12 ワキメモフラズ
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脇目も振らず
一緒に帰れそうな日はそのまま待つ。
遅くなりそうな日は先に帰る。
その時周りに誰もいなければキスをする。誰かに見られそうなら次の日のお昼か一緒に帰れる日にお預け。
そんな風に二人のルールになって、上手くいってるつもりだった。
「……後からだと思ったのに」
二口くんに、他校の人が見ている前でキスされてしまった。
その日はその高校との練習試合があるので大分遅くなるとのことだった。因縁のある相手のようで、長丁場になることは確実らしい。
だから私は先に帰る、と二口くんに告げた。
体育館には人が集まりつつあったから後日のパターンだ、と思ったその瞬間……。
その人たちはびっくりした顔をしていたから、確実に見ていたんだと思う。
そして二口くんは見られているのに気づいていた。
「わりぃ、つい、勢いで」
そうペロっと舌を出して二口くんは笑ったけど、その後私は二口くんに何を言ってどうやって別れたのか、恥ずかしさのあまり覚えていない。
それが一昨日。
昨日は……。その事に一言言おうと思って一緒に帰ろうとしたのだけど、前に鎌先さんが体育館へ入っていくのが見えたのでUターンした。知らない人ならまだしも先輩の前でキスされるのは困る。
それに……。もう12月だ。あと数か月で先輩方は卒業してしまう。今は先輩を優先してほしい。私たちにはこれからも時間はあるから。
でも。
今日あからさまに二口くんが拗ねていた。原因はわかってる。私が昨日何も言わずに帰ったからだ。
帰りのHRが終わってすぐ二口くんは私の所に来る。
「昨日、引き返しただろ?」
「うん……」
「何で?」
「……鎌先さんが前を歩いているのが見えたから」
「鎌先さんが来てると何で結城が来れなくなんの?」
「……」
私たちがもめている様子を青根くんが心配そうに見ている。二口くんは彼に向って手を合わせると、
「悪い、先行って。アップ中には混ざる」
と青根くんに頼む。青根くんは力強くうなずいて「定刻までには必ず」と言うと、最後に私に会釈して教室を出て行った。
いつの間にか教室には私たち二人だけだ。それを見計らったように二口くんが口を開く。
「友紀、体育館でキスしたの怒ってる?」
「怒ってないよ。ただ、びっくりしただけ。でも……」
「でも?」
「人が見ている前で……するのはやだな、と思った」
そう言うと二口くんははっとした表情になった。
「ごめん。友紀の気持ち、考えてなかった」
「別に謝らなくていいよ……。でも何で、その……あの人達に見せつけるようにしたの?」
「……」
見られていることに気づいてなかったなら仕方ないと思ったけど、彼の沈黙から見るにそういうことではないらしい。
「言わなくてもいいんだけど、それがわからないと……私、もう学校で二口くんの所に行けない……かも」
私がそう言うと二口くんは視線だけを逸らし何かに葛藤しているように唇を噛んだ。何が二口くんの口を貝のようにさせるんだろう?
二口くんの目線が私に戻る。辛そうな、切なそうな表情に今度は私がはっとする。
「あいつ、気づいたから」
「え? 何に?」
「……」
二口くんは怒ったような顔をして黙った。
どうしよう。あんまり長くなると青根くんとの約束が守れない。事情がよくわからないけど、続きは後で聞こうかな、と思いかけた所で二口くんは口を開いた。
「友紀見て『キレイな子』とか『付き合いたい』とか言いやがったから……ムカついて見せつけてやった」
「……」
「……俺のなのに」
……思いのほか駄々っ子みたいな理由に何も言えなくなる。二口くんもそう思って口ごもったのなら、なんだか可愛いと思った。
ところで、そんな会話が二口くんに聞こえる状況ってどんなだったんだろう?
「今、私は二口くんのものだよ」
「わかってる」
私はそんなよく知らない人に、面と向かって言われたとしても心は動かない。それはわかってくれてるみたいなのに……どうしたらいいんだろう。彼が求めているものは、これ以上は言ってくれないと私にはわからない。
「二口くん。私にわがまま言ってよ」
「え……」
二口くんは先輩には結構率直に頼み事をする。だからそれと同じように……。
「お互いに、何かしてほしいことがあるなら言おうよ」
私がそう言うと、何故か二口くんは私から目を逸らして及び腰になる。
「いや……それは友紀が言うべきだと思う」
「なんで? だってそれは私がそうしたいって思ってることだよ。二口くんがどうしたいのかは全然わからないよ」
二口くんは珍しく意表を突かれたように口ごもった。制服のボタンをいじると開き直ったように私を睨みつける。
「それじゃ聞くけど、今、俺としたいことって何?」
「二口くん、だからそれはずるいよ」
「俺が言っていいの?」
「うん……。多分一緒だと思うから」
「まじかよ……。友紀ちゃん、エロイなー」
突然出てきた思わぬ言葉に私はたじろぐ。
「ちょっと待って、二口くんのしたいことって何?」
「……ここじゃちょっと言えねー」
「え……」
誰もいないここでも言えないことって……。
二口くんは前の失敗を踏まえたように戸口を確認する。そうして私に近づくと「いい?」と囁くので私はうなずく。
彼は私の顔を上向きにさせて、上から口づけを落とした。
「友紀のしてほしいことってこれでしょ?」
「うん……」
「俺のしたいことって、ぶっちゃけるともっと先」
「……」
そう言われて一つの可能性に思い至る。私、自分の『心』は彼のものだと何度も言っているけど、もう一つの私……つまり『体』は彼に許していない。これが彼の葛藤の原因?
でも、それは……。
「私……、キスを超えたことはねだれない」
「は……?」
「そういうことしてほしくても、自分からは言えない……と思う」
「……」
「だから、二口くんからも来てよ」
「だ、ダメだそれ、反則!」
二口くんは弾かれたようにのけぞる。
「何で?」
正面を向いて彼を見つめると、彼は観念したようにため息をついた。
「……じゃ、言うけどさ、」
二口くんは一度大げさに目を逸らすと、覚悟を決めたように私の両肩を掴んだ。
「友紀、セックスの覚悟はあんの?」
彼の真剣な瞳とその口から出た単語の強烈さに息を飲む。おぼろげに、その可能性は頭のどこかにあったけれど考えないようにしていた。その事を見透かされたように叩きつけられた感じだ。
彼は私が言葉を発するまで待っていてくれた。
「まだ……」
「ほら。やっぱそうだろ? ……だから俺から行っちゃダメなんだって」
そうあきれた顔で言う二口くん。
彼があきらめを隠すような笑顔をしているのがつらかった。言わなければ良かったと失望させてしまうのは嫌だ。
「でもね、」
その事から目を逸らし続けて彼を追い詰めたのは私だ。
今すぐにと迫られているわけじゃない。だから今なら、考えを巡らせることができる。
「今すぐは、ムリだけど、私は……」
いくら考えても運命のように答えは一つに帰結する。私はまっすぐ二口くんの目を見た。
何をするのもあなたと以外考えられない。
「堅治くんじゃないと……やだ」
目を見開いて私を見る二口くんに、私は恥ずかしくなって早口になってしまう。
「キスからそこまでの間に……色々あると思うんだけど、その、堅治くんと進めてる間に、私も、色々準備とか心構えとかするから……」
何をするのかわからない、なんて言わないけどまだ具体的な言葉にはできない。
「最後の所は、もう少し、待っててくれないかな?」
懇願するように彼を見つめると、余裕を取り戻したように彼が微笑む。そうして大きな手で私の頭をそっと撫でた。
「わかった。……じゃ、友紀のハジメテもらうって予約しておく!」
そう言うと彼はすっきりした顔でバッグを持った。
「ちょ、ちょっと、そういうこと言わないでよ!」
今さら赤くなりながらそう言うと「やっべ、もう行かないと」と二口くんも慌てる。
「今日は?」
「え? 時間はあるけど」
「じゃ、練習見てて。一緒に帰ろ」
「わかった」
「俺、先行く!」
「うん」
駆けていく彼を見送って私もバッグを手に取る。
彼に練習を見て、と言われたのは初めてだ。
すごくすごく嬉しかった。
一緒に帰れそうな日はそのまま待つ。
遅くなりそうな日は先に帰る。
その時周りに誰もいなければキスをする。誰かに見られそうなら次の日のお昼か一緒に帰れる日にお預け。
そんな風に二人のルールになって、上手くいってるつもりだった。
「……後からだと思ったのに」
二口くんに、他校の人が見ている前でキスされてしまった。
その日はその高校との練習試合があるので大分遅くなるとのことだった。因縁のある相手のようで、長丁場になることは確実らしい。
だから私は先に帰る、と二口くんに告げた。
体育館には人が集まりつつあったから後日のパターンだ、と思ったその瞬間……。
その人たちはびっくりした顔をしていたから、確実に見ていたんだと思う。
そして二口くんは見られているのに気づいていた。
「わりぃ、つい、勢いで」
そうペロっと舌を出して二口くんは笑ったけど、その後私は二口くんに何を言ってどうやって別れたのか、恥ずかしさのあまり覚えていない。
それが一昨日。
昨日は……。その事に一言言おうと思って一緒に帰ろうとしたのだけど、前に鎌先さんが体育館へ入っていくのが見えたのでUターンした。知らない人ならまだしも先輩の前でキスされるのは困る。
それに……。もう12月だ。あと数か月で先輩方は卒業してしまう。今は先輩を優先してほしい。私たちにはこれからも時間はあるから。
でも。
今日あからさまに二口くんが拗ねていた。原因はわかってる。私が昨日何も言わずに帰ったからだ。
帰りのHRが終わってすぐ二口くんは私の所に来る。
「昨日、引き返しただろ?」
「うん……」
「何で?」
「……鎌先さんが前を歩いているのが見えたから」
「鎌先さんが来てると何で結城が来れなくなんの?」
「……」
私たちがもめている様子を青根くんが心配そうに見ている。二口くんは彼に向って手を合わせると、
「悪い、先行って。アップ中には混ざる」
と青根くんに頼む。青根くんは力強くうなずいて「定刻までには必ず」と言うと、最後に私に会釈して教室を出て行った。
いつの間にか教室には私たち二人だけだ。それを見計らったように二口くんが口を開く。
「友紀、体育館でキスしたの怒ってる?」
「怒ってないよ。ただ、びっくりしただけ。でも……」
「でも?」
「人が見ている前で……するのはやだな、と思った」
そう言うと二口くんははっとした表情になった。
「ごめん。友紀の気持ち、考えてなかった」
「別に謝らなくていいよ……。でも何で、その……あの人達に見せつけるようにしたの?」
「……」
見られていることに気づいてなかったなら仕方ないと思ったけど、彼の沈黙から見るにそういうことではないらしい。
「言わなくてもいいんだけど、それがわからないと……私、もう学校で二口くんの所に行けない……かも」
私がそう言うと二口くんは視線だけを逸らし何かに葛藤しているように唇を噛んだ。何が二口くんの口を貝のようにさせるんだろう?
二口くんの目線が私に戻る。辛そうな、切なそうな表情に今度は私がはっとする。
「あいつ、気づいたから」
「え? 何に?」
「……」
二口くんは怒ったような顔をして黙った。
どうしよう。あんまり長くなると青根くんとの約束が守れない。事情がよくわからないけど、続きは後で聞こうかな、と思いかけた所で二口くんは口を開いた。
「友紀見て『キレイな子』とか『付き合いたい』とか言いやがったから……ムカついて見せつけてやった」
「……」
「……俺のなのに」
……思いのほか駄々っ子みたいな理由に何も言えなくなる。二口くんもそう思って口ごもったのなら、なんだか可愛いと思った。
ところで、そんな会話が二口くんに聞こえる状況ってどんなだったんだろう?
「今、私は二口くんのものだよ」
「わかってる」
私はそんなよく知らない人に、面と向かって言われたとしても心は動かない。それはわかってくれてるみたいなのに……どうしたらいいんだろう。彼が求めているものは、これ以上は言ってくれないと私にはわからない。
「二口くん。私にわがまま言ってよ」
「え……」
二口くんは先輩には結構率直に頼み事をする。だからそれと同じように……。
「お互いに、何かしてほしいことがあるなら言おうよ」
私がそう言うと、何故か二口くんは私から目を逸らして及び腰になる。
「いや……それは友紀が言うべきだと思う」
「なんで? だってそれは私がそうしたいって思ってることだよ。二口くんがどうしたいのかは全然わからないよ」
二口くんは珍しく意表を突かれたように口ごもった。制服のボタンをいじると開き直ったように私を睨みつける。
「それじゃ聞くけど、今、俺としたいことって何?」
「二口くん、だからそれはずるいよ」
「俺が言っていいの?」
「うん……。多分一緒だと思うから」
「まじかよ……。友紀ちゃん、エロイなー」
突然出てきた思わぬ言葉に私はたじろぐ。
「ちょっと待って、二口くんのしたいことって何?」
「……ここじゃちょっと言えねー」
「え……」
誰もいないここでも言えないことって……。
二口くんは前の失敗を踏まえたように戸口を確認する。そうして私に近づくと「いい?」と囁くので私はうなずく。
彼は私の顔を上向きにさせて、上から口づけを落とした。
「友紀のしてほしいことってこれでしょ?」
「うん……」
「俺のしたいことって、ぶっちゃけるともっと先」
「……」
そう言われて一つの可能性に思い至る。私、自分の『心』は彼のものだと何度も言っているけど、もう一つの私……つまり『体』は彼に許していない。これが彼の葛藤の原因?
でも、それは……。
「私……、キスを超えたことはねだれない」
「は……?」
「そういうことしてほしくても、自分からは言えない……と思う」
「……」
「だから、二口くんからも来てよ」
「だ、ダメだそれ、反則!」
二口くんは弾かれたようにのけぞる。
「何で?」
正面を向いて彼を見つめると、彼は観念したようにため息をついた。
「……じゃ、言うけどさ、」
二口くんは一度大げさに目を逸らすと、覚悟を決めたように私の両肩を掴んだ。
「友紀、セックスの覚悟はあんの?」
彼の真剣な瞳とその口から出た単語の強烈さに息を飲む。おぼろげに、その可能性は頭のどこかにあったけれど考えないようにしていた。その事を見透かされたように叩きつけられた感じだ。
彼は私が言葉を発するまで待っていてくれた。
「まだ……」
「ほら。やっぱそうだろ? ……だから俺から行っちゃダメなんだって」
そうあきれた顔で言う二口くん。
彼があきらめを隠すような笑顔をしているのがつらかった。言わなければ良かったと失望させてしまうのは嫌だ。
「でもね、」
その事から目を逸らし続けて彼を追い詰めたのは私だ。
今すぐにと迫られているわけじゃない。だから今なら、考えを巡らせることができる。
「今すぐは、ムリだけど、私は……」
いくら考えても運命のように答えは一つに帰結する。私はまっすぐ二口くんの目を見た。
何をするのもあなたと以外考えられない。
「堅治くんじゃないと……やだ」
目を見開いて私を見る二口くんに、私は恥ずかしくなって早口になってしまう。
「キスからそこまでの間に……色々あると思うんだけど、その、堅治くんと進めてる間に、私も、色々準備とか心構えとかするから……」
何をするのかわからない、なんて言わないけどまだ具体的な言葉にはできない。
「最後の所は、もう少し、待っててくれないかな?」
懇願するように彼を見つめると、余裕を取り戻したように彼が微笑む。そうして大きな手で私の頭をそっと撫でた。
「わかった。……じゃ、友紀のハジメテもらうって予約しておく!」
そう言うと彼はすっきりした顔でバッグを持った。
「ちょ、ちょっと、そういうこと言わないでよ!」
今さら赤くなりながらそう言うと「やっべ、もう行かないと」と二口くんも慌てる。
「今日は?」
「え? 時間はあるけど」
「じゃ、練習見てて。一緒に帰ろ」
「わかった」
「俺、先行く!」
「うん」
駆けていく彼を見送って私もバッグを手に取る。
彼に練習を見て、と言われたのは初めてだ。
すごくすごく嬉しかった。