2 メノウエノタンコブ
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目の上のたんこぶ
※モブ(ライバル)の女の子視点です
「立花ー」
「おはよ。何よ、二口」
教室に入ってくるなり、二口は挨拶もなく私の名前を呼ぶ。呼ばれただけで浮き足立ってしまうのは我ながら単純だと思う。二口は私の斜め前の席に荷物を下ろした。何の用だろう、と思う間もなく、こう告げてくる。
「俺、結城と付き合うことになった」
心臓に痛みが走り、浮き足立った気持ちが地に落ちた。動揺を気取られないよう、わざと口角を上げる。衝撃と「ああ、やっぱり」という気持ちがないまぜになる。
うすうす、気づいてはいた。昨日、二人そろって一限をサボっていたから。それから一日、何となく二口には近づけなかった。
ざわつく胸を抑え、私は口を開く。
「………へー、おめでと。よく結城さんがOKしてくれたね」
「何で俺からだって決めつけるんだよ」
「だって、バレバレだったって。アンタが結城さんのこと好きなの」
「え? マジで?」
二口は心底驚いたって顔で私を見る。アホ面。二口の自覚のなさにあきれながら、私は続けた。
「……つーか結城さん、アンタのことなんてちょっと引き気味だったじゃん。ホントよくOKしてくれたよね」
「別に引いてねーだろ。実は仲良かったんですー」
「そう……。そんで何? これからは馴れ馴れしく話しかけるなって? どうせ彼女、女友達とかイヤがるんでしょ?」
「は? いや? 別に今までと同じだよ。俺の彼女はそんな心の狭いコト言いませんー」
「……」
「まあ、お前とじゃ、やましいことも起きようがないしな」
「………」
じゃあ私にわざわざ伝える理由は何なのよ。私がアンタのこと好きだとでも思った? うぬぼれてるんじゃないの?
結城さんも、今まで通りでいいって何よ。『アンタなんかワタシの相手じゃない』って言われてるみたいで超ムカつく。束縛して周りを牽制してる方がよっぽど可愛げがあるわ。
悲しいと思ったのは最初の衝撃を受けた一瞬だけ。あとは、ひたすらムカついてくる。
「かわいそうに……。愛されてないんじゃないの?」
腹立ちまぎれにぶちまけた負け惜しみに、ぴくりと二口の眉が動く。どうやら思い当たる節はあるらしい。
え、もしかして地雷? 確かに結城さんって他人に執着しなさそうだし。
惚気させるのも癪だから、追い打ちかけよ。
「ホントに付き合ってんの? 好きって言ってくれた? アンタの片想いなんじゃないの?」
「はぁ? ふざけ、ちゃんと両想いですー」
あからさまにムキになってる。ウケる。図星なの? 逆に心配だわ。
「ホントに? アンタが告白したら、何て返ってきたのよ」
「……言うと減るから言わねー」
「そ。別に知りたいわけじゃないし、いいけどー」
フンっとそっぽを向くと、話は終わったとばかりにバッグから教科書などを取り出し机に詰め込み始める。二口を盗み見る。悔しいぐらいに私好みの顔だ。
一つだけ。どうしても一つだけ聞きたい。
「……どこが好きなの」
私では何がダメだったのか、決め手は何だったのか。あの子と私、何が違うの? あの根暗女のどこがいいの?
二口は手を止めた。視線を宙に向ける。
「全部」
話にならない。考えてるように見せかけての即答だった。聞くんじゃなかった。おまけに、
「顔もカラダも性格も、全部好き」
と余計な情報まで付け加える。
「カラダって……」
無意識に小声でつぶやいてしまった。軽口なのに、その先を暗示させる単語に不意打ちを食らった感じだ。内心冷や汗をかいている私をよそに二口は笑う。
「別にやらしー意味じゃねぇよ。身も心も的な? うまく言えねーけど、そういうことだよ」
ぐさぐさと、一言一言が突き刺さる。私が入り込む隙間なんて、1ミリもない。
ショックを悟られないよう頬杖をつき顔を背ける。ほんっと、ムカつく。その勢いのまま口が滑らかに動く。
「へー、ベタぼれじゃん。彼女の方はちゃんとアンタのこと好きなのか、ますます心配になるわ」
「……」
即、ムキになった二口に言い返されると思ったのに、返ってこない。不思議に思って顔を戻すと、二口は頭を抱えて突っ伏していた。予想外のリアクションに、半笑いになってしまう。
「は? ……アンタ、大丈夫?」
「あんまりそーゆーこと言うんじゃねーよ。自信なくなってくるわ」
「はあ?」
「あー、立花に心折られた。しばらく立ち直れねー」
机に頭を押しつけてたと思ったら、ぐるりとこちらを向く。目が、死んでる。何? どうしたの、二口は。
「立花」
「……何よ」
「俺のこと、優しいって思う?」
「ふっ」
思わず鼻で笑ってしまった。全くコイツは。アンタが優しかったら、私はここまで傷つけられてない。
「どの口が言うの。思ったことないよ。一度も」
「そーだよなー」
そう言って、二口はまたごろんと反対を向く。
「へー。カノジョにどうやって優しくしたらいいのか、わかんないんでしょ」
「……」
「アンタは女の子への思いやりをもっと学ぶべきよ」
実感を込めてそう言う。私の傷を思い知れ。
「そうだったら、どんなにラクか……」
二口があっちを向いたまま小さくつぶやく。
なにこれ、重症だ。あー、ほんっとムカつく。ムカつきすぎてちょっと涙出そうだ。HR開始までまだ時間あるし、トイレで目元直してこよ……。
でも、一言。
「ばーーーーか! とっととフられろ!」
二口の後頭部に言い放ち私は席を立つ。
「んだと!」
ばっと二口が立ち上がる気配がしたけど、そちらを見ないように私は教室を出る。
子どもじみた罵倒。
だけど、それが私の掛け値なしの本音だった。
※モブ(ライバル)の女の子視点です
「立花ー」
「おはよ。何よ、二口」
教室に入ってくるなり、二口は挨拶もなく私の名前を呼ぶ。呼ばれただけで浮き足立ってしまうのは我ながら単純だと思う。二口は私の斜め前の席に荷物を下ろした。何の用だろう、と思う間もなく、こう告げてくる。
「俺、結城と付き合うことになった」
心臓に痛みが走り、浮き足立った気持ちが地に落ちた。動揺を気取られないよう、わざと口角を上げる。衝撃と「ああ、やっぱり」という気持ちがないまぜになる。
うすうす、気づいてはいた。昨日、二人そろって一限をサボっていたから。それから一日、何となく二口には近づけなかった。
ざわつく胸を抑え、私は口を開く。
「………へー、おめでと。よく結城さんがOKしてくれたね」
「何で俺からだって決めつけるんだよ」
「だって、バレバレだったって。アンタが結城さんのこと好きなの」
「え? マジで?」
二口は心底驚いたって顔で私を見る。アホ面。二口の自覚のなさにあきれながら、私は続けた。
「……つーか結城さん、アンタのことなんてちょっと引き気味だったじゃん。ホントよくOKしてくれたよね」
「別に引いてねーだろ。実は仲良かったんですー」
「そう……。そんで何? これからは馴れ馴れしく話しかけるなって? どうせ彼女、女友達とかイヤがるんでしょ?」
「は? いや? 別に今までと同じだよ。俺の彼女はそんな心の狭いコト言いませんー」
「……」
「まあ、お前とじゃ、やましいことも起きようがないしな」
「………」
じゃあ私にわざわざ伝える理由は何なのよ。私がアンタのこと好きだとでも思った? うぬぼれてるんじゃないの?
結城さんも、今まで通りでいいって何よ。『アンタなんかワタシの相手じゃない』って言われてるみたいで超ムカつく。束縛して周りを牽制してる方がよっぽど可愛げがあるわ。
悲しいと思ったのは最初の衝撃を受けた一瞬だけ。あとは、ひたすらムカついてくる。
「かわいそうに……。愛されてないんじゃないの?」
腹立ちまぎれにぶちまけた負け惜しみに、ぴくりと二口の眉が動く。どうやら思い当たる節はあるらしい。
え、もしかして地雷? 確かに結城さんって他人に執着しなさそうだし。
惚気させるのも癪だから、追い打ちかけよ。
「ホントに付き合ってんの? 好きって言ってくれた? アンタの片想いなんじゃないの?」
「はぁ? ふざけ、ちゃんと両想いですー」
あからさまにムキになってる。ウケる。図星なの? 逆に心配だわ。
「ホントに? アンタが告白したら、何て返ってきたのよ」
「……言うと減るから言わねー」
「そ。別に知りたいわけじゃないし、いいけどー」
フンっとそっぽを向くと、話は終わったとばかりにバッグから教科書などを取り出し机に詰め込み始める。二口を盗み見る。悔しいぐらいに私好みの顔だ。
一つだけ。どうしても一つだけ聞きたい。
「……どこが好きなの」
私では何がダメだったのか、決め手は何だったのか。あの子と私、何が違うの? あの根暗女のどこがいいの?
二口は手を止めた。視線を宙に向ける。
「全部」
話にならない。考えてるように見せかけての即答だった。聞くんじゃなかった。おまけに、
「顔もカラダも性格も、全部好き」
と余計な情報まで付け加える。
「カラダって……」
無意識に小声でつぶやいてしまった。軽口なのに、その先を暗示させる単語に不意打ちを食らった感じだ。内心冷や汗をかいている私をよそに二口は笑う。
「別にやらしー意味じゃねぇよ。身も心も的な? うまく言えねーけど、そういうことだよ」
ぐさぐさと、一言一言が突き刺さる。私が入り込む隙間なんて、1ミリもない。
ショックを悟られないよう頬杖をつき顔を背ける。ほんっと、ムカつく。その勢いのまま口が滑らかに動く。
「へー、ベタぼれじゃん。彼女の方はちゃんとアンタのこと好きなのか、ますます心配になるわ」
「……」
即、ムキになった二口に言い返されると思ったのに、返ってこない。不思議に思って顔を戻すと、二口は頭を抱えて突っ伏していた。予想外のリアクションに、半笑いになってしまう。
「は? ……アンタ、大丈夫?」
「あんまりそーゆーこと言うんじゃねーよ。自信なくなってくるわ」
「はあ?」
「あー、立花に心折られた。しばらく立ち直れねー」
机に頭を押しつけてたと思ったら、ぐるりとこちらを向く。目が、死んでる。何? どうしたの、二口は。
「立花」
「……何よ」
「俺のこと、優しいって思う?」
「ふっ」
思わず鼻で笑ってしまった。全くコイツは。アンタが優しかったら、私はここまで傷つけられてない。
「どの口が言うの。思ったことないよ。一度も」
「そーだよなー」
そう言って、二口はまたごろんと反対を向く。
「へー。カノジョにどうやって優しくしたらいいのか、わかんないんでしょ」
「……」
「アンタは女の子への思いやりをもっと学ぶべきよ」
実感を込めてそう言う。私の傷を思い知れ。
「そうだったら、どんなにラクか……」
二口があっちを向いたまま小さくつぶやく。
なにこれ、重症だ。あー、ほんっとムカつく。ムカつきすぎてちょっと涙出そうだ。HR開始までまだ時間あるし、トイレで目元直してこよ……。
でも、一言。
「ばーーーーか! とっととフられろ!」
二口の後頭部に言い放ち私は席を立つ。
「んだと!」
ばっと二口が立ち上がる気配がしたけど、そちらを見ないように私は教室を出る。
子どもじみた罵倒。
だけど、それが私の掛け値なしの本音だった。
