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傍から見ると
後期一日目の朝HR。立花さんがD組に移ったことを担任から伝えられた。
学年途中でクラスを変わることは滅多にないからクラスは少しざわついたけど、私は立花さんが無事にコース変更できたことにほっとしていた。
その日の昼休み。
「結城さーん、ちょっといい?」
クラスメイトの庄子藍里さんが声をかけてきた。今日から私以外のA組唯一の女子。庄子さんは立花さんと仲が良くて、そこに私の入る余地はなかったからほとんど話したことがない。
「なに?」
緊張気味に声を出した私に庄子さんは薄く笑って手のひらを横に振る。
「あー、お昼一緒に食べようとかそういうんじゃなくて、ちょっと話」
「そう……。私、勝手に食べるけど。……そこどうぞ」
別にそれを期待したわけじゃないんだけどな、と思いつつ主のいない前の席を勧める。かまわずお弁当を開いてると、彼女は「ここ誰だっけ?」と言いながらこちら向きに座る。
「アンタが立花にコース変更を勧めたのってさ、あの子のため?それとも二口から遠ざけようとした?」
いきなり放たれた遠慮のない剛速球に思わず息をのむ。彼女は指に金色の髪をくるくると巻き付けながら私の反応をうかがっている。
傍から見ると私が追い出したように見られるんだ……。
二口くんから立花さんを離したいとは考えたことはなかったけど、どう返していいのか答えに詰まる。二口くんの名前が出たってことは……好きな人のこと庄子さんに話しているよね?
「変更を勧めたのは、二口くんを追って機械科に来たって聞いたからだよ」
庄子さんの目がすっと細くなる。私は誤解にならないようすぐに続けた。
「でもそれは、自分のコースをそれで決めちゃっていいの?って思ったからで、二口くんから遠ざけたいとかではないよ」
コースは自分に合ったものを選ぶべき。それは私の中で揺るぎないことなんだけど……。
「それが強制みたいだと思われたなら、立花さんに謝るしかないや」
そこで一度切って庄子さんの様子をうかがう。彼女の表情は幾分か和らいだように見えた。
「まあ……そうだね。私もさ、あの子隣で見て機械全然向いてないとは思って。何で伊達工来たの? って感じもしたし。って、モクテキは明らかに下心だったけど」
庄子さんの言ってことはわかる。けど、『下心』って二口くんのことを指してるんだとしたら、なかなか厳しいな……。
「ま、それを指摘するのも野暮かと思って、ほっといてたんだよね」
「……」
「実際、実技の授業きつかったらしいし」
「……確かに、実技は興味ないとツライよね」
「やってられないって」
庄子さんはうんうんうなずくとじっと私を見た。
「それで、立花に頼まれたんだ」
「な、何を?」
「アンタのこと」
思わずぎくりとする。私はまだ少しだけ、二口くんのことで立花さんに恨まれているんじゃないかという思いはある。
……彼女に対して優越感がないと言ったらウソになるし。
「私のこと?」
「そ。立花さ、アンタのこと、きら、いや、苦手って言ったのにさ」
『嫌い』って言ってたんだ……。まあ仕方ないよね。
思わず笑ってしまうと、庄子さんはぺろっと舌を出す。
「『結城をよろしく』だって。何考えてんだろうね」
彼女はそう言って笑う。私も苦笑いして首をかしげる。
「……それはワケがわからない」
「うん、あたしもわかんない」
彼女は首をすくめてお手上げポーズをする。
「だからさ、あたし的には立花が言ったことに『そういうことかー』って納得できればよくって。さっきの質問で結城さんも悪いヤツじゃないってことはわかったし、言葉通りにとっていいんだと思った」
庄子さんは口角を上げた晴れやかな顔だった。
多分、立花さんは自分が抜けた後の庄子さんのことを心配したんだろう。でも、私に頼むのも違うってことでそういう言い方になってしまったのかもしれない。
言われた庄子さんは、私たちの間に二口くんが絡んでたのもあるから含みがある言葉かと疑って……それで出たのが最初の質問ってことかな。
「まあ、立花いなくなってから、あんたに近づいたって思われるのはしゃくだから、そんなにスタンス変えるつもりないんだけどね」
「あー……。それはわかるな。……そうだね。ムリに変えなくていいよ。でも、さ、庄子さん」
「ん?」
そう言うと彼女は気の抜けた表情で私を見る。大人びた金髪の中の表情は意外とあどけない。
「もし仲良くなれたら、それはその時でよろしくね」
彼女は一瞬目を丸くした後、にーっと笑って私の頭を撫でる。
「超いいヤツじゃん、アンタ」
髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜられる。気に入られたのはいいんだけど、まだ後ろめたい部分がある。
「でも、私、そんなにいいヤツじゃないよ」
「え? 何で?」
「だって……。あれで信じてくれるの? 口だけなら何とでも言えるよ?」
私だったらまだ信じられないなと思ってあえて聞いてみる。
庄子さんは眉をしかめて宙をにらんだ。
「うーん。聞いといてなんだけど、遠ざけたいのは相手と五分の状態の時かなって。付き合ってたらむしろ見せつけたいっつーか?」
「それは……」
ドキリとした。否定したいけど、図星のような気がする。私の中に嫉妬の感情があることは自覚した。見せつけてやりたいと思ったことは……
「……ないとは言えないな」
そう私が答えると庄子さんは声を上げて笑った。
「そこ正直なヤツは信用できるよ、あのさ」
「ん? 何?」
「お昼持って来てもいい? ここで食べる」
コンビニ袋をさげて再びやってきた庄子さんは、さっきまでの張りつめた雰囲気がウソのように晴れやかな顔だった。
「女三人って微妙じゃん? その中で誰が誰を嫌いとかでギスるのもダルって思って。今までろくに話しかけもしなかったのは悪いと思ってる」
頭を下げようとする彼女を慌てて止めて私も言う。
「いや、そんなこと言ったら、私だって全然歩み寄ろうともしなかったし。……最初からあきらめてたから」
私も緊張が解けてきた。見せつけてやりたいと思った、と言えたのが良かったのかもしれない。庄子さんと視線が合ったので精一杯笑顔を作る。
「だから、庄子さんが来てくれたの、素直に嬉しいよ」
彼女はぱちくりとまばたきする。
「立花いる時にアンタと話しとけば良かった」
「ホントそうだね」
そうすれば。三人で仲良くしてたって道もあったのかな。
しんみりした空気が流れる。口には出さないけど庄子さんも思いは同じなのかもしれない。
廊下ががやがやしてきた。食堂に出ていた男子が帰ってきたようだ。教室に入って来た集団の中に二口くんがいた。
二口くんは私のそばに庄子さんがいるのを見ると、何故かしかめっ面でやってきた。
「なんだよ、立花いなくなったからって、今さら結城の所に来てんじゃねーよ」
「ほら! ほら! これがヤだったんだよ! 秒で言われた、この無神経男!」
私との会話を知らない二口くんは思わぬ反撃に面食らったようにきょとんとする。でも、二口くんも先制口撃がすぎるよ……。
「別に女子同士で仲良くするなら良くない? そうやって彼女を孤立させようとするのもどーかと思うよ」
「は? そんなことしてねぇって!」
「高橋から聞いたよ。メガネ外した姿見せないように、モンペさらしたんだって?」
「はぁ!? 誰がモンペだよ!」
「二口がだよ!」
これ、ケンカじゃないよね?
おろおろしているうちにさらに言い合いはヒートアップしていた。
「お前きたねぇって! 結城の前でそういうこと言うんじゃねえよ!」
「何? 二口、友紀の前では猫かぶってんの? 偽りの姿で彼女に接してんの!?」
「むしろこれが真実の俺だっつーの! 本来俺は『優しいケンジくん』なんだよ!」
「嘘でしょ。二口にそんなモードあったの!?」
「あーあーあーあー! もう、彼女限定モードってことでいいだろ!?」
二口くんは大声で何を言ってるんだろう……。
庄子さんは大げさにため息をつきながら私の方を振り返ると、びっくり顔で言った。
「あれ? 友紀、顔真っ赤じゃん! 二口、どうしてくれるのよ! この空気!」
「お前こそ! 何なんだよ! 俺のネガティブキャンペーン張ってんじゃねーよ!」
言い争いを再開した二人に見つからないようためいきをつく。
明らかに原因私な気がする……。私が止めないとダメかな?
とりあえず、二口くんの方を……
「いいよ、二口くん、私ほかの人と同じで」
「!? 違う、俺、嫌われたくねーとか無理して結城にそういう態度取ってんじゃねーよ!」
なんか火に油を注いだみたいになってしまった。つられて二口くんまで真っ赤になってる。飛び火だ。
それを見た庄子さんはニヤニヤしながら昼食のゴミを袋に詰めて立ち上がった。
「はいはい、ごちそうさま。それじゃ友紀ちゃん二口くんにお返ししまーす。友紀、またね」
「う、うん。藍里ちゃん、また」
ひらひらと手を振って庄子さんは去っていく。
お弁当はまだ半分くらい残っている。私、話しながら食べることができないんだなと今さら気づく。
二口くんは前の席に横向きに座った。顔をしかめて黙っている。微妙に不機嫌だ。
とにかく、残りを急いで食べないと。
「なんか、庄子とは仲良くなれそーじゃん」
残り一口までいったところで二口くんが口を開いた。
私も仲良くなれたらいいなと思ってたので、傍からもそう見えたのなら嬉しい。
「二口くんからは、そう見える?」
声が弾んでしまった。二口くんは何も言わずに数メートル先の床を睨みつけている。
二口くん、怒ってる? さっきの庄子さんとの口喧嘩で? それとも『ほかの人と同じでいい』って言ったのが良くなかった?
考えながら口に入れた最後の一口は味がしなかった。
「ごちそうさまでした」
私が手を合わせたタイミングで、二口くんは独り言のように言う。
「友紀、敬語じゃなかった」
「え?」
「それに、あいつ普通に名前で呼んでた」
「……」
「女同士ってあんな感じで一瞬で仲良くなれんのな。……クソッ」
「……」
そこまで言って、また二口くんはしかめっ面で黙ってしまった。
これはもしかして……やきもち? 女の子に?
そうは言うけど男の子同士だって。例えば青根くんとの普段つかず離れずでいるのに、いざとなったらがっちり組むことに違いないって思える関係、私はうらやましいのに。
お互いにないものねだりなのかな、と考えながらお弁当箱をバッグにしまう。
ふと顔を上げると、机に両肘をついた二口くんの顔が目の前にあってびっくりした。さっきまでふてくされてたのがウソのように表情が優しい。
「どうしたの?」
「まあ、色々考えたんだけど……」
そう前置きしてから、一度目を逸らしてふっと笑う。
「男女じゃないと……つーか、恋人同士じゃないとできないこともあるよな?」
こんなことを甘い目線で言ってくる二口くんは本当にずるいと思う。
もう……。
「それをするなら、責任を取らないとダメだよ?」
「取るよ」
軽い牽制のつもりだったのに。返ってくるのは冗談だと思ったのに。
間髪入れずに笑顔を消した顔で言ってくるから……。
二口くんは視線を外さない。
蛇ににらまれたカエルのように動けない。心臓だけが早い鼓動を刻んでる。
自分が言ったことなのに『責任』の意味がわからなくなってくる。
予鈴が鳴った。
「あー、次世界史かよ、クソだりぃ」
いつもの表情に戻った二口くんが私の頭に手をポンと乗せてから自分の席へ戻る。
残されて一人になっても、私の心臓は鳴り止まなかった。
後期一日目の朝HR。立花さんがD組に移ったことを担任から伝えられた。
学年途中でクラスを変わることは滅多にないからクラスは少しざわついたけど、私は立花さんが無事にコース変更できたことにほっとしていた。
その日の昼休み。
「結城さーん、ちょっといい?」
クラスメイトの庄子藍里さんが声をかけてきた。今日から私以外のA組唯一の女子。庄子さんは立花さんと仲が良くて、そこに私の入る余地はなかったからほとんど話したことがない。
「なに?」
緊張気味に声を出した私に庄子さんは薄く笑って手のひらを横に振る。
「あー、お昼一緒に食べようとかそういうんじゃなくて、ちょっと話」
「そう……。私、勝手に食べるけど。……そこどうぞ」
別にそれを期待したわけじゃないんだけどな、と思いつつ主のいない前の席を勧める。かまわずお弁当を開いてると、彼女は「ここ誰だっけ?」と言いながらこちら向きに座る。
「アンタが立花にコース変更を勧めたのってさ、あの子のため?それとも二口から遠ざけようとした?」
いきなり放たれた遠慮のない剛速球に思わず息をのむ。彼女は指に金色の髪をくるくると巻き付けながら私の反応をうかがっている。
傍から見ると私が追い出したように見られるんだ……。
二口くんから立花さんを離したいとは考えたことはなかったけど、どう返していいのか答えに詰まる。二口くんの名前が出たってことは……好きな人のこと庄子さんに話しているよね?
「変更を勧めたのは、二口くんを追って機械科に来たって聞いたからだよ」
庄子さんの目がすっと細くなる。私は誤解にならないようすぐに続けた。
「でもそれは、自分のコースをそれで決めちゃっていいの?って思ったからで、二口くんから遠ざけたいとかではないよ」
コースは自分に合ったものを選ぶべき。それは私の中で揺るぎないことなんだけど……。
「それが強制みたいだと思われたなら、立花さんに謝るしかないや」
そこで一度切って庄子さんの様子をうかがう。彼女の表情は幾分か和らいだように見えた。
「まあ……そうだね。私もさ、あの子隣で見て機械全然向いてないとは思って。何で伊達工来たの? って感じもしたし。って、モクテキは明らかに下心だったけど」
庄子さんの言ってことはわかる。けど、『下心』って二口くんのことを指してるんだとしたら、なかなか厳しいな……。
「ま、それを指摘するのも野暮かと思って、ほっといてたんだよね」
「……」
「実際、実技の授業きつかったらしいし」
「……確かに、実技は興味ないとツライよね」
「やってられないって」
庄子さんはうんうんうなずくとじっと私を見た。
「それで、立花に頼まれたんだ」
「な、何を?」
「アンタのこと」
思わずぎくりとする。私はまだ少しだけ、二口くんのことで立花さんに恨まれているんじゃないかという思いはある。
……彼女に対して優越感がないと言ったらウソになるし。
「私のこと?」
「そ。立花さ、アンタのこと、きら、いや、苦手って言ったのにさ」
『嫌い』って言ってたんだ……。まあ仕方ないよね。
思わず笑ってしまうと、庄子さんはぺろっと舌を出す。
「『結城をよろしく』だって。何考えてんだろうね」
彼女はそう言って笑う。私も苦笑いして首をかしげる。
「……それはワケがわからない」
「うん、あたしもわかんない」
彼女は首をすくめてお手上げポーズをする。
「だからさ、あたし的には立花が言ったことに『そういうことかー』って納得できればよくって。さっきの質問で結城さんも悪いヤツじゃないってことはわかったし、言葉通りにとっていいんだと思った」
庄子さんは口角を上げた晴れやかな顔だった。
多分、立花さんは自分が抜けた後の庄子さんのことを心配したんだろう。でも、私に頼むのも違うってことでそういう言い方になってしまったのかもしれない。
言われた庄子さんは、私たちの間に二口くんが絡んでたのもあるから含みがある言葉かと疑って……それで出たのが最初の質問ってことかな。
「まあ、立花いなくなってから、あんたに近づいたって思われるのはしゃくだから、そんなにスタンス変えるつもりないんだけどね」
「あー……。それはわかるな。……そうだね。ムリに変えなくていいよ。でも、さ、庄子さん」
「ん?」
そう言うと彼女は気の抜けた表情で私を見る。大人びた金髪の中の表情は意外とあどけない。
「もし仲良くなれたら、それはその時でよろしくね」
彼女は一瞬目を丸くした後、にーっと笑って私の頭を撫でる。
「超いいヤツじゃん、アンタ」
髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜられる。気に入られたのはいいんだけど、まだ後ろめたい部分がある。
「でも、私、そんなにいいヤツじゃないよ」
「え? 何で?」
「だって……。あれで信じてくれるの? 口だけなら何とでも言えるよ?」
私だったらまだ信じられないなと思ってあえて聞いてみる。
庄子さんは眉をしかめて宙をにらんだ。
「うーん。聞いといてなんだけど、遠ざけたいのは相手と五分の状態の時かなって。付き合ってたらむしろ見せつけたいっつーか?」
「それは……」
ドキリとした。否定したいけど、図星のような気がする。私の中に嫉妬の感情があることは自覚した。見せつけてやりたいと思ったことは……
「……ないとは言えないな」
そう私が答えると庄子さんは声を上げて笑った。
「そこ正直なヤツは信用できるよ、あのさ」
「ん? 何?」
「お昼持って来てもいい? ここで食べる」
コンビニ袋をさげて再びやってきた庄子さんは、さっきまでの張りつめた雰囲気がウソのように晴れやかな顔だった。
「女三人って微妙じゃん? その中で誰が誰を嫌いとかでギスるのもダルって思って。今までろくに話しかけもしなかったのは悪いと思ってる」
頭を下げようとする彼女を慌てて止めて私も言う。
「いや、そんなこと言ったら、私だって全然歩み寄ろうともしなかったし。……最初からあきらめてたから」
私も緊張が解けてきた。見せつけてやりたいと思った、と言えたのが良かったのかもしれない。庄子さんと視線が合ったので精一杯笑顔を作る。
「だから、庄子さんが来てくれたの、素直に嬉しいよ」
彼女はぱちくりとまばたきする。
「立花いる時にアンタと話しとけば良かった」
「ホントそうだね」
そうすれば。三人で仲良くしてたって道もあったのかな。
しんみりした空気が流れる。口には出さないけど庄子さんも思いは同じなのかもしれない。
廊下ががやがやしてきた。食堂に出ていた男子が帰ってきたようだ。教室に入って来た集団の中に二口くんがいた。
二口くんは私のそばに庄子さんがいるのを見ると、何故かしかめっ面でやってきた。
「なんだよ、立花いなくなったからって、今さら結城の所に来てんじゃねーよ」
「ほら! ほら! これがヤだったんだよ! 秒で言われた、この無神経男!」
私との会話を知らない二口くんは思わぬ反撃に面食らったようにきょとんとする。でも、二口くんも先制口撃がすぎるよ……。
「別に女子同士で仲良くするなら良くない? そうやって彼女を孤立させようとするのもどーかと思うよ」
「は? そんなことしてねぇって!」
「高橋から聞いたよ。メガネ外した姿見せないように、モンペさらしたんだって?」
「はぁ!? 誰がモンペだよ!」
「二口がだよ!」
これ、ケンカじゃないよね?
おろおろしているうちにさらに言い合いはヒートアップしていた。
「お前きたねぇって! 結城の前でそういうこと言うんじゃねえよ!」
「何? 二口、友紀の前では猫かぶってんの? 偽りの姿で彼女に接してんの!?」
「むしろこれが真実の俺だっつーの! 本来俺は『優しいケンジくん』なんだよ!」
「嘘でしょ。二口にそんなモードあったの!?」
「あーあーあーあー! もう、彼女限定モードってことでいいだろ!?」
二口くんは大声で何を言ってるんだろう……。
庄子さんは大げさにため息をつきながら私の方を振り返ると、びっくり顔で言った。
「あれ? 友紀、顔真っ赤じゃん! 二口、どうしてくれるのよ! この空気!」
「お前こそ! 何なんだよ! 俺のネガティブキャンペーン張ってんじゃねーよ!」
言い争いを再開した二人に見つからないようためいきをつく。
明らかに原因私な気がする……。私が止めないとダメかな?
とりあえず、二口くんの方を……
「いいよ、二口くん、私ほかの人と同じで」
「!? 違う、俺、嫌われたくねーとか無理して結城にそういう態度取ってんじゃねーよ!」
なんか火に油を注いだみたいになってしまった。つられて二口くんまで真っ赤になってる。飛び火だ。
それを見た庄子さんはニヤニヤしながら昼食のゴミを袋に詰めて立ち上がった。
「はいはい、ごちそうさま。それじゃ友紀ちゃん二口くんにお返ししまーす。友紀、またね」
「う、うん。藍里ちゃん、また」
ひらひらと手を振って庄子さんは去っていく。
お弁当はまだ半分くらい残っている。私、話しながら食べることができないんだなと今さら気づく。
二口くんは前の席に横向きに座った。顔をしかめて黙っている。微妙に不機嫌だ。
とにかく、残りを急いで食べないと。
「なんか、庄子とは仲良くなれそーじゃん」
残り一口までいったところで二口くんが口を開いた。
私も仲良くなれたらいいなと思ってたので、傍からもそう見えたのなら嬉しい。
「二口くんからは、そう見える?」
声が弾んでしまった。二口くんは何も言わずに数メートル先の床を睨みつけている。
二口くん、怒ってる? さっきの庄子さんとの口喧嘩で? それとも『ほかの人と同じでいい』って言ったのが良くなかった?
考えながら口に入れた最後の一口は味がしなかった。
「ごちそうさまでした」
私が手を合わせたタイミングで、二口くんは独り言のように言う。
「友紀、敬語じゃなかった」
「え?」
「それに、あいつ普通に名前で呼んでた」
「……」
「女同士ってあんな感じで一瞬で仲良くなれんのな。……クソッ」
「……」
そこまで言って、また二口くんはしかめっ面で黙ってしまった。
これはもしかして……やきもち? 女の子に?
そうは言うけど男の子同士だって。例えば青根くんとの普段つかず離れずでいるのに、いざとなったらがっちり組むことに違いないって思える関係、私はうらやましいのに。
お互いにないものねだりなのかな、と考えながらお弁当箱をバッグにしまう。
ふと顔を上げると、机に両肘をついた二口くんの顔が目の前にあってびっくりした。さっきまでふてくされてたのがウソのように表情が優しい。
「どうしたの?」
「まあ、色々考えたんだけど……」
そう前置きしてから、一度目を逸らしてふっと笑う。
「男女じゃないと……つーか、恋人同士じゃないとできないこともあるよな?」
こんなことを甘い目線で言ってくる二口くんは本当にずるいと思う。
もう……。
「それをするなら、責任を取らないとダメだよ?」
「取るよ」
軽い牽制のつもりだったのに。返ってくるのは冗談だと思ったのに。
間髪入れずに笑顔を消した顔で言ってくるから……。
二口くんは視線を外さない。
蛇ににらまれたカエルのように動けない。心臓だけが早い鼓動を刻んでる。
自分が言ったことなのに『責任』の意味がわからなくなってくる。
予鈴が鳴った。
「あー、次世界史かよ、クソだりぃ」
いつもの表情に戻った二口くんが私の頭に手をポンと乗せてから自分の席へ戻る。
残されて一人になっても、私の心臓は鳴り止まなかった。