6 モクヒョウソウシツ
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目標喪失
※モブ(ライバル)の女の子視点です
珍しく二口がすぐに教室を出ずにいる。
「あれ? 部活行かないの?」
「今日はオフ。結城待ってる」
机に腰をひっかけた姿勢でスマホをいじっていた二口は、首だけこっちに向けて教室の外を指さす。
「ふーん……」
いきなりのろけられた気がする。油断もスキもありゃしない。再び視線をスマホに落とした二口の態度が面白くなくて、私は探りを入れてみる。
「最近どうなの」
「どうって?」
「彼女。前、自信なくなったって言ってたじゃない。あれからどうしたの?」
心配しているフリ。
二口はようやく机にスマホを置くと、何かを思い出すように穏やかに微笑んだ。
「ああ、もう大丈夫。ちゃんと清い交際してますよ」
「清いってナニソレ」
そう鼻で笑って茶化す私にも何も言い返さない。前のすぐムキになるようなトゲトゲしさがなくなった気がする。
何か進展したんだ……。
恋愛におけるいくつかの進展のパターンが思い浮かぶ。けど、その内容をこの二人で想像するのは嫌だった。
「なんか不満とかないのー?」
頭の中のイヤな想像を追い払うように口走った言葉は自分でも醜いと思う。
何で私はこんなことしか言えないんだろう。もし順調ならこんなこと聞いても私が傷つくだけ。他の話題にした方がいい。
でも……。
私、知りたいんだ。二口がどんな恋愛するのか。
そんな私の思いを知る由もない二口は視線を左上に向ける。
「んー。別にねぇけどなー」
「いや、あるでしょ。なんか。愛情のパワーバランスとかさー」
女子同士の恋バナのように明るい口調で言ってみたけど。あー。やな感じ。二人の仲のほころびを意地でも探そうとしてる。
二口は一瞬笑うと、宙を睨みつけ答えを探しているようだった。
「そうだなー。やきもちとかは妬きそうにねーな。俺は年中妬いてんのに」
「……ふーん。男の嫉妬、ヤバそ」
二口、嫉妬とかするんだ……。
軽く流したように見せかけたけど、内心滅茶苦茶ショックだった。
「あとは、もうちょっと頼ったり甘えてくれるといいんだけどな」
嬉しそうな寂しそうな、どちらともとれる穏やかな顔で彼は静かに笑う。
「俺、頼りがい、あんまねぇのかな」
目の前にいるのに私には言っていない。私じゃない誰かへの想いにあふれた言葉だった。
胸にひやっと空気が入った気がしてこらえるように唇を噛む。私だったら絶対そんな思いはさせないのに。……だけど。私は二口のこんな声も表情も引き出せない気がする。
……もう勝ち目なしなのは、わかってる。だから。あきらめる前に。最後に爪痕を、私の痕跡だけは残したい。
「二口が彼氏だったら甘えてみたかったな」
「は? ……お前、何言って、」
私が呟いた言葉に二口が反応する。
なんだ。ちゃんと私と話してる認識はあったんだ。
じゃあ私の言うことも聞いてよ。
「私も、二口の事好きだったんだから」
「……」
「中学の頃から」
「…………」
嫌悪や困惑がにじみ出た二口の顔は見たくない。だから私はわざと彼に背を向けた。
何て返されるんだろう? ……どうせ『バーカ』とかでしょ?
覚悟はしているけれど沈黙が怖い。
二口が息を吸い込む気配がして、私は思わず身構える。
「ありがとう」
聞こえたのは予想外の言葉だった。
こんな時、こんな言葉をかけてくるヤツだったっけ? 私の知ってる二口と違う。軽口でも罵倒でも、何を言われても大丈夫なように身構えてたのに。
……彼女と付き合って変わったの?
思わず振り返って二口の顔を見てしまった。二口は困ったように眉を下げ、私と目が合うと机から立ち上がりゆがめた口を開いた。
「悪いけどお前とは付き合えない。理由はわかるよな?」
すまなそうに。それでも思いっきりストレートにフラれた。
いつものようにもっとキツイ言葉で煽って、いっそ嫌いにならせてくれればいいのに。理由を言わないでいてくれるのは優しさじゃない。かえって残酷だ。ずるいと思う。
……それなら私もずるいことをしていいかな。
「じゃあ、さ」
一度だけでいい。恋人っぽいことをしてみたかった。二口とHする妄想ぐらいしたことある。でも、さすがにそれは言えない。キモいと思われるのだけはイヤだ。
急に気がついた。私の弱さはそこだ。敗けた原因は……勝負できなかったことだ。『一番仲のいい女友達』の立場を失うのが怖くて彼に告白することができなかった。あの子よりも先に二口と知り合っていたのに。先に二口の事を好きになっていたのに。
結局、二口に彼女ができてから、当てつけのように告白する私は、バカだ。
……これは次の恋愛の教訓にしよう。
それならこれが今できる私の精いっぱいだ。友達の線を崩さず、自分の願いをかなえられるかもしれない最適解。
「一度でいいから、抱きしめてよ」
彼の顔は見ないようにして近づく。私の身長なら近づけば近づくほど二口の顔が視界に入らないのは好都合だった。少しでも嫌そうな顔をされたら進めない。
長い沈黙の後、下を向いた私の視界に二口の上履きが入って来たと思ったら、
驚くほど優しく、二口に抱きしめられた。
放課後の教室。前後のドアは開け放たれている。今は人の気配がしないけど、誰かに見られてもおかしくない状況。
彼の腕は私の背中に回ってるけど、彼の手のひらは決して私の身体に触れない。
もっと幸せな気分になるんだと思ってたのに……。二口にそういう気持ちがないんだ、と思い知らされてる実感がつらい。
だから、一言だけ。
「こんなところ。結城さんに見られたら、さすがに怒られるんじゃないの?」
「さあ、どーだろーなー」
チクリと刺してみたけど、二口は飄々とした変わらない口調で言う。
彼の温もりは離れがたいけれど、これが決して私のものにはならないのはわかった。
……もう、いい。
「あーあ。こんなことだったら二口を追って機械科なんか来るんじゃなかった!」
言いながら二口の腕を断ち切るように抜け出した所で人の気配を感じる。
教室の戸口に結城さんが立っていた。信じられない、って顔してる。
彼女が来るのはわかっていたし。ま、見られてもいいかなとは思ってたけど。そういえば……。私も資料室で二口と結城さんが抱き合ってるの見たことあるよ。お互い様だね。ったく、フタクチの節操なし。
そういえば、さっき二口は『彼女が妬いてくれない』って言っていたけどどうだろうな。私、この子に殴られるのかな?
もしそうだとしたら……ちょっとはスカッとするのかも。
「立花さん」
青い顔をした結城さんはこちらに来ると二口そっちのけで私の腕を掴んだ。
『女の嫉妬は、男が悪かろうが女の方に向かう』って先人の言葉がまさに今の状況に当てはまろうとすることに感動する。
「今の話、本当?」
そうだよね。やっぱり、そう来るよね。
「二口の事が好きだってこと? それはそうよ。アンタなんかより前から……」
「違う、そっちじゃない」
間髪入れずに返す彼女の手に力が入って私はびっくりする。
「二口くんを追って機械科に来たってこと」
「は?」
そこ?
「答えて!」
「そうだけど……」
予想外の言葉にやっと返すと、彼女が私の手を引っ張る。
「立花さん、今なら、まだ間に合う、職員室行くよ!」
「え? 何? 何で?」
引きずられるように彼女に手を引かれてわけがわからない。
二口は「行ってらっしゃーい」と彼女を止めるでもなく、笑顔で私たちに手を振って送り出した。
※モブ(ライバル)の女の子視点です
珍しく二口がすぐに教室を出ずにいる。
「あれ? 部活行かないの?」
「今日はオフ。結城待ってる」
机に腰をひっかけた姿勢でスマホをいじっていた二口は、首だけこっちに向けて教室の外を指さす。
「ふーん……」
いきなりのろけられた気がする。油断もスキもありゃしない。再び視線をスマホに落とした二口の態度が面白くなくて、私は探りを入れてみる。
「最近どうなの」
「どうって?」
「彼女。前、自信なくなったって言ってたじゃない。あれからどうしたの?」
心配しているフリ。
二口はようやく机にスマホを置くと、何かを思い出すように穏やかに微笑んだ。
「ああ、もう大丈夫。ちゃんと清い交際してますよ」
「清いってナニソレ」
そう鼻で笑って茶化す私にも何も言い返さない。前のすぐムキになるようなトゲトゲしさがなくなった気がする。
何か進展したんだ……。
恋愛におけるいくつかの進展のパターンが思い浮かぶ。けど、その内容をこの二人で想像するのは嫌だった。
「なんか不満とかないのー?」
頭の中のイヤな想像を追い払うように口走った言葉は自分でも醜いと思う。
何で私はこんなことしか言えないんだろう。もし順調ならこんなこと聞いても私が傷つくだけ。他の話題にした方がいい。
でも……。
私、知りたいんだ。二口がどんな恋愛するのか。
そんな私の思いを知る由もない二口は視線を左上に向ける。
「んー。別にねぇけどなー」
「いや、あるでしょ。なんか。愛情のパワーバランスとかさー」
女子同士の恋バナのように明るい口調で言ってみたけど。あー。やな感じ。二人の仲のほころびを意地でも探そうとしてる。
二口は一瞬笑うと、宙を睨みつけ答えを探しているようだった。
「そうだなー。やきもちとかは妬きそうにねーな。俺は年中妬いてんのに」
「……ふーん。男の嫉妬、ヤバそ」
二口、嫉妬とかするんだ……。
軽く流したように見せかけたけど、内心滅茶苦茶ショックだった。
「あとは、もうちょっと頼ったり甘えてくれるといいんだけどな」
嬉しそうな寂しそうな、どちらともとれる穏やかな顔で彼は静かに笑う。
「俺、頼りがい、あんまねぇのかな」
目の前にいるのに私には言っていない。私じゃない誰かへの想いにあふれた言葉だった。
胸にひやっと空気が入った気がしてこらえるように唇を噛む。私だったら絶対そんな思いはさせないのに。……だけど。私は二口のこんな声も表情も引き出せない気がする。
……もう勝ち目なしなのは、わかってる。だから。あきらめる前に。最後に爪痕を、私の痕跡だけは残したい。
「二口が彼氏だったら甘えてみたかったな」
「は? ……お前、何言って、」
私が呟いた言葉に二口が反応する。
なんだ。ちゃんと私と話してる認識はあったんだ。
じゃあ私の言うことも聞いてよ。
「私も、二口の事好きだったんだから」
「……」
「中学の頃から」
「…………」
嫌悪や困惑がにじみ出た二口の顔は見たくない。だから私はわざと彼に背を向けた。
何て返されるんだろう? ……どうせ『バーカ』とかでしょ?
覚悟はしているけれど沈黙が怖い。
二口が息を吸い込む気配がして、私は思わず身構える。
「ありがとう」
聞こえたのは予想外の言葉だった。
こんな時、こんな言葉をかけてくるヤツだったっけ? 私の知ってる二口と違う。軽口でも罵倒でも、何を言われても大丈夫なように身構えてたのに。
……彼女と付き合って変わったの?
思わず振り返って二口の顔を見てしまった。二口は困ったように眉を下げ、私と目が合うと机から立ち上がりゆがめた口を開いた。
「悪いけどお前とは付き合えない。理由はわかるよな?」
すまなそうに。それでも思いっきりストレートにフラれた。
いつものようにもっとキツイ言葉で煽って、いっそ嫌いにならせてくれればいいのに。理由を言わないでいてくれるのは優しさじゃない。かえって残酷だ。ずるいと思う。
……それなら私もずるいことをしていいかな。
「じゃあ、さ」
一度だけでいい。恋人っぽいことをしてみたかった。二口とHする妄想ぐらいしたことある。でも、さすがにそれは言えない。キモいと思われるのだけはイヤだ。
急に気がついた。私の弱さはそこだ。敗けた原因は……勝負できなかったことだ。『一番仲のいい女友達』の立場を失うのが怖くて彼に告白することができなかった。あの子よりも先に二口と知り合っていたのに。先に二口の事を好きになっていたのに。
結局、二口に彼女ができてから、当てつけのように告白する私は、バカだ。
……これは次の恋愛の教訓にしよう。
それならこれが今できる私の精いっぱいだ。友達の線を崩さず、自分の願いをかなえられるかもしれない最適解。
「一度でいいから、抱きしめてよ」
彼の顔は見ないようにして近づく。私の身長なら近づけば近づくほど二口の顔が視界に入らないのは好都合だった。少しでも嫌そうな顔をされたら進めない。
長い沈黙の後、下を向いた私の視界に二口の上履きが入って来たと思ったら、
驚くほど優しく、二口に抱きしめられた。
放課後の教室。前後のドアは開け放たれている。今は人の気配がしないけど、誰かに見られてもおかしくない状況。
彼の腕は私の背中に回ってるけど、彼の手のひらは決して私の身体に触れない。
もっと幸せな気分になるんだと思ってたのに……。二口にそういう気持ちがないんだ、と思い知らされてる実感がつらい。
だから、一言だけ。
「こんなところ。結城さんに見られたら、さすがに怒られるんじゃないの?」
「さあ、どーだろーなー」
チクリと刺してみたけど、二口は飄々とした変わらない口調で言う。
彼の温もりは離れがたいけれど、これが決して私のものにはならないのはわかった。
……もう、いい。
「あーあ。こんなことだったら二口を追って機械科なんか来るんじゃなかった!」
言いながら二口の腕を断ち切るように抜け出した所で人の気配を感じる。
教室の戸口に結城さんが立っていた。信じられない、って顔してる。
彼女が来るのはわかっていたし。ま、見られてもいいかなとは思ってたけど。そういえば……。私も資料室で二口と結城さんが抱き合ってるの見たことあるよ。お互い様だね。ったく、フタクチの節操なし。
そういえば、さっき二口は『彼女が妬いてくれない』って言っていたけどどうだろうな。私、この子に殴られるのかな?
もしそうだとしたら……ちょっとはスカッとするのかも。
「立花さん」
青い顔をした結城さんはこちらに来ると二口そっちのけで私の腕を掴んだ。
『女の嫉妬は、男が悪かろうが女の方に向かう』って先人の言葉がまさに今の状況に当てはまろうとすることに感動する。
「今の話、本当?」
そうだよね。やっぱり、そう来るよね。
「二口の事が好きだってこと? それはそうよ。アンタなんかより前から……」
「違う、そっちじゃない」
間髪入れずに返す彼女の手に力が入って私はびっくりする。
「二口くんを追って機械科に来たってこと」
「は?」
そこ?
「答えて!」
「そうだけど……」
予想外の言葉にやっと返すと、彼女が私の手を引っ張る。
「立花さん、今なら、まだ間に合う、職員室行くよ!」
「え? 何? 何で?」
引きずられるように彼女に手を引かれてわけがわからない。
二口は「行ってらっしゃーい」と彼女を止めるでもなく、笑顔で私たちに手を振って送り出した。