1 ヒトメボレ
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「……お前、こんな顔してたんだ」
「は、はい、こんな顔です」
体育のサッカーの授業。飛んできたボールに必死で頭で合わせたらメガネが飛んでいった。
奇跡的にボールはつながったので、チームメイトがプレーを続行する中、私は一人マンガみたいに『メガネ、メガネ』と這いつくばって芝生の中を探していた。すると私にパスをだした張本人である二口くんが『わりぃわりぃ』と駆けてきて、思いのほか遠くにあったメガネを拾ってきてくれた。お礼を言って受け取ろうとしたところにかけられたのが冒頭のセリフである。
何を言っているんだろう、と思った。私の顔なんて、メガネを外してもそんなに変わらない気がするんだけど。
あまり話したことがないその彼は、私がメガネをかける姿をじっと見て「へー……。そうなるんだ」と感心したようにつぶやく。話したことがないだけあって、真正面から顔を見られることも、逆に私が見ることも今まであまりなかった。
二口くん、遠目からイケメンだとは思っていたけど、……ホント、キレイな顔をしている。そのキレイな顔が近い距離で私をじっと正面から見るので、恥ずかしくなって視線を外そうとしたその時。
「メガネ」
「はい?」
「コンタクトにしねーの?」
「ああ……。常用は高校卒業してからにしなさいって」
「何で?」
「私、ドライアイであんまり合わないみたいなんです」
「へぇ……」
そう言って彼は私のメガネに手をかける。メガネが外された私の視界は再度ぼやけていく。
目の前の二口くんの顔の線が曖昧になりイケメンプレッシャーは軽くなる。そうそう、このくらいがいつもの、遠くから二口くんを見ている解像度と同じくらいだ。
「見えてんの?」
目が悪い、っていう感覚がわからない人にはよく聞かれる質問だ。二口くんは視力が良いんだろうな。
「この距離だとぼやけるけど、もうちょっと前にいけば……」
そう言いながら焦点を合わせるために近づいてみる。
「このくらいだと、変わらないです」
この距離なら二口くんの表情も良く見える。二口くんはいつもすまして笑っているイメージがあったけど、その時の表情は戸惑っているような感じだった。
「二口くん?」
名前を呼ぶと、はっとしたように目を逸らされる。
「ち、近ぇよ」
「ご、ごめんなさい!」
メガネがないと距離感がつかめない。私は知らないうちに近づきすぎてしまったようだ。あわてて顔を引いて離れる。
それが面白かったのか、いつものように笑った二口くんは、手に持った私のメガネを自分の顔にかけた。
「うわ、これ、スゲー、度、きつっ」
「!! 二口くん、返してください!」
私の度のメガネなんてかけたら二口くんの目がおかしくなってしまう。慌ててメガネを取り返そうとしたけど、二口くんは立ち上がってしまった。私の伸ばした手なんてひらりとかわされてしまう。
私を見下ろす二口くんは愉快そうに笑うとこう言った。
「敬語やめたらいーよ」
敬語?
……あー。
そうか。私はあまり話したことがない相手には無自覚に敬語になってしまう。クセのようなものだから、敬語を外すのは逆に難しい。えーと……
「二口、返せ」
ぱっと口から出たのは、ただの命令形だった。二口くんは一瞬面食らった顔をするとぷっと噴き出した。
「なんか、方向性が違う」
二口くんは笑いながらも不満そうだった。
「それじゃ、返せねーなー。もうちょっとヤサシメの方向で」
ヤサシメ、優しめ? 私は少し考える。
「……二口くん、返してくれない?」
「うんそれがいい」
どうにか正解を導きだせたようだった。彼は自分の顔からメガネを外し私の顔にかけてくれた。メガネの傾きを調節してくれている。意外と几帳面な性格なんだな、とぼんやり思う。
「さっきの……」
「ん?」
「あんま人に見せんなよ」
真剣な顔で言われた言葉にずきっと胸が痛む。メガネをかけ始めた小学生の時『メガネザル』と言われてしまった事を思い出した。あの時はメガネ姿が周りに違和感を与えてたんだと思うけど、今となっては外した方が変な感じになってしまってるのか。
「……そんなに見苦しかったですか?」
「そうじゃねーよ、むしろ逆。それと、敬語。戻ってる」
「???」
二口くんの『逆』の意味がわからなくて首をかしげると「あ、コラ、曲がってるかどうかわかんなくなるだろ」と首を戻された。
「うん……これで良し。いつもの結城だ」
視界は良好。やりとげた感のある彼の表情が明確に見えてくる。……やっぱりキレイだ。
「ありがとうご、」
『ございます』まで言いかけたのを寸前で飲み込む。彼は「そうそう」と満足げに言って笑うと、急に真面目な顔になった。
「俺以外に見せんなってことだよ」
「え? 何を?」
「クソにぶいな!」
「ん? ……うん」
メガネを外したのを二口くん以外に見せちゃいけない、ってどういうことだろう。
二口くんはそれには答えてくれないまま、サッカーの試合に駆け戻っていった。
「は、はい、こんな顔です」
体育のサッカーの授業。飛んできたボールに必死で頭で合わせたらメガネが飛んでいった。
奇跡的にボールはつながったので、チームメイトがプレーを続行する中、私は一人マンガみたいに『メガネ、メガネ』と這いつくばって芝生の中を探していた。すると私にパスをだした張本人である二口くんが『わりぃわりぃ』と駆けてきて、思いのほか遠くにあったメガネを拾ってきてくれた。お礼を言って受け取ろうとしたところにかけられたのが冒頭のセリフである。
何を言っているんだろう、と思った。私の顔なんて、メガネを外してもそんなに変わらない気がするんだけど。
あまり話したことがないその彼は、私がメガネをかける姿をじっと見て「へー……。そうなるんだ」と感心したようにつぶやく。話したことがないだけあって、真正面から顔を見られることも、逆に私が見ることも今まであまりなかった。
二口くん、遠目からイケメンだとは思っていたけど、……ホント、キレイな顔をしている。そのキレイな顔が近い距離で私をじっと正面から見るので、恥ずかしくなって視線を外そうとしたその時。
「メガネ」
「はい?」
「コンタクトにしねーの?」
「ああ……。常用は高校卒業してからにしなさいって」
「何で?」
「私、ドライアイであんまり合わないみたいなんです」
「へぇ……」
そう言って彼は私のメガネに手をかける。メガネが外された私の視界は再度ぼやけていく。
目の前の二口くんの顔の線が曖昧になりイケメンプレッシャーは軽くなる。そうそう、このくらいがいつもの、遠くから二口くんを見ている解像度と同じくらいだ。
「見えてんの?」
目が悪い、っていう感覚がわからない人にはよく聞かれる質問だ。二口くんは視力が良いんだろうな。
「この距離だとぼやけるけど、もうちょっと前にいけば……」
そう言いながら焦点を合わせるために近づいてみる。
「このくらいだと、変わらないです」
この距離なら二口くんの表情も良く見える。二口くんはいつもすまして笑っているイメージがあったけど、その時の表情は戸惑っているような感じだった。
「二口くん?」
名前を呼ぶと、はっとしたように目を逸らされる。
「ち、近ぇよ」
「ご、ごめんなさい!」
メガネがないと距離感がつかめない。私は知らないうちに近づきすぎてしまったようだ。あわてて顔を引いて離れる。
それが面白かったのか、いつものように笑った二口くんは、手に持った私のメガネを自分の顔にかけた。
「うわ、これ、スゲー、度、きつっ」
「!! 二口くん、返してください!」
私の度のメガネなんてかけたら二口くんの目がおかしくなってしまう。慌ててメガネを取り返そうとしたけど、二口くんは立ち上がってしまった。私の伸ばした手なんてひらりとかわされてしまう。
私を見下ろす二口くんは愉快そうに笑うとこう言った。
「敬語やめたらいーよ」
敬語?
……あー。
そうか。私はあまり話したことがない相手には無自覚に敬語になってしまう。クセのようなものだから、敬語を外すのは逆に難しい。えーと……
「二口、返せ」
ぱっと口から出たのは、ただの命令形だった。二口くんは一瞬面食らった顔をするとぷっと噴き出した。
「なんか、方向性が違う」
二口くんは笑いながらも不満そうだった。
「それじゃ、返せねーなー。もうちょっとヤサシメの方向で」
ヤサシメ、優しめ? 私は少し考える。
「……二口くん、返してくれない?」
「うんそれがいい」
どうにか正解を導きだせたようだった。彼は自分の顔からメガネを外し私の顔にかけてくれた。メガネの傾きを調節してくれている。意外と几帳面な性格なんだな、とぼんやり思う。
「さっきの……」
「ん?」
「あんま人に見せんなよ」
真剣な顔で言われた言葉にずきっと胸が痛む。メガネをかけ始めた小学生の時『メガネザル』と言われてしまった事を思い出した。あの時はメガネ姿が周りに違和感を与えてたんだと思うけど、今となっては外した方が変な感じになってしまってるのか。
「……そんなに見苦しかったですか?」
「そうじゃねーよ、むしろ逆。それと、敬語。戻ってる」
「???」
二口くんの『逆』の意味がわからなくて首をかしげると「あ、コラ、曲がってるかどうかわかんなくなるだろ」と首を戻された。
「うん……これで良し。いつもの結城だ」
視界は良好。やりとげた感のある彼の表情が明確に見えてくる。……やっぱりキレイだ。
「ありがとうご、」
『ございます』まで言いかけたのを寸前で飲み込む。彼は「そうそう」と満足げに言って笑うと、急に真面目な顔になった。
「俺以外に見せんなってことだよ」
「え? 何を?」
「クソにぶいな!」
「ん? ……うん」
メガネを外したのを二口くん以外に見せちゃいけない、ってどういうことだろう。
二口くんはそれには答えてくれないまま、サッカーの試合に駆け戻っていった。
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