EX5:灼熱カーニバル

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 両手に抱えたクーラーボックスを砂浜に放って、鎌先が汗をぬぐう。

「クソ重めぇ!これ何入ってんだよ!」
「みんなの飲み物だよ!かまち、最初に選んでいいいから!」
「何のための筋肉よ!あと少しだって!」
「キャー、やすしがんばってぇーん」
「……きめぇ。力抜けるわ……」

 女子の作り声の歓声にうんざりした顔で鎌先が返す。工業に3年もいると黄色い声も野太くなるんだな……と物悲しくなりながら、俺はテントやら敷物やらの大物の用具を運ぶ。
 雲一つない青空の夏休みの初日。学校の最寄りから一時間ほど離れたその海水浴場は、午前中だというのにそこそこの人で賑わっていた。

 伊達女子さんたちが海に行くというのをうちのマネが茂庭にポロっと話したことから、茂庭が「女子だけで海なんて危ない!」と同行を申し出、結城も行くから、と俺が巻き込まれ、「海?行くに決まってんだろ!」と鎌先が自ら巻き込まれに来たというワケである。伊達女子10名+俺ら3名、総勢13名の大所帯。
 先に海の家で水着に着替えてきた皆さんは、それはもう馬子にも衣裳という感じにたいへん華やかでありました。

「笹谷、手伝うよ」
「じゃそっちにペグ打って」
「りょーかい」

 横に来てテント設営を手伝ってくれる結城は、俺のお願い通りにフリルトップスを着たままでいてくれている。先ほどマネージャーがパーカーと短パン装備なのを確認した茂庭がほっとした表情を浮かべたのを俺は見逃さなかった。好きな子に対しての俺達の姿勢は全然間違ってないよな……。
 そうこうしてる間に、休憩用のテントをベースにレジャーシートを敷いて俺らの陣地が完成した。海に入る前の準備、飲み物を飲んだり、体操をしたりと思い思いに過ごしていると、

「ん?あれって!?」

 浮き輪に空気を入れていた茂庭が浜辺に入って来たグループを指さした。
 俺と鎌先はその方角を見て、げ、と声を上げる。見たことのある顔がいる。あれは、まさか……。
 あちらもこっちに気づいたようだった。俺は思わず傍らの結城の格好を見る。うん。上、脱いでないな。

「何?どうしたの、笹谷?」
「い、いや」

 知らないふりをしよう、という判断はもう遅かった。宮城バレー界・伝説のモテ男が、満面の笑みで手を振りこちらに駆けて来る。

「おーい、もしかして、もにちゃ~ん?」

 うわっ。こっちくんな、と俺が思うのと同時に茂庭と鎌先の眉間にも目一杯シワが寄る。

「鎌ちくんに笹谷くんも!女子いっぱい侍らせて、何それ?うらやましい!」
「お守りだよ、お守り。体のいいパシリだっつーの!」

 そう鎌先が怒鳴り返すと、

「ちょっと、お守りってひどくなーい」
「あんたたちがついて来たいって言ったんじゃん」
「ホントにパシリにしてやろーか」

 背後から伊達女子さんたちの大ブーイングを浴びる。

 まさかの青葉城西の及川、岩泉、花巻、松川と連れの女子2人だった。及川がインチキ臭い微笑みを浮かべながらこちら側を見渡す。

「コレ、何つながりのコ達?」
「同じ学年の女子だよ」
「え?カワイイ子だけ連れて来たの?」
「いや、そんなことしねーよ、ほぼ全部だよ」

 学年の女子の全員に声はかけたらしい。都合で来れない三名のみ欠席だ。目を丸くする及川。

「悪かったな、少なくて」

と鎌先が噛みつくと、及川はとんでもないという風に首をふって大げさに驚く。

「えーーーーーーー!伊達工レベル高すぎだよ。これでお守りとか言ったらバチ当たるよ」
「……お前らみたいのがいるから、一緒に来たんだよ」

 心底うんざりした顔で茂庭がつぶやく。……茂庭にこんな顏させるって、及川相当だな。
 しかし。及川のこういうところがモテる所以でもあるんだろう。ここは見習うべきかもしれない。見ろ、伊達女子さんたち、まんざらでもない顔してるじゃねーか。

「もにちゃん、けなげー」

 俺が密かに感心しているとは知らずしみじみと頷く及川。
「なになに、鎌先たちの知り合い?」「どこの学校?」と女子たちが集まってくる。

 及川は人当たりのいい笑顔を浮かべて言う。

「俺たち、青葉城西高校のバレー部の3年。もにちゃん達とは良きライバルだったんだよー。良かったら一緒に遊ぼう?」

 後ろの伊達女子御一行に向けて、バチーンと音がしそうな及川のウインクが決まった。
 及川すげーな…。これで女子のハートはつかんだな、と思ったら……伊達女子さん方は思ったより冷静だった。なめまわすように青城メンバーを見るとお眼鏡にかなったのか「いいよー遊ぼうか」と返す。
 そして、俺らが止めるまでもなくハイエナのように……!

「青城なの?え、違う女子校?!うわー新鮮!うちらほぼ男子校だから!」
「岩泉くんってどれ?あー、あの黒髪の目付き鋭い方、の彼女なんだー」
「こちらは?へー松川くんのクラスメイト」
「え?親友!?またまた、隠れて付き合ってんでしょ、ホントに付き合ってないの!?」
「でも体育会系同士だと、戦友みたいになることあるよね、わかるー」
「あの中で一番渋いところ行くってのがいいよねー」

 ……いやいやいや、お前らもっと及川に食いつけよ!アイツ、すごいんだぞ!
 二人の女の子に群がる伊達女子御一行様。高身長イケメンの青城に囲まれてもこの塩対応。
 まあ伊達女子さんたちはな……。男には不自由してないんだよな。むしろある意味俺らよりも女に飢えてるから、こういう機会にはがっついて友達になりにいく。
 茂庭の心配って全くの杞憂だったんだな……。
 
 女子二人は及川の取り巻きかと思いきや、岩泉の彼女と松川のガールフレンドとのことだった。及川と花巻ではなく、岩泉と松川ってのが意外だ。いや、彼女もちって感じならこれで正しいのか。

「もにちゃん達の彼女ってあの中にいるの?」

 伊達女子さんのつれなさ具合に肩透かしをくらった及川は、仕方なしにとばかりに顔見知りの俺たちと話す。

「あー!それ教えといて。そこは避けとく」と花巻。
「なけなしの女子持ってこうとすんなよ」と呆れて俺が言うと
「青城のフリーの女連れて来てから言えって」と鎌先がつづく。

 本当に鎌先の言う通りだ。それがスジってもんだろ。

「んー。まあ、誰と来てもカドが立っちゃうしさー」

とさらっと言ってのける及川に俺たちは閉口。次元が違う。モテる男ってすげーのな。でも、及川のすごさはこれだけじゃなかった。

「で、もにちゃんと笹谷くん、いるでしょ?あの中に」

 俺、絶句。どんな観察眼してんだよ。茂庭も固まってる。

「あー、笹谷の彼女ならいるぞ」

 一人無傷の鎌先が悪気なく口を滑らす。

「うん、笹谷くんの彼女はわかる。白いフリルの子でしょ?」

 結城、今すぐ逃げて!

「……何でわかったんだよ」
「俺たちを見つけた瞬間、笹谷くんそっち確認した。あと、マネちゃんとその子だけ上半身のガード固いし」
「……」

 俺、再度絶句。

「気持ちわりぃな!お前」

 速攻で決まった岩泉のツッコミが、俺の気持ちを代弁してくれた。
 ……信じられない。及川怖すぎる。恐怖のあまりガンつけてみるも、にこやかに微笑み返されてしまった。……勝てる気がしない。舌打ちしたい気持ちを抑え両手を上げ降参のポーズをとる。

「ご明察だよ。結城はやめてね」

 ちらっと隣の茂庭を見る。何か言いたげだが葛藤があるのだろう。
 茂庭とマネージャーは別に付き合ってるわけじゃないから。気持ちは手に取るように分かるので俺が代弁する。

「あと、ウチのマネージャーはやめたって」

 はっと茂庭がこっちを向く。目くばせで茂庭を抑えて続ける。

「次対戦するときとか、うちのカワイイ後輩たちに影響出たら困るからさ」

 本当はマネも一緒に引退してるから、そう影響は出ないんだけど、問題は茂庭なんだよ。
 さすがに及川は察しが良かった。

「わかった、あの二人には手を出さないよー」

 にっこり笑う及川と握手を交わし、無事、紳士協定は結ばれた。

 さらに大所帯になったので、青城の奴らが持ってきたパラソルも隣に設置すると及川が誰かを探すようにきょろきょろしだした。

「ところで今日、二口くんは?」
「今日はうちの学年だけだよ。アイツら部活じゃね?」

 お前らも部活に残ってんだろうに……シード余裕かよ。

「そっかー。一緒に逆ナンされに行こうと思ったんだけど。俺と彼なら、もうお姉さま方入れ食いじゃん?」
「……ウチの後輩を変なことに巻き込むなよ」

 茂庭がカンベンしてくれとでも言いたげな顔で言う。及川と二口が組んだところの想像だけで胃痛を起こしそうだ。
 でも、アイツ、実はそんな人当たりは良くねぇから、多分ナンパには役立たねーぞ。

◇◇◇

 地元民と県民ぐらいしか人が来ないと言われるこのビーチも、夏休みを見込んだのかあちこちでイベントが催されている。
 やはり、最初に目に入ったのは『ミックスビーチバレー大会』の文字。

「こんなこともあろうかと、準備してきたぜ!」

 おもむろに短パンを脱ぎだす鎌先。

「ぎゃああああああああああ」
「ちょ、何考えてんの!」
「お前のポロリとか、誰得だよ!」
「待て、履いてるっつーの!」

 ブーメランパンツ(多分水着のはず)着用だと!?なんだこのリアルダビデ像は。

 幸いビーチバレー大会の服装規定はゆるく指定のビブスさえ着用すればOKで、ブーメランパンツもむしろ本場はそっちだよね、と主催者は苦笑いで許可してくれた。

 鎌先とはマネージャーが組んで出ることになった。マネージャーは中学バレー経験者で、自主練では俺たちと一緒にスパイクに入ったりする。女子とはいえなかなか体重の乗った重いスパイクを打つ。茂庭と組むってのも考えたが、勝ちに行くなら鎌先と組ませたほうがいいだろう。何より鎌ちがやる気だ。
 それにしても、鎌先ビーチバレーハマりすぎ。背丈は申し分ないし、あの筋肉だ。パンツ+ビブスの薄着が映える映える。お前、就職決まらなかったら本気でこっちの道考えてもいんじゃね?

 青城側は、松川とガールフレンドが出るようだった。この子もなかなかすごい。引退済みだが陸上部だったそうで、抜群のアジリティで拾う拾う。レシーブが上手いってわけじゃないけど、とにかく体にあてて上げていく。また、高く上がりさえすれば松川がどうにかしてしまう。なかなか期待できるコンビだ。

 エントリーを終えた鎌先ペアと松川ペアが本気のウォーミングアップに入るのを横目に、俺と結城は岩泉とその彼女ペアと『キャッキャウフフ但し男狙いの時は本気』バレーに興じた。

「はい、笹谷」ぽーん
「くらぇ!岩泉!!!」ドゴォ
「あめぇぞ、笹谷ー!!!」ボッ
友紀ちゃん、どうぞ!」ぽーん

 及川と花巻に「おのろけバレー」だとか揶揄されたが(やっかみだろ、どーせ)、コレ、超楽しい。

「はい、はじめくん」ポーン
何だと!?
「行くぞ、笹谷!!!」ドッ
「うごぉ」バコーン

 岩泉のスパイクが俺の顔面を直撃した。

「お前、気ィ抜いてんじゃねーよ」岩泉が呆れたように言う。

『はじめくん』って何だよ!なんだそれ、超うらやましい。

「ちょ、笹谷、大丈夫?!」結城が駆け寄ってくる。
友紀
「何、どうしたの?どっか痛い?」

 心配そうに俺を覗き込む彼女をどさくさ紛れに名前で呼んでみたが気づくそぶりはない。

「『たけひとくん』って呼んで」

 スッと結城が真顔になった。

「え、……やだよ」
「ひでぇ!」

◇◇◇

 鎌先ペアと松川ペアは順調に勝ち上がってるらしい。が、ここでまさかの問題が生じた。

「あれ?鎌ちどこ行った?」

 鎌先のビブスを持ってこちらに来た茂庭とマネージャーに尋ねる。二人とも困惑の表情だった。

「鎌ちは……なんかビーチデッサン大会のモデルにスカウトされて連れてかれた」
「はぁ?ヌード?」
「いや、パンツ一丁」

 ……あいつ、マジでなんなの。海岸に伝説作りに来たの?
 写真撮って二口に送ってやろ、とスマホ片手にデッサン大会の会場へ向かうと、木箱を八つぐらい並べた簡易的な舞台の上で鎌先がポーズをとっている。典型的な筋肉ポーズ。パンイチ(しかもブーメラン)で。
 よく見ると伊達女子さんが二人デッサン大会に混ざっている。俺は鎌先の写真を二、三枚撮ると(俺に気づくとドヤ顔してきた)伊達女子さんの絵を覗きに行く。
 …………。
 やべー……こいつら本気だ。デザイン科はやっぱ違う。えらく本格的に描き込んでいる。でも……。

「あのー、このかまちさん、パンツ履いてませんが」
「んーーーなんか、パンツ履かせたら芸術性が下がっちゃって、脱いでもらったよ」
「で、この部分は……」

 パンツの中身の部分である。なんというか、丸出しでしかもすげーデカイ。

「んー、私の理想かな?」
「おい、毛はどこ行ったんだよ……」

 鎌先……毛、むしられてたぞ……。

 もう一人が描いているのは…、こちらは…なんというか前衛的なかまちだった。デフォルメが効きすぎている。
 そしてこちらもパンツを履いていない。

「何で全裸なんだよ、パンツ履かせてやれよ!」
「邪魔なんだって!」

 なんだろう……かまちってパンツを脱がせたくなる何かをもっているのか。それともあのパンツ、女子的にはスゲーダサいんだろうか。俺にはさっぱりわからない。
 とにかく、しばらく鎌先はデッサン大会から抜けられなさそうだ。このままでは不戦敗になってしまう。ビーチバレーの主催者に事情を説明に行くと、特別にエントリー変更を許可してくれた。

「どうする?」

 どうするっていうのは、マネージャーと組んでどっちが出るかっていうことだ。俺は即答した。

「茂庭、行ってこいよ。セッターとスパイカーの方がバランスいいべ」

 茂庭に必要なのは後押しだ。マネも本当は茂庭と出たいのはわかってるから「行ってこい」と背中を押してやった。

◇◇◇

 結局、決勝は、茂庭+マネVS松川ペア。やはり経験者が二人いる方が強く、茂庭ペアが優勝した。優勝商品は海の家の食事券だったから、ぱーっと俺らと青城のみんなの分の昼メシとして消えていった。

 海に入ったり、及川、花巻と遊んだり、茂庭、松川が出てるビーチバレー大会を応援しに行ったり、鎌先モデルのデッサン大会をひやかしに行ったり、俺と岩泉のキャッキャウフフバレーに混ざったり、皆思い思いに楽しんで過ごしたようだ。

「あー、楽しかった!」

 日も傾いた夕焼けの帰り道。
 日焼け止めが追いつかなかったのか、うっすら日に焼けた肩をさらして結城と俺は帰り道を行く。

 高校生活最後の夏休みの初日としてはいい一日だった気がする。来年から、皆バラバラになるんだな、とガラにもなくセンチメンタルな気分になる。

「今度は、二人で行きたいね!」
「……そうだな」

 屈託のない笑顔を見せる結城に願わくば、来年も結城と一緒に夏を過ごせるといいけど、とさらにガラにもないことを思う。

「どこがいいかなー。もうちょっと、遠くの海とかもいいなー」

 そうか、地元じゃない海か……でも、俺まだ車とか持ってねーから、交通手段は電車とかか……となると、

「泊まりで?」

 ふと、俺が漏らした言葉に結城がはっとした顔になる。

「決まりだな」

 そう言って笑うと、結城は前の約束を思い出したのか、顔が赤くなったような気がした。

◆◆◆

後日。
デッサン大会の大賞の絵が市報に掲載された。
その絵が写真と見紛うようなタッチで描かれたほぼ全裸の鎌先だったので、鎌ちは職員室に呼び出されたらしい。



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 Carnaval
(祭じゃあーっ!!!)
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