11 In the blink of eye
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瞬く間
春高予選は終わってしまったけど、既に次に向けて伊達工バレーボール部は動いている。
今日は部活が早く終わったので一緒に帰っている。ほんの少しの間だけど久しぶりの二人の時間だから嬉しい。
「結城、俺と一緒にいれなくて寂しくね?」
「学校で毎日話せてるし、電話もしてくれるし、こうやって一緒に帰れる日もあるから、大丈夫だよ」
「……へー」
二口くんは片方だけ口角を上げると、バッグの短めのベルトを肩から掛けて私の先を歩いた。
困らせちゃいけない、と思って本音は隠したけど……本当は少し寂しい。彼が思っている以上に私は二口くんが好きだ。
ふと『いい子ぶってんじゃねーよ』といういつかの立花さんの言葉が思い浮かぶ。
こういう所が私の直さなきゃいけない所なのかも。
私は小走りに駆け寄って二口くんのブレザーの裾をひっぱった。
「ん? 何だよ?」
「本音を言ってもいい?」
そう言って二口くんを見上げると、彼は目を丸くして私を見下ろした。
「……おう」
足を止める。人もまばらな校庭にぴゅうっと風が通り抜けていった。結構肌寒くなってきたと急に思う。
「本当は、もっと……、」
ブレザーを握る指に力が入る。彼の真っ直ぐな目を見ていられなくなって、私は下を向く。
「ずっと、一緒にいたい」
沈黙が流れる。
あきれられてるんじゃないか。そんな気がして、私は顔を上げられなかった。
「ったく、しょうがないなー、友紀ちゃんは」
シワになってしまうぐらいに握りしめた私の指を彼の手がはがしていく。そのまま自分の指と絡めるように握られた。
ようやく私は二口くんを見上げる。二口くんは静かに微笑むと私の背中に手を回して引き寄せる。そのまま彼の胸に飛び込んでしまった私を覗き込むように長身をかがめる。
急に近づいてきた彼の顔に、心臓が高鳴り頬が火照る。二口くんの目が優しくゆるむ。
「好き」
彼の口がそう紡ぐのが聞こえた次の瞬間、私の唇は彼の唇に塞がれた。彼の瞳が閉じられたのを合図に私も目を閉じる。
瞬く間の出来事だったんだろう、だけど、永遠と思える時間だった。
唇が離れてから、ゆっくり目を開く。
目の前にかすかに微笑む二口くんの顔がある。
こんな、校庭の真ん中で。
誰か見ているかもしれない、というのは頭の片隅にあるのに、私の目には二口くんしか入らなくなってしまっていた。
二口くんが小首をかしげる。
「これで、しばらく大丈夫?」
「………うん……」
「まあ、俺が大丈夫じゃねーな」
そう言うと私と手をつないだまま、校門に向かって歩き出した。
「友紀」
「なに?」
「言えよ」
「うん……」
「あー、そうじゃねーな」
そう言ってつないだ手とは反対の手で照れ臭さを隠すように自分の髪をかき回す。
「友紀、わがまま言わねーじゃん。俺に会いたくてもそうやって我慢するだろ? 本当は一緒にいたいくせに」
「……」
図星だ。言い当てられた恥ずかしさにうなずくこともできない。そんな私に構わず二口くんは続ける。
「俺が今は何よりも部活優先なのをわかってくれてるから、だと思うんだけど」
目の前の信号が赤に変わる。私たちはそこで立ち止まった。
「このままだと、自然消滅コースだと思わね?」
すっと、心が冷える。
消滅……それは……そんなのは……イヤだ。
「二口くん、あのね」
「ん?」
「すごく、一緒にいたい。だけど、二口くんに、断られるのが怖くて、言えなかった」
「……」
「でも、私、言うから」
「友紀?」
「二口くんに対しては、勇気出して、いっぱい言うから」
「……」
「だから、断って」
「……は?」
「断られ続けても、言うから……」
私はいい子なんかじゃない。こんな情けない理由であきらめてしまう、自分の弱気な心に対する宣言だった。
「『断って』って」
二口くんは目を細め、ふふっと息遣いだけで笑う。
「友紀が頑張ってるのに俺が何もしないわけにはいかないよなー」
「だってそれは、しょうがないことだし……」
「いや……、ま、そーだけど、俺からも歩み寄らなきゃいけないだろ? 断り続けて、友紀の心折れたらやだしー」
うーんと空を見上げて思案する二口くん。
信号はもうとっくに青になっている。
そうやって私のコトを考えてくれるのは嬉しいな、なんて思っているといたずらを思いついたような顔をする。
「キス、にしよう」
まるで天ぷらのメインを決めたみたいな軽い言葉だった。
「キス……?」
「何だよ、イヤか?」
「いやじゃないけど……え、と、あの」
断られるのをわかって、会いたいと言いに行く。それって……、
「キス……ねだりに行くみたいでかえって行きにくいよ」
「えー、俺とキスしたくねーの?」
すねた様な声に思わず顔を上げて否定する。
「したいよ、ん……」
そう返した瞬間、上から唇が降りてきた。
一瞬だけ触れると、唇はすぐに離れる。
反射的に閉じていた目を開くと、二口くんがニヤリと笑った。
「もう……」
「頑張って俺んとこ来たなら、ご褒美あげなきゃだろ?」
そう言う二口くんに、私は顔を赤くするだけで何も言えない。
「これでいい?」
二口くんの顔が急に不安そうに翳った。
それは彼の作戦なのかもしれないけれど、私は彼の罠に素直にハマりにいく。
「うん……」
再度信号が青に変わる。
前を向いた彼の顔は見えない。きっとしてやったりな表情をしているのだろう。
でも、そうであるならそれでいい、と私は彼の手をきゅっと握った。
春高予選は終わってしまったけど、既に次に向けて伊達工バレーボール部は動いている。
今日は部活が早く終わったので一緒に帰っている。ほんの少しの間だけど久しぶりの二人の時間だから嬉しい。
「結城、俺と一緒にいれなくて寂しくね?」
「学校で毎日話せてるし、電話もしてくれるし、こうやって一緒に帰れる日もあるから、大丈夫だよ」
「……へー」
二口くんは片方だけ口角を上げると、バッグの短めのベルトを肩から掛けて私の先を歩いた。
困らせちゃいけない、と思って本音は隠したけど……本当は少し寂しい。彼が思っている以上に私は二口くんが好きだ。
ふと『いい子ぶってんじゃねーよ』といういつかの立花さんの言葉が思い浮かぶ。
こういう所が私の直さなきゃいけない所なのかも。
私は小走りに駆け寄って二口くんのブレザーの裾をひっぱった。
「ん? 何だよ?」
「本音を言ってもいい?」
そう言って二口くんを見上げると、彼は目を丸くして私を見下ろした。
「……おう」
足を止める。人もまばらな校庭にぴゅうっと風が通り抜けていった。結構肌寒くなってきたと急に思う。
「本当は、もっと……、」
ブレザーを握る指に力が入る。彼の真っ直ぐな目を見ていられなくなって、私は下を向く。
「ずっと、一緒にいたい」
沈黙が流れる。
あきれられてるんじゃないか。そんな気がして、私は顔を上げられなかった。
「ったく、しょうがないなー、友紀ちゃんは」
シワになってしまうぐらいに握りしめた私の指を彼の手がはがしていく。そのまま自分の指と絡めるように握られた。
ようやく私は二口くんを見上げる。二口くんは静かに微笑むと私の背中に手を回して引き寄せる。そのまま彼の胸に飛び込んでしまった私を覗き込むように長身をかがめる。
急に近づいてきた彼の顔に、心臓が高鳴り頬が火照る。二口くんの目が優しくゆるむ。
「好き」
彼の口がそう紡ぐのが聞こえた次の瞬間、私の唇は彼の唇に塞がれた。彼の瞳が閉じられたのを合図に私も目を閉じる。
瞬く間の出来事だったんだろう、だけど、永遠と思える時間だった。
唇が離れてから、ゆっくり目を開く。
目の前にかすかに微笑む二口くんの顔がある。
こんな、校庭の真ん中で。
誰か見ているかもしれない、というのは頭の片隅にあるのに、私の目には二口くんしか入らなくなってしまっていた。
二口くんが小首をかしげる。
「これで、しばらく大丈夫?」
「………うん……」
「まあ、俺が大丈夫じゃねーな」
そう言うと私と手をつないだまま、校門に向かって歩き出した。
「友紀」
「なに?」
「言えよ」
「うん……」
「あー、そうじゃねーな」
そう言ってつないだ手とは反対の手で照れ臭さを隠すように自分の髪をかき回す。
「友紀、わがまま言わねーじゃん。俺に会いたくてもそうやって我慢するだろ? 本当は一緒にいたいくせに」
「……」
図星だ。言い当てられた恥ずかしさにうなずくこともできない。そんな私に構わず二口くんは続ける。
「俺が今は何よりも部活優先なのをわかってくれてるから、だと思うんだけど」
目の前の信号が赤に変わる。私たちはそこで立ち止まった。
「このままだと、自然消滅コースだと思わね?」
すっと、心が冷える。
消滅……それは……そんなのは……イヤだ。
「二口くん、あのね」
「ん?」
「すごく、一緒にいたい。だけど、二口くんに、断られるのが怖くて、言えなかった」
「……」
「でも、私、言うから」
「友紀?」
「二口くんに対しては、勇気出して、いっぱい言うから」
「……」
「だから、断って」
「……は?」
「断られ続けても、言うから……」
私はいい子なんかじゃない。こんな情けない理由であきらめてしまう、自分の弱気な心に対する宣言だった。
「『断って』って」
二口くんは目を細め、ふふっと息遣いだけで笑う。
「友紀が頑張ってるのに俺が何もしないわけにはいかないよなー」
「だってそれは、しょうがないことだし……」
「いや……、ま、そーだけど、俺からも歩み寄らなきゃいけないだろ? 断り続けて、友紀の心折れたらやだしー」
うーんと空を見上げて思案する二口くん。
信号はもうとっくに青になっている。
そうやって私のコトを考えてくれるのは嬉しいな、なんて思っているといたずらを思いついたような顔をする。
「キス、にしよう」
まるで天ぷらのメインを決めたみたいな軽い言葉だった。
「キス……?」
「何だよ、イヤか?」
「いやじゃないけど……え、と、あの」
断られるのをわかって、会いたいと言いに行く。それって……、
「キス……ねだりに行くみたいでかえって行きにくいよ」
「えー、俺とキスしたくねーの?」
すねた様な声に思わず顔を上げて否定する。
「したいよ、ん……」
そう返した瞬間、上から唇が降りてきた。
一瞬だけ触れると、唇はすぐに離れる。
反射的に閉じていた目を開くと、二口くんがニヤリと笑った。
「もう……」
「頑張って俺んとこ来たなら、ご褒美あげなきゃだろ?」
そう言う二口くんに、私は顔を赤くするだけで何も言えない。
「これでいい?」
二口くんの顔が急に不安そうに翳った。
それは彼の作戦なのかもしれないけれど、私は彼の罠に素直にハマりにいく。
「うん……」
再度信号が青に変わる。
前を向いた彼の顔は見えない。きっとしてやったりな表情をしているのだろう。
でも、そうであるならそれでいい、と私は彼の手をきゅっと握った。