番外編 アオネハミテイタ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※時系列的には「6」の前の話です
「青根、一目惚れってしたことある?」
「……?」
さっきまで小原たちとバカ話をしていたから、二口の表情の落差に驚いた。俺と二人きりになったタイミングでしてきた唐突な質問。
直感的にこの質問は俺の答えを聞きたいわけではなく、聞いて欲しいことが二口にあるのだと思った。だから俺は話の矛先を二口に返す。
「ない。二口はあるのか?」
「俺? 俺は……この間した」
二口は含みを持たせてそこで言葉を切った。俺はそのまま二口が先を話すのを待つ。
「……初めてまともに顔を見た時、見つけたって、思った」
「……」
「俺ンとこにツラが好みだって来るヤツと、俺も同類じゃねぇか。結局外見かよって」
吐き捨てるように笑う二口は、男の俺から見ても端正な顔立ちだ。自分で言うだけのことはある。
「……でも、そこだけじゃない。話してみて、見えてきた性格とかで……。ああ、俺こういうヤツが好きなんだってわからせられるみたいな」
笑みを消した顔で彼は続ける。率直な物言いをする二口らしくない。核心をぼかす言い回し。
要は二口が一目惚れをした相手がいて、その相手の内面も好きだったというだけの話だ。きっかけが外見だったからといって、そこまで言い訳がましくする必要はないと思うのだが。
「結城か?」
俺は助け船のつもりで口を挟んでしまった。
「は?」
「二口は結城と話すとき、楽しそうだ」
「……」
これでもオブラートに包んでいる。二口は彼女の前ではすごく優しい顔をしている。愛おし気に見てると言った方が近いか。本人が自覚しているかどうかはわからない。
二口は俺がそれに気づいていること、俺が口を出したこと、両方に驚いているようだった。二口は平静を装うように表情を固くひきしめ、肯定も否定もしなかった。
難しい顔のまま二口は俺に問う。
「青根は結城ってどう思う?」
開き直ったのか二口は相手をぼかすことをしなかった。
ここで結城への好感を素直に答えたら変に誤解される可能性もある。俺はいくつか浮かんだ中から一番毒にならないと思う答えを選ぶ。
「……A組の女子だ」
「あったり前だろ、そうじゃなくて! ……好みのタイプとかそうでもないとか何かあるだろ?」
俺の気遣いは逆効果だった。からかわれたと思ったのか二口はイラついている顔をするので、誤解を受けにくい言い回しを考える。
「……いいヤツだと思っている。それ以上何かを思ったことはない」
まっすぐ二口を見て断言すると不意打ちに遭ったかのように目を丸くした。
「ったく青根は……」
我に返った二口は悪態をつきながらもどこかほっとした表情だ。
もういい加減直球で来い、と二口をにらむ。そうしていると、自分からふったくせに口元を歪めてにらみ返してくるが、俺が力強く頷くと観念したように口を開いた。
「俺、自分なりに理想のタイプとかあったはずなんだけど、結城と会って、そういうのがわからなくなった」
「……タイプ?」
俺はキーになりそうな単語を拾うが、二口は俺に口を出されると思わなかったのか、きょとんとした顔をする。
「ん? はっきりした顔立ちで、髪長くて、えっろい体型でー、ドエロくてーとかあったはずなのに」
多分照れ隠しなんだろう。何だそれはと思わないでもないが俺はじっと見つめて先を促す。
「……多分、俺今好きなタイプ聞かれたら、そのまんま結城って答えちゃうと思う」
そこから二口の声は真剣なトーンに変わる。
「全部結城で塗り替えられた」
息をのんで固まる俺に向かい、二口はふっと自嘲するように笑顔を作る。
「アホみて」
「…………」
……これは恋愛相談なのだろうか……? 相談なのだとしたら主題はなんだ? 告白するべきかそうじゃないかの相談か? ならば俺に話す理由は? 止めてほしいのか? それとも、背中を押して欲しいのか?
……部活と両立できるのならば問題ないと思う。主将だからダメという事もないだろう。
ただ、今の話を聞くと心配にもなる。
二口の軽さは、本人がそう振舞っているところによると思う。実のところは仲間と認めた者に対して熱いところがある男だ。
それが……。恋愛に関しては殊の外、感情が重いことが今発覚した。万が一『失恋』なんてことになったら結構引きずるタイプなんじゃないのか。
「あはは。青根、困ってるー」
困惑が顔に出てしまったのだろうか。二口が俺の顔を見て笑う。誰のせいだ、とにらむが二口の表情は皮肉気な笑みを浮かべたまま崩れない。虚勢か、あるいは……。
「どうしたいんだ?」
率直に二口は彼女と付き合いたいのか、それとも想いを伝えたいだけなのか、そうではないのか。その辺が明確になれば悩みも晴れるのではないか、と俺は軽く考えていた。
二口は宙をにらむ。どうしたいのかを考えているというより、言うか言わないかを悩んでいる様子だった。
「……ぜってぇキモイとか言うなよ」
ここまできて予防線を張る二口に俺は無表情を貫き首を縦に振る。
二口は静かに口を開く。
「普通に……困ってたら助けたい」
質問の意図とは違う方向から返答がきた。が、それは同意できるものなので頷いて見せると、二口は堰を切ったように続きを口にした。
「……可愛がってあげたい。優しくしたいし、意地悪もしたい。他の誰にもしたいと思わない事を……全部してあげたい」
「……」
「こんな風に思ったの初めてだ」
「…………」
言葉が出なかった。
告白するのかしないのかを聞いたつもりなのに、ここまで彼女への想いが出てくるとは……。
他人事なのに自分の心拍数が上がっているのを感じる。それなのにこれだけのことを言ってのけた当人の表情は凪いでいる。
動揺を咳払いでごまかし、俺はわざと重々しい口調で二口に問いかけた。
「……なら逆に二口が望んでいることはなんだ?」
「は? 別にそういうのはいいよ」
「何もないわけないだろ」
「……そりゃ、一通りのコトは色々としたいですよ」
茶化してはぐらかそうとする二口をじっと見ると照れたように落ち着かなくなる。
「わからない……なんか、そういうのは……ねぇや」
そこまで言うと彼はすっと真顔になった。
「そのままでいて欲しい。俺がしたことに対して、彼女が思ったことを返してくれればいい。ダメなら断っていい。イヤだったら怒っていい。でも、良かったら……」
そこで言葉を切った二口の瞳が揺れる。俺を見ているようで焦点はもっと遠いところで結ばれている。
「受け入れてほしい」
自分が言われたわけでもないのに、背筋がぞくっとした。その一言に、二口がありったけの意味と感情を込めているのがわかったから。
二口は、『好きな人』に対してこれほど重い感情を持つのか。
それに……。俺にここまで話すのも意外だった。俺に対する信頼や期待も存外に重いと思う。
「まあ俺は……青根と違って遠くから見守るなんてガラじゃねぇわ」
「……」
さっきまでの緊張感がウソのような軽口でちくっと俺を刺す。緊張から解けたように二口は伸びをした。
「あーあーあー! もう二度とこんなこと言わねぇ!」
ほんのり赤くなった頬に後悔の色はない。
「誰にも言うなよ! 青根」
その表情はすっきりとしていた。
二口。それはお前が自嘲するようなただの一目惚れじゃない。普通に誇っていい純愛だ。
「なんだよ、青根、笑ってんじゃねーよ」
二口が眉をひそめて俺をにらむ。
俺の表情はわかりにくいらしい。笑っていても気づくのは二口くらいだ。その二口が、自分の本当の気持ちに気づいていないのがおかしいと思う。
二口と彼女がどうなるかはわからない
それでも俺は
長い付き合いになりそうなこの男の初恋を一生忘れないと思う
「青根、一目惚れってしたことある?」
「……?」
さっきまで小原たちとバカ話をしていたから、二口の表情の落差に驚いた。俺と二人きりになったタイミングでしてきた唐突な質問。
直感的にこの質問は俺の答えを聞きたいわけではなく、聞いて欲しいことが二口にあるのだと思った。だから俺は話の矛先を二口に返す。
「ない。二口はあるのか?」
「俺? 俺は……この間した」
二口は含みを持たせてそこで言葉を切った。俺はそのまま二口が先を話すのを待つ。
「……初めてまともに顔を見た時、見つけたって、思った」
「……」
「俺ンとこにツラが好みだって来るヤツと、俺も同類じゃねぇか。結局外見かよって」
吐き捨てるように笑う二口は、男の俺から見ても端正な顔立ちだ。自分で言うだけのことはある。
「……でも、そこだけじゃない。話してみて、見えてきた性格とかで……。ああ、俺こういうヤツが好きなんだってわからせられるみたいな」
笑みを消した顔で彼は続ける。率直な物言いをする二口らしくない。核心をぼかす言い回し。
要は二口が一目惚れをした相手がいて、その相手の内面も好きだったというだけの話だ。きっかけが外見だったからといって、そこまで言い訳がましくする必要はないと思うのだが。
「結城か?」
俺は助け船のつもりで口を挟んでしまった。
「は?」
「二口は結城と話すとき、楽しそうだ」
「……」
これでもオブラートに包んでいる。二口は彼女の前ではすごく優しい顔をしている。愛おし気に見てると言った方が近いか。本人が自覚しているかどうかはわからない。
二口は俺がそれに気づいていること、俺が口を出したこと、両方に驚いているようだった。二口は平静を装うように表情を固くひきしめ、肯定も否定もしなかった。
難しい顔のまま二口は俺に問う。
「青根は結城ってどう思う?」
開き直ったのか二口は相手をぼかすことをしなかった。
ここで結城への好感を素直に答えたら変に誤解される可能性もある。俺はいくつか浮かんだ中から一番毒にならないと思う答えを選ぶ。
「……A組の女子だ」
「あったり前だろ、そうじゃなくて! ……好みのタイプとかそうでもないとか何かあるだろ?」
俺の気遣いは逆効果だった。からかわれたと思ったのか二口はイラついている顔をするので、誤解を受けにくい言い回しを考える。
「……いいヤツだと思っている。それ以上何かを思ったことはない」
まっすぐ二口を見て断言すると不意打ちに遭ったかのように目を丸くした。
「ったく青根は……」
我に返った二口は悪態をつきながらもどこかほっとした表情だ。
もういい加減直球で来い、と二口をにらむ。そうしていると、自分からふったくせに口元を歪めてにらみ返してくるが、俺が力強く頷くと観念したように口を開いた。
「俺、自分なりに理想のタイプとかあったはずなんだけど、結城と会って、そういうのがわからなくなった」
「……タイプ?」
俺はキーになりそうな単語を拾うが、二口は俺に口を出されると思わなかったのか、きょとんとした顔をする。
「ん? はっきりした顔立ちで、髪長くて、えっろい体型でー、ドエロくてーとかあったはずなのに」
多分照れ隠しなんだろう。何だそれはと思わないでもないが俺はじっと見つめて先を促す。
「……多分、俺今好きなタイプ聞かれたら、そのまんま結城って答えちゃうと思う」
そこから二口の声は真剣なトーンに変わる。
「全部結城で塗り替えられた」
息をのんで固まる俺に向かい、二口はふっと自嘲するように笑顔を作る。
「アホみて」
「…………」
……これは恋愛相談なのだろうか……? 相談なのだとしたら主題はなんだ? 告白するべきかそうじゃないかの相談か? ならば俺に話す理由は? 止めてほしいのか? それとも、背中を押して欲しいのか?
……部活と両立できるのならば問題ないと思う。主将だからダメという事もないだろう。
ただ、今の話を聞くと心配にもなる。
二口の軽さは、本人がそう振舞っているところによると思う。実のところは仲間と認めた者に対して熱いところがある男だ。
それが……。恋愛に関しては殊の外、感情が重いことが今発覚した。万が一『失恋』なんてことになったら結構引きずるタイプなんじゃないのか。
「あはは。青根、困ってるー」
困惑が顔に出てしまったのだろうか。二口が俺の顔を見て笑う。誰のせいだ、とにらむが二口の表情は皮肉気な笑みを浮かべたまま崩れない。虚勢か、あるいは……。
「どうしたいんだ?」
率直に二口は彼女と付き合いたいのか、それとも想いを伝えたいだけなのか、そうではないのか。その辺が明確になれば悩みも晴れるのではないか、と俺は軽く考えていた。
二口は宙をにらむ。どうしたいのかを考えているというより、言うか言わないかを悩んでいる様子だった。
「……ぜってぇキモイとか言うなよ」
ここまできて予防線を張る二口に俺は無表情を貫き首を縦に振る。
二口は静かに口を開く。
「普通に……困ってたら助けたい」
質問の意図とは違う方向から返答がきた。が、それは同意できるものなので頷いて見せると、二口は堰を切ったように続きを口にした。
「……可愛がってあげたい。優しくしたいし、意地悪もしたい。他の誰にもしたいと思わない事を……全部してあげたい」
「……」
「こんな風に思ったの初めてだ」
「…………」
言葉が出なかった。
告白するのかしないのかを聞いたつもりなのに、ここまで彼女への想いが出てくるとは……。
他人事なのに自分の心拍数が上がっているのを感じる。それなのにこれだけのことを言ってのけた当人の表情は凪いでいる。
動揺を咳払いでごまかし、俺はわざと重々しい口調で二口に問いかけた。
「……なら逆に二口が望んでいることはなんだ?」
「は? 別にそういうのはいいよ」
「何もないわけないだろ」
「……そりゃ、一通りのコトは色々としたいですよ」
茶化してはぐらかそうとする二口をじっと見ると照れたように落ち着かなくなる。
「わからない……なんか、そういうのは……ねぇや」
そこまで言うと彼はすっと真顔になった。
「そのままでいて欲しい。俺がしたことに対して、彼女が思ったことを返してくれればいい。ダメなら断っていい。イヤだったら怒っていい。でも、良かったら……」
そこで言葉を切った二口の瞳が揺れる。俺を見ているようで焦点はもっと遠いところで結ばれている。
「受け入れてほしい」
自分が言われたわけでもないのに、背筋がぞくっとした。その一言に、二口がありったけの意味と感情を込めているのがわかったから。
二口は、『好きな人』に対してこれほど重い感情を持つのか。
それに……。俺にここまで話すのも意外だった。俺に対する信頼や期待も存外に重いと思う。
「まあ俺は……青根と違って遠くから見守るなんてガラじゃねぇわ」
「……」
さっきまでの緊張感がウソのような軽口でちくっと俺を刺す。緊張から解けたように二口は伸びをした。
「あーあーあー! もう二度とこんなこと言わねぇ!」
ほんのり赤くなった頬に後悔の色はない。
「誰にも言うなよ! 青根」
その表情はすっきりとしていた。
二口。それはお前が自嘲するようなただの一目惚れじゃない。普通に誇っていい純愛だ。
「なんだよ、青根、笑ってんじゃねーよ」
二口が眉をひそめて俺をにらむ。
俺の表情はわかりにくいらしい。笑っていても気づくのは二口くらいだ。その二口が、自分の本当の気持ちに気づいていないのがおかしいと思う。
二口と彼女がどうなるかはわからない
それでも俺は
長い付き合いになりそうなこの男の初恋を一生忘れないと思う
1/1ページ