3 メノカタキ
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目の敵
伊達工の食堂は回転が異様に早い。男子が多いせいか一人で食べる人がほとんどで、カフェみたいなお喋りの声はあまり聞こえない。そのおかげでピークをずらして食堂に行けば席は空いているし、私でも気軽に一人ご飯ができる。
今日はいつもより空いていた。Aランチが魚だったのかもしれない。ランチは私には量が多すぎるので無難に山菜うどんを選び、空いている列の席で食べる。
一人気ままな食事が終わり無言で手を合わせた時、私の向かいの席に飲み物を持った立花さんが来た。
「ここ、いい?」
「あ、どうぞ。私もう片づけるから」
「ちょっと! 一人にしないでよ!……お茶しながら話さない?」
「え……、じゃ、ちょっと待ってて」
私は食器を下げに行き、飲み物を買いに自販機に寄る。
立花さんが私と話したいこと。それは……。どう考えても、二口くんのことなんだろうな。少し後ろめたい気分で取り出し口からシュガーレスのカフェラテを拾う。
座ってストローを刺したタイミングを見計らったように立花さんは口を開いた。
「二口と、……付き合ってるんだよね?」
直球だった。予測していた質問だったけど彼女の鋭い視線に気圧される。
「うん……」
あれから一週間経った。表立って発表したわけではないけれど、二口くんと仲の良かった立花さんは気づいたのだろう。
立花さんは鋭い目つきで口を開く。
「なんでボッチ飯なの? 二口と食べないの?」
「え、ああ……そうだね」
曖昧に笑ってやり過ごす。不思議そうに聞かれても、普段から一人で食べることの多い私にはその発想がなかった。
「付き合ってるんでしょ? おかしくない?」
「……そうかもね」
イライラしたような口調で追及されても、頭になかった事については何にも言えない。付き合い始めたら彼氏とお昼ご飯を食べる。それが普通なのかな。
かわしているような私の返答が気にくわないのだろう。立花さんは口の端を片方だけ上げて私を笑う。
「結城さんつれないなー。二口はカノジョ出来て浮かれてるけど、結城さんはそんな風には見えないね」
「……」
「二口の片想いみたい」
頬杖をついて口元だけにっこりと笑う立花さん。
そんなことはない、と思ったけど、何も言えない。……実際。私は彼にそう思わせるようなことしかしてない。
私の心の中で考えていることを見透かすように彼女はさらに追及してくる。
「本当に付き合ってるの? 二口に脅されたりしてない?」
「そんなことはないよ」
今度はすぐに返せた。それだけの言葉なのに喉がカラカラになった気がしてカフェラテを吸う。
彼女は私に顔を近づけて声のトーンを落とす。
「二口言ってるよ。自分の方から行くだけだから自信なくなるって。あんた本当に二口のコト好きなの?」
「……」
胸がきゅうっと痛んだ。
それは……。二口くん本人に直接言われるよりショックだ。そんな愚痴を他人にこぼすほど、二口くんは自信がなくなっているの?
確かに、私は何もしていない。二口くんの「好き」に対して、ちゃんと「好き」だと応えてない。
付き合っているのに。
「……好きだよ」
それは最初に二口くんに言いたかった……。こんな大事なこと、何で私はまだ二口くんに言ってなかったんだろう。
彼女はため息をついて小首をかしげる。
「じゃあ、どうして二口が不安がってるの?」
私を睨む彼女の視線から逃げるように、顔を逸らした。
二口くんが不安になってるのって、私が彼のコトを好きだと確信が持てないから?
そんなの……私だって不安だ。二口くんが私を好きなのは「正面から受け止めてくれる」ところだと言ってくれた。私は、本当に正面から二口くんのことを見ることができているのだろうか。私が好きな二口くんが、彼の思う本質からずれていると思われることが怖い。彼を落胆させることが怖い、彼の重荷になることが怖い。
重荷……そうだ、彼の一番の目標のためのかせになってしまうことが、一番怖い。
「……部活の邪魔しちゃいけない、と思って」
「いい子ぶってんじゃねーよ」
苦し紛れの言い訳は、正面から叩きつぶされた。
言い訳なのはわかってる。自分の出来ていない理由を、関係ない彼の事情にすり替えているだけだ。
それ以上何も言えない私に鋭く彼女は言い放つ。
「私は好きな人には幸せになってもらいたいだけ。あんたとは違うわよ。付き合ってるくせに不安にさせてんじゃないわよ」
そう言ってから一気に目の前のドリンクを飲み干すと、ぐしゃっとカップをつぶした。
「二口を幸せに出来ないなら奪いに行くから!」
そう宣戦布告して彼女は立ち去る。
水、かけられるのかと思った。頭の片隅で見当違いの事を思う。
立花さんは、どの立場から何のために私に言いに来たんだろう。
恋敵としてなら、こんなこと言わなくていい。私が勝手に愛想をつかされるのを待てばいいんだから。
友達として……? 二口くんの?
もう生ぬるくなってしまったカフェラテを飲みながら、一人考える。
私が二口くんを幸せにするためにできることってなんだろう、と。
伊達工の食堂は回転が異様に早い。男子が多いせいか一人で食べる人がほとんどで、カフェみたいなお喋りの声はあまり聞こえない。そのおかげでピークをずらして食堂に行けば席は空いているし、私でも気軽に一人ご飯ができる。
今日はいつもより空いていた。Aランチが魚だったのかもしれない。ランチは私には量が多すぎるので無難に山菜うどんを選び、空いている列の席で食べる。
一人気ままな食事が終わり無言で手を合わせた時、私の向かいの席に飲み物を持った立花さんが来た。
「ここ、いい?」
「あ、どうぞ。私もう片づけるから」
「ちょっと! 一人にしないでよ!……お茶しながら話さない?」
「え……、じゃ、ちょっと待ってて」
私は食器を下げに行き、飲み物を買いに自販機に寄る。
立花さんが私と話したいこと。それは……。どう考えても、二口くんのことなんだろうな。少し後ろめたい気分で取り出し口からシュガーレスのカフェラテを拾う。
座ってストローを刺したタイミングを見計らったように立花さんは口を開いた。
「二口と、……付き合ってるんだよね?」
直球だった。予測していた質問だったけど彼女の鋭い視線に気圧される。
「うん……」
あれから一週間経った。表立って発表したわけではないけれど、二口くんと仲の良かった立花さんは気づいたのだろう。
立花さんは鋭い目つきで口を開く。
「なんでボッチ飯なの? 二口と食べないの?」
「え、ああ……そうだね」
曖昧に笑ってやり過ごす。不思議そうに聞かれても、普段から一人で食べることの多い私にはその発想がなかった。
「付き合ってるんでしょ? おかしくない?」
「……そうかもね」
イライラしたような口調で追及されても、頭になかった事については何にも言えない。付き合い始めたら彼氏とお昼ご飯を食べる。それが普通なのかな。
かわしているような私の返答が気にくわないのだろう。立花さんは口の端を片方だけ上げて私を笑う。
「結城さんつれないなー。二口はカノジョ出来て浮かれてるけど、結城さんはそんな風には見えないね」
「……」
「二口の片想いみたい」
頬杖をついて口元だけにっこりと笑う立花さん。
そんなことはない、と思ったけど、何も言えない。……実際。私は彼にそう思わせるようなことしかしてない。
私の心の中で考えていることを見透かすように彼女はさらに追及してくる。
「本当に付き合ってるの? 二口に脅されたりしてない?」
「そんなことはないよ」
今度はすぐに返せた。それだけの言葉なのに喉がカラカラになった気がしてカフェラテを吸う。
彼女は私に顔を近づけて声のトーンを落とす。
「二口言ってるよ。自分の方から行くだけだから自信なくなるって。あんた本当に二口のコト好きなの?」
「……」
胸がきゅうっと痛んだ。
それは……。二口くん本人に直接言われるよりショックだ。そんな愚痴を他人にこぼすほど、二口くんは自信がなくなっているの?
確かに、私は何もしていない。二口くんの「好き」に対して、ちゃんと「好き」だと応えてない。
付き合っているのに。
「……好きだよ」
それは最初に二口くんに言いたかった……。こんな大事なこと、何で私はまだ二口くんに言ってなかったんだろう。
彼女はため息をついて小首をかしげる。
「じゃあ、どうして二口が不安がってるの?」
私を睨む彼女の視線から逃げるように、顔を逸らした。
二口くんが不安になってるのって、私が彼のコトを好きだと確信が持てないから?
そんなの……私だって不安だ。二口くんが私を好きなのは「正面から受け止めてくれる」ところだと言ってくれた。私は、本当に正面から二口くんのことを見ることができているのだろうか。私が好きな二口くんが、彼の思う本質からずれていると思われることが怖い。彼を落胆させることが怖い、彼の重荷になることが怖い。
重荷……そうだ、彼の一番の目標のためのかせになってしまうことが、一番怖い。
「……部活の邪魔しちゃいけない、と思って」
「いい子ぶってんじゃねーよ」
苦し紛れの言い訳は、正面から叩きつぶされた。
言い訳なのはわかってる。自分の出来ていない理由を、関係ない彼の事情にすり替えているだけだ。
それ以上何も言えない私に鋭く彼女は言い放つ。
「私は好きな人には幸せになってもらいたいだけ。あんたとは違うわよ。付き合ってるくせに不安にさせてんじゃないわよ」
そう言ってから一気に目の前のドリンクを飲み干すと、ぐしゃっとカップをつぶした。
「二口を幸せに出来ないなら奪いに行くから!」
そう宣戦布告して彼女は立ち去る。
水、かけられるのかと思った。頭の片隅で見当違いの事を思う。
立花さんは、どの立場から何のために私に言いに来たんだろう。
恋敵としてなら、こんなこと言わなくていい。私が勝手に愛想をつかされるのを待てばいいんだから。
友達として……? 二口くんの?
もう生ぬるくなってしまったカフェラテを飲みながら、一人考える。
私が二口くんを幸せにするためにできることってなんだろう、と。