22 Kill with your eyes
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Kill with your eyes
自分の部屋のドアを開けた時、そこに堅治くんがいるのが不思議だった。
彼はデスクの上の棚にある写真を手に取って眺めていた。私が入口で立ち止まっているのに気づくとふっと笑う。
「何で入ってこねぇの? 自分の部屋だろ?」
「あ、うん……」
こわごわ堅治くんの側に行く。慣れ親しんだ自分の部屋が別の空間に見える。って、試合の日の朝うちに来てくれた時にも思った気がする。堅治くんがいるだけで特別な場所になる。
「これ、あのクリスマスに撮ったってヤツ?」
「そう」
彼が見ていたのは例の着物で取った写真だ。彼は片目を細めてじっと睨みつけるように見ている。日本髪だしメイクもそれ用だから、自分じゃないみたいでどこか恥ずかしい。
変、かな……。それともクリスマスのお兄ちゃんの策略を思い出して、ムカついてる?
「……へー。似合うじゃん。本物のモデルみてー」
彼はふっと仕方なさそうに表情をゆるめ、丁寧に元の場所に写真を戻す。褒められて素直に嬉しいけど照れ臭い。
堅治くんは奥にあるもう一つの写真立てに気づいたみたいだった。
「こっちは、その後のイルミんとこのか」
「うん……」
ジャージ姿の堅治くんとイルミネーションの下で撮った写真。
堅治くんと撮った写真は意外と少なくて、プリントしたものはこれしかない。堅治くんが私のスマホを取り上げて自撮りしたやつだから、堅治くんは口を横に引いて笑ってるけど私は驚いた顔をして写ってる。もうちょっと恋人らしい写真もあったけど、それは部屋に飾るのは恥ずかしいので私のスマホの中だけに存在している。
「もしかして、お兄さん、これ見た?」
「私から見せた記憶はないけど……」
と言った矢先に、そういえば、と思い出す。
「隣に着物の写真置いたのお兄ちゃんだから、多分……」
不自然にこの写真を隠すように置かれてたから、まあ確実に見てるよね……。
そう答えると堅治くんは複雑な顔をした。
「なるほどな……。だから、俺ってわかったんだろうな」
「あ、そうか。……ゴメンね」
「いや、いーよ。俺と一緒の写真を飾ってくれてるって、結構嬉しい」
堅治くんは着物のやつより手前に写真を戻す。お兄ちゃんと写真で縄張り争いをしているみたい。意外と似たもの同士なのかもと思うと微笑ましいような複雑な気分だ。
とても静かだ。写真から目を離した堅治くんが柔らかいまなざしで私を見つめる。その視線に促されるように、後ろ手に隠していたものを自分の前に出した。
「お。出てきた」
おどけたように堅治くんが笑う。私の緊張を解いてくれようとしているのかも。
私も彼につられるようにぎこちなく微笑む。
「これ……。受け取ってくれる?」
見上げるように堅治くんを見つめ、彼の前に包みを差し出す。
彼は口元だけ緩ませて微笑むと両手でそれを受け取ってくれた。
「開けていい?」
「……」
「は? ダメ?」
「う、ううん。いいよ」
声が震えている私を不思議そうに見ながら、堅治くんは包みのリボンを解いていく。まるで自分が剥かれているみたいだ……。
手作りにすることはすんなり決められたけど、その内容はすごく悩んだ。藁にもすがる思いでお菓子の本を見てたら「オランジェット」というお菓子を見つけた。柑橘類のチョコ掛け。どうせなら堅治くんの好きなものにしようと、本来はオレンジの砂糖漬けを使うところをレモン味のグミにしている。
横に添えたガトーショコラは、結局、堅治くんと藍里ちゃんに言われたのに近いことをしていると気づいてしまった私の照れ隠しだ。お兄ちゃんにはガトーショコラしかあげてない。オランジェットには想いが詰まりすぎていて、堅治くん以外にはとても渡せない。
でも、気づかれなくていい。想いは込めたけど、いっそ気づかないでいて欲しい。
なのに、堅治くんは……
「なるほどー。そうきたかー」
「……」
彼はつまんだオランジェットと私をまじまじと見比べながら言う。
「コレ、友紀だと思って食べていいの?」
口端が愉しそうに上がっていく。意図が想像以上に通じてしまい自分の想いが丸裸にされた感じだ。
でも、私は、堅治くんが思うよりも、もっと……。
「…………あの」
「ん? 何だよ」
からかうような笑みを浮かべた彼が私を見下ろす。やっぱり背、高いな。私からはとても届かない。だから、卑怯だけど……。
「もう一つあるんだけど、いる?」
下から彼を見つめると、堅治くんは唇を横に引いたまま目から笑みを消した。見入られたように私を見て、掠れた声で「欲しい」と呟く。
その声の切ない響きは私の身体をきゅっとしびれさせる。私は彼の視線を意識しながら顔を彼の方に向け、そのまま瞳を閉じた。
1、2……。
心の中で3を数える前に頬を両手で挟まれて、彼の唇が下りてきた。
「ん?」
すぐに何かに気づいた堅治くんが私の唇を食む。
「ん……」
唇を舌先でなぞられた感触に身体がぴくりと反応してしまう。彼の唇が離れて目を開くとその瞬間を待っていたように堅治くんがにやりと笑った。
「ホンモノまであるとはな……。それにしても……」
今さら自分のしたことが恥ずかしくなって顔を背けようとしたのに、頬に添えられたままの彼の手が無理やり彼の方へ向ける。こつんとおでこをぶつけてくる。顔が近い。堅治くんの視線が当たる場所が熱い気がする。
「こんな恥ずかしいこと、よくできたな。ムリって言ってたじゃん」
あきれが混じる口調で苦笑しながら堅治くんは言う。
この部屋に入る直前に例のチョコリップを塗った。私自身に出来る精一杯のチョコ掛け。
その恥ずかしいことをやったのに、堅治くんがそんなことを言うから、私は消え入りそうな声で抗議する。
「……本命だってわからないと受け取らない、って堅治くんが言うから……」
「確かに、言ったけどさー」
「あれでわかってくれるか、自信なくて」
「……俺を見くびりすぎ。想定をはるかに超えてきたよ」
「堅治くん、私が好きだって、信じてくれないから……」
恥ずかしさでちょっとむくれ気味に睨むと、堅治くんは「ゴメン」と微笑む。
「……わかった、俺の負け。間違いなくコレは本命。けど」
ふふっと可笑しそうに笑う堅治くんはさらに追い打ちをかけてくる。
「作ったヤツより、こっち先に食って欲しかったの?」
私をからかっているのに表情がすごく優しいからどんな顔をしたらいいかわからない……。
「……恥ずかしいから……、あんまり意地悪、言わないで……」
彼の視線から逃れるようにやっとのことでそう言うと、頬から手が離れて私をぎゅっと抱きしめる。
「堅治くん……?」
「あー……。もう……!」
私が呼びかけても彼は腕の力を強くするだけで答えてくれない。
しばらくそうしていると彼は何かを思いついた様子で囁きかけてくる。
「ねぇ、友紀」
「……ん?」
「さっきのじゃ、よくわかんねぇから、もう一回、いい?」
「え……」
「今度は、最後まで友紀から、来て?」
彼は私のデスクの椅子を引いてそこに座り私の腰を抱く。鎖のように両腕が回っているから逃げられない。
……私からキスしたことなんて、ほとんどない。いっぱい堅治くんとキスしているはずなのに、彼がしてくれるのを待つばっかりで。私、こんなことにさえ自分から動いてなかったんだ。
覚悟を決める。ちゃんと。最後まで、私から。
ゆっくりとかがんで顔を近づける。睨んでるって思われるかもしれないけど、視線は、外さない。震えそうな手を彼の頬に添える。もう片方の手も同じように。
堅治くんは瞳を閉じてくれない。私がどう動くのか、一瞬も見逃すまいとしているような彼の強い視線に負けないように。自分の中の、彼を『好きだ』という精一杯の愛おしさを込めて彼の瞳を見つめる。自然と顔を傾け、そのまま吸い込まれるように、堅治くんの唇に触れた。
押しつけた唇を下から堅治くんの唇が包むのにお返しがしたくなって、私は、舌を彼の唇の間にそっと挿しこむ。堅治くんの目の奥の瞳孔がきゅっと小さくなった。
驚いた? そう目だけで微笑んで、ゆっくりと唇を離す。私を見上げたまま、放心したような表情で堅治くんが呟く。
「やっべ、……ぶっ飛んだ。一回目より全然わかんね」
私だって出来るんだから、と少しだけ思ったのに。上目遣いの堅治くんが意思を取り戻した目でしっかりと私を見つめていた。その瞬間、意識していなかった自分の心臓の音が急に存在感を出して刻んでくる。
ゆっくり彼の頬から手を離すと逃がさないとばかりに彼は追い打ちをかけてきた。
「俺にキスするとき、そんな目するんだ」
彼は口角を上げて私の心臓をいやというほど刺激してくる。
自分が彼にキスした時どんな顔をしてるかなんてわからない。不安になった私は主導権をあっさり放棄し思わず聞いてしまう。
「……私、どんな目してるの?」
「……やだ」
「え……?」
「俺だけのものだから、教えねぇ」
「私の目なのに?」
「うん。でも、俺」
彼は立ち上がると、追いかける私の視線を誘導するようにさりげなく後頭部に手をあてる。
「その目にだったら、殺されてもいいや」
そう言って私を睨みつけるように笑う堅治くんの視線に、瞬きをすることもできない。
自分がどんな目をしてるかなんて、もうどうでもよくなる。
……殺されるのは私の方だ。
よぎった思いに背筋がぞくりと慄いていると彼はまた私に鎖をかける。
「友紀」
「なに?」
「……大好き」
「!!」
私は息を飲んで目を丸くしてしまう。
だって、そんなの……。
「……初めて言われた……」
「は? んなワケねぇだろ」
「『だいすき』は、初めてだよ……」
「嘘だろ、いつも想ってんのに」
とがらせた口から放たれた彼の言葉に胸を締め付けられているのに、私の身体に巻き付けている腕に力を込めてくるから、身体も心臓も苦しくておかしくなりそう。
「大好き」
「わ、わたし、……も、」
「好き。大好き、友紀」
やっと喘ぐように返した私の言葉に被せる様に囁いてくる。
何で彼の声はこんなに甘いのだろう。受けた言葉がじわじわと私の脳を侵してくる。
ダメだ……
こんなの、絶対に勝てない
目だけじゃない。耳からも殺そうとしてくるのは堅治くんの方だよ…………。
自分の部屋のドアを開けた時、そこに堅治くんがいるのが不思議だった。
彼はデスクの上の棚にある写真を手に取って眺めていた。私が入口で立ち止まっているのに気づくとふっと笑う。
「何で入ってこねぇの? 自分の部屋だろ?」
「あ、うん……」
こわごわ堅治くんの側に行く。慣れ親しんだ自分の部屋が別の空間に見える。って、試合の日の朝うちに来てくれた時にも思った気がする。堅治くんがいるだけで特別な場所になる。
「これ、あのクリスマスに撮ったってヤツ?」
「そう」
彼が見ていたのは例の着物で取った写真だ。彼は片目を細めてじっと睨みつけるように見ている。日本髪だしメイクもそれ用だから、自分じゃないみたいでどこか恥ずかしい。
変、かな……。それともクリスマスのお兄ちゃんの策略を思い出して、ムカついてる?
「……へー。似合うじゃん。本物のモデルみてー」
彼はふっと仕方なさそうに表情をゆるめ、丁寧に元の場所に写真を戻す。褒められて素直に嬉しいけど照れ臭い。
堅治くんは奥にあるもう一つの写真立てに気づいたみたいだった。
「こっちは、その後のイルミんとこのか」
「うん……」
ジャージ姿の堅治くんとイルミネーションの下で撮った写真。
堅治くんと撮った写真は意外と少なくて、プリントしたものはこれしかない。堅治くんが私のスマホを取り上げて自撮りしたやつだから、堅治くんは口を横に引いて笑ってるけど私は驚いた顔をして写ってる。もうちょっと恋人らしい写真もあったけど、それは部屋に飾るのは恥ずかしいので私のスマホの中だけに存在している。
「もしかして、お兄さん、これ見た?」
「私から見せた記憶はないけど……」
と言った矢先に、そういえば、と思い出す。
「隣に着物の写真置いたのお兄ちゃんだから、多分……」
不自然にこの写真を隠すように置かれてたから、まあ確実に見てるよね……。
そう答えると堅治くんは複雑な顔をした。
「なるほどな……。だから、俺ってわかったんだろうな」
「あ、そうか。……ゴメンね」
「いや、いーよ。俺と一緒の写真を飾ってくれてるって、結構嬉しい」
堅治くんは着物のやつより手前に写真を戻す。お兄ちゃんと写真で縄張り争いをしているみたい。意外と似たもの同士なのかもと思うと微笑ましいような複雑な気分だ。
とても静かだ。写真から目を離した堅治くんが柔らかいまなざしで私を見つめる。その視線に促されるように、後ろ手に隠していたものを自分の前に出した。
「お。出てきた」
おどけたように堅治くんが笑う。私の緊張を解いてくれようとしているのかも。
私も彼につられるようにぎこちなく微笑む。
「これ……。受け取ってくれる?」
見上げるように堅治くんを見つめ、彼の前に包みを差し出す。
彼は口元だけ緩ませて微笑むと両手でそれを受け取ってくれた。
「開けていい?」
「……」
「は? ダメ?」
「う、ううん。いいよ」
声が震えている私を不思議そうに見ながら、堅治くんは包みのリボンを解いていく。まるで自分が剥かれているみたいだ……。
手作りにすることはすんなり決められたけど、その内容はすごく悩んだ。藁にもすがる思いでお菓子の本を見てたら「オランジェット」というお菓子を見つけた。柑橘類のチョコ掛け。どうせなら堅治くんの好きなものにしようと、本来はオレンジの砂糖漬けを使うところをレモン味のグミにしている。
横に添えたガトーショコラは、結局、堅治くんと藍里ちゃんに言われたのに近いことをしていると気づいてしまった私の照れ隠しだ。お兄ちゃんにはガトーショコラしかあげてない。オランジェットには想いが詰まりすぎていて、堅治くん以外にはとても渡せない。
でも、気づかれなくていい。想いは込めたけど、いっそ気づかないでいて欲しい。
なのに、堅治くんは……
「なるほどー。そうきたかー」
「……」
彼はつまんだオランジェットと私をまじまじと見比べながら言う。
「コレ、友紀だと思って食べていいの?」
口端が愉しそうに上がっていく。意図が想像以上に通じてしまい自分の想いが丸裸にされた感じだ。
でも、私は、堅治くんが思うよりも、もっと……。
「…………あの」
「ん? 何だよ」
からかうような笑みを浮かべた彼が私を見下ろす。やっぱり背、高いな。私からはとても届かない。だから、卑怯だけど……。
「もう一つあるんだけど、いる?」
下から彼を見つめると、堅治くんは唇を横に引いたまま目から笑みを消した。見入られたように私を見て、掠れた声で「欲しい」と呟く。
その声の切ない響きは私の身体をきゅっとしびれさせる。私は彼の視線を意識しながら顔を彼の方に向け、そのまま瞳を閉じた。
1、2……。
心の中で3を数える前に頬を両手で挟まれて、彼の唇が下りてきた。
「ん?」
すぐに何かに気づいた堅治くんが私の唇を食む。
「ん……」
唇を舌先でなぞられた感触に身体がぴくりと反応してしまう。彼の唇が離れて目を開くとその瞬間を待っていたように堅治くんがにやりと笑った。
「ホンモノまであるとはな……。それにしても……」
今さら自分のしたことが恥ずかしくなって顔を背けようとしたのに、頬に添えられたままの彼の手が無理やり彼の方へ向ける。こつんとおでこをぶつけてくる。顔が近い。堅治くんの視線が当たる場所が熱い気がする。
「こんな恥ずかしいこと、よくできたな。ムリって言ってたじゃん」
あきれが混じる口調で苦笑しながら堅治くんは言う。
この部屋に入る直前に例のチョコリップを塗った。私自身に出来る精一杯のチョコ掛け。
その恥ずかしいことをやったのに、堅治くんがそんなことを言うから、私は消え入りそうな声で抗議する。
「……本命だってわからないと受け取らない、って堅治くんが言うから……」
「確かに、言ったけどさー」
「あれでわかってくれるか、自信なくて」
「……俺を見くびりすぎ。想定をはるかに超えてきたよ」
「堅治くん、私が好きだって、信じてくれないから……」
恥ずかしさでちょっとむくれ気味に睨むと、堅治くんは「ゴメン」と微笑む。
「……わかった、俺の負け。間違いなくコレは本命。けど」
ふふっと可笑しそうに笑う堅治くんはさらに追い打ちをかけてくる。
「作ったヤツより、こっち先に食って欲しかったの?」
私をからかっているのに表情がすごく優しいからどんな顔をしたらいいかわからない……。
「……恥ずかしいから……、あんまり意地悪、言わないで……」
彼の視線から逃れるようにやっとのことでそう言うと、頬から手が離れて私をぎゅっと抱きしめる。
「堅治くん……?」
「あー……。もう……!」
私が呼びかけても彼は腕の力を強くするだけで答えてくれない。
しばらくそうしていると彼は何かを思いついた様子で囁きかけてくる。
「ねぇ、友紀」
「……ん?」
「さっきのじゃ、よくわかんねぇから、もう一回、いい?」
「え……」
「今度は、最後まで友紀から、来て?」
彼は私のデスクの椅子を引いてそこに座り私の腰を抱く。鎖のように両腕が回っているから逃げられない。
……私からキスしたことなんて、ほとんどない。いっぱい堅治くんとキスしているはずなのに、彼がしてくれるのを待つばっかりで。私、こんなことにさえ自分から動いてなかったんだ。
覚悟を決める。ちゃんと。最後まで、私から。
ゆっくりとかがんで顔を近づける。睨んでるって思われるかもしれないけど、視線は、外さない。震えそうな手を彼の頬に添える。もう片方の手も同じように。
堅治くんは瞳を閉じてくれない。私がどう動くのか、一瞬も見逃すまいとしているような彼の強い視線に負けないように。自分の中の、彼を『好きだ』という精一杯の愛おしさを込めて彼の瞳を見つめる。自然と顔を傾け、そのまま吸い込まれるように、堅治くんの唇に触れた。
押しつけた唇を下から堅治くんの唇が包むのにお返しがしたくなって、私は、舌を彼の唇の間にそっと挿しこむ。堅治くんの目の奥の瞳孔がきゅっと小さくなった。
驚いた? そう目だけで微笑んで、ゆっくりと唇を離す。私を見上げたまま、放心したような表情で堅治くんが呟く。
「やっべ、……ぶっ飛んだ。一回目より全然わかんね」
私だって出来るんだから、と少しだけ思ったのに。上目遣いの堅治くんが意思を取り戻した目でしっかりと私を見つめていた。その瞬間、意識していなかった自分の心臓の音が急に存在感を出して刻んでくる。
ゆっくり彼の頬から手を離すと逃がさないとばかりに彼は追い打ちをかけてきた。
「俺にキスするとき、そんな目するんだ」
彼は口角を上げて私の心臓をいやというほど刺激してくる。
自分が彼にキスした時どんな顔をしてるかなんてわからない。不安になった私は主導権をあっさり放棄し思わず聞いてしまう。
「……私、どんな目してるの?」
「……やだ」
「え……?」
「俺だけのものだから、教えねぇ」
「私の目なのに?」
「うん。でも、俺」
彼は立ち上がると、追いかける私の視線を誘導するようにさりげなく後頭部に手をあてる。
「その目にだったら、殺されてもいいや」
そう言って私を睨みつけるように笑う堅治くんの視線に、瞬きをすることもできない。
自分がどんな目をしてるかなんて、もうどうでもよくなる。
……殺されるのは私の方だ。
よぎった思いに背筋がぞくりと慄いていると彼はまた私に鎖をかける。
「友紀」
「なに?」
「……大好き」
「!!」
私は息を飲んで目を丸くしてしまう。
だって、そんなの……。
「……初めて言われた……」
「は? んなワケねぇだろ」
「『だいすき』は、初めてだよ……」
「嘘だろ、いつも想ってんのに」
とがらせた口から放たれた彼の言葉に胸を締め付けられているのに、私の身体に巻き付けている腕に力を込めてくるから、身体も心臓も苦しくておかしくなりそう。
「大好き」
「わ、わたし、……も、」
「好き。大好き、友紀」
やっと喘ぐように返した私の言葉に被せる様に囁いてくる。
何で彼の声はこんなに甘いのだろう。受けた言葉がじわじわと私の脳を侵してくる。
ダメだ……
こんなの、絶対に勝てない
目だけじゃない。耳からも殺そうとしてくるのは堅治くんの方だよ…………。