9 コイハモウモク
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
幸か不幸か、月曜の一限に体育館を使うクラスはないようだ。
しんとした体育館。開け放たれた横扉から通る風が空気を入れ替えてゆく。
歩き続けて、入口から一番離れた舞台の前まで来てしまった。その直前で、二口くんは私の前に先回りする。
彼の視線は私を捕えたまま離れない。多分、きちんと話すまで解放してくれないだろうし、嘘をついてもきっと見抜かれてしまう。
私は観念して、正直に話すことにした。
二口くんの方を向き彼を見上げる。久しぶりに見た気がする彼の顔は今までに見たことがないほど不安そうで、胸が苦しくなった。
「朝から目も合わねーし、避けてるだろ、俺のこと」
「うん……。ごめんね」
「何でだよ。俺、避けられるようなことしたか?」
私は即座に首を横に振る。これは二口くんのせいじゃなくて、私の問題だ。
できるだけ嘘にならないよう言葉を選ぶ。
「……二口くんのこと……好きになってダメージ負う前に、距離置こうかな、って思って」
「何だよ……それ」
そう告げると、二口くんは呆れを隠さない顔で私を見る。いたたまれなくなって、私は早口で続けた。
「ごめん、二口くん。私、二口くんの思うような友達に、これからいられそうにない」
二口くんはあっけに取られたように口を半開きにして黙っている。
そりゃそうだ。二口くんは、私といい友達になれると思っていてくれているのに。二口くんは私の恋愛感情なんて望んでいない。
だから、ここで断ち切るべきだ。
「このままだと、普通に二口くんのこと、恋愛感情で見ちゃって、期待しちゃうと思う」
「余計なこと考えてんじゃねーよ!」
言い終わるや否や、声を荒げた二口くんに両肩をがしっと掴まれた。
「期待しろよ!」
真正面から睨むように見つめられる。彼の視線には私が目を逸らすことすら許さない力があった。
二口くんは苦しそうに眉をひそめると、
「結城だけは、俺に期待していいんだよ!」
絞り出すような声で言われた言葉に、理解が追いつかない。
期待していい? 何を? 二口くんの何に期待していいの?
ぐるぐると今までの会話を反芻して、一つの答えに行きつく。
恋愛……感情を? 二口くんに期待していいの……?
「わたしが……?」
「俺が優しくできるのは、お前ぐらいなんだよ!」
間髪入れずに続けられた言葉に、信じられない気持ちで二口くんを見上げると、彼は今までに見たことがないくらい弱々しく笑った。
『何とも思ってないヤツに優しくして気を持たせるのも嫌だしな』
二口くんから聞いたこの言葉を、『結城は俺のことを恋愛感情で見ないから安心して優しくできる』という意味だと理解していた。だから、好きになってしまうのは裏切りになると思っていた。
優しくされて、その気になってしまっても……いいの?
「好きになっても……いいの?」
思いついたまま恐る恐るそう口に出すと、二口くんが「バーカ」と小さく返す。
「そうじゃないと俺がかわいそうだろ」
一筋の細い線が、彼の言葉が重なるにつれどんどん太くなっていく。……どうしよう。信じられないくらい……嬉しい。
だとしたら、私は勝手に誤解していた……。
「なんか……ごめんね」
「そうじゃねーよ」
二口くんはイラついたように自分の髪をかきむしる。ぐしゃぐしゃにしても彼の髪はすぐ元通りになる。サラサラとした髪に目を奪われていると、私の顔を覗き込むようにした彼に強引に目を合わせられる。
「ここは笑ってもらえないと、俺、恥ずかしい感じじゃねーか」
顔を赤くして私を睨みつける二口くんに、胸の奥から何ともいえない感情がこみあげてきた。
こういうの笑わないのが、私の好きなところだったのかもしれないけど。
「ふふっ、」
「……笑ってんじゃねーよ」
「……ヒドイ、二口くん」
「…………」
下から精一杯睨み返して、二人で睨み合いながら見つめ合う。
「ぶふっ」
先に噴き出したのは二口くんだった。
私もそれにつられてしまう。
「ふふっ」
ぶっ、ふふふふふ、はははーーーー
それから、私たちは二人して誰もいない体育館でゲラゲラと笑った。
ひとしきり笑ったあと、二口くんが言った。
「もしかして、結城、誤解してる?」
「何を?」
「さっきのさ、結城のことなんだけど」
「え? 私のこと……なの?」
「おう。えー? 違う奴のことかと思ったのかよ」
「だって……。クラスメイトなんだし、私だったらわかるはずでしょ?」
いくらメガネを外してたからって、クラスメイトに私だと思われなかったのはある意味ショックだ。
「男はなー、結構そういうの鈍感だからなー。髪型違ってメガネもなしだったら気づかないもんだぜ?」
「そ、そうなの?」
「うん。俺でさえ、一瞬戸惑ったわ。まあ、よく見ると、そんなに違うとか思わないんだけどな」
そう言うと、まっすぐ私を見てから不機嫌そうに頬をふくらませる。
「つーか、結城、俺が他の女と会ったと思ってたのかよ」
「だ、だって、キレイなお姉さんって言ってたし、用事あるって言ってたから、てっきりそういうことかと思って……」
「あー、相手言ってなかったっけ? 休みだからっつって、部活の先輩に呼び出されてたんだよ」
「そっか……そうなんだね」
「そうだよ! もー、ひでぇなー。俺、結城に対しては誠実なつもりだったのに」
「ご、ごめんね。でも……。あの、聞いていいかな?」
「何?」
「私のどこが好きなの?」
こんな質問、面倒くさいかな、と思ったけれど、二口くんは間髪入れず答える。
「目が好き」
「め?」
「うん」
そう言うと、いつかのように私のメガネに手をかけ、そっと外す。
「裸眼っていい言葉だよな」
「裸の……目?」
「うん、ありのままの目。……でも、それだけじゃねーよ。まあ、ほとんど土曜の……デートの時に言ったけどな」
「……」
そう言って、彼は私の目を見つめながらメガネを返してくれた。
あれ、デートだと二口くんも思っててくれたんだ。認識が一緒だったことをくすぐったく思いながらメガネをかけ直す。
「俺のことを、正面から受け止めてくれるところが好き」
そんなことを真正面から見つめて言う二口くんに、クラっとした。
「……私、二口くんのこと受け止められてる?」
「うん。もう、それはそれは包み込むように」
一気に顔が赤くなるのを感じる。二口くんはそんな私を見て満足そうに笑う。
そんなこと……。そんな風に思っててくれてたんだ……。
「じゃあ、逆に聞くけど、結城は俺のどこを好きになりそうなんだよ?」
『好きになりそう』
そう言うけど、私はもう。もう、とっくに、二口くんのこと好きなんだけどな。でも、あえてそう聞いてくれる二口くんは、本当に……
「……優しいところ」
正直に思ったことを伝えると、二口くんが大げさにため息をついた。
「そうか……。結城は俺が好きになんなくちゃ、好きになってくれないのか……」
「な、何で? そんなことないよ」
「俺は好きな子にしか優しくしませんー」
「え……、で、でも、メガネ拾ってくれたときから優しかったから……」
「もう、あの時、俺、結城の事好きだったもん」
「えー……」
そんな……そうだったの?
そんなこと言われても、わからなかったよ……。
じゃあ、何事に対しても、
部活にも、課題にも、私に対しても……
「真っ直ぐなところ」
「嘘だろ、俺、そんなこと、言われたことない」
「!?」
そんな、でも、二口くんは、自分で思ってるより、いろんなものに対して真っ直ぐに向き合ってると、私、思うのに……。どうして、その本人から否定されているの?
……二口くん、全然優しくない!
「じゃあ……、意地悪なところ」
皮肉のつもりで言ったのに、二口くんは目を輝かせて迫ってきた。
「……え、結城、そうなの?!」
「え……そこ、そんなに食いつくところ?」
「食いつくに決まってんだろ! そっかー。俺に意地悪してほしいのかー」
うんうんとうなずいて笑う二口くんについ、吹き出してしまう。
「何笑ってんだよ」
「だって……。カワイイなって思って……」
そう言うと、二口くんのテンションは目に見えて下がる。でも、私の一言一言にこんなに一喜一憂してくれるなんて、カワイイ以外の何物でもない。
「はー。カワイイとか、……男にカワイイとか誉め言葉じゃねーよ……」
と、ブツブツ言い出した二口くんは、ふいに天を仰いでにやっと笑った。
彼は目を閉じたまま、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
思わず後ずさってしまうと、背中に壁が触れた。その瞬間、彼が私の顔の横の壁に手をつき目を開く。
「じゃ、こういう意地悪は」
そう言うと二口くんは身をかがめるように顔を近づけ、俯いた私の耳元に囁く。
「好き?」
ぎゅっと、心臓を掴まれたような痛みが走る。
こ、こんなの……
二口くん、ホント、いじわるだ……。
「カワイイのは結城の方だろ?」
「っ!?」
追い打ちをかけるように甘く囁かれ、心臓が信じられないほどの早鐘を打つ。今、私の顔耳まで赤いと思う。
壁に背中がぴったりつくほど追い詰められている。恐る恐る目だけで二口くんを見上げると、息がかかりそうな距離まで顏が近づいている。
『好き』って返したら……。私、どうなっちゃうんだろう?
だけど、このまま……でも……。唇が……触れて、しまいそう。
「こらー!!! お前ら、何、サボってんだ!」
はっとそちらを見ると、体育館前の渡り廊下に生活指導の先生が立っていた。
ちっ、と二口くんは舌打ちをすると、私に迫っていた上半身を起こして私の手をぎゅっと握る。
「逃げるぞ、友紀」
「う、うん……!」
彼の手を握り返す。
ドキドキしっぱなしの心臓を抱えたまま、二口くんに手を引かれ、開け放たれた横扉から私たちは駆けだした。
しんとした体育館。開け放たれた横扉から通る風が空気を入れ替えてゆく。
歩き続けて、入口から一番離れた舞台の前まで来てしまった。その直前で、二口くんは私の前に先回りする。
彼の視線は私を捕えたまま離れない。多分、きちんと話すまで解放してくれないだろうし、嘘をついてもきっと見抜かれてしまう。
私は観念して、正直に話すことにした。
二口くんの方を向き彼を見上げる。久しぶりに見た気がする彼の顔は今までに見たことがないほど不安そうで、胸が苦しくなった。
「朝から目も合わねーし、避けてるだろ、俺のこと」
「うん……。ごめんね」
「何でだよ。俺、避けられるようなことしたか?」
私は即座に首を横に振る。これは二口くんのせいじゃなくて、私の問題だ。
できるだけ嘘にならないよう言葉を選ぶ。
「……二口くんのこと……好きになってダメージ負う前に、距離置こうかな、って思って」
「何だよ……それ」
そう告げると、二口くんは呆れを隠さない顔で私を見る。いたたまれなくなって、私は早口で続けた。
「ごめん、二口くん。私、二口くんの思うような友達に、これからいられそうにない」
二口くんはあっけに取られたように口を半開きにして黙っている。
そりゃそうだ。二口くんは、私といい友達になれると思っていてくれているのに。二口くんは私の恋愛感情なんて望んでいない。
だから、ここで断ち切るべきだ。
「このままだと、普通に二口くんのこと、恋愛感情で見ちゃって、期待しちゃうと思う」
「余計なこと考えてんじゃねーよ!」
言い終わるや否や、声を荒げた二口くんに両肩をがしっと掴まれた。
「期待しろよ!」
真正面から睨むように見つめられる。彼の視線には私が目を逸らすことすら許さない力があった。
二口くんは苦しそうに眉をひそめると、
「結城だけは、俺に期待していいんだよ!」
絞り出すような声で言われた言葉に、理解が追いつかない。
期待していい? 何を? 二口くんの何に期待していいの?
ぐるぐると今までの会話を反芻して、一つの答えに行きつく。
恋愛……感情を? 二口くんに期待していいの……?
「わたしが……?」
「俺が優しくできるのは、お前ぐらいなんだよ!」
間髪入れずに続けられた言葉に、信じられない気持ちで二口くんを見上げると、彼は今までに見たことがないくらい弱々しく笑った。
『何とも思ってないヤツに優しくして気を持たせるのも嫌だしな』
二口くんから聞いたこの言葉を、『結城は俺のことを恋愛感情で見ないから安心して優しくできる』という意味だと理解していた。だから、好きになってしまうのは裏切りになると思っていた。
優しくされて、その気になってしまっても……いいの?
「好きになっても……いいの?」
思いついたまま恐る恐るそう口に出すと、二口くんが「バーカ」と小さく返す。
「そうじゃないと俺がかわいそうだろ」
一筋の細い線が、彼の言葉が重なるにつれどんどん太くなっていく。……どうしよう。信じられないくらい……嬉しい。
だとしたら、私は勝手に誤解していた……。
「なんか……ごめんね」
「そうじゃねーよ」
二口くんはイラついたように自分の髪をかきむしる。ぐしゃぐしゃにしても彼の髪はすぐ元通りになる。サラサラとした髪に目を奪われていると、私の顔を覗き込むようにした彼に強引に目を合わせられる。
「ここは笑ってもらえないと、俺、恥ずかしい感じじゃねーか」
顔を赤くして私を睨みつける二口くんに、胸の奥から何ともいえない感情がこみあげてきた。
こういうの笑わないのが、私の好きなところだったのかもしれないけど。
「ふふっ、」
「……笑ってんじゃねーよ」
「……ヒドイ、二口くん」
「…………」
下から精一杯睨み返して、二人で睨み合いながら見つめ合う。
「ぶふっ」
先に噴き出したのは二口くんだった。
私もそれにつられてしまう。
「ふふっ」
ぶっ、ふふふふふ、はははーーーー
それから、私たちは二人して誰もいない体育館でゲラゲラと笑った。
ひとしきり笑ったあと、二口くんが言った。
「もしかして、結城、誤解してる?」
「何を?」
「さっきのさ、結城のことなんだけど」
「え? 私のこと……なの?」
「おう。えー? 違う奴のことかと思ったのかよ」
「だって……。クラスメイトなんだし、私だったらわかるはずでしょ?」
いくらメガネを外してたからって、クラスメイトに私だと思われなかったのはある意味ショックだ。
「男はなー、結構そういうの鈍感だからなー。髪型違ってメガネもなしだったら気づかないもんだぜ?」
「そ、そうなの?」
「うん。俺でさえ、一瞬戸惑ったわ。まあ、よく見ると、そんなに違うとか思わないんだけどな」
そう言うと、まっすぐ私を見てから不機嫌そうに頬をふくらませる。
「つーか、結城、俺が他の女と会ったと思ってたのかよ」
「だ、だって、キレイなお姉さんって言ってたし、用事あるって言ってたから、てっきりそういうことかと思って……」
「あー、相手言ってなかったっけ? 休みだからっつって、部活の先輩に呼び出されてたんだよ」
「そっか……そうなんだね」
「そうだよ! もー、ひでぇなー。俺、結城に対しては誠実なつもりだったのに」
「ご、ごめんね。でも……。あの、聞いていいかな?」
「何?」
「私のどこが好きなの?」
こんな質問、面倒くさいかな、と思ったけれど、二口くんは間髪入れず答える。
「目が好き」
「め?」
「うん」
そう言うと、いつかのように私のメガネに手をかけ、そっと外す。
「裸眼っていい言葉だよな」
「裸の……目?」
「うん、ありのままの目。……でも、それだけじゃねーよ。まあ、ほとんど土曜の……デートの時に言ったけどな」
「……」
そう言って、彼は私の目を見つめながらメガネを返してくれた。
あれ、デートだと二口くんも思っててくれたんだ。認識が一緒だったことをくすぐったく思いながらメガネをかけ直す。
「俺のことを、正面から受け止めてくれるところが好き」
そんなことを真正面から見つめて言う二口くんに、クラっとした。
「……私、二口くんのこと受け止められてる?」
「うん。もう、それはそれは包み込むように」
一気に顔が赤くなるのを感じる。二口くんはそんな私を見て満足そうに笑う。
そんなこと……。そんな風に思っててくれてたんだ……。
「じゃあ、逆に聞くけど、結城は俺のどこを好きになりそうなんだよ?」
『好きになりそう』
そう言うけど、私はもう。もう、とっくに、二口くんのこと好きなんだけどな。でも、あえてそう聞いてくれる二口くんは、本当に……
「……優しいところ」
正直に思ったことを伝えると、二口くんが大げさにため息をついた。
「そうか……。結城は俺が好きになんなくちゃ、好きになってくれないのか……」
「な、何で? そんなことないよ」
「俺は好きな子にしか優しくしませんー」
「え……、で、でも、メガネ拾ってくれたときから優しかったから……」
「もう、あの時、俺、結城の事好きだったもん」
「えー……」
そんな……そうだったの?
そんなこと言われても、わからなかったよ……。
じゃあ、何事に対しても、
部活にも、課題にも、私に対しても……
「真っ直ぐなところ」
「嘘だろ、俺、そんなこと、言われたことない」
「!?」
そんな、でも、二口くんは、自分で思ってるより、いろんなものに対して真っ直ぐに向き合ってると、私、思うのに……。どうして、その本人から否定されているの?
……二口くん、全然優しくない!
「じゃあ……、意地悪なところ」
皮肉のつもりで言ったのに、二口くんは目を輝かせて迫ってきた。
「……え、結城、そうなの?!」
「え……そこ、そんなに食いつくところ?」
「食いつくに決まってんだろ! そっかー。俺に意地悪してほしいのかー」
うんうんとうなずいて笑う二口くんについ、吹き出してしまう。
「何笑ってんだよ」
「だって……。カワイイなって思って……」
そう言うと、二口くんのテンションは目に見えて下がる。でも、私の一言一言にこんなに一喜一憂してくれるなんて、カワイイ以外の何物でもない。
「はー。カワイイとか、……男にカワイイとか誉め言葉じゃねーよ……」
と、ブツブツ言い出した二口くんは、ふいに天を仰いでにやっと笑った。
彼は目を閉じたまま、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
思わず後ずさってしまうと、背中に壁が触れた。その瞬間、彼が私の顔の横の壁に手をつき目を開く。
「じゃ、こういう意地悪は」
そう言うと二口くんは身をかがめるように顔を近づけ、俯いた私の耳元に囁く。
「好き?」
ぎゅっと、心臓を掴まれたような痛みが走る。
こ、こんなの……
二口くん、ホント、いじわるだ……。
「カワイイのは結城の方だろ?」
「っ!?」
追い打ちをかけるように甘く囁かれ、心臓が信じられないほどの早鐘を打つ。今、私の顔耳まで赤いと思う。
壁に背中がぴったりつくほど追い詰められている。恐る恐る目だけで二口くんを見上げると、息がかかりそうな距離まで顏が近づいている。
『好き』って返したら……。私、どうなっちゃうんだろう?
だけど、このまま……でも……。唇が……触れて、しまいそう。
「こらー!!! お前ら、何、サボってんだ!」
はっとそちらを見ると、体育館前の渡り廊下に生活指導の先生が立っていた。
ちっ、と二口くんは舌打ちをすると、私に迫っていた上半身を起こして私の手をぎゅっと握る。
「逃げるぞ、友紀」
「う、うん……!」
彼の手を握り返す。
ドキドキしっぱなしの心臓を抱えたまま、二口くんに手を引かれ、開け放たれた横扉から私たちは駆けだした。
