り直して。そうなると、あとは……。
「あ! 味とか香りは?」
これで『無味無臭じゃないとヤダ』と返されたら『ワセリンでも塗ってろ!』と言っちゃうかも。
「どんなのある?」
お! 乗り気だ! それならこっち。
「昔ながらのミント系とか、フローラル系は鉄板だね」
「わ、すごい。いろいろある!」
「あとはお菓子系も……」
色とりどりのスティックとジャーが所狭しと並んでいる。
「これはバニラの香りと、味もついてる!」
「美味しそう……」
テスターを手に取って友紀が目を細める。お菓子系は顔緩むよね。バレンタインも近いから、チョコ系も充実してる。
「あ、クリームブリュレ? ……これ、もうプリンだ! くぅー! ダイエットにもなりそう」
「すごい、リアル。いい匂いだね」
「あ、フルーツってテもあったか」
「え! どこ?」
おや? 今日イチで食いつきがいいぞ。
「ストロベリーとアップルとレモンだ。王道だね」
「レモン……」
「ったく、キスがレモン味とかって古すぎるよね」
パケに書かれた化石みたいなフレーズが目に入って鼻で笑ってしまうと、レモンを手に取ろうとしていた友紀の手がぴくっと止まる。
「そ、そうだね」
ん? どうした? 心なしか友紀の顔が赤くなっているような。
その時。急にぴーんときた。同じ列に『リミテッドエディション・ラメ満載』の文字を見つけた。あたしはそれを友紀の前に突き出す。
「限定でレモンフレーバーのラメ入りもあるよ」
友紀は受け取ってキャップをあけると眉をしかめた。
「うーん……ラメはついちゃうとなかなか取れないから」
はい! かかった!
おいおいおい。まったく、この子は……。
「どこに?」
「え?」
友紀が聞き返されると思わなかった、とでも言いたげな、びっくりした顔であたしを見る。
あたしはにやける顔を必死で抑え、尋問に入る。
「どこにつくの?」
「……顔とか」
「顔のどこ?」
「え?」
「二口の顔のどこにつくの?」
彼女は絶句して目を丸くし、みるみる顔を赤くする。
「ち、違う、そんなコト」
「なーんかヘンだと思ったんだよ!べたべたダメとか、色も『つくと困る』とか言ってるし。で、挙句の果てには二口の好きそうなレモンの選ぶし。この頭ピンク女子!」
「キス想定で選ぶとはな!」というトドメは言わないでおいてあげた。
証拠をこれでもかと突きつけると、真っ赤になった友紀は観念したようだったけど、
「だって! いつ来るかわかんないんだもん!」
と、追い詰められた容疑者のように開き直る。
は? あいつ、そんなゲリラ的にキス仕掛けてくるやつなの!?
「だからって、わざわざ彼氏の好きなものにする? この欲しがりさんは!」
「ち、ちが、そういうことじゃ! つい……無意識に」
「無意識だぁ!?」
舌打ちは辛うじて抑える。あたしにここまでさせたんだからちょっと聞かせてもらおうか。
「なんでそんな選び方すんのよ。コスメなんて自分目線で選べって」
「う、うん、それはそうなんだけど……」
あんまり責めるつもりはないけれど、なんか溜め込んでるようだから、この際吐き出させたほうがいいような気がする。
彼女は小さな声で自供(?)をはじめた。
「前にキスした時……。私の唇がかさついてて痛いって言われて」
「うんうん」
あたしは安心させるようににっこり相槌をうつ。友紀、耳まで赤くなってる。そうだね、大好きな彼ピに、かさついた唇を指摘されたら思い出し恥ずか死したくもなるよね。
だけど友紀はその先を口ごもるからあたしは心配になる。
「二口にそんなにひどいこと言われたの?」
「ううん、そうじゃなくて、あの、その……。誰にも言わないでね」
「言わないって」
そう真剣なトーンで言うと、友紀はきょろきょろと周りを確認してから声を潜める。
「『舐めて治す』って言われて……」
「……」
は?
この言葉を呑み込めたのは我ながらいい仕事したと思う。言わせといて悪いけど、正直ひいた。ドン引きした。
ついに下を向いてしまった友紀には悪いけど、とんでもない話を聞いてもうた、という感じだ。
「唇の荒れって、舐めると悪化するんだよねー」
あたしはひいたそぶりはみせないよう、棒読みで聞きかじりの知識を披露する。これ言った人も、人に舐められてるとか想定外だったろうな……。
「それなら、カプサイシン入りにしよう。舐め防止に」
「カプサイシンって、唐辛子の!?藍里ちゃん、それ、私も死ぬヤツ」
「違う違う、プランパーリップって言って、少し刺激はあるけど、唇はふっくらするやつだよ」
「ホントに?」
「本当」
キスでプランプ効果が移るかどうかなんて知らない。でも二口は少しぐらい痛い目を見た方がいいと思う。
友紀はプランパーリップを手に取った。パッケージの細かい字を読むと「こんなのあるんだ」と感心したように言う。少し迷ったみたいだけど「これは、今度にするね」と元の位置に丁寧に戻して、フレーバーのコーナーのテスターを一つ一つ確かめはじめた。
「あ。……これにしよ」
友紀は保湿力に定評のあるメーカーの、バレンタイン限定、チョコのリップを選んだ。
「へー。意外」
「時期的にいいかなって思って」
「ふーん」
なんとなく思い浮かんだことがあったけど、女子の情けでそれは言わないでおいてあげた。
「バレンタイン上手くいくといいね!」
「え!? これは違う、よ?」
口ではそう言ったけど、彼女の目が泳いでいるのを見て察してしまった。バレンタイン後に友紀をつっついたら面白い話出てきそう。超楽しみ。
っていうか、今でもいいエピソードいっぱい持ってそうだよなー。
「友紀、このあと暇?」
もっと友紀とおしゃべりしたい。
恋バナに限らず、これからのことも、これまでのことも。
彼女はにっこり笑ってうなずいた。