3 メハクチホドニモノヲイウ
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メガネの件以来、二口くんとは話す機会が増えた。
とは言っても、放課後はすぐに部活へ行ってしまうし、朝練もあるようだから登校が一緒になることはあまりない。
基本的に休み時間は同じ部活の青根くんや体育会系の子と一緒にいるか、
「ふたくちー、おはよー。数学の課題やったー?」
「おー。やってあるけど写させねぇからな」
「えー? ケチー!」
こんな感じでクラスで一番にぎやかな立花さんのグループと話していることが多い。
だから彼と話すのは授業の合間や休み時間にすれ違ったついでにぐらいだ。
でも、話すようになって初めて気づいたことがある。
二口くんは、すごく目を見て話してくれる。
だいたいの人は印象に残るほど目を合わせてくれることはなかったから、ずっと見つめてくる二口くんはなんだか新鮮だ。
きちんと目を見て話すことはいいことだとはわかっていても、気恥ずかしくて私はなんとなくネクタイとか髪の毛とか顔に近いものに視線を移してしまう。
二口くんは自分に自信がある人なんだと思う。人の目を見ても気後れすることがないんだろう。
だから、彼と話すときは意識的に見つめ返すようにはしている。二口くんの顔、キレイすぎて恥ずかしくなるんだけど……。
と、思っていたのに。
「お前、話すときちゃんと目を見てくんのな」
「え……そう?」
昼休みに私の席まで来た二口くんに言われて驚いた。そんな二口くんこそ、いつも通り茶色がかった瞳をこちらに向けてくる。
「二口くんが話すとき目を見る人だから、見習わなきゃなと思って」
私が正直にそう言うと、びっくりした顔をしていた。
「え? 俺、見てる……?」
「うん、すごく」
「あんまり逸らされることないよ」と続けると、二口くんは急に目を逸らした。
「無自覚かよ……超ハズイ」
本人は自覚がなかったみたいだ。腕で顔を覆って気まずそうにする。こんな二口くんはちょっと新鮮だ。
「悪いことじゃないと思うよ。目を見て話せるのって自分に自信があるんだなって感じで……」
「そーいうんじゃねーよ……、あー、ま、いっか」
私が上手くないフォローしているうちに二口くんは切り替えたようだった。背けていた顔を再度私に向ける。
「ところで、5限の課題やった?」
5限というと……。朝、立花さんに聞かれてた数学の事かな?
「うん、一応は」
「当たりそうだから、答え合わせさせて」
ダメ? と、こちらを見つめて小首をかしげる二口くんに、
「あ……。それなら、全然かまわないよ。私も、自信ないところあるから、助かるし」
机の中からノートを取り出すと、彼も持ってきていたノートを開いた。
全部で5問。
4問目まで私と答えは一緒だった。
「何で?ここ6だろ?」
最後の問題をシャーペンでつつきながら二口くんが言う。途中式は同じだけど答えが違っている。
「ここ、約分の仕方が間違ってる」
薄くシャーペンで線を書き込むと、すぐに気づいたようだった。
「あー……、そうか、クソ、両方いけるヤツかー!」
悔しそうに言って、答えの部分を消す。
「ケアレスミスだね」
「ちょー悔しい……」
「でも、授業で当たって間違えるより良かったと思うよ」
「まー、そーなんだけどぉ……」
答えを直し終えて、二口くんはシャーペンを置くと、
「次はぜってぇ、結城に『教えて~二口くぅ~ん』って言わす!」
と、不敵に笑う。
私、そんな風には言わないな、と苦笑しながら、二口くんは真面目に勉強するタイプなんだな、と認識を改める。
「昨日も部活あったんだよね。課題、頑張ったね」
「褒めんな、何も出ねえって」
あ、ちょっと頬が赤い。こんなことで照れるのは意外で、カワイイな、と思った。
「そーだよ。死にそうに疲れてんのを必死こいてやってんのに、写させてたまるかっつーの」
そう言いながら彼は自分のノートを閉じる。
自分の席に戻るのかと思ったので、そのまま前の席を借りたままこちらを見る二口くんを何だろうと見つめ返す。
「何か、俺に教えてほしいことは?」
「え……?」
そんなこといきなり言われてもな。
でも、クラスメイトながらそこまで喋ったことはなかったので知らないことはいっぱいある。いつも放課後はすぐ教室を出てってしまうし……。
「二口くん、バレー部だったよね?」
「おー」
「部活って、休みの日あるの?」
「基本ねぇ。けど、体育館が点検中とか、試合なければ日曜日は休み」
「そっか……。大変だね」
休みがないといっても平日のことだと思っていたので、当たり前のように土曜日も練習があるものだとわかってびっくりした。
私だったら、もっとのんびりする日が欲しい、と思ってしまうだろう。疲れちゃうし。
「何? 休みあったら遊んで欲しいの?」
にやっと笑う二口くんに焦って首を振る。
「違うよ。あの、ノート貸すぐらいならできるよ、って言いたかっただけで」
「……なんだ」
露骨にがっかりした顔をする二口くんに慌てる。あ……もしかして、二口くんは自分の力で勉強したい人だったか。
「ゴメン! 余計なこと言って」
「あ、いや、ノートは助かる。撃沈したらお願いする」
二口くんも何だか慌てて言う。
「5限とか6限とか、座学ン時だいたいヤベェ」
次も危ないかも、とため息をつく二口くんに、悪いと思いながらもちょっと可笑しくなる。
「うん。いいよ。頑張ってる形跡があるんなら全然かまわない」
「何だよ、頑張ってる形跡って?」
「例えばミミズみたいな文字、とかかな」
「……俺、寝る時はだいたい潔いんだよな……」
「私は最後まで足掻くタイプだよ」
「……。わかった。最後までシャーペンは握るようにする」
そう言って悲壮な顔つきをする二口くんが可笑しくて、こっそり笑った。
とは言っても、放課後はすぐに部活へ行ってしまうし、朝練もあるようだから登校が一緒になることはあまりない。
基本的に休み時間は同じ部活の青根くんや体育会系の子と一緒にいるか、
「ふたくちー、おはよー。数学の課題やったー?」
「おー。やってあるけど写させねぇからな」
「えー? ケチー!」
こんな感じでクラスで一番にぎやかな立花さんのグループと話していることが多い。
だから彼と話すのは授業の合間や休み時間にすれ違ったついでにぐらいだ。
でも、話すようになって初めて気づいたことがある。
二口くんは、すごく目を見て話してくれる。
だいたいの人は印象に残るほど目を合わせてくれることはなかったから、ずっと見つめてくる二口くんはなんだか新鮮だ。
きちんと目を見て話すことはいいことだとはわかっていても、気恥ずかしくて私はなんとなくネクタイとか髪の毛とか顔に近いものに視線を移してしまう。
二口くんは自分に自信がある人なんだと思う。人の目を見ても気後れすることがないんだろう。
だから、彼と話すときは意識的に見つめ返すようにはしている。二口くんの顔、キレイすぎて恥ずかしくなるんだけど……。
と、思っていたのに。
「お前、話すときちゃんと目を見てくんのな」
「え……そう?」
昼休みに私の席まで来た二口くんに言われて驚いた。そんな二口くんこそ、いつも通り茶色がかった瞳をこちらに向けてくる。
「二口くんが話すとき目を見る人だから、見習わなきゃなと思って」
私が正直にそう言うと、びっくりした顔をしていた。
「え? 俺、見てる……?」
「うん、すごく」
「あんまり逸らされることないよ」と続けると、二口くんは急に目を逸らした。
「無自覚かよ……超ハズイ」
本人は自覚がなかったみたいだ。腕で顔を覆って気まずそうにする。こんな二口くんはちょっと新鮮だ。
「悪いことじゃないと思うよ。目を見て話せるのって自分に自信があるんだなって感じで……」
「そーいうんじゃねーよ……、あー、ま、いっか」
私が上手くないフォローしているうちに二口くんは切り替えたようだった。背けていた顔を再度私に向ける。
「ところで、5限の課題やった?」
5限というと……。朝、立花さんに聞かれてた数学の事かな?
「うん、一応は」
「当たりそうだから、答え合わせさせて」
ダメ? と、こちらを見つめて小首をかしげる二口くんに、
「あ……。それなら、全然かまわないよ。私も、自信ないところあるから、助かるし」
机の中からノートを取り出すと、彼も持ってきていたノートを開いた。
全部で5問。
4問目まで私と答えは一緒だった。
「何で?ここ6だろ?」
最後の問題をシャーペンでつつきながら二口くんが言う。途中式は同じだけど答えが違っている。
「ここ、約分の仕方が間違ってる」
薄くシャーペンで線を書き込むと、すぐに気づいたようだった。
「あー……、そうか、クソ、両方いけるヤツかー!」
悔しそうに言って、答えの部分を消す。
「ケアレスミスだね」
「ちょー悔しい……」
「でも、授業で当たって間違えるより良かったと思うよ」
「まー、そーなんだけどぉ……」
答えを直し終えて、二口くんはシャーペンを置くと、
「次はぜってぇ、結城に『教えて~二口くぅ~ん』って言わす!」
と、不敵に笑う。
私、そんな風には言わないな、と苦笑しながら、二口くんは真面目に勉強するタイプなんだな、と認識を改める。
「昨日も部活あったんだよね。課題、頑張ったね」
「褒めんな、何も出ねえって」
あ、ちょっと頬が赤い。こんなことで照れるのは意外で、カワイイな、と思った。
「そーだよ。死にそうに疲れてんのを必死こいてやってんのに、写させてたまるかっつーの」
そう言いながら彼は自分のノートを閉じる。
自分の席に戻るのかと思ったので、そのまま前の席を借りたままこちらを見る二口くんを何だろうと見つめ返す。
「何か、俺に教えてほしいことは?」
「え……?」
そんなこといきなり言われてもな。
でも、クラスメイトながらそこまで喋ったことはなかったので知らないことはいっぱいある。いつも放課後はすぐ教室を出てってしまうし……。
「二口くん、バレー部だったよね?」
「おー」
「部活って、休みの日あるの?」
「基本ねぇ。けど、体育館が点検中とか、試合なければ日曜日は休み」
「そっか……。大変だね」
休みがないといっても平日のことだと思っていたので、当たり前のように土曜日も練習があるものだとわかってびっくりした。
私だったら、もっとのんびりする日が欲しい、と思ってしまうだろう。疲れちゃうし。
「何? 休みあったら遊んで欲しいの?」
にやっと笑う二口くんに焦って首を振る。
「違うよ。あの、ノート貸すぐらいならできるよ、って言いたかっただけで」
「……なんだ」
露骨にがっかりした顔をする二口くんに慌てる。あ……もしかして、二口くんは自分の力で勉強したい人だったか。
「ゴメン! 余計なこと言って」
「あ、いや、ノートは助かる。撃沈したらお願いする」
二口くんも何だか慌てて言う。
「5限とか6限とか、座学ン時だいたいヤベェ」
次も危ないかも、とため息をつく二口くんに、悪いと思いながらもちょっと可笑しくなる。
「うん。いいよ。頑張ってる形跡があるんなら全然かまわない」
「何だよ、頑張ってる形跡って?」
「例えばミミズみたいな文字、とかかな」
「……俺、寝る時はだいたい潔いんだよな……」
「私は最後まで足掻くタイプだよ」
「……。わかった。最後までシャーペンは握るようにする」
そう言って悲壮な顔つきをする二口くんが可笑しくて、こっそり笑った。