1 メノナカニイレテモイタクナイ
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目の中に入れても痛くない
そんなわけで、友達以上恋人未満という感じの私たちのお付き合いははじまった。
その日のうちに青根くんが私の所に「二口をよろしく」と言いに来たのには驚いた。1限にそろって出なかったことと、その後の二口くんの挙動で察したそうだ。青根くんすごい……。
次の日は続々とバレー部の面々が私の元にやって来た。その度に驚いてる私の横で二口くんが「何しに来たんだよ!」と噛みつき「結城さんにあいさつだよ!」と返されるやりとりを繰り返していた。小原くん女川くん、マネージャーの滑津さんも一年生の後輩くんたちを連れて挨拶に来てくれた。
「何かあったら相談してね!バレー部総出で行くから!」
滑津さんは私の手を両手で包み真剣な顔でそう言ってくれた。
「何言ってんだよ! おめーは!」
「あと、末永く、二口をよろしくね!」
「「「二口さんを! よろしくお願いします!!」」」
「は、はい……」
「返品不可だからねー」
「うるせーよ!!!」
先に一年生を帰すと、隣で喚く二口くんを受け流して滑津さんは声を潜めた。
「あのね……実はうちの先輩方も挨拶したいって言ってて」
「はぁ!?」
思わず固まった私に代わり二口くんが応答する。
「んなの止めとけよ!」
「わかってるって! 私も止めたよ!『先輩方が急に初対面の女の子の所に来ても怖いだけです!』って」
二口くんは舌打ちをする。
「茂庭さん達、暇すぎかよ……ったく」
「なんとかこっちに来るのはやめてもらったんだけど……」
滑津さんはため息をつくと私に向かってパチンと手を合わせる。
「お願い! 今日放課後、私と来てくれないかな?」
「え……?」
バレー部の主将とお付き合いするとこんなイベントが待ち受けているのか……。ゲーム開始早々初期装備で四天王の元へ向かわせられる気分だ。二口くんの先輩方にご挨拶って、どうすればいいんだろう。
あまりのことに頭が真っ白になっていると見かねて二口くんが言ってくれた。
「いいよ滑津、俺が一緒に行く」
「ありがとーーー! そうくるんじゃないかと思ってた! じゃ二口、よろしくねっ」
あまりにテンポよく風のように去っていく滑津さんに、私は呆然とし二口くんは我に返ったようだった。
「滑津! 嵌めやがったな、てめー!!!」
◆◆◆
指定された教室は3-C。
上級生の教室ってだけで雰囲気が違う。様子を伺うために中を覗くことすらできない。
教室の前で足を止める。スカートのすそを直す。ボタンを確認する。髪に指を通す。隣の二口くんを見る。彼は私の手を取った。
その手をつないだまま彼に先導されて教室に入る。
窓際に三人の男子生徒。座っているのはくせ毛の穏やかそうな顔立ちの人。彼を囲むように二人。金髪の体格の良い人。黒髪を立てた貫禄のある人。
「何だよ、二口も来たのかよ……」
金髪の人が口を開き私たちを睨み付けるので、私はびくっと身震いする。
二口くんは手を放すと私を隠すように前に出てくれた。
「はぁ? 人の彼女を俺を通さず呼び出す方がどーかと思うんですけど」
二口くんは眉を吊り上げ臨戦態勢だ。
初っぱなからにらみ合う二人にびっくりしたけれど、先輩方は慣れているようだった。髪を立てたタレ目の人が「まあまあ」ととりなす横で、くせ毛の人が静かに口を開く。
「二口に黙ってたつもりはないんだけど……」
ふっと空気が和らいだ気がした。
「悪かった。ごめん二口。と、結城さん」
思いがけず自分の名を呼ばれて、その人に目を向ける。私と目が合うと彼は穏やかに微笑んで言った。
「俺は伊達工バレー部前主将の茂庭。こっちは鎌先、と笹谷」
二口くんとやりあっていた鎌先さんは気まずそうに口元をゆがめ、笹谷さんは目尻を下げる。
「あの、私、結城友紀といいます。よろしくお願いします」
慌てて自己紹介して頭を下げる。頭が真っ白でその後が思い浮かばない。茂庭さんはクスリと笑う。
「二人が一緒にいるところ見たら、安心した。お似合いだと思う」
茂庭さんの言葉に、二口くんが「何言ってんすか」とそっぽを向いて赤くなる。
「二口はこれから大変だと思うんだけど、どうか支えてやってほしい」
よろしくお願いします。と深々と頭を下げられ「こちらこそ!」とお辞儀を返す。
茂庭さんは想像してたより優しい人だ。きっと鎌先さんと笹谷さんもそうなんだろう。
「二口ってもっと派手な女と付き合うと思ったけどな!」
からっと笑う鎌先さんにすかさず茂庭さんがフォローを入れる。
「鎌ち! 何言ってんだよ。失礼なこと言うな!」
「いえ、私は全然、大丈夫なんですが……」
「鎌先さん……彼女いないの拗らせすぎて嫉妬ですか? 見苦しいですよ」
「ちげーよ!! なんでこんなイイコそうな子が! 俺は二口に騙されてるんじゃねーかと思って!」
「そうそう。二口に何か変なことされそうになったら、お兄さん達に相談しな~」
そう言いながら今度は笹谷さんがすっと私の前に来て小さな紙を両手で差し出した。思わず彼に倣って両手で受け取る。名刺だ。『笹谷武仁』と書いてある。
「笹谷さん! なんで名刺なんて持ってるんですか!」
「内定先から持っとけって渡された」
二口くんが「貸して」と言いながら私の手から名刺を取り上げる。
「!? 何、裏にケータイ番号書いてんスか?」
「あ? 会社になんて電話しづらいだろ?」
「人の彼女に!!!」
それを見て、茂庭さんがなるほど、と小さくつぶやく。
「それ、いいかもな」
「茂庭さんまで!」
「二口」
それだけ言って茂庭さんは手を出す。二口くんはしぶしぶといった感じで名刺を差し出した。そのやり取りだけでこの二人の上下関係が絶対なんだとわかる。
『茂庭要』という名前と携帯の番号。
「何か相談とかあったら遠慮なく連絡して」
「俺も書くぜ!」
「鎌先さんのはいりません!」
二口くんはピシャリと言うと鎌先さんに渡りそうになった名刺を横取りして私のポケットに突っ込んだ。
「なんだと二口!」
鎌先さんには逆らえるんだ……。思わず吹き出しそうになってしまったのをなんとかこらえる。
鎌先さんと二口くんがじゃれ合う横から視線を感じる。笹谷さんとばちっと目が合った。
「笹谷さん、人の彼女じろじろ見ないでください!」
鎌先さんと掴み合いながら二口くんが叫ぶ。
「はー? 減るもんじゃねーだろ?」
「減ります! 何かが!」
「カワイイ彼女隠しときたいんだよな? 二口、この、ど・ス・ケ・ベ」
「ほんっと! 笹谷さん、変な目で見るのやめてください! 鎌先さん、離して! 結城! もう行こう! それでは、失礼します!!!」
散々悪態をつきながらも、最後はぴしっと礼をする二口くんにバレー部の規律正しさを感じて、私も彼の隣でできるだけ丁寧に頭を下げる。
「何かあったら、連絡くれよー」
「二口なんかいつ捨ててもいいからなー」
「こら! 鎌ち! 結城さん、二口をよろしくー」
そう口々に言いながら手を振って見送ってくれる御三方に、私は何度も頭を下げた。
◆◆◆
「あーーーーーー。なんか、ゴメン!」
2-Aの教室まで戻ってきた。やっぱりここは落ち着く。ホームといった感じだ。自分の席に座って一息つく。ここまで、ホント怒涛だった。
「……でも、二口くんが先輩に可愛がられているのがわかってよかったよ」
そう言うと二口くんはケッという表情をする。
「可愛がられてるっつーかなんつーかなー」
言いながら、自分の机の中の荷物を移し終えた二口くんはバッグを持って私に近づいてくる。
「俺は先輩よりも、」
そう言葉を切ると私の机に手をかけてしゃがみ下から、覗き込んでくる。
「結城に可愛がられてぇんだけど?」
上目遣いで見つめられてドキドキしてきた。そんな期待のこもった目で見つめられても困る……。
顔が熱くなる。冷汗をかきながら恐る恐る彼の方へ手を伸ばす。
「こうですか……?」
迷いつつ二口くんの頭を撫でる。さらさらの髪。うらやましいほどの毛質の良さだ。
彼は子犬のように目を細め、しばらく私の手のされるがままにしていた。それなのに、私がほっとした瞬間口を尖らせて言う。
「違いまーす」
「え、ウソ……」
「もうちょっと、親密さを感じさせる可愛がり方をしてくださーい」
「し、親密な可愛がり方って何!?」
「お手本見せようか?」
「えっ、……今は、いいです……」
顔を赤くして戸惑う私を見て、彼は穏やかに笑っていた。
そんなわけで、友達以上恋人未満という感じの私たちのお付き合いははじまった。
その日のうちに青根くんが私の所に「二口をよろしく」と言いに来たのには驚いた。1限にそろって出なかったことと、その後の二口くんの挙動で察したそうだ。青根くんすごい……。
次の日は続々とバレー部の面々が私の元にやって来た。その度に驚いてる私の横で二口くんが「何しに来たんだよ!」と噛みつき「結城さんにあいさつだよ!」と返されるやりとりを繰り返していた。小原くん女川くん、マネージャーの滑津さんも一年生の後輩くんたちを連れて挨拶に来てくれた。
「何かあったら相談してね!バレー部総出で行くから!」
滑津さんは私の手を両手で包み真剣な顔でそう言ってくれた。
「何言ってんだよ! おめーは!」
「あと、末永く、二口をよろしくね!」
「「「二口さんを! よろしくお願いします!!」」」
「は、はい……」
「返品不可だからねー」
「うるせーよ!!!」
先に一年生を帰すと、隣で喚く二口くんを受け流して滑津さんは声を潜めた。
「あのね……実はうちの先輩方も挨拶したいって言ってて」
「はぁ!?」
思わず固まった私に代わり二口くんが応答する。
「んなの止めとけよ!」
「わかってるって! 私も止めたよ!『先輩方が急に初対面の女の子の所に来ても怖いだけです!』って」
二口くんは舌打ちをする。
「茂庭さん達、暇すぎかよ……ったく」
「なんとかこっちに来るのはやめてもらったんだけど……」
滑津さんはため息をつくと私に向かってパチンと手を合わせる。
「お願い! 今日放課後、私と来てくれないかな?」
「え……?」
バレー部の主将とお付き合いするとこんなイベントが待ち受けているのか……。ゲーム開始早々初期装備で四天王の元へ向かわせられる気分だ。二口くんの先輩方にご挨拶って、どうすればいいんだろう。
あまりのことに頭が真っ白になっていると見かねて二口くんが言ってくれた。
「いいよ滑津、俺が一緒に行く」
「ありがとーーー! そうくるんじゃないかと思ってた! じゃ二口、よろしくねっ」
あまりにテンポよく風のように去っていく滑津さんに、私は呆然とし二口くんは我に返ったようだった。
「滑津! 嵌めやがったな、てめー!!!」
◆◆◆
指定された教室は3-C。
上級生の教室ってだけで雰囲気が違う。様子を伺うために中を覗くことすらできない。
教室の前で足を止める。スカートのすそを直す。ボタンを確認する。髪に指を通す。隣の二口くんを見る。彼は私の手を取った。
その手をつないだまま彼に先導されて教室に入る。
窓際に三人の男子生徒。座っているのはくせ毛の穏やかそうな顔立ちの人。彼を囲むように二人。金髪の体格の良い人。黒髪を立てた貫禄のある人。
「何だよ、二口も来たのかよ……」
金髪の人が口を開き私たちを睨み付けるので、私はびくっと身震いする。
二口くんは手を放すと私を隠すように前に出てくれた。
「はぁ? 人の彼女を俺を通さず呼び出す方がどーかと思うんですけど」
二口くんは眉を吊り上げ臨戦態勢だ。
初っぱなからにらみ合う二人にびっくりしたけれど、先輩方は慣れているようだった。髪を立てたタレ目の人が「まあまあ」ととりなす横で、くせ毛の人が静かに口を開く。
「二口に黙ってたつもりはないんだけど……」
ふっと空気が和らいだ気がした。
「悪かった。ごめん二口。と、結城さん」
思いがけず自分の名を呼ばれて、その人に目を向ける。私と目が合うと彼は穏やかに微笑んで言った。
「俺は伊達工バレー部前主将の茂庭。こっちは鎌先、と笹谷」
二口くんとやりあっていた鎌先さんは気まずそうに口元をゆがめ、笹谷さんは目尻を下げる。
「あの、私、結城友紀といいます。よろしくお願いします」
慌てて自己紹介して頭を下げる。頭が真っ白でその後が思い浮かばない。茂庭さんはクスリと笑う。
「二人が一緒にいるところ見たら、安心した。お似合いだと思う」
茂庭さんの言葉に、二口くんが「何言ってんすか」とそっぽを向いて赤くなる。
「二口はこれから大変だと思うんだけど、どうか支えてやってほしい」
よろしくお願いします。と深々と頭を下げられ「こちらこそ!」とお辞儀を返す。
茂庭さんは想像してたより優しい人だ。きっと鎌先さんと笹谷さんもそうなんだろう。
「二口ってもっと派手な女と付き合うと思ったけどな!」
からっと笑う鎌先さんにすかさず茂庭さんがフォローを入れる。
「鎌ち! 何言ってんだよ。失礼なこと言うな!」
「いえ、私は全然、大丈夫なんですが……」
「鎌先さん……彼女いないの拗らせすぎて嫉妬ですか? 見苦しいですよ」
「ちげーよ!! なんでこんなイイコそうな子が! 俺は二口に騙されてるんじゃねーかと思って!」
「そうそう。二口に何か変なことされそうになったら、お兄さん達に相談しな~」
そう言いながら今度は笹谷さんがすっと私の前に来て小さな紙を両手で差し出した。思わず彼に倣って両手で受け取る。名刺だ。『笹谷武仁』と書いてある。
「笹谷さん! なんで名刺なんて持ってるんですか!」
「内定先から持っとけって渡された」
二口くんが「貸して」と言いながら私の手から名刺を取り上げる。
「!? 何、裏にケータイ番号書いてんスか?」
「あ? 会社になんて電話しづらいだろ?」
「人の彼女に!!!」
それを見て、茂庭さんがなるほど、と小さくつぶやく。
「それ、いいかもな」
「茂庭さんまで!」
「二口」
それだけ言って茂庭さんは手を出す。二口くんはしぶしぶといった感じで名刺を差し出した。そのやり取りだけでこの二人の上下関係が絶対なんだとわかる。
『茂庭要』という名前と携帯の番号。
「何か相談とかあったら遠慮なく連絡して」
「俺も書くぜ!」
「鎌先さんのはいりません!」
二口くんはピシャリと言うと鎌先さんに渡りそうになった名刺を横取りして私のポケットに突っ込んだ。
「なんだと二口!」
鎌先さんには逆らえるんだ……。思わず吹き出しそうになってしまったのをなんとかこらえる。
鎌先さんと二口くんがじゃれ合う横から視線を感じる。笹谷さんとばちっと目が合った。
「笹谷さん、人の彼女じろじろ見ないでください!」
鎌先さんと掴み合いながら二口くんが叫ぶ。
「はー? 減るもんじゃねーだろ?」
「減ります! 何かが!」
「カワイイ彼女隠しときたいんだよな? 二口、この、ど・ス・ケ・ベ」
「ほんっと! 笹谷さん、変な目で見るのやめてください! 鎌先さん、離して! 結城! もう行こう! それでは、失礼します!!!」
散々悪態をつきながらも、最後はぴしっと礼をする二口くんにバレー部の規律正しさを感じて、私も彼の隣でできるだけ丁寧に頭を下げる。
「何かあったら、連絡くれよー」
「二口なんかいつ捨ててもいいからなー」
「こら! 鎌ち! 結城さん、二口をよろしくー」
そう口々に言いながら手を振って見送ってくれる御三方に、私は何度も頭を下げた。
◆◆◆
「あーーーーーー。なんか、ゴメン!」
2-Aの教室まで戻ってきた。やっぱりここは落ち着く。ホームといった感じだ。自分の席に座って一息つく。ここまで、ホント怒涛だった。
「……でも、二口くんが先輩に可愛がられているのがわかってよかったよ」
そう言うと二口くんはケッという表情をする。
「可愛がられてるっつーかなんつーかなー」
言いながら、自分の机の中の荷物を移し終えた二口くんはバッグを持って私に近づいてくる。
「俺は先輩よりも、」
そう言葉を切ると私の机に手をかけてしゃがみ下から、覗き込んでくる。
「結城に可愛がられてぇんだけど?」
上目遣いで見つめられてドキドキしてきた。そんな期待のこもった目で見つめられても困る……。
顔が熱くなる。冷汗をかきながら恐る恐る彼の方へ手を伸ばす。
「こうですか……?」
迷いつつ二口くんの頭を撫でる。さらさらの髪。うらやましいほどの毛質の良さだ。
彼は子犬のように目を細め、しばらく私の手のされるがままにしていた。それなのに、私がほっとした瞬間口を尖らせて言う。
「違いまーす」
「え、ウソ……」
「もうちょっと、親密さを感じさせる可愛がり方をしてくださーい」
「し、親密な可愛がり方って何!?」
「お手本見せようか?」
「えっ、……今は、いいです……」
顔を赤くして戸惑う私を見て、彼は穏やかに笑っていた。
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