12.5 カラスノメ
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カラスノメ
※12 ワキメモフラズ の前々日の話です
「あれ? 清水?」
「え? 潔子さん!?」
黒髪でメガネの子が誰かを探すように体育館を覗く。彼女はきょろきょろと中を見回し、目的の人物は見つけられなかったらしい。一礼すると外へ出て行った。
「びっくりしたー! 何で清水が作業着着てるんだろうって思った!」
「えー? 俺も見たかったっス! つーか潔子さんレベルの美女がその辺いるわけないっすよ、ましてや工業に!」
「しーーーー! お前失礼だぞ!」
「で、どいつっスか?」
その田中の思いが通じたのか彼女はここから見えるギリギリの位置に、出入りする部員の邪魔にならないように立っていた。後から入ってくる部員とも顔見知りのようで軽く挨拶を交わしている。
「え? 全然似てないじゃないっすか。潔子さんの方が美人っすよ」
「そうか? あの子メガネで損してるけど相当キレイな子だよ」
キレイな子は8割輪郭で決まるっていうのが俺の持論だ。輪郭はメイクとかで誤魔化しようがないし。
「ふっ。潔子さんはメガネかけてても美人ですから勝ってますね」
「……何の勝負だよ」
人の褌で相撲を取る田中に呆れて鼻で笑うと、横でストレッチする大地が思い出したように話に入ってきた。
「あの子、青城戦の時伊達工の応援席にいたぞ」
「え? マジっすか? ってことは誰かのカノジョっすかね」
「えー夢が壊れるー。モチベーション下がること言うのやめてよもー!」
大地が覚えてるのに正直驚いた。意外と他校の女子とか見てんだな。むっつりめ。
別に彼女をどうこうしようとは思わないけど、目を惹いたキレイな子が相手チームの誰かと付き合ってるというのは微妙に腹立たしい。探してるってことはまだ来てない部員? 誰のだ?
そう思ってたところで背後の更衣室のドアがきぃっと音を立てて開く。思わず振り返って、振り返ったことを後悔した。
伊達工ジャージを羽織った鉄壁2年2人組がそこから出てきた。
「ひっ」
上からぎろっと睨め付けるように見下ろしてくる。
「や、やんのか」
臨戦態勢の田中のケツを叩いて黙らせてると、白髪の方が無言で深々とお辞儀をしてきた。
「…………」
「……チっす」
その横で頭を一ミリも下げない茶髪がほぼ舌打とも言える挨拶をよこす。……相変わらずすごい威圧感だ。コイツらまだ2年だろ?
「あれー? 二口青根! 何でそこで着替えてんの?」
「6限実習で部室寄る時間なかったんだよ!」
仲間内の質問に茶髪の方が返す。伊達工の新主将は確か二口くんの方だったっけ? 部員の輪の中に入って二言三言交わすと二口くんはこちらを振り返った。
え? なんか睨まれてる?
「何かアイツムカつくっすよね。何メンチ切ってんだよ、くらぁ!」
「こら、田中どうどう、多分俺たちがうるさかったんだよ」
「月島系? 及川系のイケメンって無条件でムカつきません?」
「『月島蛍』ってフルネーム出すなよ……」
顔の系統は月島より及川寄りだけど及川みたいなチャラさは薄くてトゲがある。月島みたいなインテリ系のトゲじゃなくてヤンキー的なアレだ。
……イケメンだし背も高ぇし烏野にいたら女子入れ食いだろうな。ここ女子少ないから意外とモテないのか? とはいえ整った顔からの睨みは青根くんとは違った威圧感がある。
でもさっき挨拶の仕方からみるに、青根くんって結構いいやつだよなー……。
その青根くんが二口くんをつついて何かを伝える。それを受けて二口くんは小走りで体育館の外へ向かっていった。
「あの子が探してたの、新主将の方だったんだな……」
彼女が何かを聞いて二口くんが答えている。『そっかぁ』と少し残念そうな表情の彼女の口の動きがそう言っている。何かを断っている感じだ。でも……。
あんなに目つきのキツかった二口くんが、信じられないぐらい穏やかな顔をしている。
「田中、田中! 見て見て!」
「何すか?」
「あれ、絶対、付き合ってる!」
「!! そ、そそんな……」
「間違いねーべ!」
俺はなんだかわくわくしてきた。意外な人のレンアイの覗き見ちょー楽しい!
一方、田中はブルブルと唇を震わせていた。
「ウソだろ! 俺は信じない!」
「し、声大きいって田中」
そのタイミングで二口くんがこちらを見る。
そしてカノジョに見せてるのとは全然違う、嘲るような笑顔を俺たちに見せた。
背筋がぞっとする。すると、
「!!!!!」
俺も田中も声が出なかった。
二口くんが、彼女に、キスをした。
体育館の外なので、アップを始めた伊達工メンバーは誰も見ていない。烏野でそっちを見ていたのは俺と田中だけだ。
ってことは二口くんは俺たちに見せつけるために……。
「きききき、スガさん、キスしましたよ! アイツ!!!」
田中がカスカスの声で血涙も流さんばかりに口元を震わせながら言う。
バコンと頭に衝撃が走った。
清水が丸めたノートを両手に怖い顔で睨む。
「真面目にアップしなさい!」
さっきの彼女はもういない。二口くんは舌をペロッと出して唇をなめると、両腕を上にあげて「よっしゃー、いくかー」と伸びをする。
周りの部員が一斉に「うーす!!」と声を上げる。
伊達工の迫力と団結力はご健在だ。
「……すみませんでした」
「潔子さんに殴られた……これは言うなれば拳骨という名のキス……」
しおしおと謝罪する俺の横で田中がうつろな目で何かを言っていて、清水をドン引きさせていた。
※12 ワキメモフラズ の前々日の話です
「あれ? 清水?」
「え? 潔子さん!?」
黒髪でメガネの子が誰かを探すように体育館を覗く。彼女はきょろきょろと中を見回し、目的の人物は見つけられなかったらしい。一礼すると外へ出て行った。
「びっくりしたー! 何で清水が作業着着てるんだろうって思った!」
「えー? 俺も見たかったっス! つーか潔子さんレベルの美女がその辺いるわけないっすよ、ましてや工業に!」
「しーーーー! お前失礼だぞ!」
「で、どいつっスか?」
その田中の思いが通じたのか彼女はここから見えるギリギリの位置に、出入りする部員の邪魔にならないように立っていた。後から入ってくる部員とも顔見知りのようで軽く挨拶を交わしている。
「え? 全然似てないじゃないっすか。潔子さんの方が美人っすよ」
「そうか? あの子メガネで損してるけど相当キレイな子だよ」
キレイな子は8割輪郭で決まるっていうのが俺の持論だ。輪郭はメイクとかで誤魔化しようがないし。
「ふっ。潔子さんはメガネかけてても美人ですから勝ってますね」
「……何の勝負だよ」
人の褌で相撲を取る田中に呆れて鼻で笑うと、横でストレッチする大地が思い出したように話に入ってきた。
「あの子、青城戦の時伊達工の応援席にいたぞ」
「え? マジっすか? ってことは誰かのカノジョっすかね」
「えー夢が壊れるー。モチベーション下がること言うのやめてよもー!」
大地が覚えてるのに正直驚いた。意外と他校の女子とか見てんだな。むっつりめ。
別に彼女をどうこうしようとは思わないけど、目を惹いたキレイな子が相手チームの誰かと付き合ってるというのは微妙に腹立たしい。探してるってことはまだ来てない部員? 誰のだ?
そう思ってたところで背後の更衣室のドアがきぃっと音を立てて開く。思わず振り返って、振り返ったことを後悔した。
伊達工ジャージを羽織った鉄壁2年2人組がそこから出てきた。
「ひっ」
上からぎろっと睨め付けるように見下ろしてくる。
「や、やんのか」
臨戦態勢の田中のケツを叩いて黙らせてると、白髪の方が無言で深々とお辞儀をしてきた。
「…………」
「……チっす」
その横で頭を一ミリも下げない茶髪がほぼ舌打とも言える挨拶をよこす。……相変わらずすごい威圧感だ。コイツらまだ2年だろ?
「あれー? 二口青根! 何でそこで着替えてんの?」
「6限実習で部室寄る時間なかったんだよ!」
仲間内の質問に茶髪の方が返す。伊達工の新主将は確か二口くんの方だったっけ? 部員の輪の中に入って二言三言交わすと二口くんはこちらを振り返った。
え? なんか睨まれてる?
「何かアイツムカつくっすよね。何メンチ切ってんだよ、くらぁ!」
「こら、田中どうどう、多分俺たちがうるさかったんだよ」
「月島系? 及川系のイケメンって無条件でムカつきません?」
「『月島蛍』ってフルネーム出すなよ……」
顔の系統は月島より及川寄りだけど及川みたいなチャラさは薄くてトゲがある。月島みたいなインテリ系のトゲじゃなくてヤンキー的なアレだ。
……イケメンだし背も高ぇし烏野にいたら女子入れ食いだろうな。ここ女子少ないから意外とモテないのか? とはいえ整った顔からの睨みは青根くんとは違った威圧感がある。
でもさっき挨拶の仕方からみるに、青根くんって結構いいやつだよなー……。
その青根くんが二口くんをつついて何かを伝える。それを受けて二口くんは小走りで体育館の外へ向かっていった。
「あの子が探してたの、新主将の方だったんだな……」
彼女が何かを聞いて二口くんが答えている。『そっかぁ』と少し残念そうな表情の彼女の口の動きがそう言っている。何かを断っている感じだ。でも……。
あんなに目つきのキツかった二口くんが、信じられないぐらい穏やかな顔をしている。
「田中、田中! 見て見て!」
「何すか?」
「あれ、絶対、付き合ってる!」
「!! そ、そそんな……」
「間違いねーべ!」
俺はなんだかわくわくしてきた。意外な人のレンアイの覗き見ちょー楽しい!
一方、田中はブルブルと唇を震わせていた。
「ウソだろ! 俺は信じない!」
「し、声大きいって田中」
そのタイミングで二口くんがこちらを見る。
そしてカノジョに見せてるのとは全然違う、嘲るような笑顔を俺たちに見せた。
背筋がぞっとする。すると、
「!!!!!」
俺も田中も声が出なかった。
二口くんが、彼女に、キスをした。
体育館の外なので、アップを始めた伊達工メンバーは誰も見ていない。烏野でそっちを見ていたのは俺と田中だけだ。
ってことは二口くんは俺たちに見せつけるために……。
「きききき、スガさん、キスしましたよ! アイツ!!!」
田中がカスカスの声で血涙も流さんばかりに口元を震わせながら言う。
バコンと頭に衝撃が走った。
清水が丸めたノートを両手に怖い顔で睨む。
「真面目にアップしなさい!」
さっきの彼女はもういない。二口くんは舌をペロッと出して唇をなめると、両腕を上にあげて「よっしゃー、いくかー」と伸びをする。
周りの部員が一斉に「うーす!!」と声を上げる。
伊達工の迫力と団結力はご健在だ。
「……すみませんでした」
「潔子さんに殴られた……これは言うなれば拳骨という名のキス……」
しおしおと謝罪する俺の横で田中がうつろな目で何かを言っていて、清水をドン引きさせていた。