二口堅治:正当化
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部室にまだ明かりがついていた。
ドアを開けると、そこには案の定、部誌を開いたまま机に突っ伏している二口がいる。
私は小さくため息をついて戸口から声をかけた。
「二口、部室のカギ、返しに行きたいんだけど」
二口がゆっくりと顔を上げる。寝ていたわけではないようだ。
「結城」
「ん、どうした?」
呼ばれた私が応えると、彼は静かに立ち上がりこちらへ歩み寄る。二口の体の影で私はすっかり覆われた。
「今、いい?」
「……いーよ」
私は部室の中に入り後ろ手でドアのカギを閉める。
次の瞬間、二口は私の体を抱き寄せた。
◆◇◆
二口と、この関係が始まったのは、春高予選で青葉城西に敗れた日のこと。
二口が主将になって初めての敗北。
『負けたのは悔しいけれど、俺たちはこれからだ』
そう言った二口は、試合後、会場に来ていた3年生を学校の体育館まで連行し、練習という体をとりつつ茂庭さんにからみ、鎌先さんに軽口を叩き散々はしゃいでいた。少々悪乗りしすぎの気もあったけど、新主将として気を張っていた二口がプレッシャーから解放されたように見えて、私はほっとしていた。
「二口……?」
部室の戸締りを私に頼むからてっきり茂庭さんたちと一緒に帰ったと思ってたのに。一人部室で脱力してる二口を見つけて驚いた。
「結城」
ゆっくりと顔を上にあげ、いつものようにへらりと人の悪そうな笑顔を作る。
「俺、まだまだだな」
作り笑顔で何でもないように装う二口に、私は言いようのない苦しさを覚えた。
「なんか、ひさびさに茂庭さんとか来て、最初は嬉しかったけど、……」
二口はそこで息をつき、その先を言わずに下を向いた。
試合に負けたことや先輩と練習したことで今日まで張りつめていた糸が緩んだのだろう。そして、一人になった時その糸が完全に切れてしまった……。
誰にも見られたくなったのかもしれない。私に見られたのも、不本意なのかもしれない。
でも、その場に居合わせてしまったからには、せめて軽くなるようにしてあげたい。私は二口の隣に座り、トントンと肩を叩く。
「大丈夫だよ、二口はがんばってる」
二口は机から下を向いたまま顔を起こし、口元だけゆがめ囁くように言う。
「……愚痴言って、ゴメン」
「そんなの……、いいよ」
「……ゴメン」
二口らしくない言葉をのせる二口の声を妙に近くで聞いた、と思ったらふわっと暖かいものに包まれた。抱き寄せられた、と気づいたのは少し間をおいてから。
その時、私の頭をかすめたのは、入部前に監督に言い渡された『部内恋愛禁止』の言葉。
「二口……」
彼の名を呼んで、彼の腕から逃れようとする。
「もうちょっとだけ……」
と、さらに体をを引き寄せられ、私の頭は二口の肩に押し付けられる。
二口の体の熱や堅さを感じてしまい私はいやがおうにもドキドキしてしまう。彼の腕の力は私に何も言わせてくれない。
違う。違う違う。
これは、恋愛じゃない。
ねぎらい、はげまし、なぐさめ。
そのどれか。
そう自分に言い聞かせて二口の背中に手を回し、あやすように彼の背中を叩いた。
◆◇◆
それから『2人だけになれる』時、二口に抱きしめられるようになった。
別にその先を求められるわけではない。こんなので二口がいつもの二口に戻ってくれるならお安いご用だ。
ただ……。気を張って主将をやっている彼が、私の前だけで見せる弱さにほだされそうになる。
『部内恋愛禁止』
ちょっと前までそんなタブー犯すわけないと思っていたけど、揺らぐ。
力になりたい、支えてあげたい。そう、思っているだけなのに。
二口に抱きしめられるたびに『恋愛じゃない』『好きにはならない』と言い聞かせている私はもう限界かもしれない。
いっそ、体でも求めてくれば、張り倒して彼も私も正気に戻すのに。
◆◇◆
「今日は、どした?」
「…… んーー。青根がさ」
「ん?うん」
ゆるやかに私を抱く二口の腕の中。
青根が二口が沈む原因になるのは珍しい。
「アイツ、ダメなのには何も言わないけれど、いいプレーには吠えるじゃん」
「あー、そうだね」
最初はびっくりしたけれど、あれは彼なりの鼓舞で、部内での士気を高めるいい刺激になっている。
「俺がつべこべ言うよりもアイツのひと吠えの方が影響力あると思ったら、……なんかヘコんだ」
お母さん役はつれぇよなあ、と力なく笑う振動が私の体に伝わる。
冗談めかしているけど、結構キたんだろうな。
でも。
私は二口の背中に手を回し、もう片方の手で彼の頭を撫でる。一瞬びくっと震えた彼がデカいくせに可愛くて、思わず笑ってしまうと「何笑ってんだよ」とにらまれる。
「吹上が、さ」
「ん?」
「二口の後ろにいる時、フォームとか真似してるよ」
「え……?」
二口はいいところいっぱいあるのに、見えなくなっているだけだ。
「今度、振り返ってあげて」
「……わかった」
「あと……」
「どーせ、黄金のことだろ」
「わかってんじゃん」
そりゃね、と肩越しに二口が笑う吐息が私の髪にかかるのがくすぐったい。
「黄金川はさ、素直でめげないから言いやすいよね」
「……」
「だから、下手するといきなりつぶれちゃうかも」
そう言うと、二口は私を抱く腕を緩めて私の両肩に手を置く。
「俺、言い過ぎか?」
不安そうに揺れる瞳。
もう……そんな、追い詰められた顔、しないでよ。
「ううん、そうじゃなくて。たまにさ、目いっぱいほめてやって」
「……」
「絶対、二口に褒められるのが一番うれしいはずだから」
「うん……」
二口が頷いたのを見て、今度は私から彼の体を抱きしめた。二口はしっかりと受け止めてくれる。
「強いジャンサー、決まる様になってきたじゃん」
「あー、怨念こめてるからな」
怨念って、と笑うと二口も軽く笑った。
「練習の成果でしょ。ちゃんと、見てるよ」
「うん……」
「二口はがんばってるよ」
「うん」
「がんばってるから、大丈夫」
回した手で二口の背中を優しく叩くと、ほっと彼が息を吐き出した。
何かを決意したように私を見つめるから、何事かと見つめ返す。
二口は一旦視線を外すと口を開いた。
「…… あの、さ」
「うん、何?」
「がんばってるから、ご褒美ちょーだい」
私を抱きしめる二口の腕に力が入り、くっと引き寄せられる。視線の先、綺麗な形の唇だ、と思った矢先、後頭部に手を添えられ顔を上向きにさせられる。と、二口の顔がゆっくりと近づいてきた。
え、これは……。
私はあわてて、両手で二口の胸を押す。
「二口っ、それは……だめ……」
至近距離の視線から逃げるように顔を逸らし、彼の体を遠ざける。心臓の鼓動が早く大きくなっているのが自分でもわかる。今のままでも結構ギリギリなのに、キスまでされたら……。
恐る恐る、逸らした視線を戻すと、拗ねたように睨み付けられる。そんな顔されても、ダメなものはダメだ。
「キスは……恋愛になっちゃうから……」
私の気持ち的には、これがぎりぎりで、もう、もたない。だからダメ。
「私、部活、やめなきゃいけなくなっちゃう」
こんなの『二口が好き』だと白状したようなもんだ。
……だから二口、いつもみたいに『自意識過剰』とか『俺が好きじゃなければ恋愛じゃないじゃん』と鼻で笑ってよ。そしたら、これは冗談になるから。
「そ、っか……」
それなのに二口は聞き分けよく、遠ざける私の力を受け入れ、距離を置く。そして、手を伸ばし、私の頭を撫でた。
……そんな風に、ちゃんとひいてくれるから。変なトコ真面目だから、あんたは苦しむのに。そんなだから、そういうところがあるから、好きになってしまうのに。他に彼女でも作ってくれればいいのに。そうしたら、割り切れるのに。
「結城」
「なあに」
ぐるぐると考えている最中に名前を呼ばれ、思っていることを悟られないようわざと間延びさせて返事をする。顔を上げると真剣な二口の瞳が私を捕らえる。彼の手が私の頭から頬へ移動する。
「もし、俺以外のヤツが縋ってきたら、同じことすんの?」
いつにない差し迫った声音に胸を衝かれる。そんなの。答えは決まっている。もし青根や小原が主将だったとしても、もちろん支えるけれど、ここまではしない。
「しないよ」
でもこの続きはこう、答えるべきだ。『主将だからだよ』と。
そう、言おうとして、改めて二口を見る。
思いつめたような表情。絡めとられるように握られる手。祈っているような絶望しているような瞳。
……バカ、何て顔をしてるのよ。
「……二口だからだよ」
ごまかすのはもう、あきらめた。
震える声でそう告げた刹那。二口が飛び込むように私の体を抱きしめた。
「 」
耳元で囁かれた言葉を聞こえないふりした。きつく抱きしめられているせいで、二口がどんな顔をしてこれを言ったのか、わからない。
でも、これは仕返しだ。想いを殺せず、本音をこぼしてしまった私への。
「二口」
「……」
答えはない。だから私は勝手に話しかける。
「ずっと、見てるから」
「……」
「全国行ったら、ご褒美なんでもあげるから」
「……」
「そしたら誰にも文句は言わせないから。私がアンタを全国まで導く主将にしてやったって胸張って言うから」
二口は何も言わない。私はその先を続けるために、一度呼吸を置く。
「だから、その時は、止めないし、隠さないけど、それでもいい?」
――二口のことを好きなことを。
ふっと、私を包む腕が緩んで二口の顔が見えた。二口はふっと息を吐くと、一度目を閉じた。その仕草が儚くもキレイだと、見とれてしまった。
「わかった。絶対惚れさせてやる」
目に力が入っている。いつもの皮肉気な笑いを浮かべた二口だ。
もうとっくに惚れてるんだけどな。いつもの二口にほっとした刹那、二口の顔が近づいて――唇と唇がぶつかる。
今のは……
「!!!キスはダメって言ったでしょ!」
「誓いのキスなら、恋愛じゃないだろ」
「く、口にすることないでしょ!」
うろたえ、顔を赤くする私を見下ろし二口はいつものように笑う。
「結城も俺に誓えよ」
そう言って私の目をのぞき込むように挑発する。ああ、二口の瞳がキレイだ。
「してくれないなら、代わりに俺がするってことで」
目の前で悪い顔で笑う二口を睨みつけるも、透き通った瞳は全く揺るがない。
「はい、さーん、にー、」
「わ、わかったから、もうちょっとかがんで」
カウントをやめて中腰になった二口の前髪を両手でそっとわけると形のいい額が露わになる。
あなたの夢を支えます。
そして、
好きだよ、二口
そう想いを込めて、彼の額に誓いの口づけをした。
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二口堅治×正当化
=非公開両片想い
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ドアを開けると、そこには案の定、部誌を開いたまま机に突っ伏している二口がいる。
私は小さくため息をついて戸口から声をかけた。
「二口、部室のカギ、返しに行きたいんだけど」
二口がゆっくりと顔を上げる。寝ていたわけではないようだ。
「結城」
「ん、どうした?」
呼ばれた私が応えると、彼は静かに立ち上がりこちらへ歩み寄る。二口の体の影で私はすっかり覆われた。
「今、いい?」
「……いーよ」
私は部室の中に入り後ろ手でドアのカギを閉める。
次の瞬間、二口は私の体を抱き寄せた。
◆◇◆
二口と、この関係が始まったのは、春高予選で青葉城西に敗れた日のこと。
二口が主将になって初めての敗北。
『負けたのは悔しいけれど、俺たちはこれからだ』
そう言った二口は、試合後、会場に来ていた3年生を学校の体育館まで連行し、練習という体をとりつつ茂庭さんにからみ、鎌先さんに軽口を叩き散々はしゃいでいた。少々悪乗りしすぎの気もあったけど、新主将として気を張っていた二口がプレッシャーから解放されたように見えて、私はほっとしていた。
「二口……?」
部室の戸締りを私に頼むからてっきり茂庭さんたちと一緒に帰ったと思ってたのに。一人部室で脱力してる二口を見つけて驚いた。
「結城」
ゆっくりと顔を上にあげ、いつものようにへらりと人の悪そうな笑顔を作る。
「俺、まだまだだな」
作り笑顔で何でもないように装う二口に、私は言いようのない苦しさを覚えた。
「なんか、ひさびさに茂庭さんとか来て、最初は嬉しかったけど、……」
二口はそこで息をつき、その先を言わずに下を向いた。
試合に負けたことや先輩と練習したことで今日まで張りつめていた糸が緩んだのだろう。そして、一人になった時その糸が完全に切れてしまった……。
誰にも見られたくなったのかもしれない。私に見られたのも、不本意なのかもしれない。
でも、その場に居合わせてしまったからには、せめて軽くなるようにしてあげたい。私は二口の隣に座り、トントンと肩を叩く。
「大丈夫だよ、二口はがんばってる」
二口は机から下を向いたまま顔を起こし、口元だけゆがめ囁くように言う。
「……愚痴言って、ゴメン」
「そんなの……、いいよ」
「……ゴメン」
二口らしくない言葉をのせる二口の声を妙に近くで聞いた、と思ったらふわっと暖かいものに包まれた。抱き寄せられた、と気づいたのは少し間をおいてから。
その時、私の頭をかすめたのは、入部前に監督に言い渡された『部内恋愛禁止』の言葉。
「二口……」
彼の名を呼んで、彼の腕から逃れようとする。
「もうちょっとだけ……」
と、さらに体をを引き寄せられ、私の頭は二口の肩に押し付けられる。
二口の体の熱や堅さを感じてしまい私はいやがおうにもドキドキしてしまう。彼の腕の力は私に何も言わせてくれない。
違う。違う違う。
これは、恋愛じゃない。
ねぎらい、はげまし、なぐさめ。
そのどれか。
そう自分に言い聞かせて二口の背中に手を回し、あやすように彼の背中を叩いた。
◆◇◆
それから『2人だけになれる』時、二口に抱きしめられるようになった。
別にその先を求められるわけではない。こんなので二口がいつもの二口に戻ってくれるならお安いご用だ。
ただ……。気を張って主将をやっている彼が、私の前だけで見せる弱さにほだされそうになる。
『部内恋愛禁止』
ちょっと前までそんなタブー犯すわけないと思っていたけど、揺らぐ。
力になりたい、支えてあげたい。そう、思っているだけなのに。
二口に抱きしめられるたびに『恋愛じゃない』『好きにはならない』と言い聞かせている私はもう限界かもしれない。
いっそ、体でも求めてくれば、張り倒して彼も私も正気に戻すのに。
◆◇◆
「今日は、どした?」
「…… んーー。青根がさ」
「ん?うん」
ゆるやかに私を抱く二口の腕の中。
青根が二口が沈む原因になるのは珍しい。
「アイツ、ダメなのには何も言わないけれど、いいプレーには吠えるじゃん」
「あー、そうだね」
最初はびっくりしたけれど、あれは彼なりの鼓舞で、部内での士気を高めるいい刺激になっている。
「俺がつべこべ言うよりもアイツのひと吠えの方が影響力あると思ったら、……なんかヘコんだ」
お母さん役はつれぇよなあ、と力なく笑う振動が私の体に伝わる。
冗談めかしているけど、結構キたんだろうな。
でも。
私は二口の背中に手を回し、もう片方の手で彼の頭を撫でる。一瞬びくっと震えた彼がデカいくせに可愛くて、思わず笑ってしまうと「何笑ってんだよ」とにらまれる。
「吹上が、さ」
「ん?」
「二口の後ろにいる時、フォームとか真似してるよ」
「え……?」
二口はいいところいっぱいあるのに、見えなくなっているだけだ。
「今度、振り返ってあげて」
「……わかった」
「あと……」
「どーせ、黄金のことだろ」
「わかってんじゃん」
そりゃね、と肩越しに二口が笑う吐息が私の髪にかかるのがくすぐったい。
「黄金川はさ、素直でめげないから言いやすいよね」
「……」
「だから、下手するといきなりつぶれちゃうかも」
そう言うと、二口は私を抱く腕を緩めて私の両肩に手を置く。
「俺、言い過ぎか?」
不安そうに揺れる瞳。
もう……そんな、追い詰められた顔、しないでよ。
「ううん、そうじゃなくて。たまにさ、目いっぱいほめてやって」
「……」
「絶対、二口に褒められるのが一番うれしいはずだから」
「うん……」
二口が頷いたのを見て、今度は私から彼の体を抱きしめた。二口はしっかりと受け止めてくれる。
「強いジャンサー、決まる様になってきたじゃん」
「あー、怨念こめてるからな」
怨念って、と笑うと二口も軽く笑った。
「練習の成果でしょ。ちゃんと、見てるよ」
「うん……」
「二口はがんばってるよ」
「うん」
「がんばってるから、大丈夫」
回した手で二口の背中を優しく叩くと、ほっと彼が息を吐き出した。
何かを決意したように私を見つめるから、何事かと見つめ返す。
二口は一旦視線を外すと口を開いた。
「…… あの、さ」
「うん、何?」
「がんばってるから、ご褒美ちょーだい」
私を抱きしめる二口の腕に力が入り、くっと引き寄せられる。視線の先、綺麗な形の唇だ、と思った矢先、後頭部に手を添えられ顔を上向きにさせられる。と、二口の顔がゆっくりと近づいてきた。
え、これは……。
私はあわてて、両手で二口の胸を押す。
「二口っ、それは……だめ……」
至近距離の視線から逃げるように顔を逸らし、彼の体を遠ざける。心臓の鼓動が早く大きくなっているのが自分でもわかる。今のままでも結構ギリギリなのに、キスまでされたら……。
恐る恐る、逸らした視線を戻すと、拗ねたように睨み付けられる。そんな顔されても、ダメなものはダメだ。
「キスは……恋愛になっちゃうから……」
私の気持ち的には、これがぎりぎりで、もう、もたない。だからダメ。
「私、部活、やめなきゃいけなくなっちゃう」
こんなの『二口が好き』だと白状したようなもんだ。
……だから二口、いつもみたいに『自意識過剰』とか『俺が好きじゃなければ恋愛じゃないじゃん』と鼻で笑ってよ。そしたら、これは冗談になるから。
「そ、っか……」
それなのに二口は聞き分けよく、遠ざける私の力を受け入れ、距離を置く。そして、手を伸ばし、私の頭を撫でた。
……そんな風に、ちゃんとひいてくれるから。変なトコ真面目だから、あんたは苦しむのに。そんなだから、そういうところがあるから、好きになってしまうのに。他に彼女でも作ってくれればいいのに。そうしたら、割り切れるのに。
「結城」
「なあに」
ぐるぐると考えている最中に名前を呼ばれ、思っていることを悟られないようわざと間延びさせて返事をする。顔を上げると真剣な二口の瞳が私を捕らえる。彼の手が私の頭から頬へ移動する。
「もし、俺以外のヤツが縋ってきたら、同じことすんの?」
いつにない差し迫った声音に胸を衝かれる。そんなの。答えは決まっている。もし青根や小原が主将だったとしても、もちろん支えるけれど、ここまではしない。
「しないよ」
でもこの続きはこう、答えるべきだ。『主将だからだよ』と。
そう、言おうとして、改めて二口を見る。
思いつめたような表情。絡めとられるように握られる手。祈っているような絶望しているような瞳。
……バカ、何て顔をしてるのよ。
「……二口だからだよ」
ごまかすのはもう、あきらめた。
震える声でそう告げた刹那。二口が飛び込むように私の体を抱きしめた。
「 」
耳元で囁かれた言葉を聞こえないふりした。きつく抱きしめられているせいで、二口がどんな顔をしてこれを言ったのか、わからない。
でも、これは仕返しだ。想いを殺せず、本音をこぼしてしまった私への。
「二口」
「……」
答えはない。だから私は勝手に話しかける。
「ずっと、見てるから」
「……」
「全国行ったら、ご褒美なんでもあげるから」
「……」
「そしたら誰にも文句は言わせないから。私がアンタを全国まで導く主将にしてやったって胸張って言うから」
二口は何も言わない。私はその先を続けるために、一度呼吸を置く。
「だから、その時は、止めないし、隠さないけど、それでもいい?」
――二口のことを好きなことを。
ふっと、私を包む腕が緩んで二口の顔が見えた。二口はふっと息を吐くと、一度目を閉じた。その仕草が儚くもキレイだと、見とれてしまった。
「わかった。絶対惚れさせてやる」
目に力が入っている。いつもの皮肉気な笑いを浮かべた二口だ。
もうとっくに惚れてるんだけどな。いつもの二口にほっとした刹那、二口の顔が近づいて――唇と唇がぶつかる。
今のは……
「!!!キスはダメって言ったでしょ!」
「誓いのキスなら、恋愛じゃないだろ」
「く、口にすることないでしょ!」
うろたえ、顔を赤くする私を見下ろし二口はいつものように笑う。
「結城も俺に誓えよ」
そう言って私の目をのぞき込むように挑発する。ああ、二口の瞳がキレイだ。
「してくれないなら、代わりに俺がするってことで」
目の前で悪い顔で笑う二口を睨みつけるも、透き通った瞳は全く揺るがない。
「はい、さーん、にー、」
「わ、わかったから、もうちょっとかがんで」
カウントをやめて中腰になった二口の前髪を両手でそっとわけると形のいい額が露わになる。
あなたの夢を支えます。
そして、
好きだよ、二口
そう想いを込めて、彼の額に誓いの口づけをした。
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二口堅治×正当化
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