モクゲキジョウホウ
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目撃情報
伊達工が敗退した次の日、春高の宮城県代表は決まったらしい。
伊達工は青葉城西との試合を含めてあと3回勝てば優勝だったそうだ。
3回。
回数でいえばたった3回だけど、そこを勝ち抜くには彼自身と部員みんなのさらなる努力が必要で……。私なんかは本当に見守ることしかできないんだと歯がゆくなる。
そこまで彼が懸けているものでも、それは部活に過ぎなくて。
休みが明ければ普通の高校生活が待っている。
公休扱いで休んでいた二口くんも月曜日には普通に学校にやってきた。
休み時間に彼に二日分のノートのコピーを手渡す。
「試合お疲れ様」
「サンキュ、非常に助かります」
「良かったら、青根くんにも回して」
「はいよー」
二口くんはすぐに後ろを向いて「青根ー! 試合ン時のノート! 後でコピー渡す!」と青根くんに大声で伝える。青根くんは一度うなずくと、私に向かってペコリと頭を下げた。私も会釈を返す。
「あの後、先輩方との練習どうだった?」
「ちょう楽しかった!」
間髪入れず二口くんは笑顔で言う。
「鎌先さんとか鍛えすぎてて、ホント、身体重くなってて笑ったわ」
「え? 引退しても鍛えてるんだ」
「まあ習慣になってるっつーのはわかるんだけど、どうなってんだよあの筋肉達磨。何で現役の時よりバルクアップしてんだよ」
文句を言いつつ先輩を語る二口くんはイキイキしている。げんなりとした顔を作りつつも表情は明るい。共通の知り合いの話ができるって、すごく楽しいな。
「茂庭さんは……」
二口くんはそこで遠くを見つめたと思ったら、必死で笑いをこらえたようなしかめっ面をする。
「どうしたの?」
「……辞めてから三か月だってのに、ホント体力なくなって、お爺ちゃんかよ! みたいになってて」
そこまで言うとこらえられずに噴き出す。
「年かねー。ああはなりたくねーわ」
ゲラゲラ笑いだした二口くんの脳天に、背後から近づいた青根くんがこつんと拳骨を落とす。
「イテ、なんだよ」
「先輩に対して失礼だ」
青根くんは頭を抑える二口くんをぎろっと睨みつけると、ふと私の方を向いた。目つきは穏やかなものになっている。
ばちっと目が合うと青根くんは口を開いた。
「ノート、ありがとう」
「いいよいいよ。青根くんもお疲れ様」
私が微笑んでそう言うと、青根くんは口元だけほんのり笑って自分の席へ戻っていった。
「ったく、何だよもー」
頭さすりながら口をとがらせると、少し声のトーンを上げて二口くんは語る。
「でも茂庭さん、さすがだったわ。気づかねークセとか、バンバン説教……いや、指摘してくれるし。上げ方とかモーションの読ませなさとか年期が入ってるっつーか年の功で……」
そこまで言うと青根くんの方を伺うようにきょろっと見る。『ちゃんと褒めてますよー』とでも言いたげに。
でも……。
「やっべ、ジジィワードしか出て来ねぇ」
せっかく褒めてたのにまた思い出しゲラゲラ笑いをする二口くんを青根くんが睨みつける。
もう先輩の話させない方がいいのかな……。話題変えよう。
「……試合ってご家族とか見に来ることあるの?」
「うちはあんまりねぇけど……、他の学校で主将? の家族が総出で応援に来てるとこあったな。あれはすげぇとは思うけど……キツィな」
何とも言えない顔で二口くんが言う。
「応援に来てくれるなんて仲良さそうでいい家族だと思うけど……」
「見に来てくれる分にはかまわねぇんだけど……。俺が親父に『フレーフレーけんじー』って叫ばれてるのを想像したら……」
二口くんは心底イヤそうな顔をする。お父さん、そういうのが似合わない雰囲気の人なのかな?
「そういや鎌先さんの弟は来た事あったな。中学でバレーボールやってるとかで」
「そうなんだ。……伊達工バレー部来るのかな?」
「どうだろう? 結構、背ぇ高かったんだよなー」
鎌先さんって弟いるんだ。なんかわかる。二口くんとのやり取り見てると『先輩後輩』ってよりも『兄と弟』っていう方がしっくりくるような気がするし。
「二口くんはきょうだいいる?」
「いるけど。……何がいそうに見える?」
二口くんは含みがあるように笑って私に質問を返す。
少し考える。お兄さんかお姉さんだったら……なんとなく二口くん似のキレイなお姉さんの方だろうなと思った。
「うーん、お姉さん?」
「ブー、妹でしたー」
「そうなんだ……あ! 兄弟構成うちと一緒だ」
「言われてみればそうだな」
私のお兄ちゃんがもし二口くんだったら、とありもしない想像をしてみる。……何でだろう。両頬っぺたをつねられていじめられるイメージしかわかない。
そうだ。二口くんもお兄さんなら……。聞いてみようかな。
「あの……妹さんの彼氏……とか気になる?」
私のお兄ちゃんとはタイプが違うとは思うけど、お兄さんとしての考えは参考になるかもしれない。二口くんは妹さんとどんな感じなんだろう?
二口くんは眉をしかめて考えている様子だった。
「まだ中学生だからなー……。彼氏いたら、まあムカつくなー」
「ムカつくの? 何で?」
「まだ早い! 生意気! って感じだな」
「そっか……」
でも二口くん、中学生の時彼女いそう……と頭によぎる。正直すごく気になるけど……本人が言う気がないなら私からは聞いちゃいけない気がする。
「ん? どした?」
聞くだけ聞いて黙ってしまった私を心配そうに二口くんは見る。慌てて私は話を戻す。
「ううん。あの、この前、うちに来てくれた時なんだけど……」
「あー試合前の?」
「そう。あれ、その……お兄ちゃんに見られちゃってて」
私が手を合わせて謝ると二口くんは一瞬真顔になった。でもすぐに口角を上げて笑う。
「……へー。何か言われた? 反対とか」
「それはなかったんだけど……、付き合う前に、髪、やってもらったの、二口くんと会うためだって気づいたみたいで……」
二口くんはすぐにいつのことだか思い至ったようだった。
「マジか」
「うん……。何か言いたげだったけど、私が『それが何?』みたいな態度でいたら、何も言ってこなかった」
「ふっ、結城、兄貴の前ではそんな感じなんだ」
「二口くんの真似っぽく」
「ちょっとやってみろよ?」
「え? こ、こうかな」
心持ち顔を上げて上から視線を斜めに落とす感じにしてみる。何となく、二口くんと言えばこの角度。
「ぷっ、ちょ、まて。結城の目から俺、そんな風に見えてんの?」
「ごめん、威圧感出すにはちょうどいいかなって思って」
「可愛すぎる」
「!!? もう……」
さらっと私が照れる言葉を入れてくるから心臓に悪い。
そういう時二口くんは優しい目で笑ってるんだけど、その表情にも私は弱い。
「……まあ、俺に対しては普通にムカつくんだろうな」
「そういうものかなー」
「一度ごあいさつに行かねぇと。なぁ?」
「待って! ポキポキ指鳴らさないで! うちのお兄ちゃん、そんな強くないから!」
お兄ちゃんヒョロヒョロだからな。でも会ったら二人はどんな会話するんだろう。案外気が合ったりするのかな?
二人がにらみ合うのを何となく想像してると、二口くんは「あ、そうだ」と何かを思いついたように言う。
「今度、……近いうち、俺ん家来ない?」
唐突な提案に私はびっくりする。
二口くんの……お家?
「えっ! 緊張するなー」
「大丈夫。家族とかいるから」
「だから緊張するんじゃん! ん……? 違う! そっちの心配してないよ!」
「えー? ちょっとは期待しろよー」
「んんんん!?」
言葉に詰まって赤くなる私を見て二口くんは意味深に笑った。
伊達工が敗退した次の日、春高の宮城県代表は決まったらしい。
伊達工は青葉城西との試合を含めてあと3回勝てば優勝だったそうだ。
3回。
回数でいえばたった3回だけど、そこを勝ち抜くには彼自身と部員みんなのさらなる努力が必要で……。私なんかは本当に見守ることしかできないんだと歯がゆくなる。
そこまで彼が懸けているものでも、それは部活に過ぎなくて。
休みが明ければ普通の高校生活が待っている。
公休扱いで休んでいた二口くんも月曜日には普通に学校にやってきた。
休み時間に彼に二日分のノートのコピーを手渡す。
「試合お疲れ様」
「サンキュ、非常に助かります」
「良かったら、青根くんにも回して」
「はいよー」
二口くんはすぐに後ろを向いて「青根ー! 試合ン時のノート! 後でコピー渡す!」と青根くんに大声で伝える。青根くんは一度うなずくと、私に向かってペコリと頭を下げた。私も会釈を返す。
「あの後、先輩方との練習どうだった?」
「ちょう楽しかった!」
間髪入れず二口くんは笑顔で言う。
「鎌先さんとか鍛えすぎてて、ホント、身体重くなってて笑ったわ」
「え? 引退しても鍛えてるんだ」
「まあ習慣になってるっつーのはわかるんだけど、どうなってんだよあの筋肉達磨。何で現役の時よりバルクアップしてんだよ」
文句を言いつつ先輩を語る二口くんはイキイキしている。げんなりとした顔を作りつつも表情は明るい。共通の知り合いの話ができるって、すごく楽しいな。
「茂庭さんは……」
二口くんはそこで遠くを見つめたと思ったら、必死で笑いをこらえたようなしかめっ面をする。
「どうしたの?」
「……辞めてから三か月だってのに、ホント体力なくなって、お爺ちゃんかよ! みたいになってて」
そこまで言うとこらえられずに噴き出す。
「年かねー。ああはなりたくねーわ」
ゲラゲラ笑いだした二口くんの脳天に、背後から近づいた青根くんがこつんと拳骨を落とす。
「イテ、なんだよ」
「先輩に対して失礼だ」
青根くんは頭を抑える二口くんをぎろっと睨みつけると、ふと私の方を向いた。目つきは穏やかなものになっている。
ばちっと目が合うと青根くんは口を開いた。
「ノート、ありがとう」
「いいよいいよ。青根くんもお疲れ様」
私が微笑んでそう言うと、青根くんは口元だけほんのり笑って自分の席へ戻っていった。
「ったく、何だよもー」
頭さすりながら口をとがらせると、少し声のトーンを上げて二口くんは語る。
「でも茂庭さん、さすがだったわ。気づかねークセとか、バンバン説教……いや、指摘してくれるし。上げ方とかモーションの読ませなさとか年期が入ってるっつーか年の功で……」
そこまで言うと青根くんの方を伺うようにきょろっと見る。『ちゃんと褒めてますよー』とでも言いたげに。
でも……。
「やっべ、ジジィワードしか出て来ねぇ」
せっかく褒めてたのにまた思い出しゲラゲラ笑いをする二口くんを青根くんが睨みつける。
もう先輩の話させない方がいいのかな……。話題変えよう。
「……試合ってご家族とか見に来ることあるの?」
「うちはあんまりねぇけど……、他の学校で主将? の家族が総出で応援に来てるとこあったな。あれはすげぇとは思うけど……キツィな」
何とも言えない顔で二口くんが言う。
「応援に来てくれるなんて仲良さそうでいい家族だと思うけど……」
「見に来てくれる分にはかまわねぇんだけど……。俺が親父に『フレーフレーけんじー』って叫ばれてるのを想像したら……」
二口くんは心底イヤそうな顔をする。お父さん、そういうのが似合わない雰囲気の人なのかな?
「そういや鎌先さんの弟は来た事あったな。中学でバレーボールやってるとかで」
「そうなんだ。……伊達工バレー部来るのかな?」
「どうだろう? 結構、背ぇ高かったんだよなー」
鎌先さんって弟いるんだ。なんかわかる。二口くんとのやり取り見てると『先輩後輩』ってよりも『兄と弟』っていう方がしっくりくるような気がするし。
「二口くんはきょうだいいる?」
「いるけど。……何がいそうに見える?」
二口くんは含みがあるように笑って私に質問を返す。
少し考える。お兄さんかお姉さんだったら……なんとなく二口くん似のキレイなお姉さんの方だろうなと思った。
「うーん、お姉さん?」
「ブー、妹でしたー」
「そうなんだ……あ! 兄弟構成うちと一緒だ」
「言われてみればそうだな」
私のお兄ちゃんがもし二口くんだったら、とありもしない想像をしてみる。……何でだろう。両頬っぺたをつねられていじめられるイメージしかわかない。
そうだ。二口くんもお兄さんなら……。聞いてみようかな。
「あの……妹さんの彼氏……とか気になる?」
私のお兄ちゃんとはタイプが違うとは思うけど、お兄さんとしての考えは参考になるかもしれない。二口くんは妹さんとどんな感じなんだろう?
二口くんは眉をしかめて考えている様子だった。
「まだ中学生だからなー……。彼氏いたら、まあムカつくなー」
「ムカつくの? 何で?」
「まだ早い! 生意気! って感じだな」
「そっか……」
でも二口くん、中学生の時彼女いそう……と頭によぎる。正直すごく気になるけど……本人が言う気がないなら私からは聞いちゃいけない気がする。
「ん? どした?」
聞くだけ聞いて黙ってしまった私を心配そうに二口くんは見る。慌てて私は話を戻す。
「ううん。あの、この前、うちに来てくれた時なんだけど……」
「あー試合前の?」
「そう。あれ、その……お兄ちゃんに見られちゃってて」
私が手を合わせて謝ると二口くんは一瞬真顔になった。でもすぐに口角を上げて笑う。
「……へー。何か言われた? 反対とか」
「それはなかったんだけど……、付き合う前に、髪、やってもらったの、二口くんと会うためだって気づいたみたいで……」
二口くんはすぐにいつのことだか思い至ったようだった。
「マジか」
「うん……。何か言いたげだったけど、私が『それが何?』みたいな態度でいたら、何も言ってこなかった」
「ふっ、結城、兄貴の前ではそんな感じなんだ」
「二口くんの真似っぽく」
「ちょっとやってみろよ?」
「え? こ、こうかな」
心持ち顔を上げて上から視線を斜めに落とす感じにしてみる。何となく、二口くんと言えばこの角度。
「ぷっ、ちょ、まて。結城の目から俺、そんな風に見えてんの?」
「ごめん、威圧感出すにはちょうどいいかなって思って」
「可愛すぎる」
「!!? もう……」
さらっと私が照れる言葉を入れてくるから心臓に悪い。
そういう時二口くんは優しい目で笑ってるんだけど、その表情にも私は弱い。
「……まあ、俺に対しては普通にムカつくんだろうな」
「そういうものかなー」
「一度ごあいさつに行かねぇと。なぁ?」
「待って! ポキポキ指鳴らさないで! うちのお兄ちゃん、そんな強くないから!」
お兄ちゃんヒョロヒョロだからな。でも会ったら二人はどんな会話するんだろう。案外気が合ったりするのかな?
二人がにらみ合うのを何となく想像してると、二口くんは「あ、そうだ」と何かを思いついたように言う。
「今度、……近いうち、俺ん家来ない?」
唐突な提案に私はびっくりする。
二口くんの……お家?
「えっ! 緊張するなー」
「大丈夫。家族とかいるから」
「だから緊張するんじゃん! ん……? 違う! そっちの心配してないよ!」
「えー? ちょっとは期待しろよー」
「んんんん!?」
言葉に詰まって赤くなる私を見て二口くんは意味深に笑った。