16 モクロミ
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目論見
手ぶらでいいよ、と言う二口くんに、そうはいかないと言う私。押し問答の末、結局シュークリームを二人で出し合って買うことにした。二口くんの家族四人、プラス私の五つ。みんなで食べられるように。
「お邪魔します……」
ご家族と顔を合わせることを覚悟してお家に上がったけれど誰もいない。「多分年始回りしてる」と二口くんが言う。シュークリームは冷蔵庫にしまってもらって、二階の二口くんの部屋に案内された。
「年末掃除しといてよかった~」
そう言いながら私を招き入れる。
初めて入る二口くんの部屋。窓際に机があって、ベッドがあって、ユニフォームがかけてある。寒色でまとめられた男の子らしい、二口くんらしい部屋だ。
コートと手袋を取る。ハンガーを渡された。手がままならなくて何度もコートをかけるのに失敗して私は自覚する。
すごく……緊張してる。
「寒い?」
やっとの思いでかけたハンガーを、彼は受け取りながら言う。
「ううん、大丈夫」
「手、貸して」
震える手を素直に差し出すと両手で包み込まれるように握られる。
「うわぁ……。またつめてぇ」
すりすりと手をこすられちょっと恥ずかしい。神社でも手を繋いでいたけどそれとは……全然違う。
「冷え性?」
「そんなことはないけど……寝る時足が冷たいなって思うことはある」
「へー、寝る時かー……」
「うん……」
ヘンな意味はないと思うんだけど……。含みを持たせたように聞こえてしまうのは、私が『二人きり』を意識しすぎているからなのだろうか。
私の手をこする二口くんの手が止まる。思わず彼を見上げてしまうと意外と近くに彼の顔があった。鼓動が乱れる。
誘うような甘い光が宿る瞳。どちらからともなく顔を近づけ瞳を閉じ、静かに唇が触れ合った。
「……今年、初」
「うん……」
そう言って二口くんは微笑むけど、私はぎこちなくうなずくのが精一杯。ご家族がいないスキに彼の家で二人っきりって……。急にいけないコトをしている気持ちになる。
そんな私の気も知らずに、彼は後ろ手でぱたんとドアを閉めた。
二口くんの部屋に二人っきり。どうしよう……。
「初めて友紀と二人になれた」
「そう……だね」
改めて確認して私を追い詰めてくる二口くんは意地悪だと思う。耳の奥で心臓の音がうるさい。
見つめ合う緊張感に耐えられなくなってきて、彼に握られてる両手に視線を移した。
「友紀」
甘い声で名前を呼ばれる。心臓が痛い。
「何?」
「キス以上のことはしないから、好きにさせてくれない?」
……?『キス以上のことはしない』? 今のキスより進んだことはしないって意味? でも『好きにさせて』ってどういうこと? 頭の中がぐるぐるしてくる。
ためらえばいいの? ほっとすればいいの? 自分の本心がわからない。キス以上?
「……キス以上って、キスもしない、ってこと?」
「いや、キスはする」
「わっ」
混乱のまま口にした揚げ足取りを責めるように強引に抱きしめられる。
身体がぴったりとくっつくように重なって、私の背中と頭が彼の手のひらでしっかりと抱えられている。いつもより力が強くてちょっと苦しい。身動きすらできない。
「まだ、いいって、言ってない……」
途切れ途切れにそう言うのがやっとなのは、彼が私の髪に顔をうずめたから。髪をかき分けるように耳元に唇が来て吐息がかかる。
そわっと身震いした。
「友紀、だめ?」
耳たぶを噛むようにして強請られる。
囁き声がくすぐったい。ため息が漏れそうになる。
逃げ道を塞がれるように抱きしめられてることで、二口くんは男で私は女だということをこれでもかと意識させられる。
落ち着け、心臓。「うん」と言っても大丈夫か、回らない頭で必死に考える。
「……キスまでだよ」
「友紀、好き」
「!!」
耳に唇がぶつけるように囁くの、絶対わざとだ。私がこそばゆがってるのをわかっててやってる……。やっとの思いで出した念押しの肯定をはみ出すように飛び越えていくから、私は慌ててもう一つ条件を追加する。
「耳は……ダメ、キスは口だけ……」
「こっちがいいの?」
二口くんが踏み込んでくる。私が顔を上げられないでいると中指と薬指とであごをすくって親指で私の唇をなぞる。
強引に目を合わせられ、もう私は逆らえない。
「うん……」
目を閉じる前に唇が下りてくる。彼も目を閉じないで私の目を覗き込んで来る。
長いキス。
キスを受ける私を観察するような視線に耐えられなくなって目を閉じる。
「……友紀」
一旦唇が離れた瞬間囁くように名前を呼ばれる。目を開けた先。まだ唇がくっつきそうな距離での甘えるような視線に胸の奥がきゅっと痛む。
「……なに?」
「口、ちょっと開いて」
彼の意図がわからないまま私は素直に口を開く。二口くんの目がふっと笑った気がした次の瞬間、理解した。
「んっ……!」
彼の唇が私の開いた唇に合わさり、ぬるっと彼の舌が私の舌に触れる。
これも確かに口へのキスだけど……今までのキスから……先に進んでしまった感じが怖くて、目をぎゅっと閉じる。
ぴたっと合わさった舌が私の舌をくすぐる。唇の感覚なんて、舌に比べたら、全然鈍かったんだ……。
声が、出ちゃいそう……だから、呼吸、を、どうしたら、いいのか、わからない……
「友紀? ……!!」
倒れこむように彼の胸に身体を預け、私ははぁはぁと息をする。全身が心臓になってしまったかのように脈打つ音がうるさい。強く抱きとめてくれたおかげでなんとか倒れずには済んだ。
「お前……呼吸、どうした?」
二口くんは少し慌てていた。
まだ呼吸が整わない。私は彼に身を預けたままなんとか声を絞り出す。
「ゴメン……どうしていいのかわからなくて、止めちゃったら、そのまま出来なくなっちゃった」
「なんで止めたんだよ」
「……息するのが恥ずかしくて……」
何だそれ。二口くんもオマエナニイッテンタ?って顔で私を見た。
「窒息させたら、俺、何て言やいいんだよ」
「……自殺扱いで処理してください」
「ばーか」
コツンと頭突きされる。
「いた……」
「ちゃんと、呼吸してください」
「ハイ……」
おでこをくっつけあったままお説教が続く。
「鼻息荒くなっても笑わないから」
「うん……」
「こんなんで死なれちゃマジ困るんですけど」
「……堅治くんも、怒るときは敬語になるんだね」
キッと睨まれて私は軽口をつぐむ。
二口くんはふうと一息ついて視線を和らげた。
「ったく……。じゃ、仕切り直しな」
「うん」
もう一度、最初から。だから。
さっきみたいな、そういう雰囲気を作るのにしばらく間があると思ったのに。
私を睨んでいた目線はもう甘い。顔を傾けて瞼を閉じかけた色っぽい表情を作ってくるから困ってしまう。
「あ……、待って、普通のにして」
「ん……普通って、なに……?」
彼は私が言い終わるのを待たずに唇を奪い、そのまま喋りながら侵入してくる。
「ふ……ん」
吐息が漏れてしまう。彼の舌が生き物のように絡みつく。
その感触は……イヤじゃないんだけど。
舌と舌が合わさって、それが擦れるようにうごくと、、、……。
思考が働いたのはそこまで。舌から与えられる鋭利な感覚に脳が揺れていくのがわかる
「ちゃんと、ん……、息、して……」
「ふ……ぁ、……は……」
彼の舌が動く度に胸の奥がきゅうぅと痛む。
呼吸をするために開けた口の隙間から、かすかに声が漏れてしまう。
それが二口くんの耳にも届いてしまったのか、目が笑っている。
だって、絡んでる舌が、気持ちよくて……眩暈がしてきそうになる。
身体から、力が抜けてく……
かくっと膝が崩れると、素早く二口くんが腕で支えてくれた。
「今度はどうした、息、してたよな!?」
「うん……してたよ……」
彼の胸に頭を預ける。
顔は……見られたくない。だって、信じられないぐらい惚けていると思うから。
なのに、彼は無邪気に私の顔を覗き込んできて、満足気に笑った。
「そんなに気持ちよかった?」
「……もう……」
「ねぇねぇ?」
「わかんない……」
彼が覗き込んでくる反対側に顔を背ける。彼の顔は見えないけど、胸の動きでくくくっと笑っているのが伝わる。
呼吸が全然整わない。彼からの初めての……感触に、戸惑いと、興奮と、罪悪感と、その先に進む恐怖と期待とか……。色々な感情が入り乱れてしまって処理できない。
ただ。
彼とだったら、もう一度……。
ううん。二口くんとなら、何回でも……。
ゆっくりと彼は腕をゆるめた。それに合わせて彼に預けていた身体を自分の制御下に戻していく。
でも、彼の腕は私の身体を捕らえたままだった。
「さっきの神社でのお願い事、ウソ」
「え?」
思わず見上げてしまうと、彼はばつの悪そうな顔をした。
「ホントは……友紀と進展しますように、って願った」
彼は私と目を合わせて自嘲するように笑う。
初詣のお願いに私とのことを?……と思うと恥ずかしくなってくる。
「そんなこと、神様にお願いしないでよ」
照れ隠しに睨みつけてしまう私に二口くんは甘く微笑むと、すっと耳元に唇を寄せる。
「じゃあ友紀。お願い?」
そんな耳に蕩けるような声でお願いされたら、拒否の言葉なんて出て来ない。……二口くんはそのまま私の返事を待っている。
「ちょっとずつ……でいい?」
「うん。いーよ」
「進展、って次はどんなことするの?」
その質問には二口くんは愉しそうに微笑むだけで答えてくれなかった。すると、ガチャガチャっと玄関の鍵を開ける音がした。
「ただいまー」
「……帰ってきやがった」
二口くんが背後のドアを睨んでチッと舌打ちをする。
「けんじー、誰か来てるの?」
下からお母さんらしき人の声が聞こえてさっと緊張する。私あがるとき靴揃えたっけ?今さらだけど……。
「うーん? 彼女ー!」
「え! おにい、彼女連れ込んでるの!?」
妹さんらしき素っ頓狂な声も聞こえる。
あっけらかんと答えた二口くんに驚いていると、彼は私に向かって不敵に笑う。
「ほーら。そんな顔してると『部屋で何してたの?』って疑われるよ?」
切り替えの早い二口くんはもう平常運転だ。ニヤニヤ顔でこちらを見下ろす。
もう。自分だけ、ホントにずるいんだから……。
このままじゃ切り替えが出来そうにない私は、意を決して勢いよく両手で自分の頬を叩いた。パチーンと音が響く。
びっくりした顔の二口くんに笑顔を見せる。
「うん。大丈夫」
力入れすぎた。まだ頬が痛い。二口くんが苦笑しながら言う。
「結局、顔、赤いままじゃねぇか」
「二口くんのご家族にご挨拶するため、気合を入れたってことで」
「……下、行くか」
「うん」
そして私は赤い頬のまま
「初めまして、二口くんとお付き合いさせてもらっている結城友紀といいます」
と一息に挨拶した。
手ぶらでいいよ、と言う二口くんに、そうはいかないと言う私。押し問答の末、結局シュークリームを二人で出し合って買うことにした。二口くんの家族四人、プラス私の五つ。みんなで食べられるように。
「お邪魔します……」
ご家族と顔を合わせることを覚悟してお家に上がったけれど誰もいない。「多分年始回りしてる」と二口くんが言う。シュークリームは冷蔵庫にしまってもらって、二階の二口くんの部屋に案内された。
「年末掃除しといてよかった~」
そう言いながら私を招き入れる。
初めて入る二口くんの部屋。窓際に机があって、ベッドがあって、ユニフォームがかけてある。寒色でまとめられた男の子らしい、二口くんらしい部屋だ。
コートと手袋を取る。ハンガーを渡された。手がままならなくて何度もコートをかけるのに失敗して私は自覚する。
すごく……緊張してる。
「寒い?」
やっとの思いでかけたハンガーを、彼は受け取りながら言う。
「ううん、大丈夫」
「手、貸して」
震える手を素直に差し出すと両手で包み込まれるように握られる。
「うわぁ……。またつめてぇ」
すりすりと手をこすられちょっと恥ずかしい。神社でも手を繋いでいたけどそれとは……全然違う。
「冷え性?」
「そんなことはないけど……寝る時足が冷たいなって思うことはある」
「へー、寝る時かー……」
「うん……」
ヘンな意味はないと思うんだけど……。含みを持たせたように聞こえてしまうのは、私が『二人きり』を意識しすぎているからなのだろうか。
私の手をこする二口くんの手が止まる。思わず彼を見上げてしまうと意外と近くに彼の顔があった。鼓動が乱れる。
誘うような甘い光が宿る瞳。どちらからともなく顔を近づけ瞳を閉じ、静かに唇が触れ合った。
「……今年、初」
「うん……」
そう言って二口くんは微笑むけど、私はぎこちなくうなずくのが精一杯。ご家族がいないスキに彼の家で二人っきりって……。急にいけないコトをしている気持ちになる。
そんな私の気も知らずに、彼は後ろ手でぱたんとドアを閉めた。
二口くんの部屋に二人っきり。どうしよう……。
「初めて友紀と二人になれた」
「そう……だね」
改めて確認して私を追い詰めてくる二口くんは意地悪だと思う。耳の奥で心臓の音がうるさい。
見つめ合う緊張感に耐えられなくなってきて、彼に握られてる両手に視線を移した。
「友紀」
甘い声で名前を呼ばれる。心臓が痛い。
「何?」
「キス以上のことはしないから、好きにさせてくれない?」
……?『キス以上のことはしない』? 今のキスより進んだことはしないって意味? でも『好きにさせて』ってどういうこと? 頭の中がぐるぐるしてくる。
ためらえばいいの? ほっとすればいいの? 自分の本心がわからない。キス以上?
「……キス以上って、キスもしない、ってこと?」
「いや、キスはする」
「わっ」
混乱のまま口にした揚げ足取りを責めるように強引に抱きしめられる。
身体がぴったりとくっつくように重なって、私の背中と頭が彼の手のひらでしっかりと抱えられている。いつもより力が強くてちょっと苦しい。身動きすらできない。
「まだ、いいって、言ってない……」
途切れ途切れにそう言うのがやっとなのは、彼が私の髪に顔をうずめたから。髪をかき分けるように耳元に唇が来て吐息がかかる。
そわっと身震いした。
「友紀、だめ?」
耳たぶを噛むようにして強請られる。
囁き声がくすぐったい。ため息が漏れそうになる。
逃げ道を塞がれるように抱きしめられてることで、二口くんは男で私は女だということをこれでもかと意識させられる。
落ち着け、心臓。「うん」と言っても大丈夫か、回らない頭で必死に考える。
「……キスまでだよ」
「友紀、好き」
「!!」
耳に唇がぶつけるように囁くの、絶対わざとだ。私がこそばゆがってるのをわかっててやってる……。やっとの思いで出した念押しの肯定をはみ出すように飛び越えていくから、私は慌ててもう一つ条件を追加する。
「耳は……ダメ、キスは口だけ……」
「こっちがいいの?」
二口くんが踏み込んでくる。私が顔を上げられないでいると中指と薬指とであごをすくって親指で私の唇をなぞる。
強引に目を合わせられ、もう私は逆らえない。
「うん……」
目を閉じる前に唇が下りてくる。彼も目を閉じないで私の目を覗き込んで来る。
長いキス。
キスを受ける私を観察するような視線に耐えられなくなって目を閉じる。
「……友紀」
一旦唇が離れた瞬間囁くように名前を呼ばれる。目を開けた先。まだ唇がくっつきそうな距離での甘えるような視線に胸の奥がきゅっと痛む。
「……なに?」
「口、ちょっと開いて」
彼の意図がわからないまま私は素直に口を開く。二口くんの目がふっと笑った気がした次の瞬間、理解した。
「んっ……!」
彼の唇が私の開いた唇に合わさり、ぬるっと彼の舌が私の舌に触れる。
これも確かに口へのキスだけど……今までのキスから……先に進んでしまった感じが怖くて、目をぎゅっと閉じる。
ぴたっと合わさった舌が私の舌をくすぐる。唇の感覚なんて、舌に比べたら、全然鈍かったんだ……。
声が、出ちゃいそう……だから、呼吸、を、どうしたら、いいのか、わからない……
「友紀? ……!!」
倒れこむように彼の胸に身体を預け、私ははぁはぁと息をする。全身が心臓になってしまったかのように脈打つ音がうるさい。強く抱きとめてくれたおかげでなんとか倒れずには済んだ。
「お前……呼吸、どうした?」
二口くんは少し慌てていた。
まだ呼吸が整わない。私は彼に身を預けたままなんとか声を絞り出す。
「ゴメン……どうしていいのかわからなくて、止めちゃったら、そのまま出来なくなっちゃった」
「なんで止めたんだよ」
「……息するのが恥ずかしくて……」
何だそれ。二口くんもオマエナニイッテンタ?って顔で私を見た。
「窒息させたら、俺、何て言やいいんだよ」
「……自殺扱いで処理してください」
「ばーか」
コツンと頭突きされる。
「いた……」
「ちゃんと、呼吸してください」
「ハイ……」
おでこをくっつけあったままお説教が続く。
「鼻息荒くなっても笑わないから」
「うん……」
「こんなんで死なれちゃマジ困るんですけど」
「……堅治くんも、怒るときは敬語になるんだね」
キッと睨まれて私は軽口をつぐむ。
二口くんはふうと一息ついて視線を和らげた。
「ったく……。じゃ、仕切り直しな」
「うん」
もう一度、最初から。だから。
さっきみたいな、そういう雰囲気を作るのにしばらく間があると思ったのに。
私を睨んでいた目線はもう甘い。顔を傾けて瞼を閉じかけた色っぽい表情を作ってくるから困ってしまう。
「あ……、待って、普通のにして」
「ん……普通って、なに……?」
彼は私が言い終わるのを待たずに唇を奪い、そのまま喋りながら侵入してくる。
「ふ……ん」
吐息が漏れてしまう。彼の舌が生き物のように絡みつく。
その感触は……イヤじゃないんだけど。
舌と舌が合わさって、それが擦れるようにうごくと、、、……。
思考が働いたのはそこまで。舌から与えられる鋭利な感覚に脳が揺れていくのがわかる
「ちゃんと、ん……、息、して……」
「ふ……ぁ、……は……」
彼の舌が動く度に胸の奥がきゅうぅと痛む。
呼吸をするために開けた口の隙間から、かすかに声が漏れてしまう。
それが二口くんの耳にも届いてしまったのか、目が笑っている。
だって、絡んでる舌が、気持ちよくて……眩暈がしてきそうになる。
身体から、力が抜けてく……
かくっと膝が崩れると、素早く二口くんが腕で支えてくれた。
「今度はどうした、息、してたよな!?」
「うん……してたよ……」
彼の胸に頭を預ける。
顔は……見られたくない。だって、信じられないぐらい惚けていると思うから。
なのに、彼は無邪気に私の顔を覗き込んできて、満足気に笑った。
「そんなに気持ちよかった?」
「……もう……」
「ねぇねぇ?」
「わかんない……」
彼が覗き込んでくる反対側に顔を背ける。彼の顔は見えないけど、胸の動きでくくくっと笑っているのが伝わる。
呼吸が全然整わない。彼からの初めての……感触に、戸惑いと、興奮と、罪悪感と、その先に進む恐怖と期待とか……。色々な感情が入り乱れてしまって処理できない。
ただ。
彼とだったら、もう一度……。
ううん。二口くんとなら、何回でも……。
ゆっくりと彼は腕をゆるめた。それに合わせて彼に預けていた身体を自分の制御下に戻していく。
でも、彼の腕は私の身体を捕らえたままだった。
「さっきの神社でのお願い事、ウソ」
「え?」
思わず見上げてしまうと、彼はばつの悪そうな顔をした。
「ホントは……友紀と進展しますように、って願った」
彼は私と目を合わせて自嘲するように笑う。
初詣のお願いに私とのことを?……と思うと恥ずかしくなってくる。
「そんなこと、神様にお願いしないでよ」
照れ隠しに睨みつけてしまう私に二口くんは甘く微笑むと、すっと耳元に唇を寄せる。
「じゃあ友紀。お願い?」
そんな耳に蕩けるような声でお願いされたら、拒否の言葉なんて出て来ない。……二口くんはそのまま私の返事を待っている。
「ちょっとずつ……でいい?」
「うん。いーよ」
「進展、って次はどんなことするの?」
その質問には二口くんは愉しそうに微笑むだけで答えてくれなかった。すると、ガチャガチャっと玄関の鍵を開ける音がした。
「ただいまー」
「……帰ってきやがった」
二口くんが背後のドアを睨んでチッと舌打ちをする。
「けんじー、誰か来てるの?」
下からお母さんらしき人の声が聞こえてさっと緊張する。私あがるとき靴揃えたっけ?今さらだけど……。
「うーん? 彼女ー!」
「え! おにい、彼女連れ込んでるの!?」
妹さんらしき素っ頓狂な声も聞こえる。
あっけらかんと答えた二口くんに驚いていると、彼は私に向かって不敵に笑う。
「ほーら。そんな顔してると『部屋で何してたの?』って疑われるよ?」
切り替えの早い二口くんはもう平常運転だ。ニヤニヤ顔でこちらを見下ろす。
もう。自分だけ、ホントにずるいんだから……。
このままじゃ切り替えが出来そうにない私は、意を決して勢いよく両手で自分の頬を叩いた。パチーンと音が響く。
びっくりした顔の二口くんに笑顔を見せる。
「うん。大丈夫」
力入れすぎた。まだ頬が痛い。二口くんが苦笑しながら言う。
「結局、顔、赤いままじゃねぇか」
「二口くんのご家族にご挨拶するため、気合を入れたってことで」
「……下、行くか」
「うん」
そして私は赤い頬のまま
「初めまして、二口くんとお付き合いさせてもらっている結城友紀といいます」
と一息に挨拶した。