14 メヲウバワレル
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目を奪われる
※ショーセツバン『聖夜の鉄壁』を前提にしています
恋人と迎える初めてのクリスマス。
それは特別なもので、彼氏、彼女と一緒に過ごしたいと思うものだ。
それは二口堅治にとっても例外ではない。
ただ、雲行きは怪しかった……。
『イブはお兄ちゃん帰ってくるから家でって言われてて……』
「そっかー。25日は?」
『……バイト入ってる』
「は? 友紀バイトやってたっけ。何の?」
『お兄ちゃんからカットモデルになってくれって頼まれて……』
クソ、あの兄貴、なんでわざわざクリスマスに入れるんだよ! と二口は憤る。
「わかった」
『あ、あの、終わったら、連絡するから……』
「うん、ムリすんなよ、じゃ」
何か続けようとした彼女の言葉をさえぎって電話を切る。それぐらいに二口は苛立っていた。
☆☆☆
クリスマスイブの部活、二口は荒れに荒れた。
『二口先輩、彼女いるはずなのに、おかしいな、別れたのかな?』と後輩に心配されるぐらいに。
あの黄金川も、それだけは言ってはいけないというのを察したぐらいの荒れようだった。
クリスマス当日も二口は相変わらずだった。
「二口さん。なんかあったんすか?」
見かねて声をかけた黄金川は噛みつかれる勢いの逆襲に遭い涙目になっていた。
「あー、一緒に過ごす彼女的なものもいないしサンタ的なものも来なかったわー」
そう嘯く二口に部員達の内心は一斉にざわつく。
『え? 本当に別れたのかよ?』『あんな、仲良さそうだったのに?』『もう絶対触れんじゃねぇぞ!』『二口さん多分フラれた側だよな……』
と、後輩も同輩も含めてひそひそ心配したのち『二口はそっとしておこう』との共通認識が広がる。
結局この日は引退した先輩が襲来し、サプライズ・クリスマスパーティーを開催してくれたこともあり、なんとか二口は機嫌を回復したのであった。
★★★
学校最寄りのコンビニの駐車場で肉まんを食べていたら、電話がかかって来た。ろくに相手も確かめず着信を取る。
「もしもーし」
『あ、二口くん?』
「友紀!?」
思わず声に出してしまうと周りが一斉に俺を見る。口パクで『見てんじゃねーよ、シッシッ!』と凄んでから、俺は後ろを向き声を潜める。
「バイト、終わった?」
『うん。あの、今から、会える?』
「……うん。どこで?」
時間と場所を決めて電話を切り、振り返ると……一斉に視線を浴びる。
すっげぇ気まずい。
睨みつけようと思ったけれど、自然とにやついてくるのが自分でもわかる。……こうなったら開き直りだ。俺は逆にもう満面の笑顔を作ってやった。
後輩たちがぎょっとした顔でたじろぐ。失礼じゃね?
「……俺、ちょっと用事できたんで、お先。ごちそうさまっした」
いつもだったらこれで何事もなく帰れたと思う。しかし間の悪いことに今日は先輩方がいた。俺は両サイドからガシッと肩を掴まれる。
「待て、食い逃げは許さねーぞ!」
「今の電話、友紀ちゃんからだよなー?」
「何ィ! それは全力でお邪魔させてもらう」
「笹やん、鎌ち、やめなって!」
止めてくれるのは茂庭さんしかいない。先輩方に囲まれて足止めをくらってるとニコニコ顔の黄金川が近づいてくる。
「良かった! 二口先輩! 彼女さんにフラれてなかったんスね!」
「バカ、黄金川!」
ヒヤッと心臓に冷水をぶっかけられたような感覚が走る。はぁあ??? お前なんてこと言いやがる! 作並が口を塞ぎ、小原が『あいつ、言いやがった……』とでも言いたげに頭を抱えてるあたり、皆の『共通認識』になってる感じですげームカつく。
「何だコノヤロ黄金川、誰がフラれたって?! ブッ潰すぞ!」
「やめろ二口! 青根、止めろ!」
俺は先輩三人がかり+青根に羽交い絞めにされ、黄金川に向かっていくのを止められた。
☆☆☆
主将の威厳なんか微塵も通じない先輩方のおかげで、友紀との待ち合わせの駅までぞろぞろとついてこられた。
どうやって撒こうか考えていると、目印になりそうな柱の横で、男二人に囲まれている女の子がいる。
……ってあれ、友紀じゃん!
「クリスマスにお一人様?寂しいね?」
「あの……。私、彼と待ち合わせなんで、」
「えー? 君、ずーーっと待ってるよね? 寒い中こんなトコで待たせる彼氏はほっといて、俺たちと一緒にあったかいとこ行こう」
「いえ、大丈夫です、離してください」
彼女の腕が男に掴まれているのが見えて、一気に頭に血が上る。あの野郎ら……!
「落ち着け」
青根が俺の肩をつかんだ。俺がはっとなるとその力をゆるめて首を横に振る。
「早く、結城の所に行ってやれ。あとはまかせろ」
目を合わせて言い聞かされた事で不思議なぐらい頭が冷えてくる。止めたのお前なのに何が早く行けだよ、と軽口が思いつけるぐらいには落ち着くことができた。
「サンキュー、頼む」
かすかに微笑んだ青根の胸を叩いて俺は走る。
「友紀!」
友紀はぱっと顔をこちらに向ける。下ろした髪が綺麗に広がる。雰囲気がいつもより明るく儚い。え、髪、茶色い!?
ヤバい、超カワイイ……。と思うと同時にこんなところを待ち合わせ場所にすべきでなかったと舌打ちしたくなる。
「ふ……堅治!」
あえて下の名前で呼んでくれたのが嬉しいけどそれは後回しだ。男たちから彼女を隠すように間に入り、俺は口元だけあえてにっこりと微笑む。
「何か彼女に御用ですか?」
慇懃無礼に言う否や、ヤツらは震えあがった。
……いやいや。確かにブッ潰す勢いで睨みつけてるけど、さすがにこの怯え方は異常だろ、と思って彼らの目線の先、後ろを振り返ると、
「……」
ずらっと、青根や鎌先さん、笹谷さん、黄金川が並んで、メンチを切っていた。
「「ひっ」」
男たちは短く悲鳴を上げると必死に歪んだ笑顔を作って逃げていく。俺もそこそこ威圧感出せる方だと思っていたけどこの中じゃ雑魚だわ……。
突然逃げて行った男たちを友紀は不思議に思ったみたいだった。首をかしげて後ろを振り返る。
「あ! 皆さん、こんばんは」
お前ら……。
振り返った友紀がビビったらどうしようとの心配は全くの杞憂。さっきの凶悪面とはうって変わって気味の悪い笑顔や無表情に戻っていた。
「堅治くん、ごめんね! あの、ありがとうございます」
そう言ってペコリと名前が頭を下げると、
「ハイハイ、後は二口に任せて、行くよー」
茂庭さんは鎌先さんたちを促して俺らに笑顔で言う。
「良いクリスマスをー」
機転を効かせてくれた茂庭さんに俺は頭を下げる。
茂庭さんありがとうございます。俺、ホント、茂庭さんだけは一生尊敬すると思います。来年は茂庭さんにも彼女できていますように。
「良い聖夜をー」
「良い性夜を~」
「笹やんの言い方絶対字違う、そして聖夜は今日じゃない。昨日」
「え? そうなの?」
☆☆☆
「一日がかりだったよ……最初は着物用の髪型のパターンを撮って」
「着物って……正月?」
「ううん。どっちかっていうと成人式。再来年用のカタログ用に。美容師さんの練習も兼ねて」
友紀は今日のバイトの内容をそんな風に教えてくれた。だから今日メガネかけてねぇんだ……。
「着物着たの?」
「うん」
「写真ある?」
「私はもってないや……お兄ちゃんに言えばくれると思うけど」
「ふーん……」
「その後は春用の新しく提案するイメージカットみたいなのを撮るっていうから、明るめのカラーでゆるめにやりたいって」
鎖骨にかかるかかからないかぐらいの長さで緩く内に巻かれた柔らかそうな髪は、ほんの少し明るくなっている。
「これ、染めたの?」
「うん、冬休みだからいいだろって、やられちゃった。……学校大丈夫かな?」
そう心配そうに言いながら髪を一房とって俺の顔に近づける。ふわっといい香りがして思わず息を吸い込む。……やべ、これ、変態の所業だ。
「色見本見て、初めてだし、せっかくだから、堅治くんの色に近いのがいいなーと思って選んだけど」
初めて染める髪の色を俺と同じにしたいとか、初めては俺色に染まりたいとか……ヤバい。アホか俺。変態……というか完全にオッサン思考じゃねぇか……。でも嬉しいものは嬉しいんだよ。
「うーん。思い切りが足りなかったなー。もっと明るくすればよかった」
「いいよ、友紀が思う俺の色なんだろ? 次染める時、そのぐらいの色にしよ」
まだ俺の方がワントーン以上明るい。最近生活指導で『二口!ちょっと明るすぎるぞ!』って言われてるし。つーか俺で言われるなら、青根とか黄金川ってどうなってるんだ?……でも青根が指導されてるのは見たことがねぇな。え、もしかして地毛?……マジで?
「イルミネーション、今日までだよね?」
友紀がキラキラした目で言う。俺は今考えていた事を彼方へ放り出す。
「ああ、確か……、こっち」
☆☆☆
歩いて10分くらいの通りの公園にお目当てのイルミネーションが広がっていた。
「うわぁ……キレイ……」
何の変哲もない普通の電球の温かいオレンジ色で染められているのが下手に色を使うよりもキレイだと思う。イルミネーション、俺はどれよりもここのが好きだ
「私、ここのイルミネーションが一番好き」
「え?」
心を読まれたように俺が思っていたのと同じことを言われてびっくりする。
「うん。キラキラ、祝福されている気がして、好き」
なんか幸せっぽい雰囲気とは思ったけど、それを『祝福されてる』と言う表現が友紀っぽいなと柄にもなく思う。
「また、来年も一緒に来れるといいな」
聞こえるか聞こえないかぐらいの声で彼女は呟く。俺は当たり前だろ、という言葉の代わりに彼女の手をぐっと握った。
周囲は着飾った男女がいっぱいいる。これからデートとかなんだろうか。食事とかホテルとか? ホテルの予約が一番多いのってクリスマスイブなんだっけ? さっすが性夜。
そういえば、今、俺、ジャージだな……。ちゃんと着飾ってこの空間にマッチしてる友紀と違って、俺はこの空間で異質なものになってないだろうか……。急に気恥ずかしくなってしまって思わず声に出してしまった。
「なんか、こんな格好でここにいると、俺、浮いてね?」
「え?何で?」
「ジャージだし、……キレイな友紀と釣り合わねぇじゃん」
彼女はそんなこと考えたこともなかったという風にきょとんとする。だけど俺の言うことは汲んでくれたみたいで、静かに微笑みながら子供に語り掛けるように優しく言う。
「部活頑張ってる男の子と、その彼に会うために精一杯おしゃれをしてきた女の子……っていうんじゃダメかな?」
友紀は俺の腕の中に入るように身を寄せてくる。
「……ダメなわけねーよ」
人前でここまでくっついてくれる友紀はレアだ。この場の幻想的な雰囲気と周りのカップルにあてられているのかもしれない。腕の中の彼女が俺を見上げるように見つめる。
あーもう……。
その上目遣いに惹かれるように顔を近づける。もう慣れてくれてもいいのに、彼女の頬がほんのりと赤く染まる。どうせ周りのカップルも他のカップルのことなど見ていない。俺もそれにのっかることにしよ。
……今ふと思いついたことを言ってみる。
「……ここでキスしたカップルは幸せになれるんだって」
「そんなジンクス、本当にあるの?」
「今、作った」
彼女は、もうと呟いて一旦目を逸らすと、仕方ないなという風に微笑んで俺を見つめる。
「……今日は特別だよ?」
そう言ってゆっくりと彼女は瞳を閉じる。
光の真下。眩しくて友紀しか見えない。見えないんだったら二人きりと同じだ。まばゆくも温かいぬくもりのある光の中、俺たちは長い口づけを交わす。
「……じゃあそれ、本当にしないとね」
そう言いながら俺の胸に頭を預ける彼女を、当たり前だろ、と思いながら抱きしめた。
※ショーセツバン『聖夜の鉄壁』を前提にしています
恋人と迎える初めてのクリスマス。
それは特別なもので、彼氏、彼女と一緒に過ごしたいと思うものだ。
それは二口堅治にとっても例外ではない。
ただ、雲行きは怪しかった……。
『イブはお兄ちゃん帰ってくるから家でって言われてて……』
「そっかー。25日は?」
『……バイト入ってる』
「は? 友紀バイトやってたっけ。何の?」
『お兄ちゃんからカットモデルになってくれって頼まれて……』
クソ、あの兄貴、なんでわざわざクリスマスに入れるんだよ! と二口は憤る。
「わかった」
『あ、あの、終わったら、連絡するから……』
「うん、ムリすんなよ、じゃ」
何か続けようとした彼女の言葉をさえぎって電話を切る。それぐらいに二口は苛立っていた。
☆☆☆
クリスマスイブの部活、二口は荒れに荒れた。
『二口先輩、彼女いるはずなのに、おかしいな、別れたのかな?』と後輩に心配されるぐらいに。
あの黄金川も、それだけは言ってはいけないというのを察したぐらいの荒れようだった。
クリスマス当日も二口は相変わらずだった。
「二口さん。なんかあったんすか?」
見かねて声をかけた黄金川は噛みつかれる勢いの逆襲に遭い涙目になっていた。
「あー、一緒に過ごす彼女的なものもいないしサンタ的なものも来なかったわー」
そう嘯く二口に部員達の内心は一斉にざわつく。
『え? 本当に別れたのかよ?』『あんな、仲良さそうだったのに?』『もう絶対触れんじゃねぇぞ!』『二口さん多分フラれた側だよな……』
と、後輩も同輩も含めてひそひそ心配したのち『二口はそっとしておこう』との共通認識が広がる。
結局この日は引退した先輩が襲来し、サプライズ・クリスマスパーティーを開催してくれたこともあり、なんとか二口は機嫌を回復したのであった。
★★★
学校最寄りのコンビニの駐車場で肉まんを食べていたら、電話がかかって来た。ろくに相手も確かめず着信を取る。
「もしもーし」
『あ、二口くん?』
「友紀!?」
思わず声に出してしまうと周りが一斉に俺を見る。口パクで『見てんじゃねーよ、シッシッ!』と凄んでから、俺は後ろを向き声を潜める。
「バイト、終わった?」
『うん。あの、今から、会える?』
「……うん。どこで?」
時間と場所を決めて電話を切り、振り返ると……一斉に視線を浴びる。
すっげぇ気まずい。
睨みつけようと思ったけれど、自然とにやついてくるのが自分でもわかる。……こうなったら開き直りだ。俺は逆にもう満面の笑顔を作ってやった。
後輩たちがぎょっとした顔でたじろぐ。失礼じゃね?
「……俺、ちょっと用事できたんで、お先。ごちそうさまっした」
いつもだったらこれで何事もなく帰れたと思う。しかし間の悪いことに今日は先輩方がいた。俺は両サイドからガシッと肩を掴まれる。
「待て、食い逃げは許さねーぞ!」
「今の電話、友紀ちゃんからだよなー?」
「何ィ! それは全力でお邪魔させてもらう」
「笹やん、鎌ち、やめなって!」
止めてくれるのは茂庭さんしかいない。先輩方に囲まれて足止めをくらってるとニコニコ顔の黄金川が近づいてくる。
「良かった! 二口先輩! 彼女さんにフラれてなかったんスね!」
「バカ、黄金川!」
ヒヤッと心臓に冷水をぶっかけられたような感覚が走る。はぁあ??? お前なんてこと言いやがる! 作並が口を塞ぎ、小原が『あいつ、言いやがった……』とでも言いたげに頭を抱えてるあたり、皆の『共通認識』になってる感じですげームカつく。
「何だコノヤロ黄金川、誰がフラれたって?! ブッ潰すぞ!」
「やめろ二口! 青根、止めろ!」
俺は先輩三人がかり+青根に羽交い絞めにされ、黄金川に向かっていくのを止められた。
☆☆☆
主将の威厳なんか微塵も通じない先輩方のおかげで、友紀との待ち合わせの駅までぞろぞろとついてこられた。
どうやって撒こうか考えていると、目印になりそうな柱の横で、男二人に囲まれている女の子がいる。
……ってあれ、友紀じゃん!
「クリスマスにお一人様?寂しいね?」
「あの……。私、彼と待ち合わせなんで、」
「えー? 君、ずーーっと待ってるよね? 寒い中こんなトコで待たせる彼氏はほっといて、俺たちと一緒にあったかいとこ行こう」
「いえ、大丈夫です、離してください」
彼女の腕が男に掴まれているのが見えて、一気に頭に血が上る。あの野郎ら……!
「落ち着け」
青根が俺の肩をつかんだ。俺がはっとなるとその力をゆるめて首を横に振る。
「早く、結城の所に行ってやれ。あとはまかせろ」
目を合わせて言い聞かされた事で不思議なぐらい頭が冷えてくる。止めたのお前なのに何が早く行けだよ、と軽口が思いつけるぐらいには落ち着くことができた。
「サンキュー、頼む」
かすかに微笑んだ青根の胸を叩いて俺は走る。
「友紀!」
友紀はぱっと顔をこちらに向ける。下ろした髪が綺麗に広がる。雰囲気がいつもより明るく儚い。え、髪、茶色い!?
ヤバい、超カワイイ……。と思うと同時にこんなところを待ち合わせ場所にすべきでなかったと舌打ちしたくなる。
「ふ……堅治!」
あえて下の名前で呼んでくれたのが嬉しいけどそれは後回しだ。男たちから彼女を隠すように間に入り、俺は口元だけあえてにっこりと微笑む。
「何か彼女に御用ですか?」
慇懃無礼に言う否や、ヤツらは震えあがった。
……いやいや。確かにブッ潰す勢いで睨みつけてるけど、さすがにこの怯え方は異常だろ、と思って彼らの目線の先、後ろを振り返ると、
「……」
ずらっと、青根や鎌先さん、笹谷さん、黄金川が並んで、メンチを切っていた。
「「ひっ」」
男たちは短く悲鳴を上げると必死に歪んだ笑顔を作って逃げていく。俺もそこそこ威圧感出せる方だと思っていたけどこの中じゃ雑魚だわ……。
突然逃げて行った男たちを友紀は不思議に思ったみたいだった。首をかしげて後ろを振り返る。
「あ! 皆さん、こんばんは」
お前ら……。
振り返った友紀がビビったらどうしようとの心配は全くの杞憂。さっきの凶悪面とはうって変わって気味の悪い笑顔や無表情に戻っていた。
「堅治くん、ごめんね! あの、ありがとうございます」
そう言ってペコリと名前が頭を下げると、
「ハイハイ、後は二口に任せて、行くよー」
茂庭さんは鎌先さんたちを促して俺らに笑顔で言う。
「良いクリスマスをー」
機転を効かせてくれた茂庭さんに俺は頭を下げる。
茂庭さんありがとうございます。俺、ホント、茂庭さんだけは一生尊敬すると思います。来年は茂庭さんにも彼女できていますように。
「良い聖夜をー」
「良い性夜を~」
「笹やんの言い方絶対字違う、そして聖夜は今日じゃない。昨日」
「え? そうなの?」
☆☆☆
「一日がかりだったよ……最初は着物用の髪型のパターンを撮って」
「着物って……正月?」
「ううん。どっちかっていうと成人式。再来年用のカタログ用に。美容師さんの練習も兼ねて」
友紀は今日のバイトの内容をそんな風に教えてくれた。だから今日メガネかけてねぇんだ……。
「着物着たの?」
「うん」
「写真ある?」
「私はもってないや……お兄ちゃんに言えばくれると思うけど」
「ふーん……」
「その後は春用の新しく提案するイメージカットみたいなのを撮るっていうから、明るめのカラーでゆるめにやりたいって」
鎖骨にかかるかかからないかぐらいの長さで緩く内に巻かれた柔らかそうな髪は、ほんの少し明るくなっている。
「これ、染めたの?」
「うん、冬休みだからいいだろって、やられちゃった。……学校大丈夫かな?」
そう心配そうに言いながら髪を一房とって俺の顔に近づける。ふわっといい香りがして思わず息を吸い込む。……やべ、これ、変態の所業だ。
「色見本見て、初めてだし、せっかくだから、堅治くんの色に近いのがいいなーと思って選んだけど」
初めて染める髪の色を俺と同じにしたいとか、初めては俺色に染まりたいとか……ヤバい。アホか俺。変態……というか完全にオッサン思考じゃねぇか……。でも嬉しいものは嬉しいんだよ。
「うーん。思い切りが足りなかったなー。もっと明るくすればよかった」
「いいよ、友紀が思う俺の色なんだろ? 次染める時、そのぐらいの色にしよ」
まだ俺の方がワントーン以上明るい。最近生活指導で『二口!ちょっと明るすぎるぞ!』って言われてるし。つーか俺で言われるなら、青根とか黄金川ってどうなってるんだ?……でも青根が指導されてるのは見たことがねぇな。え、もしかして地毛?……マジで?
「イルミネーション、今日までだよね?」
友紀がキラキラした目で言う。俺は今考えていた事を彼方へ放り出す。
「ああ、確か……、こっち」
☆☆☆
歩いて10分くらいの通りの公園にお目当てのイルミネーションが広がっていた。
「うわぁ……キレイ……」
何の変哲もない普通の電球の温かいオレンジ色で染められているのが下手に色を使うよりもキレイだと思う。イルミネーション、俺はどれよりもここのが好きだ
「私、ここのイルミネーションが一番好き」
「え?」
心を読まれたように俺が思っていたのと同じことを言われてびっくりする。
「うん。キラキラ、祝福されている気がして、好き」
なんか幸せっぽい雰囲気とは思ったけど、それを『祝福されてる』と言う表現が友紀っぽいなと柄にもなく思う。
「また、来年も一緒に来れるといいな」
聞こえるか聞こえないかぐらいの声で彼女は呟く。俺は当たり前だろ、という言葉の代わりに彼女の手をぐっと握った。
周囲は着飾った男女がいっぱいいる。これからデートとかなんだろうか。食事とかホテルとか? ホテルの予約が一番多いのってクリスマスイブなんだっけ? さっすが性夜。
そういえば、今、俺、ジャージだな……。ちゃんと着飾ってこの空間にマッチしてる友紀と違って、俺はこの空間で異質なものになってないだろうか……。急に気恥ずかしくなってしまって思わず声に出してしまった。
「なんか、こんな格好でここにいると、俺、浮いてね?」
「え?何で?」
「ジャージだし、……キレイな友紀と釣り合わねぇじゃん」
彼女はそんなこと考えたこともなかったという風にきょとんとする。だけど俺の言うことは汲んでくれたみたいで、静かに微笑みながら子供に語り掛けるように優しく言う。
「部活頑張ってる男の子と、その彼に会うために精一杯おしゃれをしてきた女の子……っていうんじゃダメかな?」
友紀は俺の腕の中に入るように身を寄せてくる。
「……ダメなわけねーよ」
人前でここまでくっついてくれる友紀はレアだ。この場の幻想的な雰囲気と周りのカップルにあてられているのかもしれない。腕の中の彼女が俺を見上げるように見つめる。
あーもう……。
その上目遣いに惹かれるように顔を近づける。もう慣れてくれてもいいのに、彼女の頬がほんのりと赤く染まる。どうせ周りのカップルも他のカップルのことなど見ていない。俺もそれにのっかることにしよ。
……今ふと思いついたことを言ってみる。
「……ここでキスしたカップルは幸せになれるんだって」
「そんなジンクス、本当にあるの?」
「今、作った」
彼女は、もうと呟いて一旦目を逸らすと、仕方ないなという風に微笑んで俺を見つめる。
「……今日は特別だよ?」
そう言ってゆっくりと彼女は瞳を閉じる。
光の真下。眩しくて友紀しか見えない。見えないんだったら二人きりと同じだ。まばゆくも温かいぬくもりのある光の中、俺たちは長い口づけを交わす。
「……じゃあそれ、本当にしないとね」
そう言いながら俺の胸に頭を預ける彼女を、当たり前だろ、と思いながら抱きしめた。