15 メノショウガツ
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目の正月
※演劇『飛翔』の要素があります
待ち合わせ5分前に到着。少し上がった息は白い。
神社へと続く階段のふもとで二口くんを待つ。親子連れ、カップル、おひとり様。老若男女、様々な人が新しい年への希望を胸に階段を上っていくのを私は清々しい気持ちで眺める。
ほどなくして向かいの曲がり角から背の高い男の子が息せき切って走ってきた。
「友紀ー! はぇえよ!」
「どうしたの、二口くん。私も今来たばっかだし、全然大丈夫だよ?」
「ちげぇよ! 友紀一人で置いとくと、変なのにナンパされてるかもしれねぇじゃん!」
「? そんなことされないよー」
大げさな心配をする二口くんを笑うと、彼は眉をひそめて首をふる。
「いやいやいや。クリスマス、変なのに絡まれてたろ!」
「あー……。あれかー……」
「危機感持ってくれよ」
「ごめんごめん」
「……今日もカワイイし」
「!!」
急な不意打ちに目を丸くすると、彼はしかめっ面で首を傾ける。
「……ありがと」
ぽっと顔が熱くなる。出会い頭に怒られたと思ったら褒め殺されるし、新年早々振れ幅が大きすぎる……。
あ、何か忘れてるような……。
「「明けましておめでとう」」
ほぼ同時に新年のあいさつをする。彼を見上げると彼は口の端だけ上げて笑ってくれた。
「今年もよろしくね」
「よろしく」
神社の境内は、すでに結構な数の参拝客が並ぶ。少しずつしか先に進めない。
「こんなに人がいると思わなかった」
「俺も。何気に元旦に来たの初めて」
そう言いながら二口くんは私に手を差し出す。
「危ないから、つないどけ」
「うん……」
彼が素手なのに悪い気がして、手袋を外して彼の方に手を伸ばす。二口くんは私の右手を掴むとそのまま自分のコートのポケットに入れた。
「……大きいポケットだね」
「あぁ。こういう時に丁度いい」
そう言いながら私の指先を滑らせるようにして握る。
二口くんのコート姿って初めてかも。灰色と黒のチェックは彼を大人っぽく見せてカッコいい。お出かけ用のコートなのかな?男性の服のポケットって大きくていいな、と見当外れに考えていると二口くんが顔をしかめた。
「指先つめてぇ」
「ご、ごめんね。手離すよ?」
「だーめ」
引っ込めようした手は強く握られそのまま指を絡められた。彼は拗ねたように口をとがらせる。
「すぐ逃げようとするー」
「だって……冷たいの、嫌かなって」
そう言うと、二口くんは私を自分の方に寄せて耳元で囁いた。
「……手、つなぎてぇんだよ。いい加減わかれよ……」
切羽詰まったような掠れた声で言うから心臓がぎゅっと痛くなる。
彼を見上げると口をへの字に曲げ、寒さでなのか縁が赤い目でにらまれた。
「うん……。私も、つなぎたい」
私は彼の手をぎゅっと握り返す。今のでもう、私の指先は汗をかくぐらい温まっている。
「……」
彼はプイっとそっぽを向いたけど、ほんのり頬が赤くなっているのが見えた。
縁日みたいな屋台が並んでいる参道をゆっくりと前の人に合わせて進んでいく。
「そういえば……」
二口くんが振り返るように私を見た。
「最近コンタクトなこと多くね?」
「うん……。髪の色変えたらメガネが似合わなくなっちゃって……」
今日は二口くんと初詣に行くからって、一応自分比でカワイイ服を着ている。でもそうするとあのメガネ本当に合わないんだ……。
「ふーん。ドライアイだっけ? 目、大丈夫?」
「目薬させば何とかなるんだけど……。暖房の風に弱いんだよね。しぱしぱしてくる」
「冬の乾燥は目に来る」とぼやくと「婆ちゃんかよ」と笑われる。
「いいかげん新しいメガネ買ってきなさい、って言われてるんだけど、今さら何選んでいいかわからなくて……」
「あのフレーム古いの?」
「うん。お母さんのおさがり」
「だからか……」
「え?」
「古めかしいなって」
合点がいったように頷かれ急に恥ずかしくなってきた。早くメガネ買い替えたい……。
そんな私の内心にかまわず、二口くんはないはずのメガネの像を結ぶかのように見つめてくる。
「あの、さ、」
「ん?」
恥ずかしいからそんなに見ないで欲しいんだけど……。
「俺に友紀のメガネ選ばせて」
「え?」
意外な申し出にびっくりする。それでそんな真剣に見てたの?
二口くんはそのまま私の返事を待っている。
「それ、すごい助かるからお願いしたい」
ほっとした感じに口を横に引いて二口くんは笑った。
「よし、きまり」
「でも今日は……お店やってないかも」
「成人の日あたりは? あの辺の連休のどっかに部活休みあったはず」
「そっか。じゃあ、あけとく」
「超楽しみー」
そう言いながら「あ」と何かを思いついた様子だ。
「それまで、学校はメガネどうすんの?」
「うーん。別に学校はおしゃれしていく場所じゃないから、今のメガネで行くかな」
「よかった」
「え?」
「何でもねぇ……。お、ついに来た来た」
私たちのお参りの番が来た。二人で並んで柏手を打つ。
願い事……特に何も考えてなかった。でも私は……もう十分すぎるほど幸せだ。だから……。
最後の一礼を終えて隣を見ると二口くんはまだ手を合わせていた。目を閉じて祈ってる姿は真剣だった。
ふっと手を解いて礼まで終えると、私が見てることに気づいて「なんだよ」と照れ臭そうに笑う。
その笑顔にドキッとしてると、二口くんが歩き始めたので慌ててついていく。私が追いつくと二口くんは口を開いた。
「友紀、何願った?」
「……『二口くんが怪我をしませんように』って」
手を合わせた時にパッと思い浮かんだのはそれだった。私が何よりも神様にお願いしたいのは、怪我なく二口くんが部活に打ち込めることなんだなって思った。
怪我とかネガティブな事を考えてるなんて余計なお世話かな……と恐る恐る彼を見ると、何故か胸を押さえていた。
「……そっか。ありがとう」
柔らかい笑顔にまた心臓がきゅんとする。
この人はホントもう立て続けに……心臓がいくらあってももたない。
「二口くんは? 何お願いしたの?」
ドキドキを抑えながら聞き返すと、二口くんの目がすっと据わった。
「『春高行けますように』かな」
「来年の?」
「今年の」
「……んん?」
「冗談だよ」
いや、今、真顔だったよ!?
「……全国行けますように、ってことかな?」
一応、冗談であると信じて聞くと二口くんは「うーん」と眉をしかめて空を仰いだ。御神木が伸びる先には雲一つない青空が広がっている。
「……そういう自分の努力でなんとかなることは、お願いすることじゃねぇ気がする」
真っ直ぐ空を見上げる二口くんには迷いがなさそうだった。
バレーには限らずスポーツにはどうしても組み合わせの運とかもあるのに『自分の努力』と言い切る二口くんはすごい。だって、それって『全部倒せる』って自分を信じてることだと思うから。そこは神様になんて頼らないってことなんだろう。
そう感心してると、二口くんはこちらを見てにやっと笑う。
「友紀と……。……友紀が俺のこと名前で呼んでくれますようにかな?」
自分のお願いなのに疑問形なのはなんでだろう。……何かはぐらかされた感じはするけど。神様にお願いするくらいなら叶えてあげなきゃと思った。
「……堅治くん」
「もう叶った! すげぇご利益だ、この神社」
そうからかうようにはしゃぐ二口くんを見て、恥ずかしいけれど心がほっとあったかくなる。
当たり前のようにまた手を取られたのでそのまま歩き出す二口くんの横に並ぶ。彼の手はあったかい。
この後どうするのかな。
まだ帰りたくないな……。と思っていると、それに呼応するようにぎゅっと手を握られた。
「友紀」
「ん? なに?」
何か決意したように私を見るから緊張してしまう。彼は一瞬目を逸らすと、なんでもない事のように言った。
「この後、俺んち来る?」
「え……?」
※演劇『飛翔』の要素があります
待ち合わせ5分前に到着。少し上がった息は白い。
神社へと続く階段のふもとで二口くんを待つ。親子連れ、カップル、おひとり様。老若男女、様々な人が新しい年への希望を胸に階段を上っていくのを私は清々しい気持ちで眺める。
ほどなくして向かいの曲がり角から背の高い男の子が息せき切って走ってきた。
「友紀ー! はぇえよ!」
「どうしたの、二口くん。私も今来たばっかだし、全然大丈夫だよ?」
「ちげぇよ! 友紀一人で置いとくと、変なのにナンパされてるかもしれねぇじゃん!」
「? そんなことされないよー」
大げさな心配をする二口くんを笑うと、彼は眉をひそめて首をふる。
「いやいやいや。クリスマス、変なのに絡まれてたろ!」
「あー……。あれかー……」
「危機感持ってくれよ」
「ごめんごめん」
「……今日もカワイイし」
「!!」
急な不意打ちに目を丸くすると、彼はしかめっ面で首を傾ける。
「……ありがと」
ぽっと顔が熱くなる。出会い頭に怒られたと思ったら褒め殺されるし、新年早々振れ幅が大きすぎる……。
あ、何か忘れてるような……。
「「明けましておめでとう」」
ほぼ同時に新年のあいさつをする。彼を見上げると彼は口の端だけ上げて笑ってくれた。
「今年もよろしくね」
「よろしく」
神社の境内は、すでに結構な数の参拝客が並ぶ。少しずつしか先に進めない。
「こんなに人がいると思わなかった」
「俺も。何気に元旦に来たの初めて」
そう言いながら二口くんは私に手を差し出す。
「危ないから、つないどけ」
「うん……」
彼が素手なのに悪い気がして、手袋を外して彼の方に手を伸ばす。二口くんは私の右手を掴むとそのまま自分のコートのポケットに入れた。
「……大きいポケットだね」
「あぁ。こういう時に丁度いい」
そう言いながら私の指先を滑らせるようにして握る。
二口くんのコート姿って初めてかも。灰色と黒のチェックは彼を大人っぽく見せてカッコいい。お出かけ用のコートなのかな?男性の服のポケットって大きくていいな、と見当外れに考えていると二口くんが顔をしかめた。
「指先つめてぇ」
「ご、ごめんね。手離すよ?」
「だーめ」
引っ込めようした手は強く握られそのまま指を絡められた。彼は拗ねたように口をとがらせる。
「すぐ逃げようとするー」
「だって……冷たいの、嫌かなって」
そう言うと、二口くんは私を自分の方に寄せて耳元で囁いた。
「……手、つなぎてぇんだよ。いい加減わかれよ……」
切羽詰まったような掠れた声で言うから心臓がぎゅっと痛くなる。
彼を見上げると口をへの字に曲げ、寒さでなのか縁が赤い目でにらまれた。
「うん……。私も、つなぎたい」
私は彼の手をぎゅっと握り返す。今のでもう、私の指先は汗をかくぐらい温まっている。
「……」
彼はプイっとそっぽを向いたけど、ほんのり頬が赤くなっているのが見えた。
縁日みたいな屋台が並んでいる参道をゆっくりと前の人に合わせて進んでいく。
「そういえば……」
二口くんが振り返るように私を見た。
「最近コンタクトなこと多くね?」
「うん……。髪の色変えたらメガネが似合わなくなっちゃって……」
今日は二口くんと初詣に行くからって、一応自分比でカワイイ服を着ている。でもそうするとあのメガネ本当に合わないんだ……。
「ふーん。ドライアイだっけ? 目、大丈夫?」
「目薬させば何とかなるんだけど……。暖房の風に弱いんだよね。しぱしぱしてくる」
「冬の乾燥は目に来る」とぼやくと「婆ちゃんかよ」と笑われる。
「いいかげん新しいメガネ買ってきなさい、って言われてるんだけど、今さら何選んでいいかわからなくて……」
「あのフレーム古いの?」
「うん。お母さんのおさがり」
「だからか……」
「え?」
「古めかしいなって」
合点がいったように頷かれ急に恥ずかしくなってきた。早くメガネ買い替えたい……。
そんな私の内心にかまわず、二口くんはないはずのメガネの像を結ぶかのように見つめてくる。
「あの、さ、」
「ん?」
恥ずかしいからそんなに見ないで欲しいんだけど……。
「俺に友紀のメガネ選ばせて」
「え?」
意外な申し出にびっくりする。それでそんな真剣に見てたの?
二口くんはそのまま私の返事を待っている。
「それ、すごい助かるからお願いしたい」
ほっとした感じに口を横に引いて二口くんは笑った。
「よし、きまり」
「でも今日は……お店やってないかも」
「成人の日あたりは? あの辺の連休のどっかに部活休みあったはず」
「そっか。じゃあ、あけとく」
「超楽しみー」
そう言いながら「あ」と何かを思いついた様子だ。
「それまで、学校はメガネどうすんの?」
「うーん。別に学校はおしゃれしていく場所じゃないから、今のメガネで行くかな」
「よかった」
「え?」
「何でもねぇ……。お、ついに来た来た」
私たちのお参りの番が来た。二人で並んで柏手を打つ。
願い事……特に何も考えてなかった。でも私は……もう十分すぎるほど幸せだ。だから……。
最後の一礼を終えて隣を見ると二口くんはまだ手を合わせていた。目を閉じて祈ってる姿は真剣だった。
ふっと手を解いて礼まで終えると、私が見てることに気づいて「なんだよ」と照れ臭そうに笑う。
その笑顔にドキッとしてると、二口くんが歩き始めたので慌ててついていく。私が追いつくと二口くんは口を開いた。
「友紀、何願った?」
「……『二口くんが怪我をしませんように』って」
手を合わせた時にパッと思い浮かんだのはそれだった。私が何よりも神様にお願いしたいのは、怪我なく二口くんが部活に打ち込めることなんだなって思った。
怪我とかネガティブな事を考えてるなんて余計なお世話かな……と恐る恐る彼を見ると、何故か胸を押さえていた。
「……そっか。ありがとう」
柔らかい笑顔にまた心臓がきゅんとする。
この人はホントもう立て続けに……心臓がいくらあってももたない。
「二口くんは? 何お願いしたの?」
ドキドキを抑えながら聞き返すと、二口くんの目がすっと据わった。
「『春高行けますように』かな」
「来年の?」
「今年の」
「……んん?」
「冗談だよ」
いや、今、真顔だったよ!?
「……全国行けますように、ってことかな?」
一応、冗談であると信じて聞くと二口くんは「うーん」と眉をしかめて空を仰いだ。御神木が伸びる先には雲一つない青空が広がっている。
「……そういう自分の努力でなんとかなることは、お願いすることじゃねぇ気がする」
真っ直ぐ空を見上げる二口くんには迷いがなさそうだった。
バレーには限らずスポーツにはどうしても組み合わせの運とかもあるのに『自分の努力』と言い切る二口くんはすごい。だって、それって『全部倒せる』って自分を信じてることだと思うから。そこは神様になんて頼らないってことなんだろう。
そう感心してると、二口くんはこちらを見てにやっと笑う。
「友紀と……。……友紀が俺のこと名前で呼んでくれますようにかな?」
自分のお願いなのに疑問形なのはなんでだろう。……何かはぐらかされた感じはするけど。神様にお願いするくらいなら叶えてあげなきゃと思った。
「……堅治くん」
「もう叶った! すげぇご利益だ、この神社」
そうからかうようにはしゃぐ二口くんを見て、恥ずかしいけれど心がほっとあったかくなる。
当たり前のようにまた手を取られたのでそのまま歩き出す二口くんの横に並ぶ。彼の手はあったかい。
この後どうするのかな。
まだ帰りたくないな……。と思っていると、それに呼応するようにぎゅっと手を握られた。
「友紀」
「ん? なに?」
何か決意したように私を見るから緊張してしまう。彼は一瞬目を逸らすと、なんでもない事のように言った。
「この後、俺んち来る?」
「え……?」