青根高伸:正々堂々
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本当に、星って、飛ぶんだ。
「すすすすすすいませんっ!!!結城先輩っ!!」
「おい、大丈夫か?」
「頭、直撃だったぞ」
動けない。目が開けられない。どこかが痛い。
ああ、そうだ。練習試合前の軽いアップ。黄金川にボールが行って、ジャンプトスか、なんて思ってたら。まさかのツーだったんだ。しかも強打の。流れ玉には気を付けていたのに。私の不意をつくとは腕を上げたな黄金川…。あー頭がガンガンする。
「二口!氷!!!」
「アィ!!」
鋭い返事とともにトタタタタと遠ざかっていく足音。凄い。誰だろう。あの主将サマをパシってる。二口も文句を言わずに即返事って、今日先輩来てたっけ?いや、今の声は……
「あ…おね?」
「喋るな」
やっと出せた声はひどく掠れていた。即座に鋭い声で咎められ、口をつぐむ。どうにか目を開くと、最初に見えたのはさかさまの青根の顔だった。
「たぶん、脳震盪を、起こしている」
私の目を見てゆっくりとしゃべる青根をぼーっと見つめる。
「頭は動かすな」
わかった、とうなずきそうになるのを寸前でこらえそのまま目を閉じる。それにしても、試合中にしか聞いたことのない青根の大声。まさか私のために出してくれる日が来るなんて。まいったなー。すごくうれしい。もう思い残すことはないや。わが人生に一片の悔いなし。
「青根!氷。あと、まだ碓井ちゃんいるから頭動かさないように保健室連れてこいって」
「わかった」
二口の声が近づいてくる。さすが主将。戻ってくるの速い。ほどなくして、こめかみにひんやりとした感触。気持ちいい。なんて思ってたら、首の下とひざ下に何か固い丸太のようなものが入った。そして、ふわっと私の体は浮かびあがる。
「あれ?なんか、あおね、ちかくなった」
「動かない」
「はーい」
なんとなく、運ばれているのがわかった。でも自分の状況がわからない。
「わたし、どうなってるの?」
ポツリともらした疑問に、青根がこちらを見る。
「側頭部を打った。腫れている。痕が残ったら大変だ」
淡々とした青根の説明のうち『痕が残る』だけがくっきり頭に入る。
「あとかー、のこっちゃったらこまるなー。もらってくれるひといなくなるじゃん」
「……」
「もし、あとがそのままとれなくなっちゃったら」
「……」
「もらってくれる?」
何言ってるんだろう、私。
だって、これ、青根のせいじゃないのに。
ダメだ、ちゃんと頭がまわってない。
薄く開いた目に、青根のいつもの顔が見える。
目が合うと彼はゆっくりと口を開いた。
「消えても、消えなくても、俺がもらう」
「ほんとう?」
「ああ」
「うれしい……」
それから先の記憶はない。気が付いたら保健室のベッドの上だった。
「………」
「ああ、結城さん、目、覚ましたわね」
白衣の先生がこちらへ向かってくる。
「痛いところは?」
「ないです」
「気絶したわけじゃないのね」
「いえ、違います、運ばれてる時に睡魔に襲われて……」
なんか幸せな夢を見た気がする。保健の碓井先生は私のまぶたをめくったりして「うん、大丈夫そうね」と確認すると、無理はしないこと、急に頭痛がしたら迷わず救急車を呼ぶことなどを私に約束させ、体育館に連絡を入れてくれた。
バレー部の迎えが来るまで待機を言い渡される。長椅子に腰掛けて待っていると、ガラッと保健室の扉が開いた。
「青根!?練習はどうしたの!?」
てっきり滑津が来ると思ったのに、来たのはまさかの青根だった。彼は扉を閉め、きっちり碓井先生に頭を下げると私の手をとる。
「他のヤツには任せられない」
「え?何が?もう大丈夫だよ」
「駄目だ」
「えっ?ええ?」
スッとひざ下に青根の腕が入り、当たり前のようにお姫様抱っこされる。
ナニコレ。
意識朦朧としてたから覚えてないけど、断片的な記憶から、行きもこうして運ばれていたであろうことが導き出され顔が赤くなる。すれ違う人もからかってくれればいいのに、青根の気迫にびっくりしたり目を丸くするだけで何も言ってこない。
「あの、青根くん……青根さん?」
「何だ」
「もう、自分で歩けます」
「駄目だ」
「……」
そのまま体育館に突入していく。恥ずかしい……。そう思っているのは私だけのようで青根は実に堂々としている。
一瞬、練習の空気が止まった。注目を浴びているのはわかる。さすがに監督には怒られる……と、ちらりとそちらを見るとすごい勢いで目を逸らされた。「ほ、ホラホラ!もう一本集中ーっ!」と、とってつけたようにゲキを飛ばす追分監督……。
青根は監督のいるベンチの横に私をそっと座らせる。
「………」
監督のチラ見の視線が痛い。そんなのはものともしないで青根は自分のジャージを私の肩にかけた。
「え……?」
「着てろ」
有無を言わさない口調に、私は自分のジャージの上から彼のジャージを羽織る。さらに彼は大きなタオルを持って来るとそれも私の膝にかけ、私の前に跪く。
そのただならぬ様子に、私は(そして隣の監督も)息を詰めて青根を見つめる。
「俺がもらうまで、どうか無事でいてくれ」
「ええっ?!」
「ゴゥブフッ」
隣で監督が噎せた。もう、盗み聞きしないでよ!
思わず青根とそちらを見ると、威厳を取り戻すかのようにカラの咳払いをする。
「青根、部内恋愛は……」
「俺の片想いです」
「そ、そうか」
青根は監督に深々と頭を下げコートへ戻って行く。ベンチには私と監督が残された。青根に釘を刺せなかった監督はグギギと変な音が鳴りそうな角度で私に目を向ける。「わかってるだろうな」と言いたげな尋常じゃない眼力に、私はコクコクと首を縦に振るしかなかった。
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青根高伸×正々堂々
=公開両片想い
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「すすすすすすいませんっ!!!結城先輩っ!!」
「おい、大丈夫か?」
「頭、直撃だったぞ」
動けない。目が開けられない。どこかが痛い。
ああ、そうだ。練習試合前の軽いアップ。黄金川にボールが行って、ジャンプトスか、なんて思ってたら。まさかのツーだったんだ。しかも強打の。流れ玉には気を付けていたのに。私の不意をつくとは腕を上げたな黄金川…。あー頭がガンガンする。
「二口!氷!!!」
「アィ!!」
鋭い返事とともにトタタタタと遠ざかっていく足音。凄い。誰だろう。あの主将サマをパシってる。二口も文句を言わずに即返事って、今日先輩来てたっけ?いや、今の声は……
「あ…おね?」
「喋るな」
やっと出せた声はひどく掠れていた。即座に鋭い声で咎められ、口をつぐむ。どうにか目を開くと、最初に見えたのはさかさまの青根の顔だった。
「たぶん、脳震盪を、起こしている」
私の目を見てゆっくりとしゃべる青根をぼーっと見つめる。
「頭は動かすな」
わかった、とうなずきそうになるのを寸前でこらえそのまま目を閉じる。それにしても、試合中にしか聞いたことのない青根の大声。まさか私のために出してくれる日が来るなんて。まいったなー。すごくうれしい。もう思い残すことはないや。わが人生に一片の悔いなし。
「青根!氷。あと、まだ碓井ちゃんいるから頭動かさないように保健室連れてこいって」
「わかった」
二口の声が近づいてくる。さすが主将。戻ってくるの速い。ほどなくして、こめかみにひんやりとした感触。気持ちいい。なんて思ってたら、首の下とひざ下に何か固い丸太のようなものが入った。そして、ふわっと私の体は浮かびあがる。
「あれ?なんか、あおね、ちかくなった」
「動かない」
「はーい」
なんとなく、運ばれているのがわかった。でも自分の状況がわからない。
「わたし、どうなってるの?」
ポツリともらした疑問に、青根がこちらを見る。
「側頭部を打った。腫れている。痕が残ったら大変だ」
淡々とした青根の説明のうち『痕が残る』だけがくっきり頭に入る。
「あとかー、のこっちゃったらこまるなー。もらってくれるひといなくなるじゃん」
「……」
「もし、あとがそのままとれなくなっちゃったら」
「……」
「もらってくれる?」
何言ってるんだろう、私。
だって、これ、青根のせいじゃないのに。
ダメだ、ちゃんと頭がまわってない。
薄く開いた目に、青根のいつもの顔が見える。
目が合うと彼はゆっくりと口を開いた。
「消えても、消えなくても、俺がもらう」
「ほんとう?」
「ああ」
「うれしい……」
それから先の記憶はない。気が付いたら保健室のベッドの上だった。
「………」
「ああ、結城さん、目、覚ましたわね」
白衣の先生がこちらへ向かってくる。
「痛いところは?」
「ないです」
「気絶したわけじゃないのね」
「いえ、違います、運ばれてる時に睡魔に襲われて……」
なんか幸せな夢を見た気がする。保健の碓井先生は私のまぶたをめくったりして「うん、大丈夫そうね」と確認すると、無理はしないこと、急に頭痛がしたら迷わず救急車を呼ぶことなどを私に約束させ、体育館に連絡を入れてくれた。
バレー部の迎えが来るまで待機を言い渡される。長椅子に腰掛けて待っていると、ガラッと保健室の扉が開いた。
「青根!?練習はどうしたの!?」
てっきり滑津が来ると思ったのに、来たのはまさかの青根だった。彼は扉を閉め、きっちり碓井先生に頭を下げると私の手をとる。
「他のヤツには任せられない」
「え?何が?もう大丈夫だよ」
「駄目だ」
「えっ?ええ?」
スッとひざ下に青根の腕が入り、当たり前のようにお姫様抱っこされる。
ナニコレ。
意識朦朧としてたから覚えてないけど、断片的な記憶から、行きもこうして運ばれていたであろうことが導き出され顔が赤くなる。すれ違う人もからかってくれればいいのに、青根の気迫にびっくりしたり目を丸くするだけで何も言ってこない。
「あの、青根くん……青根さん?」
「何だ」
「もう、自分で歩けます」
「駄目だ」
「……」
そのまま体育館に突入していく。恥ずかしい……。そう思っているのは私だけのようで青根は実に堂々としている。
一瞬、練習の空気が止まった。注目を浴びているのはわかる。さすがに監督には怒られる……と、ちらりとそちらを見るとすごい勢いで目を逸らされた。「ほ、ホラホラ!もう一本集中ーっ!」と、とってつけたようにゲキを飛ばす追分監督……。
青根は監督のいるベンチの横に私をそっと座らせる。
「………」
監督のチラ見の視線が痛い。そんなのはものともしないで青根は自分のジャージを私の肩にかけた。
「え……?」
「着てろ」
有無を言わさない口調に、私は自分のジャージの上から彼のジャージを羽織る。さらに彼は大きなタオルを持って来るとそれも私の膝にかけ、私の前に跪く。
そのただならぬ様子に、私は(そして隣の監督も)息を詰めて青根を見つめる。
「俺がもらうまで、どうか無事でいてくれ」
「ええっ?!」
「ゴゥブフッ」
隣で監督が噎せた。もう、盗み聞きしないでよ!
思わず青根とそちらを見ると、威厳を取り戻すかのようにカラの咳払いをする。
「青根、部内恋愛は……」
「俺の片想いです」
「そ、そうか」
青根は監督に深々と頭を下げコートへ戻って行く。ベンチには私と監督が残された。青根に釘を刺せなかった監督はグギギと変な音が鳴りそうな角度で私に目を向ける。「わかってるだろうな」と言いたげな尋常じゃない眼力に、私はコクコクと首を縦に振るしかなかった。
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青根高伸×正々堂々
=公開両片想い
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