4 Can't Take My Eyes Off You
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Can't Take My Eyes Off You
「二口くん……。私、帰るけど、どうしたの」
「何だよー、部活前にかわいい彼女の顔見に来ちゃいけねぇのかよ」
ニコニコと二口くんは私の前の席に後ろ向きに座る。
「そんなことは言わないけど……」
「じゃあ、いーじゃん。地獄に行く前にちょっと」
「地獄って……。どんな顔すればいいの?」
「そのままでいーよ」
椅子の背もたれを抱えた二口くんは口を横に引いた笑顔で私を見るけど、私は上手く笑えなかった。立花さんに言われた『二口が不安そう』という言葉が頭をよぎる。
好意をためらわずにストレートに出してくる彼にはいつもドキッとさせられる。嫌なわけじゃない。嬉しいのは本当だから、二人っきりの時にしてくれるのなら私もこたえられると思うんだけど……。
と、無意識に自分の考えたことにドキリとする。……こたえるって私、二口くんと何をしたいの?
「二口、いた! 監督から伝言。今日急遽部活休みだって」
急に飛んできた声にビックリした。戸口から隣のクラスの小原くんが顔をのぞかせている。見つめ合っている(ように見える)私たちを見て、小原くんは「邪魔したかな?」と首をすくめるので、私は『大丈夫』という意味を込めて首を振る。
二口くんは不満を隠さない表情で口をとがらせた。
「えー! なんでだよ」
「バスケ部が練習試合でウチの体育館使うの忘れてたらしいんだよ」
「はーー? まじかー」
「振り替えは来週らしい。青根にも伝えといて!」
「りょーかい。一年は?」
「作並がまわしてる!」
「あとは女川か」と言いながら小原くんは去って行った。今日、二口くん部活お休み? それなら……
「あの、二口くん。今日一緒に帰れますか?」
「帰れるけど……。何だよ。急に改まって?」
「うん。別に、たいしたことじゃないんだけど……」
「いや、その言い方、気になるだろ」
さらっと言おうと思ったのに妙に不自然になってしまった。でも周りにまだクラスメイトが残っている。後で二口くんだけに聞いてほしいから、要件のみ伝える。
「謝らなきゃいけないことと……言わなくちゃいけないことがある」
「……。わかった」
二口くんは私から目を逸らして席を立つ。
「青根に部活のコト伝えてくるから、待ってて」
それだけ言って二口くんは教室を出て行った。
その時、私は自分の思いつきに精いっぱいで、彼の心に浮かんだ勘違いに気づいてなかった。
◆◇◆
私は二口くんに話すことを頭の中で整理していた。上手く伝えられるだろうか。考えるだけで緊張する。
用事のない生徒はほとんど下校したのだろう。辺りが静かになってきた頃二口くんが戻ってきた。どこか表情が固い。
椅子から立ち上がりバッグを肩にかけようとすると「待って」と止められる。青根くんに会えなかったのかな? と聞こうとすると、さえぎるように彼が口を開いた。
「もう覚悟はできてるから、早く話してくれない?」
「え? あ、うん」
突き放すような彼の言葉に戸惑った。……ここで話さなければいけないみたい。机にバッグを戻し、何とか自分を落ち着かせながら二口くんの正面に立った。彼は口の端を結んで真っすぐ私を見ている。
もう教室に他の生徒はいない。私と二口くんの二人だけだ。私は手をぎゅっと握って覚悟を決めた。
「二口くんが、告白してくれた時、私、好きになるかもしれないって言ったけど……」
「うん……」
二口くんの表情がかすかに曇る。……こんなこと、今さら言ったら怒られるかな。
「私、その時、もうとっくに好きだったの」
二口くんは驚いたように目を見開いた。
「勇気が出なくて……言わなくて、ごめんね」
「…………」
二口くんは表情を止めたまま何も言わない。二人しかいない教室は昼間の喧騒が嘘のように静かだ。
私は焦る。どうしたら私が二口くんを好きだということが伝わる? 言葉だけじゃダメ?
行動を伴わせるならば、今、とっさには思いつかないけど……。
せめてちゃんと正面から彼のことを見よう。二口くんが好きだと言ってくれるこの目で。
「二口くん、好きです」
二口くんの瞳が一瞬揺れたような気がした。目を逸らしちゃだめだ。私は二口くんに近づきたい。二口くんがまだ私を好きでいてくれてるなら、それに全力でこたえたい。
「私と、本当の恋人同士になってくれませんか?」
二口くんは私と目を合わせたまま何も言わない。それは永遠と勘違いするぐらい長い時間だったけれど、私はこれとは比べ物にならないくらい彼を待たせてしまっている。
沈黙が怖い。それでも彼が何か言ってくれるのを待つしかない。
「……は、ははは」
彼の口から乾いた笑いが聞こえて、心臓が止まりそうになった。怒らせてしまったんだろうか、それとも喜んでくれているんだろうか。
いつの間にか私の手は彼の手にしっかりと握られていた。二口くんは目線を私に合わせると、少し怒った口調で言う。
「笑わねーし、敬語だし。別れ話されるのかと思うじゃねーか」
「あ……。緊張しすぎちゃって」
そんなつもりは微塵もなかったので慌てて否定すると、二口くんは目元をゆるめた。
「まったく……。待たせすぎだっつーの」
「ご、ゴメンね」
「……いーよ。やっと、こっちのステージに上がってくれたか」
ほっとしたのもつかの間、彼は片手を私の背中に回す。引き寄せられて二口くんとの距離が一気に縮まった。彼は上から私の顔を覗き込んでくる。強引に合わせられた目に彼が焼きついてしまいそうなぐらい距離が近い。 表情が読めない。無心に私を見つめる彼の顔が、男の子の顔なんだと何故かその時突然思った。
すごく……カッコいい。
どうしよう、困る。握られた手が熱い。彼の瞳に私が映る。目の奥にある光が意志を持って私を求めているのがわかる……。
『いい?』
そう、視線で請われて観念した。私は唇を彼に差し出すように顔を上げる。そのまま見つめ合って緊張がピークに達したとき、彼が切なげに目を細めた。
「……俺も好き」
キュンと心臓が哭いた音が響いた気がした。スローモーションのように唇が近づいてくるのに、目を閉じる間もない。唇が触れ合い、彼が瞳を閉じたのに合わせて私もようやく目を閉じる。
止まった時が動き出したのは、重なった唇がゆっくりと離れていくときだった。目を開いた後、彼の背景に見えた黒板で、今さらここが教室だということに気がついて背筋がぞくっとした。
「もう……。ふざけんなよ……」
二口くんが眉をひそめて薄く笑う。
「あとは部活行くだけだと思ってたし、今日キスするなんて考えてなかった」
「わ、私も」
彼の感触が残った唇で何とか言葉を紡ぐ。ドキドキがおさまらない。自分の唇なのにまだ自分に戻ってきていないような気がする。指先で唇に触れる。そこに残る彼の余韻を閉じ込めるように。
彼は私のその仕草を見て息をついた。
「……油断すんなよ。これで結城からお許しが出たってことだからな。これからいつでも隙があれば狙いにいくから」
「ね、狙うって何を?」
二口くんはそれには答えず、不敵に笑っていた。
「今まで我慢してた分、取り返させてもらお」
「……我慢してたの?」
「そーだよ。結城を振り向かせるまでダメだと思ってたのに、あーー! そんなら最初からもっとガンガン行っときゃよかった」
口をとがらせて拗ねたふりをする彼。
不思議なことに二口くんのその言葉で、自分の中の後ろめたさは消えていった。今と違ってあの頃は心の準備ができてなかったから、これで良かったんだと思う。
でも……。誰かに見られるかもしれない、学校の、しかも教室で迫られるのは……正直困るからクギをさしておく。
「学校内ではほどほどにしてね」
「はー? 結城とはほとんど学校でしか会えないじゃん!」
「でも……、学校はダメだよ?」
彼は不満そうだけど私もここはひけない。
「んーーーー。ってことは、学校じゃないとこならガンガンいっていいの?」
ニヤニヤ笑いながら二口くんが言う。
もう……。
「それは……どう……かな?」
ごまかしてみたけど、強がっているのは耳まで熱いこの顔を見たら一目瞭然だ。
二口くんはふっと笑うと、明るい声でこう言った。
「じゃ、これから、放課後初デートでもしようぜ」
私もその提案にできるだけの笑顔で答える。
「初デート? 前にしてなかったっけ?」
「ちゃんと恋人になってからは初だろ?」
「そっか。言われてみればそうだね」
「どこ行く?」
「うーん……とりあえず駅の方かな?」
今度こそ、それぞれの荷物を持って、私たちは並んで教室を後にした。
それから……。
校門の外に出てすぐ。
彼は私と手をつないだ。
指と指を交互に絡ませた恋人つなぎっていうのを教えてもらった。
私はひたすら恥ずかしかったけど、平気そうにふるまう二口くんの耳も赤く染まっていた。
彼は『友紀』と呼び捨てで呼んだけど、私は『堅治くん』と彼を呼ぶので精いっぱいだった。
でも結局、二人の時だけの呼び方にしよう、学校では今まで通りにしよう、と秘密の約束をした。
……そうしてデートした帰りの電車のホームで、セカンドキスもサードキスも彼に奪われた。
「二口くん……。私、帰るけど、どうしたの」
「何だよー、部活前にかわいい彼女の顔見に来ちゃいけねぇのかよ」
ニコニコと二口くんは私の前の席に後ろ向きに座る。
「そんなことは言わないけど……」
「じゃあ、いーじゃん。地獄に行く前にちょっと」
「地獄って……。どんな顔すればいいの?」
「そのままでいーよ」
椅子の背もたれを抱えた二口くんは口を横に引いた笑顔で私を見るけど、私は上手く笑えなかった。立花さんに言われた『二口が不安そう』という言葉が頭をよぎる。
好意をためらわずにストレートに出してくる彼にはいつもドキッとさせられる。嫌なわけじゃない。嬉しいのは本当だから、二人っきりの時にしてくれるのなら私もこたえられると思うんだけど……。
と、無意識に自分の考えたことにドキリとする。……こたえるって私、二口くんと何をしたいの?
「二口、いた! 監督から伝言。今日急遽部活休みだって」
急に飛んできた声にビックリした。戸口から隣のクラスの小原くんが顔をのぞかせている。見つめ合っている(ように見える)私たちを見て、小原くんは「邪魔したかな?」と首をすくめるので、私は『大丈夫』という意味を込めて首を振る。
二口くんは不満を隠さない表情で口をとがらせた。
「えー! なんでだよ」
「バスケ部が練習試合でウチの体育館使うの忘れてたらしいんだよ」
「はーー? まじかー」
「振り替えは来週らしい。青根にも伝えといて!」
「りょーかい。一年は?」
「作並がまわしてる!」
「あとは女川か」と言いながら小原くんは去って行った。今日、二口くん部活お休み? それなら……
「あの、二口くん。今日一緒に帰れますか?」
「帰れるけど……。何だよ。急に改まって?」
「うん。別に、たいしたことじゃないんだけど……」
「いや、その言い方、気になるだろ」
さらっと言おうと思ったのに妙に不自然になってしまった。でも周りにまだクラスメイトが残っている。後で二口くんだけに聞いてほしいから、要件のみ伝える。
「謝らなきゃいけないことと……言わなくちゃいけないことがある」
「……。わかった」
二口くんは私から目を逸らして席を立つ。
「青根に部活のコト伝えてくるから、待ってて」
それだけ言って二口くんは教室を出て行った。
その時、私は自分の思いつきに精いっぱいで、彼の心に浮かんだ勘違いに気づいてなかった。
◆◇◆
私は二口くんに話すことを頭の中で整理していた。上手く伝えられるだろうか。考えるだけで緊張する。
用事のない生徒はほとんど下校したのだろう。辺りが静かになってきた頃二口くんが戻ってきた。どこか表情が固い。
椅子から立ち上がりバッグを肩にかけようとすると「待って」と止められる。青根くんに会えなかったのかな? と聞こうとすると、さえぎるように彼が口を開いた。
「もう覚悟はできてるから、早く話してくれない?」
「え? あ、うん」
突き放すような彼の言葉に戸惑った。……ここで話さなければいけないみたい。机にバッグを戻し、何とか自分を落ち着かせながら二口くんの正面に立った。彼は口の端を結んで真っすぐ私を見ている。
もう教室に他の生徒はいない。私と二口くんの二人だけだ。私は手をぎゅっと握って覚悟を決めた。
「二口くんが、告白してくれた時、私、好きになるかもしれないって言ったけど……」
「うん……」
二口くんの表情がかすかに曇る。……こんなこと、今さら言ったら怒られるかな。
「私、その時、もうとっくに好きだったの」
二口くんは驚いたように目を見開いた。
「勇気が出なくて……言わなくて、ごめんね」
「…………」
二口くんは表情を止めたまま何も言わない。二人しかいない教室は昼間の喧騒が嘘のように静かだ。
私は焦る。どうしたら私が二口くんを好きだということが伝わる? 言葉だけじゃダメ?
行動を伴わせるならば、今、とっさには思いつかないけど……。
せめてちゃんと正面から彼のことを見よう。二口くんが好きだと言ってくれるこの目で。
「二口くん、好きです」
二口くんの瞳が一瞬揺れたような気がした。目を逸らしちゃだめだ。私は二口くんに近づきたい。二口くんがまだ私を好きでいてくれてるなら、それに全力でこたえたい。
「私と、本当の恋人同士になってくれませんか?」
二口くんは私と目を合わせたまま何も言わない。それは永遠と勘違いするぐらい長い時間だったけれど、私はこれとは比べ物にならないくらい彼を待たせてしまっている。
沈黙が怖い。それでも彼が何か言ってくれるのを待つしかない。
「……は、ははは」
彼の口から乾いた笑いが聞こえて、心臓が止まりそうになった。怒らせてしまったんだろうか、それとも喜んでくれているんだろうか。
いつの間にか私の手は彼の手にしっかりと握られていた。二口くんは目線を私に合わせると、少し怒った口調で言う。
「笑わねーし、敬語だし。別れ話されるのかと思うじゃねーか」
「あ……。緊張しすぎちゃって」
そんなつもりは微塵もなかったので慌てて否定すると、二口くんは目元をゆるめた。
「まったく……。待たせすぎだっつーの」
「ご、ゴメンね」
「……いーよ。やっと、こっちのステージに上がってくれたか」
ほっとしたのもつかの間、彼は片手を私の背中に回す。引き寄せられて二口くんとの距離が一気に縮まった。彼は上から私の顔を覗き込んでくる。強引に合わせられた目に彼が焼きついてしまいそうなぐらい距離が近い。 表情が読めない。無心に私を見つめる彼の顔が、男の子の顔なんだと何故かその時突然思った。
すごく……カッコいい。
どうしよう、困る。握られた手が熱い。彼の瞳に私が映る。目の奥にある光が意志を持って私を求めているのがわかる……。
『いい?』
そう、視線で請われて観念した。私は唇を彼に差し出すように顔を上げる。そのまま見つめ合って緊張がピークに達したとき、彼が切なげに目を細めた。
「……俺も好き」
キュンと心臓が哭いた音が響いた気がした。スローモーションのように唇が近づいてくるのに、目を閉じる間もない。唇が触れ合い、彼が瞳を閉じたのに合わせて私もようやく目を閉じる。
止まった時が動き出したのは、重なった唇がゆっくりと離れていくときだった。目を開いた後、彼の背景に見えた黒板で、今さらここが教室だということに気がついて背筋がぞくっとした。
「もう……。ふざけんなよ……」
二口くんが眉をひそめて薄く笑う。
「あとは部活行くだけだと思ってたし、今日キスするなんて考えてなかった」
「わ、私も」
彼の感触が残った唇で何とか言葉を紡ぐ。ドキドキがおさまらない。自分の唇なのにまだ自分に戻ってきていないような気がする。指先で唇に触れる。そこに残る彼の余韻を閉じ込めるように。
彼は私のその仕草を見て息をついた。
「……油断すんなよ。これで結城からお許しが出たってことだからな。これからいつでも隙があれば狙いにいくから」
「ね、狙うって何を?」
二口くんはそれには答えず、不敵に笑っていた。
「今まで我慢してた分、取り返させてもらお」
「……我慢してたの?」
「そーだよ。結城を振り向かせるまでダメだと思ってたのに、あーー! そんなら最初からもっとガンガン行っときゃよかった」
口をとがらせて拗ねたふりをする彼。
不思議なことに二口くんのその言葉で、自分の中の後ろめたさは消えていった。今と違ってあの頃は心の準備ができてなかったから、これで良かったんだと思う。
でも……。誰かに見られるかもしれない、学校の、しかも教室で迫られるのは……正直困るからクギをさしておく。
「学校内ではほどほどにしてね」
「はー? 結城とはほとんど学校でしか会えないじゃん!」
「でも……、学校はダメだよ?」
彼は不満そうだけど私もここはひけない。
「んーーーー。ってことは、学校じゃないとこならガンガンいっていいの?」
ニヤニヤ笑いながら二口くんが言う。
もう……。
「それは……どう……かな?」
ごまかしてみたけど、強がっているのは耳まで熱いこの顔を見たら一目瞭然だ。
二口くんはふっと笑うと、明るい声でこう言った。
「じゃ、これから、放課後初デートでもしようぜ」
私もその提案にできるだけの笑顔で答える。
「初デート? 前にしてなかったっけ?」
「ちゃんと恋人になってからは初だろ?」
「そっか。言われてみればそうだね」
「どこ行く?」
「うーん……とりあえず駅の方かな?」
今度こそ、それぞれの荷物を持って、私たちは並んで教室を後にした。
それから……。
校門の外に出てすぐ。
彼は私と手をつないだ。
指と指を交互に絡ませた恋人つなぎっていうのを教えてもらった。
私はひたすら恥ずかしかったけど、平気そうにふるまう二口くんの耳も赤く染まっていた。
彼は『友紀』と呼び捨てで呼んだけど、私は『堅治くん』と彼を呼ぶので精いっぱいだった。
でも結局、二人の時だけの呼び方にしよう、学校では今まで通りにしよう、と秘密の約束をした。
……そうしてデートした帰りの電車のホームで、セカンドキスもサードキスも彼に奪われた。