9 ショウジニメアリ
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障子に目あり
バレー部は無事にベスト16に残り宮城県代表決定トーナメントに進むことができた。
今日から代表決定戦だそうだけど、平日だし学校があるから応援は午後からしか行くことができない。
部屋で制服に着替えていると電話が鳴った。ディスプレイの名前を見て驚く。
何かあった?と心配がよぎりながら電話に出る。
『おはよ、起きてた?』
「うん、起きてるよ」
『今、下出れる?』
「え?」
ワイシャツのボタンを全部留めてから部屋の窓を開けると、前の道に長身の茶髪の男の子が立っている。あわててメガネをかける。二口くんだ。スマホを耳にあてながらこちらに向けて手を振っている。
「ちょっと待ってて」
通話を切り転げるように階段を降りる。玄関前の鏡で確認、前髪を整える。うん、大丈夫。
扉を開けると門の外に二口くんがいた。
「ふ、二口くん、今日、試合、大丈夫?」
サンダルをつっかけて外に出る。驚いたのと慌ててるので口が回らない。二口くんはいったん私に笑顔を向けると、何故か気まずそうにうつむいた。
「ちょっと、落ち着かなくて、すっげー早く目が覚めて」
「うん」
二口くんは私と目を合わせないまま天を仰ぐ。
「そしたら、あれ、やっときたいな、と思って」
「……」
あれは……あれか。私の家の前。ここで?
……お父さんはもう出たから大丈夫。ご近所さんは……この時間ならそんなに通らないかな。
「わかった。いいよ」
ちょっと考えてからそう言うと、やっと二口くんと目があった。静かな海のような目で微笑んでいる。落ち着かない言ってたくせに。ホント、切り替えが早い……。
彼が一歩私の方に足を進める。そのまま吸い込まれるように彼の腕に引き寄せられた。静かだ。自分の心臓の音しか聞こえない。いつもの見慣れた風景が二口くんがいるだけで全然知らない場所に見える。
二口くん……、堅治くんが、全力を出し切れますようにと祈るように彼を抱きしめ返す。二口くんが流れるように私の額にキスをする。これもルーティンに入ってたんだ、とくすぐったさを感じる。
「学校終わったら、絶対行くから。がんばってね」
「早く来いよ。そうじゃないと、あっという間に負けてるかもしれないからな」
「そんなこと言わないでよ。行ってらっしゃい」
今日も振り返ることはないとわかっているけれど、彼が見えなくなるまで後ろ姿を見送る。
前に二口くんも言ってたけれど……。ルーティンの上、うちから送り出すなんて、本当に一緒に住んでるみたいだ。
ほっと一息ついて振り返って。……心臓が止まりそうになった。
ドアの所にお兄ちゃんが立っていた。昨日から帰ってきているの忘れてた。苦虫を噛み潰したような変な顔をしている。今の、見られてた?
平静を装いつつ内心ドキドキで、おはよ、と言いながら横を通ろうとすると、
「今の、誰?」
ギクッとして私は足を止めてしまった。
どこから見てたんだろう。決して仲の悪い兄妹ではないけれど、自分の恋愛事情はあんまりお兄ちゃんには知られたくない。動揺を見せるとネタを提供することになってしまうから、つとめて平静に、にっこりと笑って言う。
「同じクラスの……二口くん」
「彼氏?」
単刀直入なお兄ちゃんの一言にひくりと頬がひきつる。上手い返しも見つからない。なら、ここは堂々といくしかない。
「うん。そうだけど?」
「いつから?」
「……」
「あんときのヤツか?」
「……」
何かが兄の中で結びついたような矢継ぎ早な質問に私は眉をしかめて沈黙を返す。もうわかってるクセにさ。
「おい、友紀」
「お兄ちゃんの想像通りだよ」
「…………」
二口くんの表情を意識して口元だけ笑ってお兄ちゃんを見ると、それ以上は何も返してこなかった。
「学校、遅れちゃうから戻るね」
横をすり抜けて家の中に入る。
面倒くさいのにばれちゃったな……下手したらお父さんよりも面倒かも。
私はこれから起こりそうなことを思って少しうんざりした。
バレー部は無事にベスト16に残り宮城県代表決定トーナメントに進むことができた。
今日から代表決定戦だそうだけど、平日だし学校があるから応援は午後からしか行くことができない。
部屋で制服に着替えていると電話が鳴った。ディスプレイの名前を見て驚く。
何かあった?と心配がよぎりながら電話に出る。
『おはよ、起きてた?』
「うん、起きてるよ」
『今、下出れる?』
「え?」
ワイシャツのボタンを全部留めてから部屋の窓を開けると、前の道に長身の茶髪の男の子が立っている。あわててメガネをかける。二口くんだ。スマホを耳にあてながらこちらに向けて手を振っている。
「ちょっと待ってて」
通話を切り転げるように階段を降りる。玄関前の鏡で確認、前髪を整える。うん、大丈夫。
扉を開けると門の外に二口くんがいた。
「ふ、二口くん、今日、試合、大丈夫?」
サンダルをつっかけて外に出る。驚いたのと慌ててるので口が回らない。二口くんはいったん私に笑顔を向けると、何故か気まずそうにうつむいた。
「ちょっと、落ち着かなくて、すっげー早く目が覚めて」
「うん」
二口くんは私と目を合わせないまま天を仰ぐ。
「そしたら、あれ、やっときたいな、と思って」
「……」
あれは……あれか。私の家の前。ここで?
……お父さんはもう出たから大丈夫。ご近所さんは……この時間ならそんなに通らないかな。
「わかった。いいよ」
ちょっと考えてからそう言うと、やっと二口くんと目があった。静かな海のような目で微笑んでいる。落ち着かない言ってたくせに。ホント、切り替えが早い……。
彼が一歩私の方に足を進める。そのまま吸い込まれるように彼の腕に引き寄せられた。静かだ。自分の心臓の音しか聞こえない。いつもの見慣れた風景が二口くんがいるだけで全然知らない場所に見える。
二口くん……、堅治くんが、全力を出し切れますようにと祈るように彼を抱きしめ返す。二口くんが流れるように私の額にキスをする。これもルーティンに入ってたんだ、とくすぐったさを感じる。
「学校終わったら、絶対行くから。がんばってね」
「早く来いよ。そうじゃないと、あっという間に負けてるかもしれないからな」
「そんなこと言わないでよ。行ってらっしゃい」
今日も振り返ることはないとわかっているけれど、彼が見えなくなるまで後ろ姿を見送る。
前に二口くんも言ってたけれど……。ルーティンの上、うちから送り出すなんて、本当に一緒に住んでるみたいだ。
ほっと一息ついて振り返って。……心臓が止まりそうになった。
ドアの所にお兄ちゃんが立っていた。昨日から帰ってきているの忘れてた。苦虫を噛み潰したような変な顔をしている。今の、見られてた?
平静を装いつつ内心ドキドキで、おはよ、と言いながら横を通ろうとすると、
「今の、誰?」
ギクッとして私は足を止めてしまった。
どこから見てたんだろう。決して仲の悪い兄妹ではないけれど、自分の恋愛事情はあんまりお兄ちゃんには知られたくない。動揺を見せるとネタを提供することになってしまうから、つとめて平静に、にっこりと笑って言う。
「同じクラスの……二口くん」
「彼氏?」
単刀直入なお兄ちゃんの一言にひくりと頬がひきつる。上手い返しも見つからない。なら、ここは堂々といくしかない。
「うん。そうだけど?」
「いつから?」
「……」
「あんときのヤツか?」
「……」
何かが兄の中で結びついたような矢継ぎ早な質問に私は眉をしかめて沈黙を返す。もうわかってるクセにさ。
「おい、友紀」
「お兄ちゃんの想像通りだよ」
「…………」
二口くんの表情を意識して口元だけ笑ってお兄ちゃんを見ると、それ以上は何も返してこなかった。
「学校、遅れちゃうから戻るね」
横をすり抜けて家の中に入る。
面倒くさいのにばれちゃったな……下手したらお父さんよりも面倒かも。
私はこれから起こりそうなことを思って少しうんざりした。