6 Fool For You
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目が合わない
ずっと疑っていることがある。
友紀はキスに集中していない。
いや、いつも最初はちゃんと俺の事を見ているし、俺の事を考えていてくれてるはず。
だからそこで終わらせてしまえばいいんだけど。
でも、しているうちに欲が出てくる。
キスから先はお預けくらってるんだから、キスでやれることは全部しときたい。
俺、今ならサクランボのヘタ舌だけで余裕で結べると思う。
だから友紀も一緒に没頭して欲しいと思うけれど、長く深くなればなるほど、彼女の意識は俺から逸れていっている気がする。
今も、ほら。
唇を放した一瞬に見せる顔。
視線は合わさねぇし、腕の中の身体は僅かに強張っていて、俺に気を許していない感じがする。
「友紀」
彼女の逸れた視線と意識が俺に向き「なに?」と言うようにゆっくりとまばたきする。
……誘われるように、もう一度キスしてしまうのは俺の悪い癖だ。
「何か、別のこと、考えてる」
疑問形ではなく断言する。
彼女の瞳が動揺するように揺れたあと、それを隠すように彼女は微笑んだ。
「……そんなふうに、見える?」
上目遣いに俺を見て平然としらを切ってくる友紀に少しイラついて、両手で頬を挟んで視界に俺しか入らないようにする。
「俺以外のこと、考えないで」
彼女は不意を突かれたように目をまるくし、ふっと柔らかく笑った。
「考えちゃダメなの?」
「ダメ」
俺の即答に「難しいな……」と目を逸らして苦笑する友紀に、何で難しいんだよと心の中で毒づきながら唇をふさぐ。
唇を離して友紀が瞼を開いた時、やっぱり俺と目が合わなかった。困ったように視線を左下にさまよわせる。
「ほら、それだよ。今、何考えた?」
そう指摘してやると慌てたように俺に視線を向ける。今さら何だよ、って顔をしてるだろう俺を見て観念したように眉を下げて言った。
「どうしよう……って思ってる」
「……は? 何に?」
思わず声に棘が混じってしまう。
彼女はぴくっと怯える様に肩をすくめると、俺から離れるように身を引くので、俺も仕方なく彼女に回した腕を緩めた。
「……堅治くんが好き、って気持ちと、このまま……にしてたら、どうなるんだろう、って……」
彼女はそこまで言うと一度言葉を切った。
彼女に『好き』と言われると、未だに心臓が痛くなる。もう慣れてもいい頃なのに不意打ちのようにくるから、毎回やられる。
いや、そこじゃねぇ。今の場合彼女が濁した部分が重要だ。……『俺に導かれるままに流されたら』ってことか。
「まだ、ちょっと葛藤してる」
そう言って上目遣いではにかむ友紀。
「本当に『ちょっと』かよ」
「正確に言うなら『すごく』かな」
はぁ? と声には出さず睨みながら顔を近づけると、彼女は素直に瞳を閉じた。
……こんなに明け透けに誘うくせに?
キスすると見せかけて軽く頭突きをしてやる。友紀は「痛い……」と顔をしかめて笑うと、
「あ、でも」
と思い出したような声を上げる。
「ん?」
「抱きしめられた時は、堅治くんのことだけ、考えてる」
そう言いながら俺の胸に頬を押し付けてくる。悪魔かよ。
言いなりになっているようで癪だけど、仕方ないから腕に力を込めてぎゅうと抱きしめてやった。確かに、彼女の身体からさっきまで感じた強張りは解けている気がする。
「……何が違うんだよ」
「ふふ、なんだろうね」
そう言って笑う友紀にちょっとムカついてきた。俺はどちらかといえば『人を振り回す側の人間』だと思っていたけど、ホント友紀相手だと調子狂う。
どんなツラして笑ってやがるんだ、さぞかし憎たらしいツラしてるんだろうなと思いながら、腕を解いて彼女の身体を離す。
悪態の一つでもついてやろうと思っていたのに、目に入った彼女の横顔を見て言葉を飲み込むしかなかった。
友紀は泣きそうな思いつめたような顔をしていた。
俺の視線に気づいた友紀はとりつくろうように口角を上げ、顔を隠すように自分から俺の身体に抱きついてくる。
なんだよ、その顔は。
いつも甘えないクセに、俺に甘えてるフリまでして、今、何か隠しただろ?
心の中の怯えを隠すように彼女の身体を抱きしめる。されるがままの彼女にホッとするけども、いつ腕の中からすり抜けて行くんじゃないかと警戒が緩められない。
長い沈黙の後、ささやくように俺の名前が呼ばれた気がした。
「……ん?」
「……私、あれから、考えたんだけど」
「何を?」
「私もいい加減、覚悟を決めよう、と思って」
「……」
あれ、とは意識的に避けていた出来事。俺が強引に迫って友紀を泣かせたこと。あれからしばらくは二人きりになるのは避けようと思っていた。それなのに、今日家に誘って来たのは友紀だった。
それより『覚悟』って何だよ。
まさか。この状態から別れを告げられるなんてこと、ねぇよな?
「……堅治くんが全国行きを決めるか」
「は……?」
「それか、私と、堅治くんが、ちゃんと卒業後の進路を決めたら」
「……」
突然出された条件に何が返ってくるのか。俺が沈黙を守っていると、彼女は決意を固めたように真っ直ぐに俺を見つめた。
「そうしたら、最後まで……」
……最後までって、何?
いつもは半笑いでそれぐらい言って、言質とってやろうって即座に思いついてやるのに。
俺は黙ってしまったけど、友紀もそこから一言も発しない。
ここでしっかり『最後』の意味を言葉にさせておかないと、後で肩透かしを食らわせられるかもしれない。
でも、甘いかもしれないけど、今の友紀は俺と同じことを考えている、と思う。
じゃあ、俺が聞くべきは正気かどうかだ。
「マジで言ってんの?」
「……うん」
「インハイって、夏前には決まるぞ?」
「うん。わかってるし、……信じてる」
「……」
「堅治くんが懸けているものなら、私もそれに賭けてみる」
引き延ばそうと思えばできる。けど、友紀はそれを、しなかった。
……俺だって「全国行ったら友紀をもらう」ぐらいのこと考えてたけど。
俺の個人的な目標達成の褒美を彼女にするのはどうかと思ったから言わなかった、のに。
友紀はそれを使った。
ったく、バカじゃねぇの……。
「それって、友紀にとって、罰ゲームなの? ご褒美なの?」
口の端が上がってしまうのを止められなかった。
俺が意地の悪さが見えたのか友紀は少し怒ったような顔をした。
「罰ゲームだと思ってたら、こんなにゆるくしない」
「えっ……」
思わぬカウンターを食らい、アホみたいな顔をして友紀を見つめてしまった。友紀は最初は俺を睨んでいたけれど、徐々に気まずそうに目を逸らしていった。
……って、ことは?
俺は口端が上がっていくのをなんとかこらえて、精一杯の虚勢を張る。
「へ、へー。ご褒美でって認識でいいんだー」
「……」
どもってんじゃねぇよ。俺のバカ。ああ、もう、かっこつかねぇ。
「……その後ろのヤツ、いらねーわ」
「え?」
「保険かけられてるみたいでムカつく」
「……」
「でも、そのお陰で友紀が本気で言ってくれてるのもわかったから、正直、嬉しい」
やけっぱちになって本音を漏らすと友紀の顔がさっと赤くなる。みるみるうちに耳まで赤く染まっていく。
やっぱり。ちょっとは無理してるんだろうな。
でも、俺はこの機を逃す気はない。
「インハイで、全国行けなかったら、卒業してからでいいよ。その代わり」
俺たちのほかに誰もいないのに内緒話をするように腰をかがめて言葉を選ぶ。
そして、友紀の赤い耳に、友紀だけに届くように、鋭く囁いた。
「優勝したら、抱くから」
友紀の身体がかすかに震える。
上から視線を落として友紀を見つめるけど、彼女はやっぱり顔を隠すように俺の胸に頭を押し付ける。
背中に回った友紀の手がぎゅっと俺の服を掴んでいた。
ずっと疑っていることがある。
友紀はキスに集中していない。
いや、いつも最初はちゃんと俺の事を見ているし、俺の事を考えていてくれてるはず。
だからそこで終わらせてしまえばいいんだけど。
でも、しているうちに欲が出てくる。
キスから先はお預けくらってるんだから、キスでやれることは全部しときたい。
俺、今ならサクランボのヘタ舌だけで余裕で結べると思う。
だから友紀も一緒に没頭して欲しいと思うけれど、長く深くなればなるほど、彼女の意識は俺から逸れていっている気がする。
今も、ほら。
唇を放した一瞬に見せる顔。
視線は合わさねぇし、腕の中の身体は僅かに強張っていて、俺に気を許していない感じがする。
「友紀」
彼女の逸れた視線と意識が俺に向き「なに?」と言うようにゆっくりとまばたきする。
……誘われるように、もう一度キスしてしまうのは俺の悪い癖だ。
「何か、別のこと、考えてる」
疑問形ではなく断言する。
彼女の瞳が動揺するように揺れたあと、それを隠すように彼女は微笑んだ。
「……そんなふうに、見える?」
上目遣いに俺を見て平然としらを切ってくる友紀に少しイラついて、両手で頬を挟んで視界に俺しか入らないようにする。
「俺以外のこと、考えないで」
彼女は不意を突かれたように目をまるくし、ふっと柔らかく笑った。
「考えちゃダメなの?」
「ダメ」
俺の即答に「難しいな……」と目を逸らして苦笑する友紀に、何で難しいんだよと心の中で毒づきながら唇をふさぐ。
唇を離して友紀が瞼を開いた時、やっぱり俺と目が合わなかった。困ったように視線を左下にさまよわせる。
「ほら、それだよ。今、何考えた?」
そう指摘してやると慌てたように俺に視線を向ける。今さら何だよ、って顔をしてるだろう俺を見て観念したように眉を下げて言った。
「どうしよう……って思ってる」
「……は? 何に?」
思わず声に棘が混じってしまう。
彼女はぴくっと怯える様に肩をすくめると、俺から離れるように身を引くので、俺も仕方なく彼女に回した腕を緩めた。
「……堅治くんが好き、って気持ちと、このまま……にしてたら、どうなるんだろう、って……」
彼女はそこまで言うと一度言葉を切った。
彼女に『好き』と言われると、未だに心臓が痛くなる。もう慣れてもいい頃なのに不意打ちのようにくるから、毎回やられる。
いや、そこじゃねぇ。今の場合彼女が濁した部分が重要だ。……『俺に導かれるままに流されたら』ってことか。
「まだ、ちょっと葛藤してる」
そう言って上目遣いではにかむ友紀。
「本当に『ちょっと』かよ」
「正確に言うなら『すごく』かな」
はぁ? と声には出さず睨みながら顔を近づけると、彼女は素直に瞳を閉じた。
……こんなに明け透けに誘うくせに?
キスすると見せかけて軽く頭突きをしてやる。友紀は「痛い……」と顔をしかめて笑うと、
「あ、でも」
と思い出したような声を上げる。
「ん?」
「抱きしめられた時は、堅治くんのことだけ、考えてる」
そう言いながら俺の胸に頬を押し付けてくる。悪魔かよ。
言いなりになっているようで癪だけど、仕方ないから腕に力を込めてぎゅうと抱きしめてやった。確かに、彼女の身体からさっきまで感じた強張りは解けている気がする。
「……何が違うんだよ」
「ふふ、なんだろうね」
そう言って笑う友紀にちょっとムカついてきた。俺はどちらかといえば『人を振り回す側の人間』だと思っていたけど、ホント友紀相手だと調子狂う。
どんなツラして笑ってやがるんだ、さぞかし憎たらしいツラしてるんだろうなと思いながら、腕を解いて彼女の身体を離す。
悪態の一つでもついてやろうと思っていたのに、目に入った彼女の横顔を見て言葉を飲み込むしかなかった。
友紀は泣きそうな思いつめたような顔をしていた。
俺の視線に気づいた友紀はとりつくろうように口角を上げ、顔を隠すように自分から俺の身体に抱きついてくる。
なんだよ、その顔は。
いつも甘えないクセに、俺に甘えてるフリまでして、今、何か隠しただろ?
心の中の怯えを隠すように彼女の身体を抱きしめる。されるがままの彼女にホッとするけども、いつ腕の中からすり抜けて行くんじゃないかと警戒が緩められない。
長い沈黙の後、ささやくように俺の名前が呼ばれた気がした。
「……ん?」
「……私、あれから、考えたんだけど」
「何を?」
「私もいい加減、覚悟を決めよう、と思って」
「……」
あれ、とは意識的に避けていた出来事。俺が強引に迫って友紀を泣かせたこと。あれからしばらくは二人きりになるのは避けようと思っていた。それなのに、今日家に誘って来たのは友紀だった。
それより『覚悟』って何だよ。
まさか。この状態から別れを告げられるなんてこと、ねぇよな?
「……堅治くんが全国行きを決めるか」
「は……?」
「それか、私と、堅治くんが、ちゃんと卒業後の進路を決めたら」
「……」
突然出された条件に何が返ってくるのか。俺が沈黙を守っていると、彼女は決意を固めたように真っ直ぐに俺を見つめた。
「そうしたら、最後まで……」
……最後までって、何?
いつもは半笑いでそれぐらい言って、言質とってやろうって即座に思いついてやるのに。
俺は黙ってしまったけど、友紀もそこから一言も発しない。
ここでしっかり『最後』の意味を言葉にさせておかないと、後で肩透かしを食らわせられるかもしれない。
でも、甘いかもしれないけど、今の友紀は俺と同じことを考えている、と思う。
じゃあ、俺が聞くべきは正気かどうかだ。
「マジで言ってんの?」
「……うん」
「インハイって、夏前には決まるぞ?」
「うん。わかってるし、……信じてる」
「……」
「堅治くんが懸けているものなら、私もそれに賭けてみる」
引き延ばそうと思えばできる。けど、友紀はそれを、しなかった。
……俺だって「全国行ったら友紀をもらう」ぐらいのこと考えてたけど。
俺の個人的な目標達成の褒美を彼女にするのはどうかと思ったから言わなかった、のに。
友紀はそれを使った。
ったく、バカじゃねぇの……。
「それって、友紀にとって、罰ゲームなの? ご褒美なの?」
口の端が上がってしまうのを止められなかった。
俺が意地の悪さが見えたのか友紀は少し怒ったような顔をした。
「罰ゲームだと思ってたら、こんなにゆるくしない」
「えっ……」
思わぬカウンターを食らい、アホみたいな顔をして友紀を見つめてしまった。友紀は最初は俺を睨んでいたけれど、徐々に気まずそうに目を逸らしていった。
……って、ことは?
俺は口端が上がっていくのをなんとかこらえて、精一杯の虚勢を張る。
「へ、へー。ご褒美でって認識でいいんだー」
「……」
どもってんじゃねぇよ。俺のバカ。ああ、もう、かっこつかねぇ。
「……その後ろのヤツ、いらねーわ」
「え?」
「保険かけられてるみたいでムカつく」
「……」
「でも、そのお陰で友紀が本気で言ってくれてるのもわかったから、正直、嬉しい」
やけっぱちになって本音を漏らすと友紀の顔がさっと赤くなる。みるみるうちに耳まで赤く染まっていく。
やっぱり。ちょっとは無理してるんだろうな。
でも、俺はこの機を逃す気はない。
「インハイで、全国行けなかったら、卒業してからでいいよ。その代わり」
俺たちのほかに誰もいないのに内緒話をするように腰をかがめて言葉を選ぶ。
そして、友紀の赤い耳に、友紀だけに届くように、鋭く囁いた。
「優勝したら、抱くから」
友紀の身体がかすかに震える。
上から視線を落として友紀を見つめるけど、彼女はやっぱり顔を隠すように俺の胸に頭を押し付ける。
背中に回った友紀の手がぎゅっと俺の服を掴んでいた。